第5節 危機管理・安全保障対策

第5節 危機管理・安全保障対策

■1 犯罪・テロ対策等の推進

(1)各国との連携による危機管理・安全保障対策
1)セキュリティに関する国際的な取組み
 主要国首脳会議(G7)、国際海事機関(IMO)、国際民間航空機関(ICAO)、アジア太平洋経済協力(APEC)等の国際機関における交通セキュリティ分野の会合やプロジェクトに参加し、我が国のセキュリティ対策に活かすとともに、国際的な連携・調和に向けた取組みを進めている。平成28年6月に開催されたIMO会合においては、我が国は米国等と共同で、海事サイバーセキュリティのリスクマネジメントに関するガイドライン案を提案していたところ、同案を踏まえた暫定ガイドラインが作成され承認された。我が国においては、同ガイドラインを基に事業者が実施する具体的なセキュリティ対策を検討している。
 18年(2006年)に創設された「陸上交通セキュリティ国際ワーキンググループ(IWGLTS)」には、現在16箇国以上が参加しており、陸上交通のセキュリティ対策に関する枠組みとして、更なる発展が見込まれているほか、日米、日EUといった二国間会議も活用し、国内の保安向上、国際貢献に努めている。

2)海賊対策
 国際海事局(IMB)によると、平成28年における海賊及び武装強盗事案の発生件数は191件であり、地域別では、ソマリア沖・アデン湾周辺海域が2件、西アフリカ(ギニア湾)が55件、東南アジア海域が68件となっている。
 
図表II-7-5-1 国土交通省に報告された日本関係船舶の海賊及び武装強盗被害発生状況(平成28年)
図表II-7-5-1 国土交通省に報告された日本関係船舶の海賊及び武装強盗被害発生状況(平成28年)

 20年以降、ソマリア沖・アデン湾周辺海域において凶悪な海賊事案が急増したが、各国海軍等による海賊対処活動、商船側によるベスト・マネジメント・プラクティス(BPM)注1に基づく自衛措置の実施、商船への民間武装警備員の乗船等国際社会の取組みにより、近年は低い水準で推移している。しかしながら、不審な船舶から追跡される事案が依然として発生しており、商船の航行にとって予断を許さない状況が続いている。
 このような状況の下、我が国としては、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」に基づき、海上自衛隊の護衛艦1隻により、アデン湾において通航船舶の護衛を行うと同時に、P-3C哨戒機2機による警戒監視活動を行っている。国土交通省においては、船社等からの護衛申請の窓口及び護衛対象船舶の選定を担うほか、一定の要件を満たす日本船舶において民間武装警備員による乗船警備を可能とする「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」を着実に運用し、日本船舶の航行安全の確保に万全を期していく。
 海上保安庁においては、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処のために派遣された護衛艦に、海賊行為があった場合の司法警察活動を行うため海上保安官8名を同乗させ、海上自衛官とともに海賊行為の警戒及び情報収集活動に従事させている。また、同周辺海域沿岸国に航空機を派遣し、関係国海上保安機関との間で海賊の護送と引渡しに関する訓練等を実施している。
 東南アジア海域等においては、巡視船や航空機を派遣し、寄港国海上保安機関と海賊対策に関する連携訓練や意見・情報交換を行うなど連携・協力関係の推進に取り組んでいる。
 加えてこれらの海域の沿岸国の海上保安機関職員に対し研修等を行うなど法執行能力向上のための支援に積極的に取り組んでいるほか、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)に基づいて設置された情報共有センター(ISC)へ職員を派遣するなど国際機関を通じた国際的連携・協力に貢献している。
 
図表II-7-5-2 「世界における海賊及び武装強盗事案発生件数の推移(IMB報告による)」及び「平成28年における海賊及び武装強盗事案の海域別発生件数(IMB報告による)」
図表II-7-5-2 「世界における海賊及び武装強盗事案発生件数の推移(IMB報告による)」及び「平成28年における海賊及び武装強盗事案の海域別発生件数(IMB報告による)」
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3)港湾における保安対策
 ASEAN諸国を対象に、研修、専門家会合等を通じて、港湾における保安対策に係る人材育成を実施している。また、諸外国と情報共有しつつ、国際港湾における保安水準向上のための取組みを一層推進していくこととしている。

(2)公共交通機関等におけるテロ対策の徹底・強化
 国際的なテロの脅威は依然として深刻な状況であり、公共交通機関や重要インフラにおけるテロ対策の取組みを進めることは重要な課題である。国土交通省では、平成28年5月に開催された伊勢志摩サミット首脳会議の際には、公共交通事業者との合同訓練を実施したほか、所管事業者による自主点検の実施を要請するなど、官民一体となったテロ対策を実施した。今後も、ラグビーワールドカップ2019及び2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を見据えて、所管の分野においてハード・ソフトの両面からテロ対策を強化する等、引き続き、関係省庁と連携しつつ、取組みを進める。

1)鉄道におけるテロ対策の推進
 駅構内の防犯カメラの増設や巡回警備の強化等に加え、「危機管理レベル」の設定・運用を行うとともに、「見せる警備・利用者の参加」注2を軸としたテロ対策を推進している。また、主要国との鉄道テロ対策の情報共有等にも積極的に取り組んでいる。
 
