■3 航空ネットワークの整備  航空については、交通政策審議会航空分科会基本政策部会において、平成24年10月より、今後の航空のあり方に関する審議が重ねられ、26年6月に取りまとめが行われた。本とりまとめにおいて、1)航空ネットワークの構築のための強固な基盤づくり、2)充実した航空ネットワークの構築と需要の開拓、3)質の高い航空・空港サービスの提供の三本柱について、中長期的に目指すべき方向が示されており、この方向性に基づき施策の具体化を図っている。 (1)航空ネットワークの拡充 1)首都圏空港の機能強化  「明日の日本を支える観光ビジョン」における訪日外国人旅行者数を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人等の目標の達成、首都圏の国際競争力の強化、地方創生、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の円滑な開催等の観点から、首都圏空港(東京国際空港(羽田空港)、成田国際空港(成田空港))の機能強化は必要不可欠であり、両空港を合わせて、ロンドン、ニューヨークに匹敵する世界最高水準の年間約100万回の発着容量とするための取組を進めているところである。 図表II-6-1-7 東京国際空港の概要  具体的には、羽田空港について、飛行経路の見直し等により、平成32年までに発着容量を約4万回拡大することに取り組んでいる。現在、必要な施設整備や騒音・落下物対策等を着実に進めるとともに、29年11月から30年2月にかけて、4巡目となる住民説明会を開催したところであり、引き続き、丁寧な情報提供を行い、住民の方々に理解を頂けるよう努めていくこととしている。また、拡大される発着容量は、訪日外国人旅行者数の目標達成を戦略的に進めるために重要な路線や国際競争力の強化に資する日本発の直行需要が高い路線への活用を主眼とし、路線の選定作業に着手することとしている。 図表II-6-1-8 東京国際空港の旅客数・発着回数の推移  成田空港については、32年までの高速離脱誘導路の整備等による発着容量約4万回拡大に加え、32年以降を見据え、第3滑走路の整備、夜間飛行制限の緩和等の更なる機能強化について、30年3月に国、千葉県、周辺市町、空港会社からなる四者協議会において合意を得たところであり、この合意事項に基づき、騒音・落下物対策や成田財特法による周辺地域の施設整備の促進を行いつつ、更なる機能強化を進め、年間発着枠を50万回に拡大することとしている。 図表II-6-1-9 成田国際空港の概要 図表II-6-1-10 成田国際空港の旅客数・発着回数の推移 2)関西国際空港・中部国際空港の機能強化  関西国際空港においては、平成28年4月から運営の民間委託を開始した。運営権者である関西エアポート(株)は、29年1月の供用開始に併せたLCC専用の第2ターミナル(国際線)への「ウォークスルー型」免税店の導入や、第2ターミナル(国際線)に続き第1ターミナルへも「スマートセキュリティー」導入を進めるなど、民間の創意工夫を活かした機能強化に取り組んでいる。29年の旅客数は過去最多を更新し、国際線旅客数は開港以来初の2,000万人超を達成した。 図表II-6-1-11 関西国際空港「スマートセキュリティー」システム スマートレーン  中部国際空港においては、LCCの新規就航等に対応するためLCC専用ターミナルの整備(31年度上期供用開始予定)を進めたとともに、空港会社事業として同ターミナルに隣接した商業施設(30年夏季開業予定)の整備を進めた。 図表II-6-1-12 中部国際空港LCC専用ターミナルに隣接した商業施設「FLIGHT OF DREAMS」 3)地方空港の機能強化  沖縄県と国内外とを結ぶ人流・物流の拠点として極めて重要な役割を果たしている那覇空港において、更なる沖縄振興を図るため、滑走路増設事業を引き続き実施している。福岡空港については、慢性的に発生しているピーク時の航空機混雑を抜本的に解消するため、滑走路増設事業を引き続き実施している。新千歳空港については、29年3月下旬から1時間当たりの発着回数を32回から42回への拡大を実施した。加えて、国際線旅客の急速な拡大等に伴う施設の混雑を解消するとともに今後も見込まれる需要増に対応するため、国際線エプロンの拡張、誘導路の新設、国際線ターミナルビルの機能向上(CIQ施設)に係る整備事業を実施している。その他の地方空港においても、航空機の増便や新規就航等に対応するため、エプロン拡張やCIQ施設整備等を実施している。  また、航空機の安全運航を確保するため、老朽化が進んでいる施設について戦略的維持管理を踏まえた空港の老朽化対策を実施するとともに、地震災害時における空港機能の確保等を図るため、空港の耐震化を着実に推進している。 