第I部 進行する地球温暖化とわたしたちのくらし〜地球温暖化対策に向けた国土交通行政の展開〜 

1 集約型の都市・地域づくり

(1)我が国の都市構造の変化とその課題
(都市的地域の拡大と人口密度の低下)
 いわゆる都市的地域を表すDID(注1)の面積は、昭和35年から55年までの間に約2.6倍に増加した。一方、この間のDID人口は1.7倍の増加であったことから、DID人口密度は、35年の1km2当たり10,563人から55年の6,983人まで急速に低下した。このことから、ほぼ高度成長期に当たる同期間に、都市への人口集積と都市的地域の拡大が進む中で、DID人口密度は低下し、人口が分散してきたことがわかる。
 近年、DID面積の増加は緩やかとなっているが、地方圏における人口減少を反映して、都市によっては、DID面積の増加が収まる中で、DID人口の減少を主因としてDID人口密度の減少が続いているところもある。地方圏では、今後も急速な人口減少が見込まれていることから、地方都市等を中心にこの動きが拡大する可能性がある。
 
図表I-2-3-1 DIDの人口、面積、人口密度の推移

図表I-2-3-1 DIDの人口、面積、人口密度の推移
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 三大都市圏では、平成12年から17年にかけては人口の増加が見られるものの、42年にかけては、いずれも減少に転じると予測されている。東京圏では都心と神奈川東部や千葉北部等を除く地域、名古屋圏、大阪圏では、名古屋市、大阪市を中心に人口が減少すると予測されており、こうした地域では、地方圏と同様にDID人口密度が低下する可能性がある。
 
図表I-2-3-2 東京圏、名古屋圏、大阪圏における人口増減推計(平成12〜42年)

図表I-2-3-2 東京圏、名古屋圏、大阪圏における人口増減推計(平成12〜42年)

(都市機能の郊外化)
 このような人口の分散に加え、近年は、商業機能を始めとする都市機能の郊外化が進んできた。大規模商業施設の立地状況を見ると、都市計画の用途地域のうち、商業系地域への立地が減少し、三大都市圏(注2)では工業系地域、地方圏(注3)では工業系地域のほか、市街化調整区域や非線引き白地地域(注4)等、既成市街地の外側への立地割合が増加してきており、従来、人々が集まっていた商業系地域等の中心市街地以外の地域に立地する傾向が強まっていることがうかがえる。
 
図表I-2-3-3 大規模商業施設(延べ床面積3,000m2以上)の立地状況の推移

図表I-2-3-3 大規模商業施設(延べ床面積3,000m2以上)の立地状況の推移
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 また、公共・公益施設についても、近年、特に、病院や高校・大学の郊外移転が進んでおり、平成16年には、病院では約7割、高校・大学では9割近くが郊外に立地している。
 
図表I-2-3-4 公共・公益施設の郊外移転状況

図表I-2-3-4 公共・公益施設の郊外移転状況
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(公共・公益施設、商業施設の立地に関する希望)
 国土交通省が行った意識調査(注5)によれば、「公共・公益施設や商業施設は、街の「中心」と「郊外」のどちらに立地すればよいと思いますか。」という質問に対し、公共・公益施設では、中心への立地を希望する割合が59.4%、郊外への立地を希望する割合が32.3%、商業施設では、それぞれ48.3%、43.6%となっており、両施設とも中心への立地を望む人の割合が郊外への立地を望む人の割合よりも高くなっている。しかし、自動車の運転頻度別に見ると、運転頻度の高い人ほど、中心より郊外への立地を希望する割合が高くなる傾向にある。特に、ほぼ毎日自動車を運転する人では、両施設とも郊外への立地を望む割合が中心への立地を望む割合より高くなっている。このような人々の意識は、今後の都市機能の立地にも影響を与えることが懸念される。
 
図表I-2-3-5 公共・公益施設、商業施設の立地に関する希望(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))

図表I-2-3-5 公共・公益施設、商業施設の立地に関する希望(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))
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図表I-2-3-6 自動車の運転頻度と立地に関する希望との関係(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))

図表I-2-3-6 自動車の運転頻度と立地に関する希望との関係(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))
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(人口が分散していると施設までの距離が長くなる傾向)
 人口の分散が人々の移動距離にどのような影響を与えているのかを見るために、身近な施設である医療機関と銀行・郵便局を例にとって、DIDのある人口5万人以上の市町村を対象に、DID人口密度とそれぞれの施設の500m以内に居住している人口割合との関係を見た。それによると、DID人口密度が低い市町村ほど、それぞれの施設から500m以内に居住している人口割合が低い傾向にあった。このことから、人口が分散した都市では、医療機関や銀行・郵便局等の日常生活に必要な施設までの距離が長くなる傾向にあることが推測される。
 
図表I-2-3-7 DID人口密度と施設(医療機関、銀行・郵便局)までの距離の関係(DIDのある人口5万人以上の都市)

図表I-2-3-7 DID人口密度と施設(医療機関、銀行・郵便局)までの距離の関係(DIDのある人口5万人以上の都市)

