第2節 自然災害対策

■1 防災意識社会への転換

 平成28年に発生した数多くの災害の教訓を踏まえ、行政・住民・企業の全ての主体が災害リスクに関する知識と心構えを共有し、洪水・地震・土砂災害等の様々な災害に備える「防災意識社会」へ転換し、整備効果の高いハード対策と住民目線のソフト対策を総動員する。
 頻発、激甚化する水災害に対しては、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するとの考えに立ち、社会全体で洪水に備える「水防災意識社会再構築ビジョン」を示し、これに基づく取組みを国管理河川から進めている。さらに、「水防災意識社会再構築ビジョン」の取組みを県管理河川に拡大することを28年8月に決め、北海道・東北地方を襲った一連の台風による被害も踏まえ、県管理河川における取組みを加速化することとしている。
 また、地球温暖化に伴う気候変動により水害、土砂災害、渇水被害の頻発化、激甚化が懸念されている状況を踏まえ、施設の整備等を着実に進めるとともに、施設の能力を大幅に上回る外力に対する施策にも取り組んでいる。特に社会経済の壊滅的な被害を回避するための対策については、関東、中部、近畿の各地方整備局において浸水区域外も考慮した被害想定や対策計画の検討等が進められている。
 切迫する南海トラフ巨大地震や首都直下地震に対しては、想定される具体的な被害特性に合わせ、避難路・避難場所の整備、ゼロメートル地帯の堤防の耐震化等、実効性のある対策を推進する。
 特に、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会まで4年を切った今こそ、「国土交通省首都直下地震対策計画」を踏まえた具体的なアクションプランを示した「東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けた首都直下地震対策ロードマップ」を策定し、首都地域の防災対策に万全を期す。

(1)水防災意識社会再構築ビジョンの展開
1)水防災意識社会再構築ビジョン
 平成27年9月に発生した関東・東北豪雨を受け、「水防災意識社会 再構築ビジョン」を策定し、全ての国管理河川とその沿川市町村において、各地域で河川管理者・地方公共団体等からなる協議会を設置して減災のための目標を共有し、ハード・ソフト対策を一体的・計画的に推進している。
 28年度中に、全国の直轄河川沿川の129地区において、円滑かつ迅速な避難、的確な水防活動、氾濫水の排水、施設運用等の視点から、地域の特徴を踏まえた具体的な取組内容について議論され、今後5年間の取組内容を「地域の取組方針」として取りまとめ、既に各種の取組みが進められている。
 28年8月には、この取組みを都道府県管理河川へ拡大することを決定した。国も支援しながら、29年出水期を目途に河川管理者である都道府県及び市町村等からなる協議会を設置、30年3月を目途に都道府県管理河川の減災のための「地域の取組方針」を取りまとめることとしている。

2)平成28年8月北海道・東北地方での災害を踏まえた対応
 平成28年8月に相次いで発生した台風に伴う豪雨により、北海道や東北地方の中小河川等で堤防決壊等の氾濫被害が発生し、特に岩手県が管理する小本川では要配慮者利用施設において入所者が逃げ遅れて犠牲になるなど、痛ましい被害が発生した。
 これらの被害を踏まえて、既に決定していた「水防災意識社会再構築ビジョン」の取組みの都道府県河川への拡大を加速化。取組みの一つとして、河川管理者から市町村長へ直接電話等により洪水時の情報を伝え、避難勧告等の発令の判断を支援する「ホットライン」を、広く都道府県へ定着させるため「中小河川におけるホットライン活用ガイドライン」を策定した。
 29年1月には「中小河川等における水防災意識社会の再構築のあり方について」が社会資本整備審議会より答申された。答申では、気候変動や人口減少など中小河川等を巡る現状等も踏まえ、「逃げ遅れによる人的被害をなくすこと」、「地域社会機能の継続性を確保すること」を目標とし、河川管理者、地方公共団体、地域社会等の関係者が相互に連携・支援し、総力を挙げて一体的に対応することが示された。
 この答申を踏まえ、水害リスクの高い地域に立地する介護施設等における避難計画の作成、訓練実施の義務化や、中小河川も含めた地域住民への水害リスク情報の周知等を図り、洪水等からの「逃げ遅れゼロ」と「社会経済被害の最小化」の実現を目指す「水防法等の一部を改正する法律案」を同年2月に国会に提出した。
 
