平成元年度 運輸白書

運輸をめぐるこの一年の動き


 昭和63年度を振り返ると、我が国の経済は、堅調な個人消費と心強い民間設備投資に牽引され、内需が内需を増大させる自立的拡大を続けた。これに伴い、輸送活動も旅客、貨物ともに活発化し、好調に推移した。
  


●国内輸送……旅客、貨物ともに大きな伸び
 ここ数年拡大基調にあった国内輸送は、63年度に入りさらに増加傾向を強め、旅客、貨物ともに大きな伸びとなった。
 63年度の旅客輸送、貨物輸送(軽自動車等による輸送は除く。)はともに輸送機関によるばらつきがみられるものの、それぞれ対前年度比7.3%増の9,978億人キロ、同7.6%増の4,807億トンキロと大きく増加した。


●国際輸送……引き続き好調
 63年の出国日本人数は、円高による割安感等により対前年度比23.4%増の843万人と62年に引き続き大幅に増加し、また、入国外客数も円高による一時的な落込みを克服し、同9.3%増の236万人と過去最高の水準となった。
 一方、国際貨物輸送量をみると、63年の外航海運は内需主導型経済構造への転換を反映し、輸出が同0.7%減の7,071万トンとなったものの、輸入が同9.4%増の6億6,066万トンであり、輸出入合計では同8.3%増の7億3,137万トンと好調に推移した。また、63年度の国際航空貨物は、輸出が対前年度比9.5%増の43万トン、輸入が同25.2%増の59万トンと大幅に増加し、輸出入合計で同18.1%増の102万トンと依然好調が続いている。


●新幹線通勤の拡大(64.1.1)
 通勤手当の非課税限度額が、昭和64年1月以降、月額26,000円から50,000円に引き上げられた。
 この改正の結果、新幹線通勤者等の遠距離通勤者の負担軽減が図られることになり、非課税限度額の引き上げに応じて通勤手当の支給限度額の引き上げを行う企業がみられるほか、新幹線での通勤費用をほぼ全額負担する企業も増加し、新幹線通勤の拡大の動きが一層加速されることとなった。
 新幹線通勤は、地価が高騰した首都圏における勤労者の住宅取得の推進や、負担の大きい単身赴任の回避に役立つこと等から、運輸省は、今後さらに新幹線通勤の促進のための施策を講じていくこととしている。


●「大喪の礼」における特別機等の受入対策と海上警備の実施(元.2.24)
 平成元年2月24日の昭和天皇の大喪の礼には、164か国、27の国際機関及び欧州共同体から外国元首・弔問使節等が参列した。運輸省では、「特別機等受入対策本部」を設置し、弔問使節等の特別機、商業機の来・離日が集中した2月20日から28日までの間、24時間運用体制をとった。この間、外務省、警察庁、防衛庁等の関係省庁と密接な連携をとりつつ、東京(羽田)、新東京(成田)の受入れ空港事務所、東京航空交通管制部及び代替空港としての大阪空港事務所等現地機関と一体となって、空港・保安施設等の警備、ハイジャック防止対策、航空機の運航情報の収集等弔問施設などの受入れが行われた。
 また、海上保安庁では、全国的に警備体制を強化し、特に、1月7日から2月27日までの間、全国から巡視船艇等81隻、航空機6機を集結させ、羽田空港及び東京湾周辺海域において警戒にあたるなど、期間、勢力等において過去最大規模の警備を行い、海上でのテロ、ゲリラ事件の発生を未然に防止した。さらに、海上保安庁音楽隊は、大喪の礼に際し、御葬列の道筋において、「哀の極」を奏楽した。


特別機で来日ブッシュ米国大統領

●外航クルーズ客船 相次いで就航(元.4.22,4.29)…クルーズ時代の幕開け
 近年、ゆとりある国民生活を実現する豪華レジャーの手段として客船による船旅が大きくクローズアップされており、平成元年4月には、日本籍の豪華外航客船「おせあにっく ぐれいす」(22日就航、5,218総トン)、「ふじ丸」(29日就航、23,340総トン)が相次いで就航し、我が国もいよいよ本格的な外航クルーズ時代の幕開けを迎えた。一方、内航客船分野においても、東京湾をクルージングする「ロイヤル ウイング」(3月5日就航、3,000総トン)、「ベイ フロンティア」・「ベイ ブリッジ」(3月25日就航、156総トン)、「シンフォニー」(5月2日就航、1,100総トン)、「ベイ ドリーム」(8月1日就航、162総トン)、「ヴァンテアン」(10月23日就航、1,600総トン)が就航し、ベイエリア観光の新しい目玉として好評を博している。
 このように「クルーズ元年」とも呼ばれる平成元年は、我が国海運会社にとって客船事業に弾みをつける年となり、これらに続く豪華客船の建造も数多く計画されている。