(市街地が拡散した都市の課題)
 このように我が国の都市では、これまで人口が分散し都市機能が郊外化するなどの動きが見られた。このような市街地の拡散に対しては、これまで、主に社会経済面において様々な課題が指摘されている。例えば、中心部の居住者の減少によるコミュニティの衰退、街の中心部の商業施設の従業者数や販売額が減少するなどのにぎわいの低下、拡散した市街地におけるインフラの整備や維持管理に伴う都市経営コストの増大、さらには、公共交通の衰退による高齢者等の外出の利便性の低下が懸念されるなどの課題が指摘されている。
 
図表I-2-3-8 都市人口規模別の中心部(3km×3km)の従業者数、販売額の推移

図表I-2-3-8 都市人口規模別の中心部(3km×3km)の従業者数、販売額の推移
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(2)DID人口密度と自家用車利用率、自動車からの二酸化炭素排出量との関係
 (1)で見てきたように、我が国の都市では、市街地の拡散に伴う様々な課題が指摘されているところであるが、地球温暖化の観点からはどのように捉えられるのだろうか。(2)では、まず、DID人口密度と自家用車利用率及び自動車からのCO2排出量との関係について見てみる。

(DID人口密度が高いほど自家用車利用率は低く自動車からのCO2排出量は少ない傾向)
 一般に、人口や都市機能が分散している都市では、大規模輸送を特徴とする鉄道やバス等の公共交通よりも、少人数での移動の自由度が高い自家用車の利便性が高まることが推測される。そこで、DIDを有する市町村を対象に、DID人口密度と自家用車利用率及び公共交通機関(鉄道・バス)利用率との関係を見ると、DID人口密度が高い都市ほど、自家用車の利用率は低く、公共交通機関の利用率は高い傾向にあることがわかる。
 
図表I-2-3-9 DID人口密度と自家用車・公共交通機関利用率(通勤・通学時)の関係

図表I-2-3-9 DID人口密度と自家用車・公共交通機関利用率(通勤・通学時)の関係

 さらに、同じ都市を対象に、DID人口密度と一人当たりの自動車からのCO2排出量(注6)との関係を見ると、DID人口密度が高い都市ほど、CO2排出量が少ない傾向が見られる。また、地域別に両者の平均値を取ってみても、同様の傾向が見られる。
 
図表I-2-3-10 DID人口密度と一人当たり自動車CO2排出量

図表I-2-3-10 DID人口密度と一人当たり自動車CO2排出量
 
図表I-2-3-11 地域別DID人口密度の平均と一人当たり自動車CO2排出量

図表I-2-3-11 地域別DID人口密度の平均と一人当たり自動車CO2排出量
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(3)自動車からの二酸化炭素排出量の少ない都市の特徴と人々の移動の様子
 (2)で見たように、DID人口密度と自家用車利用率や自動車からのCO2排出量との間には一定の関係が見られた。それでは、DID人口密度が高く自動車からのCO2排出量が少ない都市は、どのような特徴を持ち、人々はどのように移動しているのだろうか。これには様々な要因が影響すると考えられるが、ここでは、自動車からのCO2排出量が少ない都市において、人口がどのように分布しており、それに対応してどのように公共交通機関が整備されているのかという都市の構造、さらに、街の中心がにぎわっているか否かが人々の移動にどのような影響を与えるのかについて取り上げる。

(人口分布と公共交通機関の整備状況)
 DID人口密度が比較的高く自動車からのCO2排出量が少ない都市では、人口がまとまって一つの中心を形成している形や複数の中心を持つ形など様々な形がある。例えば、松山市と長崎市は、共に地方圏の都市の中では、比較的DID人口密度が高く、自動車からのCO2排出量が少ない都市である。それぞれの人口分布を見ると、比較的平坦な松山市は、市役所を中心としたまとまりが見られるのに対し、長崎市は、山が海に迫った細長い可住地に人口が分布し、これに沿って路面電車等の公共交通機関が整備されている。両市とも自家用車の利用率は地方圏の都市の中では低い方であり、松山市は、自転車・徒歩の割合が高く、長崎市は、公共交通機関の利用率が高い。このように、自動車からのCO2排出量の少ない都市は、人口がまとまって分布して中心部を形成していたり、人口の分布に沿って公共交通機関が整備されていたりするなど、人々の移動が過度に自家用車に依存しない構造になっているという特徴が見られる。
 なお、公共交通機関による移動が容易な軸上に市街地を集約した場合の自動車からのCO2排出量削減の効果については様々な推計があるが、例えば仙台都市圏では、1)現行のまま低密度の市街地が拡大した場合、2)現行都市計画に基づいて市街地を誘導した場合、3)公共交通機関の軸上に市街地を集約した場合の3つのシナリオで、現行と2025年(平成37年)の自動車からのCO2排出量の増減を推計した。その結果、自動車からのCO2排出量は、1)では増加、2)では現状と同じ、3)では減少するとの結果が得られた。また、3)では、中心市街地の集客力の増加にも貢献することを示唆する結果となった(コラム「仙台都市圏における都市構造と環境負荷の関係に関する試算」参照)。
 
