平成2年度 運輸白書

第1章 運輸関係社会資本の整備

第1章 運輸関係社会資本の整備

第1節 運輸関係社会資本整備の基本的方向

    1 運輸関係社会資本整備の変遷
    2 運輸関係社会資本整備をめぐる環境の変化と今後の基本的方針


1 運輸関係社会資本整備の変遷
 (社会資本整備の変遷)
 戦後の復興期を経て我が国は高度成長期に入るが、歴史的に社会資本の蓄積が少なかった我が国は、社会資本が経済成長の隘路にならないよう、他の先進国に比べても高い水準の公共投資を続けた。そのため、国民総生産〈名目〉に占める公的固定資本形成(Ig)〈名目〉の割合(Ig/GNP比率)をみると〔1−1−1図〕、1970年代初頭までその比率が上昇傾向にある(この節の年表示は西暦による。)。しかし、'71年8月のニクソンショック、'73年10月の第1次オイルショックを契機とした経済の動揺期には公的固定資本形成は従来よりも伸び率が低下し、'73年にはIg/GNP比率も低下となった。'70年代後半には景気浮揚策として公共投資の役割が重視され比率が一時的に上昇したものの、'80年代に入ってからは、厳しい財政状況のもと、財政再建の要請から公共投資も抑制され、'80年代前半を通じてIg/GNP比率は低下を続けた。'80年代後半に入ってからは、電電公社、専売公社、国鉄の三公社が相次いで民営化され、公的固定資本形成からはずれ民間企業設備となったにもかかわらず、'87年度にはいわゆる「円高不況」への対応、内需主導型経済への転換等を図るため緊急経済対策として5兆円の公共投資等が追加されたこともあり、Ig/GNP比率は下げ止まった。ただ、この比率は、'88年度以降は、好調な景気による民間企業設備等の伸びが大きく、一方財政は景気に中立的な運営が行われていることもあって、低下傾向にある。
 (高度成長期の運輸関係社会資本の整備)
 運輸に対する需要は主に「派生的需要」と呼ばれるものであり、運輸産業は、産業、国民生活における人、物の移動等の要請に応えるため、運輸関係社会資本を利用してサービスを提供している。したがって、運輸関係社会資本整備の歴史は、こうした需要の量的増大、質的高度化にいかに応えるかの歴史であったといえる〔1−1−2表参照〕
 '50年代後半に始まる高度成長期には、技術革新、消費革命等に支えられ、重化学工業を中心とする工業が発達するとともに、都市部への急激な人口流入現象が生じた。一方、運輸関係社会資本整備についても、もともと蓄積が少なく、運輸が成長の隘路の一つとして指摘されていたことから、分野別に策定された長期計画に基づき、高度成長期全期間を通じて重点的に投資が行われた。'60年代に入ると、高度成長がもたらした国土の過密過疎や三大都市圏における鉄道、道路の混雑現象の激化、交通量の増加に伴って顕著になった交通事故、交通公害等の高度成長の歪みを是正しなければならないという社会的要請が高まるとともに、モータリゼーションの著しい進展等に伴う輸送構造の変化への対応が急務とされた。これらの背景とともに、'64年10月の「東京オリンピック」の開催もあって、'61年4月には大手民鉄の「輸送力増強等投資計画」(第1、2次は3か年計画)が開始され、また、首都高速道路等の都市高速道路の建設も始まった。一方、高速交通体系の整備も本格化し、'60年代初頭の相次ぐ地方空港の開港に続き、東海道新幹線開業、名神高速道路全線開通等幹線交通の整備が着実に進められた。さらに、均衡ある国土の発展を実現するため、新産業都市、工業整備特別地域を中心に鉄道、港湾、道路が整備され、臨海工業地帯の開発が強力に進められた。
 (1970年代の運輸関係社会資本整備の動向)
 高度成長期の末期にあたる'70年代初頭にも、運輸関係社会資本への投資が活発に行われた。'70年4月には空港整備特別会計が設けられ、また、全国新幹線鉄道整備法の施行('70年6月)、本州四国連絡橋公団の設立('70年7月)等総合交通体系、高速交通体系の整備に向けての動きが加速された。'71年7月には、運輸政策審議会において「総合交通体系の在り方及びこれを実現するための基本方策について」答申が行われたが(いわゆる46答申)、この答申では、高度成長を背景として将来の交通需要が飛躍的に増大するものと想定し、交通事故・公害の発生の絶滅をめざしつつ、このような需要の増大に適切に対応するとともに、国土の開発可能性の全国的拡大に寄与すること等の要請に応えうるよう総合的な観点から交通体系を形成していく必要があること等を指摘している。これを踏まえ、運輸関係社会資本整備に向けての投資が力強く推し進められ、山陽新幹線(新大阪〜岡山)の開業等が実現された。港湾についても、海運におけるコンテナリゼーンョンの進展に対応し、コンテナ埠頭が次々と整備されている。鉄道、港湾、空港、道路という代表的な運輸関係社会資本への投資額(資材価格、労賃等の物価変動を考慮に入れた実質べ一ス)の推移をみても〔1−1−3図〕、'70年度から '72年度にかけて、全体で4割以上の急激な増加を示している。