豪華外航客船「ふじ丸」

 

●国際観光開発総合支援構想(ホリディ・ビレッジ構想)の策定(元.5.17)
 運輸省では、開発途上国における観光開発を総合的、かつ、積極的に支援するため、平成元年5月「国際観光開発総合支援構想(ホリディ・ビレッジ構想)」を策定した。
 この構想は、開発途上国における国際的な観光地の計画的な整備に対して、国際協力事業団による技術協力、海外経済協力基金による観光関連インフラストラクチャーの整備に対する資金協力及びホテル、レクリエーション施設等の整備に対する民間の資金・ノウハウの活用を組み合わせて総合的に支援を行おうというものであり、開発途上国における外貨獲得、雇用機会の増大等の経済振興に大きく寄与することが期待される。
 本構想の対象地域は、今後、開発途上国からの要請を踏まえつつ検討されるが、当面、マレーシア(デサルー)、フィリピン(島しょ地域)、インドネシア(スラウェシ島等)、タイ(中部地域)、ネパール(山岳地域)、メキシコ(太平洋岸及びカリブ海地域)、コスタリカ(海岸地域)などを念頭において検討を進めることとしている。

マレーシアのビーチ・リゾート(デサルー)

 

●ナビックスラインの誕生(元.6.1)…海運6社体制から5社体制へ
 我が国外航海運企業は、近年の円高等に起因する厳しい経営環境のなかで、極めて困難な経営を余儀なくされてきている。このような状況のなかで、海運各社は、懸命の減量・合理化を進めてきたが、さらに合理的な経営を目指して海運企業の集約・統合の動きが生じている。
 山下新日本汽船とジャパンラインは、それぞれ昭和39年の海運集約の際にいわゆる中核6社の1社として発足したが、両社は、長期化した海運不況の影響をまともに受け、業績不振に陥り、多額の累積欠損を抱えるに至った。この間、両社ともこの経営危機を打開し、経営基盤を強化するため、大幅な経営の減量・合理化を実施してきたが、なお一層の経営改善を図るため、昭和63年10月の定航部門の分離・統合に続き、平成元年6月1日に本体の合併を実施し、新会社「ナビックスライン」が誕生した。
 この合併によって、海運集約以来20余年にわたって維持されてきた6社体制が5社体制へ移行した。

合併後の新生ナビックスライン

 

●テクノスーパライナーの研究開発開始(元.6.29)  従来の船舶の2倍以上の速力(50ノット)で航行でき、航空機やトラックより大量の貨物(約1,000トン)を国際的には航空機の約10分の1、国内的にはトラックなみの運賃で輸送できる新形式超高速船(テクノスーパーライナー'93)の研究開発が、平成元年6月に造船大手7社が共同で設立したテクノスーパーライナー技術研究組合において開始された。
 本船が実用化されれば、我が国とアジアNIEsの大部分が1〜2日で結ばれ、これらの地域から我が国への輸入の増大や地域間の貿易の活性化をもたらすとともに、国内輸送においても新しい海上輸送ネットワークの形成に大きなインパクトを与えることが予想される。また、本船は揺れが小さく乗り心地も良いことから、フェリー等旅客船においても活躍が期待されている。

テクノスーパーライナー'93

●物流ネットワークシティ構想の調査開始(元.7.7)  運輸省では、地域活性化に資する物流拠点の整備を図る「物流ネットワークシティ構想」を推進するため、関係地方公共団体と協力して実現可能性調査を開始した。
 この調査は、大都市との物流ネットワーク形成の観点から、地方都市における物流の合理化・集約化を図るとともに、情報・商流・特産品PR等の機能をも併せ持つ拠点を整備することにより、効率的かつ円滑な物流の確保及び地域の活性化という二つの大きな政策課題に、同時に取り組んでいこうとするものである。

コアビルのイメージ図


物流ネットワークシティー調査対象地域

●常陸那珂港着工(元.7.10)…21世紀の首都圏への海の玄関
 首都圏の北の物流拠点を目指す常陸那珂港が平成元年7月10日に着工された。
 現在、北関東地域の貨物の多くは東京湾諸港に依存している。常陸那珂港の整備は北関東横断自動車道の整備と相まって、北関東諸都市の市民生活を物流の面から支え、その発展の基盤となるばかりでなく、東京湾への負担を軽減し、東京湾央部への一点集中的な物流構造の改変に役立つものと期待される。
 常陸那珂港は、戦後米軍により利用されてきた水戸射爆撃場跡地の開発の一環として、火力発電所、国営公園などとともに計画されたものである。1990年代後半には一部埠頭が供用を開始し、21世紀には4千万トンの貨物を取扱う一大国際貿易港となる予定である。