図表II-7-5-3 「見せる警備・利用者の参加」を軸とした鉄道テロ対策の実施
図表II-7-5-3 「見せる警備・利用者の参加」を軸とした鉄道テロ対策の実施

2)船舶・港湾におけるテロ対策の推進
 「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」に基づく国際航海船舶の保安規程の承認・船舶検査、国際港湾施設の保安規程の承認、入港船舶に関する規制、国際航海船舶・国際港湾施設に対する立入検査及びポートステートコントロール(PSC)を通じて、保安の確保に取り組んでいる。また、国際港湾施設に対する立入検査結果及び海外における保安水準等を踏まえ、平成26年7月よりすべての国際港湾施設の出入りにおいて3点確認(本人確認・所属確認・目的確認)を実施するなど、保安対策をより一層徹底している。
 
図表II-7-5-4 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安措置
図表II-7-5-4 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安措置

3)航空におけるテロ対策の推進
 我が国では、航空機に対するテロ防止に万全を期すため、国際民間航空条約に規定される国際標準に従って、航空保安体制の強化を図っている。このような状況の中、我が国内外でのテロ・不法侵入等の事案に対応し、各空港においては、車両及び人の侵入防止対策としてフェンス等の強化に加え、侵入があった場合に迅速な対応ができるよう、センサーを設置するなどの対策を講じている。さらに、空港における保安検査の高度化の一環として、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会までに、先進的なボディスキャナー等を国内の主要空港等に導入する予定で、28年度には、ボディスキャナーを羽田、成田、関西、中部、新千歳、福岡など8空港に導入するなど航空保安対策の強化に取り組んでいる。また、国際会議等に積極的に参加し、最新の保安対策等について、我が国の状況を紹介するなど、主要国との情報交換に努めている。

4)自動車におけるテロ対策の推進
 多客期におけるテロ対策として、車内の点検、営業所・車庫内外における巡回強化、警備要員等の主要バス乗降場への派遣等を実施するとともに、バスジャック対応訓練の実施についても関係事業者に対し指示している。

5)重要施設等におけるテロ対策の推進
 河川関係施設では、河川点検・巡視時の不審物等への特段の注意、ダム管理庁舎及び堤体監査廊等の出入口の施錠強化等を行っている。道路関係施設では、高速道路や直轄国道の巡回時の不審物等への特段の注意、休憩施設のゴミ箱の集約等を行っている。国営公園では、巡回警備の強化、はり紙掲示等による注意喚起等を行っている。また、工事現場では、看板設置等による注意喚起等を行っている。

(3)物流におけるセキュリティと効率化の両立
 国際物流においても、セキュリティと効率化の両立に向けた取組みが各国に広がりつつあり、我が国においても、物流事業者等に対してAEO制度注3の普及を促進している。現在では、AEO輸出者により輸出申告される貨物や、保税地域までAEO保税運送者が輸送し、AEO通関業者に委託して輸出申告される貨物については、保税地域搬入前に輸出許可を受けることも可能となっている。
 航空貨物に対する保安体制については、荷主から航空機搭載まで一貫して航空貨物を保護することを目的に、ICAOの国際基準に基づき制定されたKS/RA制度注4を導入している。その後、米国からの更なる保安強化の要求に基づき、円滑な物流の維持にも留意しつつ同制度の改定を行い、平成24年10月より米国向け国際旅客便搭載貨物について適用され、26年4月からはすべての国際旅客便搭載貨物についても適用拡大された。
 また、主要港のコンテナターミナルにおいては、トラック運転手等の本人確認及び所属確認等を確実かつ迅速に行うため、出入管理情報システムの導入を推進し、27年1月より本格運用を開始している。

(4)情報セキュリティ対策
 近年、政府機関及び事業者等へのサイバー攻撃が高度化・巧妙化しており、情報セキュリティ対策の重要性が増している中、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、より一層の対策強化が求められている。
 このため、国土交通省においては、政府の「サイバーセキュリティ戦略本部」の方針に基づき、所管独立行政法人、所管重要インフラ事業者(航空・鉄道・物流)を含めた情報セキュリティ対策について、情報システムの機能強化の他、サイバー攻撃への対処態勢の充実・強化等の取組みを内閣サイバーセキュリティセンターとの連携の下、推進している。


注1 国際海運会議所等海運団体により作成されたソマリア海賊による被害を防止し又は最小化するための自衛措置(海賊行為の回避措置、船内の避難区画(シタデル)の整備等)を定めたもの。
注2 「見せる警備」…テロの未然防止を図るため、人々の目に触れる形で警備を行う施策
 「利用者の参加」…テロに対する監視ネットワークを強めるため、一人一人の鉄道利用者にテロ防止のための意識を持ち行動することを促す施策
注3 貨物のセキュリティ管理と法令遵守の体制が整備された貿易関連事業者を税関が認定し、通関手続の簡素化等の利益を付与する制度
注4 航空機搭載前までに、特定荷主(Known Shipper)、特定航空貨物利用運送事業者又は特定航空運送代理店業者(Regulated Agent)又は航空会社においてすべての航空貨物の安全性を確認する制度


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