第4節 交通分野における安全対策の強化

■2 鉄軌道交通における安全対策

 鉄軌道交通における運転事故件数は、自動列車停止装置(ATS)等の運転保安設備の整備や踏切対策の推進等を行ってきた結果、長期的には減少傾向注1にあるが、一たび列車の衝突や脱線等が発生すると、多数の死傷者を生じるおそれがあることから、引き続き安全対策の推進が必要である。
 
図表II-7-4-3 鉄軌道交通における運転事故件数及び死傷者数の推移
図表II-7-4-3 鉄軌道交通における運転事故件数及び死傷者数の推移
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(1)鉄軌道の安全性の向上
 過去の事故等を踏まえて、必要な基準を制定するなどの対策を実施し、これを鉄軌道事業者が着実に実行するよう指導するとともに、保安監査等を通じた実行状況の確認や、監査結果等のフィードバックによる更なる対策の実施を通じて、鉄軌道の安全性の向上を促している。

1)JR西日本福知山線列車脱線事故等を契機とした対策
 「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」を平成18年7月に改正し、曲線部等における速度制限機能付き自動列車停止装置(ATS)、運転士異常時列車停止装置、運転状況記録装置等の設置を義務づけた。なお、法令により整備の期限が定められたものの整備については、28年6月末までに完了した。

2)JR貨物函館線列車脱線事故を契機としたJR北海道の安全確保に向けた対策
 JR北海道に対し、平成26年1月に事業改善命令・監督命令として「JR北海道が講ずべき措置」の実施を命じており、定期的な報告、常設監査体制(5年間)等を通じて、確実に実行するよう、監督・指導を行っている。
 また、26年度に実施した保安監査の在り方の見直しに係る検討結果に基づき、計画的な保安監査のほか、同種トラブルの発生等の際にも臨時保安監査を行うなど、鉄道事業者に対し、メリハリの効いたより効果的な保安監査を実施している。

(2)踏切対策の推進
 都市部を中心とした「開かずの踏切」注2等は、踏切事故や慢性的な交通渋滞等の原因となり、早急な対策が求められている。このため、道路管理者と鉄道事業者が連携し、「踏切道改良促進法」及び「第10次交通安全基本計画」に基づき、立体交差化、構造改良、横断歩道橋等の歩行者等立体横断施設の整備、踏切遮断機等の踏切保安設備の整備等により踏切事故の防止に努めている。
 平成28 年度は、改正した「踏切道改良促進法」に基づき、課題のある踏切について、鉄道事業者と道路管理者で改良の方法が合意できていなくても国土交通大臣が指定できることとされたことを受け、従来の指定を大幅に上回る587箇所の指定を行った。
 また、道路管理者と鉄道事業者が連携し、踏切の諸元や対策状況、事故発生状況等の客観的データに基づき、緊急に対策の検討が必要な踏切として1,479箇所を抽出し、それらについて「踏切安全通行カルテ」の作成・公表を行った。
 今後は、地域の関係者と連携した「地方踏切道改良協議会」での検討のもと、従来の対策である立体交差化、構造改良、歩行者等立体横断施設の整備、踏切保安設備の整備に加え、カラー舗装等の当面の対策や駐輪場整備等の踏切周辺対策など、ソフト・ハード両面からできる対策を総動員し、踏切対策の更なる促進を図る。

(3)ホームドアの整備促進
 視覚障害者等をはじめとしたすべての駅利用者の安全性向上を図ることを目的に、駅からの転落等を防止するホームドアの設置を促進している(平成27年度末現在、665駅で設置)。「移動等の円滑化の促進に関する基本方針」(23年3月)、「交通政策基本計画」(27年2月)、「社会資本整備重点計画」(27年9月)等を踏まえ、ホームドアや内方線付き点状ブロックの整備促進、車両ドア位置の不一致等の課題に対応した新しいタイプのホームドアの技術開発等ハード面の対策とともに、視覚障害者等への声かけを推進する等ソフト面の対策にも取り組んできた。
 こうした中、28年8月15日に発生した東京地下鉄銀座線青山一丁目駅における視覚障害のある人の転落死亡事故を受けて、同年8月26日に「駅ホームにおける安全性向上のための検討会」を設置し、ハード・ソフト両面からの転落防止に係る総合的な安全対策の検討を行った。同年12月の中間とりまとめにおいては、ハード対策として、10万人以上の駅について、車両の扉位置が一定している、ホーム幅を確保できる等の整備条件を満たしている場合、原則として32年度までにホームドアを整備することとした。また、整備条件を満たしていない場合に、新しいタイプのホームドアの導入や、車両の更新により扉位置を一定させる等整備条件を満たすための方策の検討を行い、新しいタイプのホームドアにより対応する場合は、概ね5年を目途に整備又は整備に着手することとした。10万人未満の駅については、駅の状況等を勘案した上で、10万人以上と同程度に優先的な整備が必要と認められる場合に整備することとした。こうした取組により、交通政策基本計画において、32年度に約800駅としている整備目標について、できる限りの前倒しを図ることとなった。
 
図表II-7-4-4 ホームドア
図表II-7-4-4 ホームドア

 また、同中間とりまとめにおいては、1万人以上の駅に30年度までに内方線付き点状ブロックを整備することとしたほか、主なソフト対策として、ホームドア未整備駅における駅員等による視覚障害のある人への誘導案内の実施、視覚障害のある人が明確に気づく声かけをはじめとした駅員等による対応の強化、旅客による声かけや誘導案内の促進等、心のバリアフリーの理解促進等、駅における盲導犬訓練等への協力についても盛り込まれた。
 
図表II-7-4-5 内方線付き点状ブロック
図表II-7-4-5 内方線付き点状ブロック


注1 JR西日本福知山線列車脱線事故があった平成17年度など、甚大な人的被害を生じた運転事故があった年度の死傷者数は多くなっている。
注2 列車の運行本数が多い時間帯において、踏切遮断時間が40分/時以上となる踏切


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