 しかし、'73年10月に始まる第1次オイルショックにより、我が国経済は'74年度には戦後初のマイナス成長を記録し、その後急速に安定成長期へと移行していく。この時期には、引き締めと節約ムードが浸透し、'73、'74年度の運輸関係社会資本投資額は全体でそれぞれ対前年度比約1割減、2割減と大幅に減少した。
 '75年度以降は、景気浮揚策の一環として赤字国債発行による積極的な財政支出が行われ、運輸関係社会資本投資額も'76〜'78年度は対前年度比プラスになり、特に'77、'78年度の2年間は、2けたの伸びになった。この時期には、「第3次全国総合開発計画(3全総)」('77年11月)における「定住構想」等にみられるように、「都市の時代」から「地方の時代」への転換が叫ばれ、その手段としての全国幹線交通体系の構築という政策のもとに、'73年度以降総需要抑制等の見地から凍結されていた本州四国連絡橋(児島−坂出ルート)の着工が決まり、また、東北・上越新幹線の工事が再開された。新東京国際空港(成田空港)の開港もこの時期である。
 (1980年代の運輸関係社会資本整備の動向)
 '80年代に入ると、運輸関係社会資本整備をめぐる投資環境が激変する。国債依存度の上昇、国債残高の増大等に対処するため財政再建が深刻な政策課題となり、'80年度予算から財政再建への取組が本格化し、'82年度にはゼロシーリング、'83年度からはマイナスシーリングが始まった。この一環としての公共投資の抑制の影響を受け、運輸関係社会資本投資額は低迷を続け、対前年度比でもマイナスか低い伸びにとどまった。なかでも、国鉄財政再建のため、国鉄の設備投資が極力押さえられたことから、鉄道の投資額は'79年度以降'85年度まで連続して減少している。'81年7月の運輸政策審議会答申「長期展望に基づく総合的な交通政策の基本方針」(いわゆる56答申)では、経済の高度成長から安定成長への移行に伴い、'80年代においては、運輸関係社会資本投資についても、長期的な視点から体系的、計画的に推進することを基本としつつ、従来以上に重点化、効率化を図る旨提言され、財政再建という基本政策の影響が色濃くあらわれている。ただ、この時期は、過去に着工された幹線交通社会資本が次々と完成する時期でもあり、東北新幹線(大宮〜盛岡)、上越新幹線(大宮〜新潟)開業、中央自動車道全線開通等幹線交通に新たな骨格が加わっている。
 '80年代後半は、'85年9月のプラザ合意を契機とした大幅な円高ドル安によるいわゆる「円高不況」への対応、対外不均衡是正のための内需主導型経済への転換等を図るため、再び公共投資が重視され、'87年度にはNTT株の売却益等を財源とする大型の補正予算を編成し、5兆円の公共投資等を追加するとともに、次年度以降の予算においても相当規模の公共事業費が計上されたことから、運輸関係社会資本投資額も鉄道を除き高い水準で推移した。この時期には、東北・上越新幹線上野乗入れ、関越自動車道全線開通、青函トンネル開業・瀬戸大橋開通による本州・北海道及び本州・四国の連絡、新千歳空港開港等幹線交通施設が相次いで供用を開始している。
 (運輸関係社会資本ストック額の推移)
 これまでは、運輸関係社会資本整備を投資額というフロー面でとらえ、その変遷をみてきたが、それではその投資がどのくらいのストック(資産の蓄積量)に結実しているかをみてみる。〔1−1−4図〕は、公的固定資本形成をベースに社会資本ストック額を推計し、そのなかでの運輸関係社会資本ストック額の割合をみたものであるが、運輸関係社会資本ストック額は一貫して増加しているものの、その全体の社会資本ストック額に占める割合は'70年代に入ってから低下を続けている。この原因としては、〔1−1−5図〕にみるように全体の伸びに比べ鉄道、港湾のストック額の伸びが低いこと、すなわち、下水道、廃棄物処理、都市公園、文教等を中心とするその他の社会資本ストック額が伸びたこと等があげられる。こうした相対的なストック額の伸び率の低さが、運輸関係社会資本の不足、特に鉄道の不足感をきわだたせる大きな要素となっている。