計画完成予想図

●伊豆半島東方沖の群発地震及び海底噴火(元.7.13)  伊豆半島東方沖では、平成元年6月30日から群発地震活動が始まり、7月4日頃から有感地震が多発し始め、7月9日11時9分マグニチュード5.5の地震等により、負傷者22名、道路損壊等の被害が発生した。11日には、この地域では前例のない火山性微動が観測され、13日には伊豆半島東方沖の海底で噴火が発生した。
 気象庁は、7月11日緊急に関係機関に連絡をとるとともに12日以降火山噴火予知連絡会等を適宜開催し、統一見解等を発表した。また、噴火後ただちに臨時火山情報を発表して注意を呼び掛けるなど適切な情報発表を行った。なお、情報伝達の迅速化等のため、静岡県、伊東市及び熱海市に対し、気象庁から情報の伝達を直接行った。
 海上保安庁は、測量船「拓洋」等により、現場海域の海底地形調査等を実施し、13日夕刻には、約500メートルの至近距離で海底火山の噴火をビデオ及び写真等に記録した。さらに、15日には、自航式ブイ「マンボウ」により海底火山(「手石海丘」)の存在を確認した。また、7月7日から7月25日までの間、巡視船艇・航空機を動員して、付近の警戒・監視を行い、住民避難等に備えた。

測量船「拓洋」が撮影した海底噴火の瞬間

 

●深夜急行バス運行開始(元.7.13)…深夜輸送力の拡充
 東京圏等大都市圏においては都市活動の多様化・24時間化に伴い深夜における輸送需要が増大しており、これに対応して輸送力を増強することが強く求められている。
 このため運輸省では、終バス時刻の延長を進めるとともに、深夜バスの導入を促進する等の対応を図っているところである。こうしたなかで、首都圏においては、平成元年7月から渋谷〜青葉台(横浜市)間(約26km)に鉄道代替型の深夜急行バスが運行を開始したほか、さらに現在数路線の運行が計画されている。
 また、このようなバス輸送の実施と併せて、一定量の定型的輸送需要が存する区間においては乗合タクシーの運行が行われており、同年10月より東京都心部においても旅客定員9人のワンボックス型車両による運行が開始された。さらに、東京都内において平日の夜間のみに運行するために臨時増車されているブルーライン・タクシーを同年11月から1,783台に増車するとともに、神奈川県内においても、同年10月より151台のブルーライン・タクシーが運行を開始し、このほか、計画配車の拡大も行っている。
 なお、鉄道についても、深夜時間等における列車の増発及び長編成化等の輸送力の増強が行われている。

ミッドナイト・アロー号

 

●北陸新幹線高崎〜軽井沢間の工事開始(元.8.2)  整備新幹線については、昭和48年整備計画が決定されて以来、さまざまな議論がなされてきたところであるが、63年8月に輸送需要等に即した施設整備を行うために運輸省が提出した現実的な規格案を前提に、着工優先順位が決定され、さらに、長年の懸案であった財源問題についても平成元年1月に結論が得られた。
 その後、同年6月、財源措置に必要な日本鉄道建設公団法及び新幹線鉄道保有機構法の一部を改正する法律が成立し、着工優先順位1位の北陸新幹線高崎〜軽井沢間(約42km)の工事実施計画の認可を行い、8月には、その起工式が行われ工事が開始された。
 また、同月、北陸新幹線加越トンネル(富山県−石川県)、東北新幹線岩手トンネル(岩手県)及び九州新幹線第三紫尾山トンネル(鹿児島県)が難工事推進事業として、それぞれ建設に着手された。

北陸新幹線の起工式

 

●練習帆船新海王丸竣工(元.9.15)
 練習帆船新海王丸が9月に竣工し、実習訓練のため初船出した。
 新海王丸は、昭和5年建造以来半世紀以上にわたり多数の船舶職員を養成してきた旧海王丸の老朽化に伴う代船として、国庫補助金、一般募金等により建造されたものである。本船は、今後、学生等に対する航海訓練と合せて、青少年の体験航海や海洋教室などにも広く利用することによって海事思想の普及にも役立てることとなっている。
 また、その優美な姿から「海の貴婦人」と親しまれつつ退役した旧海王丸は、貴重な歴史的財産として姉妹船旧日本丸同様に海事思想の普及等のため末永く保存されることとなり、富山県と大阪市の共同出捐により設立された財団法人海王丸記念財団が管理運営に当たり、双方において一定期間ごと交互に青少年の錬成等に活用されることとなった。

帆走中の新海王丸(相模湾沖)




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