図表I-2-3-12 松山市と長崎市の人口分布と公共交通機関の整備状況

図表I-2-3-12 松山市と長崎市の人口分布と公共交通機関の整備状況
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(街の中心部のにぎわいと人々の移動の様子)
 次に、街の中心部がにぎわっているか否かが、人々の移動や交通手段にどのような影響を与えるのかについて見てみる。前出の意識調査において、住んでいる街の中心や郊外はにぎわっているか、寂れているかという街の状態と、通勤・通学や買い物は、どこにどのような手段で行くのかについて聞いた。それによれば、「中心がにぎわっている都市」に住んでいると答えた人は、「中心が寂れている都市」に住んでいると答えた人に比べ、通勤・通学や買い物で自動車を使う割合が低かった(注7)
 
図表I-2-3-13 通勤・通学、買い物(休日)における交通手段(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))

図表I-2-3-13 通勤・通学、買い物(休日)における交通手段(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))
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 移動の方向を見ると「中心がにぎわっている都市」に住んでいると答えた人の方が、「中心が寂れている都市」に住んでいると答えた人よりも、中心から郊外へ移動する割合が低く、郊外から中心へ移動する割合が高い。その差は、通勤・通学よりも買い物の方が大きい。このことから、中心部のにぎわいと人々の移動や交通手段との間には、一定の関係があることがうかがえる。
 
図表I-2-3-14 通勤・通学、買い物(休日)における移動(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))

図表I-2-3-14 通勤・通学、買い物(休日)における移動(地球温暖化に関する意識調査(平成19年12月 国土交通省実施))
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 このように、自動車からのCO2排出量の少ない都市の特徴については、都市内の人口分布と公共交通機関の整備状況、中心部の魅力等の観点から見ることによって、DID人口密度のみでは捉えられない様々な傾向を見出すことができる。(4)では、このような特徴を踏まえ、集約型の都市・地域づくりの方向性について述べる。

(4)集約型の都市・地域づくりに向けて
 これまで見てきたように、市街地の拡散は、地球環境、社会経済の両面において課題となっている。このような課題を認識した都市の中には、市街地の無秩序な拡散を抑制しつつ、商業、業務、公共施設等の多様な都市機能がコンパクトにまとまった集約型の都市・地域づくりに向けた取組みを始めているところもある(コラム「集約型の都市づくりに向けた取組みの事例」参照)。
 集約型の都市・地域づくりには、単に中心市街地の居住者を増やすだけではなく、市街地をコンパクトにまとめ、歩いて暮らせるまちづくりや公共交通機関の整備を進め、自家用車に過度に依存しない移動環境を整えるとともに、都市機能が集積し、人々が集まるような魅力ある中心市街地を形成することが重要である。なお、その際には、過密の弊害を招かないよう基盤整備との関係も考慮する必要がある。
 このような集約型の都市・地域は、地球環境の観点のみならず、高齢者等の生活利便性の確保や都市経営コストの低減等の観点からも政策効果が期待できる。このため、今後、人口減少・高齢化が進んでいく中で、このような取組みは、多くの都市・地域にとって、持続可能な都市・地域づくりのための有力な選択肢となり得る。
 もとより、都市・地域は多様な自然的、社会的背景を有することから、CO2削減への取組みも一様ではない。集約型の都市・地域づくり以外にも様々な方法があり得るが(例えば、コラム「欧州の小都市における地球環境負荷の軽減と地域活性化の取組み」参照)、具体の姿は、それぞれの特徴を踏まえた都市・地域のあり方の中に位置づけて、地域自らが選択していくことが重要である。


(注1)DID(Densely Inhabitant District):1km2に4,000人以上居住する国勢調査の基本単位区等が隣接して、総計で5,000人以上の人口を有する地区を指し、人々が集まる「都市的地域」として捉えられる。ただし、空港、工場、学校等が大きな面積を占めている地区では、人口密度が4,000人未満でもDIDに含まれる場合がある。
(注2)三大都市圏:東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県
(注3)三大都市圏以外の道県
(注4)非線引き白地地域:市街化調整区域と市街化区域の区分を定めていない都市計画区域内で、用途地域の定められていない地域
(注5)平成19年12月6日から16日にかけて、層化三段無作為抽出法に基づき抽出した全国の満20歳以上の男女4,000人(回収数1,255人)を対象に、個別面接聴取法による調査を実施した。調査に当たっては、街の「中心」とは、駅前や市町村役場の付近など商店や事務所などが集まっていて、その街の中心としての役割を果たしている地域、「郊外」とは、その街の「中心」以外の地域と説明した。
(注6)自動車からのCO2排出量については、環境自治体会議環境政策研究所による推計データを使用
(注7)「中心が寂れている都市」に住んでいると答えた人は、「街の中心も郊外も寂れている」と「街の中心は寂れているが郊外はにぎわっている」と答えた人の合計。「中心がにぎわっている都市」に住んでいると答えた人は、「街の中心も郊外もにぎわっている」と「街の中心はにぎわっているが郊外は寂れている」と答えた人の合計

 

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