 一方、空港については航空輸送ニーズの増大に対応して、非常に高い伸びとなっている。
 (運輸関係社会資本の整備と関連運輸活動の関係)
 次に、各運輸関係社会資本ごとに、社会資本の整備と関連運輸活動の関係をみてみよう。鉄道については、新幹線の開業が地域間の旅客流動量に与えた影響の例を示した。〔1−1−6図a〕この図では、東北・上越新幹線の開業、上野始発化により、東京都と新幹線沿線3県との間の鉄道旅客流動量が増加し、特に上野始発化による利便性の向上が流動量の増加に大きく影響していることがわかる。また、港湾については、〔同図b〕、係留施設は、'80年度までは輸送需要の増大に対応して整備が進んでいるが、その後は、輸送量の低迷に伴い伸びが低くなっている。しかし、コンテナ貨物量の伸びは外貿ターミナル水際線延長の伸びを大きく上回った状態が続いており、産業、貿易構造変化の影響が明白にあらわれている。
 空港については、〔同図c〕、滑走路延長、空港数という整備指標の伸び及び着陸回数の伸びに比べ、輸送人員がそれを大きく上回って伸びており、航空機の大型化が進んでいることがわかるが、二大都市圏の空港の容量制約が深刻な問題となっている。道路は舗装については整備が進展しているが、国道延長は'85年度以降輸送需要が増加しているにもかかわらず伸びていない〔同図d〕
 (国際的な整備の動向)
 ここで、各運輸関係社会資本別に、国際的な整備の動向を見てみよう。まず、鉄道については、世界的な高速鉄道整備の動きが特徴といえる。〔1−1−7表〕は、我が国及び諸外国における高速鉄道整備の動きをまとめたものであるが、我が国の新幹線やフランスのTGVの成功のほか、自動車交通に起因する環境問題の発生やオイルショックを契機とした省エネルギ−意識の高まり等による大量交通機関への転換促進の必要性の認識、所得水準の向上に伴う高速化指向の台頭等を背景として、世界各国で鉄道の高速化が進められており、さらに、300km/hを超える超高速の鉄道も構想されている。在来幹線についても、今日世界の先進国においては最高速度160km/hの区間が多々みうけられ、さらに200km/h以上の区間も次々と営業運転を始めている。このように、フランスやドイツをはじめ世界的に鉄道の高速化時代が到来しているなかで、我が国においては、新幹線以外の幹線鉄道の最高速度は未だに函館線等における130km/hであり、この世界的な潮流に遅れないためにも、新幹線のみならず在来幹線の分野においても高速化を強力に進めることにより、高速鉄道ネットワークの形成を図る必要がある。なお、全体的な鉄道の整備水準を、人口及び国土面積を勘案した電化線路延長指標及び複線化線路延長指標で国際比較してみると〔1−1−8図a〕〔同図b〕、我が国は、国土面積、人口、国力等が比較的似ているイギリス、西ドイツ、フフンス、イタリアの欧州先進4か国に比べ、電化線路延長指標ではイギリスを除く3か国、複線化線路延長指標では4か国すべてを下回っている。
 港湾については、我が国のコンテナバースの単位当たり取扱個数の水準は、海運先進各国に比べすでに非常に高い水準になっており〔同図c〕、コンテナバース整備の一層の推進が必要となっている。また、コンテナバースに占める大型コンテナ船対応バースの比率をみても〔同図d〕、我が国は世界に大きく遅れをとっており、コンテナリゼーンョンの進展、船舶の大型化等に対し港湾側の対応を進めていく必要がある。
 空港については、人口及び国土面積を勘案した総滑走路延長指標でみると、前述の欧州先進4か国の平均に比べ、我が国の指標は3割近く低く、国際水準に追いつくため、空港の整備が急務となっている。また、国の空の玄関である新東京国際空港は、現状では欧州主要空港の滑走路延長に比べ立ち遅れた状態にあることから〔同図e〕、完全空港化を急ぐとともに、関西国際空港等の整備も推進しなければならない。
 道路については、人口及び国土面積を勘案した高速道路延長指標でみると、前述の欧州先進4か国と比べると〔同図f〕、我が国の指標は、イギリスとは同水準であるが他の3か国よりかなり低くなっており、高速道路の整備も急がれるところである。
 (分野別長期計画の推移)