4)オープンスカイの戦略的な推進  アジア等海外の旺盛な経済成長を取り込みつつ、世界的な航空自由化に伴う競争環境の変化に対応するため、首都圏空港を含むオープンスカイ(注1)を戦略的に推進し、平成30年3月までに合計で33箇国・地域(注2)との間でオープンスカイを実現することとなった。また、日・ASEAN航空協定締結に向け、ASEANとの議論を継続している。 5)航空機操縦士等の養成・確保  我が国の航空業界においては、国際線を中心とする航空需要の大幅な増大や、現在主力となっている40代の操縦士の将来における大量退職が見込まれている。  このため、平成26年7月には、交通政策審議会航空分科会 基本政策部会 技術・安全部会の「乗員政策等検討合同小委員会」において、今後講じていくべき具体的施策の方向性がとりまとめられたほか、平成28年3月には、訪日外国人旅行者数の目標を2020年に4,000万人、2030年に6,000万人等とする「明日の日本を支える観光ビジョン」がとりまとめられる等、航空需要の増加に対応した操縦士の養成・確保が益々重要となっている。 図表II-6-1-13 我が国主要航空会社操縦士の年齢構成  これらを踏まえ、即戦力となる操縦士の確保を図るための取組みとして、自衛隊操縦士の活用、在留資格要件の緩和等による外国人操縦士の活用、操縦士の年齢制限の上限引き上げなどを行うとともに、若手操縦士の供給拡大を図るための取組みとして、平成30年度から航空大学校の養成規模を拡大(72名→108名)するほか、同年度から私立大学等民間養成機関の高額な訓練費の負担の軽減を図るため無利子貸与型奨学金事業を開始することとしている。 図表II-6-1-14 我が国LCC 操縦士の年齢構成 (2)空港運営の充実・効率化 1)空港経営改革の推進  国管理空港等において、「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律(民活空港運営法)」を活用し、地域の実情を踏まえつつ民間の能力の活用や航空系事業と非航空系事業の一体的経営等を通じた空港経営改革を推進し、空港を活用した内外の交流人口拡大等による地域活性化を図っていくこととしている。  こうした中、平成28年7月から国管理空港の第1号案件として、仙台空港の運営委託を開始したところである。仙台空港に続いて、高松空港、福岡空港、熊本空港、北海道内7空港及び広島空港においても手続が進められている。 2)LCCの持続的な成長に向けた取組み  平成24年3月に本邦初となるLCC が就航した。以降、30年1月時点で、ピーチ・アビエーションは国内15路線、国際14路線、ジェットスター・ジャパンは国内17路線、国際9路線、バニラ・エアは国内6路線、国際7路線、春秋航空日本は国内2路線、国際4路線、エアアジア・ジャパンは国内1路線へネットワークを展開している。  LCC 参入促進により、訪日外国人旅行客の増大や国内観光の拡大等、新たな需要の創出が期待されている。政府は「2020年の航空旅客のうち、国内線LCC旅客の占める割合14%、国際線LCC旅客の占める割合17%」を目標とし、LCC参入を促進させるため、我が国及び各空港では様々な施策を行ってきている。 図表II-6-1-15 我が国のLCC旅客数の推移  国の施策としては、主に1)料金体系の変更、2)空港経営改革、3)受入環境整備の3つの観点から検討・実施している。まず、1)料金体系については、LCC就航促進のため、LCCの拠点空港となっている成田国際空港及び関西国際空港においては、着陸料を含む空港使用料の引き下げ・見直しを実施しているほか、平成29年度から、この2空港に加えて、中部国際空港を含む3空港発地方空港着の国内線の着陸料軽減措置の拡充を実施している。また、29年7月に全国27の空港を「訪日誘客支援空港」と認定し、LCCを含む国際線の新規就航・増便への支援や旅客受入環境高度化等、国による総合的な支援を実施している。次に、2)空港経営改革については、民間事業者による滑走路等と空港ビルの運営の一体化などにより、戦略的な料金体系や営業活動等を可能とする、民間の知恵と資金を活用した空港の活性化を図るため、積極的に推進しており、29年度は、高松空港、福岡空港、熊本空港、北海道内7空港、広島空港において、民間運営委託の実現のため必要な手続きを実施している。さらに、3)LCCの受入環境整備としては、LCC専用ターミナルの整備を実施しており、中部国際空港でも平成31年上期の供用開始に向けて同整備を進めた。 3)ビジネスジェットの受入れ推進  ビジネスジェットとは、数人から十数人程度を定員とする小型の航空機であり、利用者のスケジュールに応じた時間設定や、プライバシーが確保されるため搭乗中に商談等が可能であることから、時間価値の高いビジネスマン等が利用の対象となっている。  欧米では既にビジネスジェットがグローバルな企業活動の手段となっている。