図表II-7-2-1 水防災意識社会 再構築ビジョン
図表II-7-2-1 水防災意識社会 再構築ビジョン

(2)水災害に関する防災・減災への対応
 我が国における平成25年の伊豆大島をはじめとする災害、米国における24 年のハリケーン・サンディによる高潮被害等、台風等に伴う大規模な水災害が頻発化・激甚化している。こうした状況を踏まえ、26年1月に国土交通大臣を本部長とする「国土交通省 水災害に関する防災・減災対策本部」を設置し、同本部の下に「地下街・地下鉄等ワーキンググループ」、「防災行動計画ワーキンググループ」、「壊滅的被害回避ワーキンググループ」を設け、検討を進めている。
 「地下街・地下鉄等ワーキンググループ」においては、地下空間の課題への対応を取りまとめ、関係機関に周知した。これも踏まえ、三大都市圏等において、地下街・地下鉄及び接続ビルが連携した浸水対策が進められている。
 「防災行動計画ワーキンググループ」においては、市町村長が避難勧告等を適切なタイミングで発令できるよう支援する、全国の直轄河川を対象とする避難勧告等の発令に着目したタイムラインの策定や、荒川下流域において、自治体、鉄道、電力、通信、福祉施設など20機関、37部局もの多数の関係者が連携したタイムラインを策定した。これを踏まえ、石狩川(北海道)、球磨川(熊本県)をはじめ、全国各ブロックで協議会を設置し、多数の関係者が連携したタイムラインの検討を開始した。28年8月には、「タイムライン(防災行動計画)策定・活用指針(初版)」を策定・公表し、市町村や防災に関係する機関に周知した。
 「壊滅的被害回避ワーキンググループ」においては、27年1月に公表された「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」において、「少なくとも命を守り、社会経済に対して壊滅的な被害が発生しない」ことを目標とし、危機感を共有して社会全体で対応することが必要であるという方向性が示されたことを踏まえ、社会経済の壊滅的な被害を回避するための対策の検討を目的に、関東、中部、近畿の各地方整備局においては、地域ごとにそれぞれ協議会等を設置し、企業へのヒアリングや、停電や鉄道の不通など浸水区域外も考慮した被害想定や対策計画の検討等が進められている。
 28年8月には、「第4回 国土交通省 水災害に関する防災・減災対策本部」を開催し、「水防災意識社会再構築ビジョン」に基づく取組みを中小河川へ拡げるとともに、命を守る観点に加え、地域経済を支える観点も明確にし、地域の実情に沿った多様な関係者間の密接な連携・協力体制の構築を推進していくことや、29年度の重点対策を決定した。29年度の重点対策の具体事例としては、1)リアルタイム降雨情報を用いた都市浸水対策の推進、2)我が国の防災技術(ICT・ロボット)を結集した災害対応力向上などを決定した。

(3)気候変動への対応
 地球温暖化に伴う気候変動により水害(洪水、内水、高潮)、土砂災害、渇水被害の頻発化、激甚化が懸念されている。平成27年8月には、社会資本整備審議会より「水災害分野における気候変動適応策のあり方について〜災害リスク情報と危機感を共有し、減災に取り組む社会へ〜」が答申された。
 激化する災害に対処するため、比較的発生頻度の高い外力に対し、施設により災害の発生を防止し、施設の整備等を着実に進めることが適応策としても重要である。さらに、施設の能力を上回る外力に対しては、施設の運用、構造、整備手順等の工夫を図る等、施策を総動員してできる限り被害を軽減する施策に取り組む必要がある。施設の能力を大幅に上回る外力に対しては、ソフト対策を重点に壊滅的被害を回避するための施策を推進していく必要がある。
 今後「気候変動の影響への適応計画(27年11月閣議決定)」や「国土交通省気候変動適応計画(27年11月)」に基づき、気候変動の影響への適応策に取り組む。

(4)南海トラフ巨大地震、首都直下地震への対応
 南海トラフ巨大地震が発生した場合、関東から九州までの太平洋側の広範囲において、震度6弱から震度7の強い揺れが発生し、巨大な津波が短時間で、広範囲にわたる太平洋側沿岸域に襲来することが想定されている。死者は最大で約32万人にのぼり、交通インフラの途絶や沿岸の都市機能の麻痺等の深刻な事態が発生し、我が国全体の国民生活・経済活動に極めて深刻な影響が生じることが想定されている。
 また、首都直下地震が発生した場合、首都圏の広域において震度6弱から震度7の強い揺れが発生することが想定されており、首都圏は、他の地域と比べ人口や建築物、経済活動が極めて高度に集積していることから、人的・物的被害や経済被害が甚大なものになると予想される。さらに、首都圏には政治・行政・経済の首都中枢機能も集積しているため、国全体の経済活動等への影響や海外への波及も懸念されている。
 これらの国家的な危機に備えるべく、多くの社会資本の整備・管理や交通政策、海上における人命・財産の保護等を所管し、また全国に多数の地方支分部局を持つ国土交通省では、平成25年に「国土交通省南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策本部」及び「対策計画策定ワーキンググループ」を設置し、省の総力をあげて取り組むべきリアリティのある対策を「国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画」及び「国土交通省首都直下地震対策計画」として、26年4月1日に策定した。南海トラフ巨大地震については、本対策計画の策定とあわせて、地方ブロックごとに、より具体的かつ実践的な「地域対策計画」を策定した。28年8月には「南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策本部」において、「水防災意識社会」の考え方を地震や土砂災害など他の災害にも拡大する「防災意識社会への転換」、特に、「国土交通省首都直下地震対策計画」を踏まえた具体的なアクションプランを示した「東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向けた首都直下地震対策ロードマップ」の策定や、両対策計画のこれまでの実施状況をフォローアップしたうえで重点対策を決定した。
 29年度の重点対策の具体事例としては、1)大規模地震に備えた道路啓開計画の深化、2)首都直下地震に備え、住宅・建築物の耐震化を積極的に推進、3)船舶の大量輸送特性を活かした広域的な災害廃棄物処理体制のための官民を含めた連携体制構築を推進することなどを決定した。
 また、発災後速やかにTEC-FORCE等を派遣するため「南海トラフ巨大地震におけるTEC-FORCE活動計画」を決定した。
 
図表II-7-2-2 南海トラフ巨大地震におけるTEC-FORCE活動計画の概要
図表II-7-2-2 南海トラフ巨大地震におけるTEC-FORCE活動計画の概要


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