 運輸関係社会資本の整備には長い期間と膨大な資金を必要とすることから、計画的、重点的に投資する必要があり、ほとんどの分野で長期計画を策定して整備を進めている。その推移と達成率は〔1−1−9図a,b〕〔同図c,d〕に示すとおりであり、施設、計画年次によってばらつきがある。
 なお、国鉄についても、第1次五箇年計画('57〜'61年度)以来3次にわたって長期投資計画を策定している。しかし、国鉄の経営が'64年度に単年度赤字を生じて以来、輸送量の伸び悩みと運賃値上げの遅れ等から十分な収入の増加が得られない一方、これに対応する経費の縮減が進まず、各年度の欠損額が次第に増加したことから、第3次長期計画('65〜'71年度)は'68年度で打ち切られ、'69年度以降財政再建計画に引き継がれた。そのなかでの設備投資計画については、国鉄財政がますます悪化していったことから、財政再建が中心課題となり、財政再建のための効果が高いものに重点がおかれることになり、全体としては計画を大きく下回る実績しか残していない。
 次に、長期計画の重点であるが、港湾では、'70年代前半(第4次)までは、輸入原材料に頼る重化学工業中心の産業構造に対応した港湾の整備に重点がおかれていたのに対し、'70年代後半(第5次)から'80年代前半(第6次)にかけては、海上輸送の合理化に対応した外貿定期船港湾、国内流通拠点港湾に重点がおかれるとともに、公害防止、環境対策についても積極的に進められた。'80年代後半(第7次)には、'85年に策定された「21世紀への港湾」に基づき、物流、産業、生活の3つの機能が調和良く組み合わされた総合的な港湾空間の創造を目標に施策が展開され、緑地、マリーナ等豊かな生活空間の形成のための港湾整備が積極的に進められている。
 空港は、第2次('70年代前半)では主要地方空港のジェット化に重点をおき、熊本、大分、函館等の8空港を新たにジェット化した。第3次('70年代後半)では、騒音問題の深刻化を反映し、環境対策に重点をおいたので、環境対策事業費は空港整備事業費の過半を占める状況となった。'80年代(第4次、第5次)に関しては、第4次では引き続き環境対策に重点をおいていたが、第5次では新東京、東京及び大阪という基幹空港の能力が航空需要の増大に追いつかず、国際・国内の航空ネットワークの形成に支障をきたしている問題を打開するため、新東京、東京及び関西国際空港の、いわゆる三大空港プロジェクトを推進している。
 民鉄の輸送力増強等投資計画においては、通勤・通学輸送の混雑緩和をめざし、従来は輸送力増強を中心に策定されているが、'70年代以降自動列車停止装置(ATS)の設置等の安全対策も急増し、第6次('82〜'86年度)の実績では安全対策投資額が輸送力増強投資額を上回った。第7次('87〜'91年度)の計画では、近年、混雑度の改善度合が小さくなってきていることに対応し、総額を大きく増加させるとともに、輸送力増強の割合を高めている。
 道路は、各計画で改定理由は様々であるが、基本的には、道路交通需要の増大への対応が中心となっている。また、第8次('78〜'82年度)では、3全総をうけて、「定住構想推進のための基盤整備」が盛り込まれているのが特徴的である。
 (地域別運輸関係社会資本整備の動向)
 次に、運輸関係社会資本への行政投資額の'79〜'88年度累積投資額を、地域間の地価、工事単価等の違いを無視して地域別にみることとする〔1−1−10図a〕〔同図b〕〔1−1−11図a,b〕〔同図c〕。総投資額については、関東、中部、近畿の三大都市圏を含む地域に多く投資されているが、住民1人当たりの投資額で比較すると、逆に、総投資額で比重の小さい北海道、東北、中四国等が高くなっている。一方、面積当たりの投資額で比較すると、人口密度が高く交通需要が大きい大都市圏を含む関東、近畿等の地域が高くなり、面積が広く人口密度が低い北海道は一番低くなる。
 これを、分野別にみていくと〔1−1−12図〕、鉄道については、関東のシェアが突出しており、ついで近畿、東北が高いシェアを占めている。都市・地方別でみると、三大都市圏が52.2%と過半を占め、特に東京圏が32.3%と全国の約1/3を占めている。これらは、大都市圏に鉄道網が集中していることのほか、東京圏、大阪圏では、地下鉄建設の増大がシェアを押し上げているものと考えられる。なお、東北のシェアの高さは、東北新幹線、青函トンネル等の建設の影響がでているものと考えられる。
