第I部 進行する地球温暖化とわたしたちのくらし〜地球温暖化対策に向けた国土交通行政の展開〜 

1 建物本体の断熱性の向上や建築設備の効率化による省エネ性能の向上

(1)住宅・建築物における省エネ性能の状況
 住宅・建築物の省エネ性能の状況を見るために、「建築主等の判断基準(省エネ判断基準)」に基づいて、どの程度の建物が同基準を満たしているのかを見てみる。

(省エネ判断基準の強化)
 石油危機を背景に「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」が施行され、この法律に基づき、昭和55年に、住宅と建築物について、それぞれ省エネ判断基準が設定された。省エネ判断基準には、建物の外壁、窓等の断熱に関する基準と、空調やエレベーター等の建築設備に関する基準があり、累次にわたって強化されてきた。最新の平成11年省エネ判断基準に適合する住宅の年間暖冷房エネルギー消費量は、無断熱の場合に比べて約4割の水準であり、建築物のエネルギー消費量は、省エネ判断基準策定前の建築物に比べて約75%の水準である。
 
図表I-2-2-3 各省エネ判断基準に適合する住宅における年間暖冷房エネルギー消費量

図表I-2-2-3 各省エネ判断基準に適合する住宅における年間暖冷房エネルギー消費量
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図表I-2-2-4 各省エネ判断基準に適合する建築物における年間エネルギー消費量

図表I-2-2-4 各省エネ判断基準に適合する建築物における年間エネルギー消費量
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 省エネ法では、すべての住宅・建築物の建築主等に建物の断熱性や建築設備の効率性に関する省エネ措置の努力義務を課したほか、2,000m2以上の住宅・建築物の新築や増改築等の際には、建築主に省エネ措置の届出を義務付け、著しく不十分な場合には変更を指示し、正当な理由なくその指示に従わなかった場合は、その旨を公表することとしている。床面積ベースでは、新築される住宅の約2割、建築物の約6割が同法に基づく届出の対象となっている。
 
図表I-2-2-5 住宅・建築物の床面積区分別の割合(平成17年度)

図表I-2-2-5 住宅・建築物の床面積区分別の割合(平成17年度)
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(省エネ判断基準を満たす新築住宅・建築物の増加)
 住宅については、平成18年度より省エネ措置の届出を義務付けたところである。省エネ判断基準を満たす住宅については、従来、住宅性能評価(注1)を受けた住宅のうち、同基準を満たす住宅の割合とされており、その割合は、12年度の13%から17年度には30%まで上昇した。
 建築物については、15年度に省エネ措置の届出を義務付けて以降、新築した2,000m2以上の建築物が省エネ判断基準を満たす割合は、15年度の70%から、17年度には85%まで上昇した。
 
図表I-2-2-6 新築住宅・建築物の省エネ判断基準適合率の推移

図表I-2-2-6 新築住宅・建築物の省エネ判断基準適合率の推移
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(2)住宅・建築物の省エネ性能の向上に向けて
(既存ストックの省エネ性能の向上の必要性)
 近年、住宅・建築物をつくっては壊す「フロー消費型の社会」から、いいものをつくってきちんと手入れして長く大切に使う「ストック型社会」への転換が求められていること、また、住宅・建築物は、一度建築されると長期にわたって使用されることから、新築の段階において一定程度の省エネ性能を確保することは、中長期を見据えたCO2排出量削減の観点からも重要である。
 一方、平成17年度における我が国の新築住宅は、延床面積で1億700万m2、新築建築物は7,200万m2であり、これは、床面積で見た場合、既存ストックの数パーセントに過ぎない。既存ストックは、その数も多く、省エネ性能の向上も遅れていることから、今後、本分野においてCO2を大幅に削減するためには、新築時における省エネ対策と併せ、既存ストックの省エネ性能の向上を図ることが必要である。
 
図表I-2-2-7 新築住宅・建築物と既存住宅・建築物の床面積(百万m2)(平成17年)