我が国においても、経済のグローバル化に伴い、従来より東京国際空港・成田国際空港の両空港を中心にアジア地域における経済成長の取り込みの観点から、その振興は重要な課題であったが、近年は富裕層旅客の取込み等インバウンド振興の観点からも重要性が増している。  そこで、我が国ではビジネスジェットの受入環境を改善するため、首都圏空港をはじめとしたハード整備等を行っている。例えば、東京国際空港においては、駐機スポット増設に向けた整備を進めつつ既存スポット運用の工夫により最大駐機可能機数を拡大するとともに、利便性を向上させるため関係者に対しスポット情報の見える化を図った。また、成田空港では、特に2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会時のスポット数拡充を含めた受入体制の充実について議論を進めた。  今後も、ビジネスジェットの利用定着のため、積極的な情報発信やビジネスジェットに関する規制の緩和も含めて施策の検討を行っていく。 4)地方空港における国際線の就航促進  平成28年3月に策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」において掲げられている、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人という目標の実現に向けては、国際線就航による地方イン・地方アウトの誘客促進が大変重要になる。  国が管理する空港については、国際線の着陸料を定期便は7/10、チャーター便は1/2に軽減しており、平成28年度より、地方空港において国際旅客便の新規就航又は増便があった場合に、路線誘致等にかかる地域の取組みと協調して、更に着陸料を1/2軽減する措置を行っている。更に、平成29年7月には、訪日客誘致や就航促進の取組を行う全国27の地方空港を「訪日誘客支援空港」として認定し、当該空港に対して、着陸料やグランドハンドリング経費等の新規就航・増便への支援やボーディングブリッジやCIQ施設の整備等の旅客受入施設整備への支援等を実施し、各地における国際線就航に向けた取組を促進している。 (3)航空交通システムの整備  長期的な航空交通需要の増加やニーズの多様化に対応するとともに、国際民間航空機関(ICAO)や欧米等の動向も踏まえた世界的に相互運用性のある航空交通システムの実現のため、平成22年に「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン(CARATS)」を産学官の航空関係者により策定し、ICAOの「世界航空交通計画(GANP)」と協調しつつ、その実現に向けた検討を進めている。  平成29年度の取組みとしては、新技術や新方式の導入に関して、航空機の運航効率の向上や悪天候時における就航率の向上等を図るため、特にGPSを利用した航法精度の高い高規格進入方式(RNP AR)について、ILSが設置されていない空港・滑走路や、地形等により進入ルートに制約がある計4空港に導入した。また、現在直線に限定されている精密進入経路の曲線化等を実現し、安全性や利便性の向上を図るため、地上型衛星航法補強システム(GBAS)の導入に向けた検討を進めている。さらに、航空情報を世界的に共有するための新たなネットワーク網についての検討も引き続き実施している。 (4)航空インフラの海外展開の戦略的推進  アジア・太平洋地域は、近い将来世界最大の航空市場に成長するとされている。同地域の航空ネットワークの強化に貢献するとともに、数多くの航空インフラプロジェクトが進行中である新興国の成長を我が国に積極的に取り込むことが、成長戦略として重要な課題となっている。  案件受注のためには、案件の早期発掘が重要であることから、多くの関係企業が参画する航空インフラ国際展開協議会の下に、空港運営案件発掘調査WGを設置し、官民連携による情報収集体制を強化した。  この他、平成29年度においては、パラオのパラオ国際空港旅客ターミナルビル改修・運営事業において事業権譲渡契約を締結(平成29年8月)した他、ロシアのハバロフスク国際空港国内線ターミナル、ベトナムのロンタイン新国際空港、ミャンマーのハンタワディー新国際空港、モンゴルの新ウランバートル国際空港、等の整備・運営に対する我が国企業の参画に向け、機会を捉えたトップセールス、相手国政府要人招聘事業(平成29年度はベトナムを招聘)等を行った。 注1 航空会社の新規参入や増便、航空会社間の競争促進による運賃低下等のサービス水準の向上を図るため、国際航空輸送における企業数、路線及び便数に係る制約を二カ国間で相互に撤廃することをいい、近年、世界の多くの国がこれを進めている。 注2 当該33箇国・地域との間の旅客数は、我が国に発着する総旅客数の約96%を占めている。