 港湾については、九州のシェアが22.8%と高く、次いで近畿、関東、中部が高いが、これは、人口、産業の集積度が高い後背地を有する三大湾(東京、大阪、伊勢湾)に大規模な特定重要港湾及び重要港湾が集中していること、また、九州には奄美、沖縄を含む離島が多く、地方港湾等が多いことによるものと考えられる。
 空港は、東京、新東京国際空港関係の投資額が膨大だったため、鉄道と同様に、東京圏が1/3を占めているが、徳之島('80年ジェット化)、対馬('83年ジェット化)、奄美('88年ジェット化)が相次いでジェット化された九州のシェアも高くなっている。北海道もその次に高く、列島中央と両端地域が高くなる結果になっており、長距離輸送に適合する航空輸送の特性を活かそうとする方向性がみてとれる。
 道路については、関東、中部、近畿の三大都市圏を含む地域で54%と半分以上を占めており、人口集積地域への集中的な投資態度がみてとれる。また、中部のシェアの高さには、中央、関越、北陸の各自動車道の建設が進んでいたことも影響しており、名古屋圏は7.3%であるが、中部全体では19.7%を占めている。
 一方、〔1−1−13図〕は、同じく行政投資額を三大都市圏と地方圏に分け、そのシェアの推移をみたものであるが、鉄道については、三大都市圏のシェアが大きく、かつ、上昇傾向にあると考えられる(ただし、'87年度以降はJRが入っておらず、国鉄が含まれる'86年度以前とはデータの連続性に欠けることに留意。)。港湾については、傾向的に三大都市圏のシェアが低下してきたが、'87年度以降下げ止まっている。これは、円高に伴う製品輸入の増大等に対応して大都市圏の外貿コンテナターミナルの整備が進められたこと、大都市圏港湾において緑地、廃棄物処理施設の整備、再開発の実施等豊かな生活空間の形成のための整備が進められたこと等が影響していると考えられる。
 空港については、特徴的な動きを示しており、'84年度までは地方空港のジェット化等の進展により地方圏シェアが増加傾向にあったが、それ以降は東京、新東京国際空港関係への投資増により、三大都市圏のシェアが急上昇している。道路については、大きく変動していないが、三大都市圏のシェアが少しずつ上昇傾向にある。

2 運輸関係社会資本整備をめぐる環境の変化と今後の基本的方針
(1) 運輸関係社会資本整備をめぐる環境の変化
 運輸関係社会資本は、その整備に膨大な資金と長い期間を要することから、長期的視野のもとに整備する必要があり、そのほとんどが長期計画に基づいて整備されている。整備にあたっては、現在の国民や産業のニーズを正確に把握するとともに、将来のニーズの変化をも的確に予測し、それに見合った適切な施設を提供していく必要がある。
 1950年代後半から始まる高度成長期に発生した運輸関係社会資本各分野にわたる利用の混雑現象は、高率な投資に支えられてある程度緩和が進んだ分野はあるものの、安定成長への移行に伴う公共投資の抑制、大都市圏への人口集中、産業活動の拡大・高度化と生活水準の向上等から、総じて社会資本の不足感につながっている。さらに最近では、景気拡大の長期化で輸送需要が増加の一途をたどっており、ますます不足の度が強まっている。
 (大都市集中の進行)
 東京圏をはじめ、大都市圏においては、人口、諸機能の集積が進み、輸送の混雑、通勤・通学の遠距離化、地価の高騰、居住水準の低下など生活環境の悪化が顕著になってきている。
 大都市圏の鉄道については、新線建設、複々線化、車両編成の長大化等の輸送力増強努力により、混雑率は次第に下がってきているとはいえ、郊外住宅の開発等都市の外延化に伴う通勤・通学者の増加が続いており、依然としてラッシュアワーには200%を超える高い混雑率が続いている〔1−1−14図〕。大都市圏の道路では、引き続く自動車の増大に加え、景気拡大の長期化、多頻度少量輸送の拡大等により混雑はますます激しさを増している。このため、一般道路はもとより、首都高速等の都市高速道路も、渋滞時間が伸びる傾向が続いている〔1−1−15図〕。こうした道路混雑により、大都市圏の乗合バスの表定速度は低下傾向、あるいは、低水準のまま改善がみられない状況にあり、公共交通機関としてのバスへの信頼性を損なわせる結果となっている〔1−1−16図〕
 また、東京への集中が進む中で、都市間交通についてみると、旅客輸送の大動脈である東海道新幹線の乗車効率(「ひかり」小田原〜静岡間下り)は次第に増加しており、高まる輸送需要に対応する適切な輸送力増強が求められている〔1−1−17図〕。また、東京国際空港の処理能力と発着回数の関係をみても、現在の空港規模では、ほぼ限界に達していることがわかる〔1−1−18図〕