図表I-2-2-7 新築住宅・建築物と既存住宅・建築物の床面積(百万m2)(平成17年)
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(見える化による省エネ性能向上の必要性)
 住宅・建築物の省エネ性能の向上の実現に向けて、前述のような省エネ判断基準の強化や届出義務等の規制に加え、融資や税制面等での支援、省エネ性能の向上に関連する技術開発や技術者の育成等、様々な取組みを行っている。その実現のためには、行政側の施策だけではなく、わたしたちの理解とそれに基づく取組みが重要な要素となる。
 このような観点から、以下では、わたしたちが住宅・建築物の省エネ性能を理解する上で重要となる、環境性能の評価やそのわかりやすい情報提供に関する取組みについて取り上げる。

 住宅の様々な性能の中で、省エネ性能がどの程度重視されているのかを見るために、平成19年12月に国土交通省が実施した意識調査(注2)において、「住宅に関して、間取りや立地以外に住宅の性能に関してお金をかけるとすれば、どのような項目を重視しますか。」と尋ねたところ、「省エネに優れた家」は、「地震に強い家」に次いで高い割合となった。この結果から見る限り、住宅における省エネ性能は、意識の上では重視されていると考えられる。
 
図表I-2-2-8 住宅の性能に関して重視する分野(複数回答)(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))

図表I-2-2-8 住宅の性能に関して重視する分野(複数回答)(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))
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 このような意識を実際の取組みに反映させていくためには、省エネ性能について的確に評価し、専門知識を持たない一般の人々にもわかりやすく情報を提供していくことが重要である。これについては、例えば、「住宅性能表示制度」や「建築物総合環境性能評価システム(CASBEE)」が導入されているが、このような制度が理解され、一層活用されることが必要である。

(住宅性能表示制度)
 住宅については、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」により、平成12年10月に省エネ性能を含む住宅の性能を評価・表示する住宅性能表示制度が創設された。住宅性能表示制度では、外見や簡単な間取り図からでは判断しにくい住宅の性能を10分野にわたって等級や数値で表しており、このうち、温熱環境(省エネルギー対策)については、暖冷房を効率的に行うための外壁や窓等の断熱の程度等を評価し、1から4の等級で表示している。等級4が省エネ判断基準における11年基準に相当している。制度創設以降、住宅性能評価書の交付を受ける住宅は増加しており、18年度には、新築住宅の約2割を占めている。
 
図表I-2-2-9 住宅性能評価の実績

図表I-2-2-9 住宅性能評価の実績
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(建築物総合環境性能評価システム)
 また、平成14年に、住宅・建築物に関して環境性能を総合的に評価し、ランク付けする手法として、「建築物総合環境性能評価システム(CASBEE)」が考案された。
 環境性能は、建物本体の「環境品質」と建物が外部に及ぼす「環境負荷」の2つの観点から評価される。各項目の評価を集計した結果、「環境品質」の得点が高く、「環境負荷」の得点が低い建物が総合的に高い評価を得るようになっており、最終的に星5つから星1つまでの5段階でランク付けされる。
 
図表I-2-2-10 建築物総合環境性能評価システムの例

図表I-2-2-10 建築物総合環境性能評価システムの例

 地方自治体では、民間事業者に評価結果の提出や公表の義務を課すなどの動きが広がっており、川崎市では、18年10月より、床面積の合計が5,000m2を超える分譲共同住宅の販売広告の中に「分譲共同住宅環境性能表示(注3)」を表示することを義務付けている。
 
図表I-2-2-11 川崎市分譲共同住宅環境性能表示

図表I-2-2-11 川崎市分譲共同住宅環境性能表示


(注1)国土交通大臣が定めた基準に基づき、第三者機関が行う住宅の耐震性、省エネ性能等の住宅性能の客観的な評価。詳細は、(建築物総合環境性能評価システム)参照
(注2)平成19年12月6日から16日にかけて、層化三段無作為抽出法に基づき抽出した全国の満20歳以上の男女4,000人(回収数1,255人)を対象に、個別面接聴取法による調査を実施した。
(注3)CASBEE川崎の評価結果に基づくもの

 

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