 このように大都市機能の維持、円滑化のため、交通環境の改善が強く求められているが、大都市及びその周辺では、地価高騰、用地取得難、環境問題等運輸関係社会資本の整備を図る際の制約が多くなっており、大都市圏に係る交通問題の解決はますます困難になってきている。
 (利用者ニーズの高度化・多様化)
 生活水準の向上、産業構造の高度化に対応して、運輸関係社会資本へのニーズも急速に高度化・多様化している。
 旅客輸送においては、都市間交通では、新幹線、ジェット機、高速道路等の高速交通機関の利用が高まる一方〔1−1−19図〕〔1−1−20図〕〔1−1−21図〕、価値観の多様化を反映して豪華で快適な旅も好まれるようになっている。また、都市内交通では、通勤時の鉄道輸送サービス水準に対する改善の要望が高く、輸送力増強による混雑緩和策のみならず、冷房化の推進、車両の新型化、駅舎、駅構内の改善等快適化への要求が高まっている。
 さらに高齢者、身体障害者等が公共交通機関を円滑に利用できるよう、駅のエレベーター、エスカレー夕ー、車椅子用トイレ等の充実のほか、案内表示方法の改善等が求められている。
 貨物輸送においても、宅配便のように迅速性を旨とする家庭や企業向けの小口貨物輸送サービスが急激な伸びをみせ、さらに、産地直送、保冷宅配、書籍宅配等、ニーズにきめ細かく適合するサービスが提供されるようになってきている。また、高速性に優れる航空貨物も、製品の軽薄短小化、生活水準の向上に伴う高級品志向に対応して、伸びが著しい。一方、鉄道、海上の各貨物輸送においても、高速性があり、省カ性、利便性の高いコンテナ貨物が急増している〔1−1−22図〕
 このような利用者ニーズの高度化・多様化に対しては、輸送技術、輸送システム等のソフト面の改善とともに、運輸関係社会資本の整備の面でも適切に対応していく必要がある。
 (国際化・グローバル化の進展)
 我が国の経済力が増大するにつれ、我が国の国際化は急速に進んでおり、また、国際社会における我が国のプレゼンスもますます大きくなっている。こうしたなか、我が国をめぐる人、物の流れが増加の一途をたどっており、国際運輸関係の社会資本の整備の立ち遅れが目立ってきている。特に、国際空港の整備の遅れは顕著であり、現在、我が国の国際航空旅客数の約7割を担っている新東京国際空港はほとんどパンク状態にあり、その解決が国際的責務となっている〔1−1−18図〕。また、国際海上貨物のコンテナリゼーションへの対応が一層必要となっており、貿易構造の変化、特に輸入貨物の増大に対応した港湾の整備が急務とされている。
(2) 運輸関係社会資本整備の今後の基本的方向
 (整備の方向)
 運輸関係社会資本の今後の整備にあたっては、我が国経済社会の変化、生活水準や国際的立場の高まり等を踏まえ、
@ '87年に策定された第4次全国総合開発計画における課題である「一極集中の是正と交流ネットワーク構想の推進による多極分散型国土の形成」を引き続きめざすこと。
A 大都市圏への人口、諸機能の集積に伴う生活環境の悪化や都市機能の低下に対処し、改善を図ること。
B 21世紀に向けて着実に社会資本整備の充実を図っていくための指針として、'90年6月に策定された「公共投資基本計画」において重視することしている「国民生活の豊かさを実感できる経済社会の実現」を図ること。
C 我が国の経済的な地位の高まりと役割の増大とともに、わが国をめぐる人、物、資本、情報の国際的な動きも活発化しており、急速に進む国際化に適切に対応していくこと。
を基本的な方向としていくこととしている。
@) 地域経済の均衡ある発展と多極分散化
 現在の東京への一極集中を是正し、我が国の地域経済の均衡ある発展を図るため国土の多極分散化を推進することとする。このためには、諸機能の地方分散を図るとともに、地域における就業の場の確保を図り、生活、産業等を活性化し、魅力ある地域として発展させる基盤として高速交通体系を整備し、地域の競争力を高めつつ地域相互の分担と連携関係の深化を図る必要がある〔高速交通体系の整備が地域経済に与える影響の例としては、1−1−23図参照〕。このため、高速交通体系の展開により地方中枢・中核都市等全国の主要都市間の連絡を強化し、全国にわたってできるだけ一日交通圏の拡大を推進することとする。
 鉄道については、中距離・大量輸送機関としての特性を活かし、大都市圏、地方中枢都市及び主要な地方中核都市を相互に結ぶ幹線鉄道を整備する。このため、整備新幹線の基本スキームに沿った建設、新幹線と在来線との直通運転化・乗継ぎの改善、在来幹線における高速化等により新幹線と在来線が一体となった幹線鉄道網の整備を図るとともに、東海道新幹線等既設新幹線の輸送力増強を図る。
 また、これらの幹線鉄道の整備については、従来、国鉄が行ってきたところであるが、'87年4月分割民営化されたため、これに過大な投資を求めることはできなくなっている。しかし、一方では、幹線交通ネットワークの充実による多極分散型国土形成の促進が要請されており、円滑な鉄道整備をめざした新たな枠組みを検討する必要がある。
 空港については、東京、大阪二大都市圏の複数空港化等による全国ネットワークの充実、地方拠点空港を活用したネットワークの充美・多様化、離島における民生安定及び高速交通ニーズへの対応のためのネットワークの充実、地域航空の特性の発揮による地域的ネットワークの展開を図った整備を推進する。
 また、これらの高速交通施設へのアクセスや地域の一体化を促す交通網についても適切な整備が必要である。
 港湾については、物流、旅客交通、マリーナ、情報等に係るネットワークの形成や港湾相互の連携の強化に重点を置くとともに、物流、産業、生活に係る港湾機能を充実し、地方圏においては地場産業やリゾート等新しい産業の育成に必要な基盤施設を臨海部に整備し、ゆとりある地域生活の実現を図る。
A) 大都市問題への対応
 大都市圏への集中に伴い、交通、住宅等生活環境や都市機能は(1)で述べたように十分な改善がみられないか、むしろ悪化しつつあり、運輸関係社会資本の不足が顕著になってきている。
 このような状況に対処し、都市鉄道の激しい混雑の改善を図るため、新線建設、複々線化等抜本的な輸送力増強を推進するとともに、列車の長編成化、ホームの延伸・拡張、運転間隔の短縮化等による輸送力向上を図る。また、住宅問題の解決の一環として宅地開発と一体化した鉄道の整備を促進する。
 港湾については、流通貨物の迅速な輸送のための幹線臨港道路や、港湾へのアクセス等利便向上のための新交通システムの整備を図るほか、生活環境改善のための緑地等の整備を推進する。また、都市活動、産業活動の進展に伴う生活・産業廃棄物等の増加に対処するため、広域処理場等の海面処分場の整備を推進する。
B) 国民生活の質の向上
 生活水準の向上に伴い、人々の行動圏も広域化し、質の高い交通サービスが求められており、あたかも日本全国が自分の住んでいる街のように感じられるモビリティの高い社会の形成が求められている。この面からも幹線鉄道や空港など高速交通体系の全国展開を図る必要がある。
 豊かさが実感できる自由時間の充実のため余暇活動へのニーズが高まっているが、観光は、このような要求に応える良い機会であり、国民の期待と関心も高まっている〔1−1−24図参照〕。それとともに、国民の観光のニーズも高度化しており、移動についても快適な高速交通サービスが選好されているため、観光の基盤としても高速交通体系の整備を図る必要がある。
 鉄道については、快適性、利便性の向上を図るため、地下鉄等の新線建設及び複々線化等の線増を行うほか、相互乗入れ、車両の冷房化、駅及び駅施設の整備・美化、列車の表定速度の向上等を推進する〔1−1−25図〕〔1−1−26図参照〕。また、高齢者、身体障害者等の利用者利便の向上を図るため、駅等のエスカレーターの設置、段差の解消(スロープ化)等を推進するなど、今後急速に進むとされる人口の高齢化にも対応して交通施設が快適かつ安全に利用できるよう配慮する〔1−1−27図〕
 港湾については、潤い豊かなウォーターフロントの形成を図るため、国民が直接親しんだり、利用する緑地、海浜、客船ターミナル、マリーナ等の整備を進めるほか、特色ある自然環境や歴史的な港湾施設の保全活用等による美しい港湾空間の形成を図るとともに、離島等における生活港湾の整備を推進する。
C) 国際化の進展への対応
 我が国経済社会のグローバル化、国際社会における我が国のプレゼンスの増大に伴い、その地位にふさわしい国際交流の場を整備することが強く求められている。さらに、アジアNIEs、ASEAN諸国は、近年急速な経済発展を遂げ、世界経済に占める地位を著しく向上させており、これら近隣諸国との交流を深めていくことが、我が国各地域の国際化・活性化を図り、多極分散化を進めるうえでも重要となっている〔1−1−28図a,b,c〕〔同図d,e,f〕
 このため、我が国及び東アジアのゲートウェイとしての国際ハブ空港(新東京及び関西)の整備を推進するとともに、ネットワーク上の要衝となる二大都市圏に次ぐ大都市圏等の空港(新千歳、名古屋、福岡)について我が国の方面別ゲートウェイとして整備し、その他の地方ブロックについては、地方拠点空港を中心に、地域の国際交流の特色を踏まえ、ブロックに係る国際航空需要をできる限りブロック内で対応することが可能となるようなネットワーク形成及び所要の施設整備を図る。また、外客来訪を促進するため、国際会議場施設及び国際市民交流基盤施設の整備等を推進する。
 物流については、増大する輸送需要に対応し輸入貨物の流通の円滑化を図るため、空港施設の整備、外貿コンテナターミナル等に重点を置いた港湾の整備及び総合輸入ターミナルの整備等輸入関連インフラストラクチャー整備を推進する。
 (財源問題)
 社会資本は国民全体のためのものであり、従来から公共投資を中心に整備が行われてきたが、高度化・多様化する利用者のニーズに対応するためには、民間活力も積極的に活用することが重要である。「公共投資基本計画」においても、より質の高い交通体系の整備についてJR等既存の主体が重要な役割を果たすとともに、官民が適切な役割分担を行い、バランスのとれた社会資本整備を推進すべきことが指摘されている。
 しかしながら、整備を推進すべき社会資本であっても、整備にあたって巨大な固定設備を要するもの、長期間の赤字が予想されるもの等については、その整備を全面的に民間に委ねることはできない。特に、多極分散型国土形成という大きな役割を担い、国民の要請も強い新幹線鉄道をはじめとする幹線鉄道の整備については、全国的な観点と巨額の投資が必要である。したがって、その整備を民間企業であるJRのみに期待することは困難であり、国としても、既存財源の充実のみならず、新たな公的財源の確保について検討する必要がある。
 また、大都市圏の鉄道については、近年の地価の高騰、用地取得難により、民間企業の力のみによる円滑な新線建設、複々線化等輸送力増強工事は次第に困難になっている。このため、その果たしている社会的役割に鑑み、今後は、国・地域レベルでの開発利益の還元や、資金コストの低い財源の拡充が必要となっている。
 空港については、特別会計制度により整備が進められているが、財源に占める現在の利用者の負担に係る割合は8割近くにも及んでいる。我が国の空港使用料等は諸外国に比べて既に相当高くなっており、今後の財源確保にあたっては、現在の利用者と将来の利用者との負担の公平に一層留意することが必要となっている。また、グローバルな国際交流の促進、地域間の交流の促進、さらには空港を核とした街づくり・地域づくりによる都市機能の向上という内外の要請に応えるという観点から、所要の財源の充実を図っていく必要がある。
 港湾については、今後とも公共投資のみならず民間活力の導入を一層進めるとともに、施設整備により開発利益を誘発するような場合には、その還元方策を導入する等整備資金の多様化を検討する必要がある。
 (用地問題)
 過度の大都市集中が進む中にあって、社会資本のための空間を確保することは年々困難となっている。特に、近年の東京の地価高騰に端を発した地価の動きは、他の大都市圏等全国的に波及し、住宅問題に拍車をかけるとともに、社会資本整備における用地費の割合を高め事業費上昇の大きな要因となっている〔1−1−29表参照〕。また、このような地価の上昇は、円滑な用地取得をさらに困難にし、施設整備の長期化とそれによるコスト増を招いており、効率的な投資を困難としている。特に大都市圏においては、社会資本整備の必要性が高くなるほど、逆に整備が進めにくいという裏腹の関係になっているため、需要に適切に応ずることが困難となっている。したがって、社会資本を計画的、効率的に整備していくためには、地価の安定、用地取得の円滑化が不可欠であり、これに資するためにも国土の多極分散化を推進する必要がある。
 また、これとともに、既存交通施設の上部又は下部空間の活用、都市間鉄道のための大深度地下空間の利用等土地の高度利用の推進を検討することや、背後に利用価値の高い静穏海面を創出して海陸複合した空間を創造できる沖合人工島等を整備することも必要である。




平成2年度

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