平成2年度 運輸白書

第1章 運輸関係社会資本の整備

第2節 運輸関係社会資本整備の分野別動向

    1 鉄道整備の推進
    2 港湾整備とウォーターフロントの高度利用
    3 進展する空港整備


1 鉄道整備の推進
(1) 幹線鉄道の整備
 豊かさを実感できる経済社会の実現に向けて、多極分散型国土の形成を図り国土の均衡ある発展を達成するためには、全国的な高速交通体系の整備を推進する必要がある。そのために、鉄道の中距離・大量輸送機関としての特性を活かし、新幹線鉄道をはじめとする幹線鉄道の整備を積極的に進めていく必要がある。
 このため、輸送需要に即した効率的で質の高い輸送サービスの提供をめざし、整備新幹線の基本スキームに沿った計画的かつ着実な整備、新幹線と在来幹線との直通運転化・乗り継ぎの改善、在来幹線における高速化等により、新幹線と在来幹線とが一体となった幹線鉄道網の整備を図る必要がある。
 また、好調な国内景気、東京圏への一極集中等に伴う輸送量の伸びにより混雑が激しくなっている東海道新幹線等既設新幹線についても輸送力増強を図る必要がある。
(ア) 新幹線鉄道の建設〔1−1−30図〕
 整備新幹線の建設については、現在、全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画が定められている整備5新幹線(北海道、東北(盛岡〜青森)、北陸、九州(鹿児島ルート、長崎ルート))のうち工事実施計画の申請がなされている東北新幹線、北陸新幹線(高崎〜小松間)、九州新幹線(鹿児島ルート)について、建設を進めるに当たっての基本スキームが決定されているが、このうち、北陸新幹線高崎〜軽井沢間については、平成元年6月に工事実施計画が認可され、現在、工事が進められている。
 その他の区間についても、元年度から、工事が難航する可能性のある東北新幹線岩手トンネル、北陸新幹線加越トンネル、九州新幹線第三紫尾山トンネルにおいて難工事推進事業に着手しており、また、建設推進準備事業の一環として、2年度から、新たに東北新幹線三戸トンネル、北陸新幹線新親不知トンネル、九州新幹線第2今泉トンネルの3箇所においてトンネル技術調査を推進することとしている。
 東北・上越新幹線の東京駅乗り入れについては、2年1月に御徒町トンネルにおいて陥没事故が発生し、一時工事が中断したが、現在3年6月の完成を目途に工事が進んでいる。
(イ) 幹線鉄道活性化事業
 現在、幹線鉄道活性化事業として実施されている事業には2種類ある。1つは、在来線と新幹線の直通運転化により新幹線の便益を在来線の幹線鉄道に拡大して高速交通体系の形成を促進するもので、奥羽線福島〜山形間で実施中である。もう1つは、在来線を高規格化(最高速度160km/h程度の高速走行をめざす。)してスーパー特急を運行することにより高速交通サービスを享受できる地域を広めようとするもので、北越北線(上越線・六日町〜信越線・犀潟間)で実施中である。
 まず、奥羽線福島〜山形間(約90km)については、4年度の開業を目指して、狭軌から標準軌への全面改軌工事、東北新幹線と奥羽線とを結ぶための福島駅での高架橋の新設工事等新幹線との直通運転を可能にするための工事を進めている。完成後は東京と山形とが乗換えなしで結ばれ、新幹線区間を最高240km/h、在来線区間を最高130km/hで走行する新型直通車両の投入により、福島駅での乗換えの解消と合わせて所要時間が30分程度短縮されることになる。
 また、北越急行(株)北越北線については、鉄建公団AB線方式による第三セクター鉄道として建設が進められていたが、これを首都圏と日本海側の主要都市とを結ぶ幹線鉄道として再評価し、元年度より、軌道強化、列車行き違い設備の拡充、信号保安設備の増強等の最高速度160km/hをめざした高規格化工事(7年度完成予定)を行っている。完成後は、スーパー特急が北越北線経由で越後湯沢〜富山・金沢間において運行されることになり、上越新幹線と越後湯沢で乗り継いだ場合、東京〜富山・金沢間の所要時間が20分程度短縮される。
(ウ) 在来幹線の高速化
 高速道路網の整備等に伴い、在来幹線鉄道による都市間輸送においてもスピードアップが求められているところであるが、加減速性能を向上させた新型車両の導入、軌道の強化、信号保安設備の改良等の実施により、常磐線、湖西線、北陸線、鹿児島線、長崎線、函館線において130km/h 運転が実施されている。また、速達列車の設定や接続時分の短縮等により、到達時分の一層の短縮が図られてきているところである。
 しかしながら、今日世界の主要先進国においては最高速度160km/hの幹線鉄道が多々みうけられ、さらに200km/h 以上の区間も次々と営業運転を開始している。我が国としても、この世界的な鉄道の高速化の動きに遅れないよう、新幹線のみならず在来幹線においてもより一層の高速化を図る必要がある。
(2) 都市鉄道の整備 
 大都市圏においては、人口、諸機能の集積が進み、地価の高騰や居住水準の低下など生活環境が悪化している。
(ア) 都市鉄道の現状と今後の整備の方向
 このような状況のもとで、大都市圏では巨大に膨れ上がった輸送需要に対して現在の鉄道輸送力では応じきれなくなっているほか、住宅地がますます都心から遠隔化しているため、通勤・通学者は長時間にわたる激しい混雑を強いられている。
 大都市圏の住民が交通面で豊かさを実感できる生活を実現するためには、まず、快適に通勤・通学できるようにすることが必要である。そこで、都市鉄道について新線建設、複々線化等輸送力増強のための整備を行うことが大きな課題となっている。前述の公共投資基本計画においても、国民生活の豊かさを実感できる経済社会の実現に向けて、地域の日常的モビリティーを支える地下鉄等の地域交通基盤の整備を促進することとされている。
 しかしながら、都市鉄道の整備は、地価高騰等により建設費が増大し、また、用地確保が一層困難となってきていることにより、長い期間と巨額の投資が必要となっている。
 このような状況の中でどのように鉄道整備を進めていくかが重要な課題となっており、大都市の鉄道の整備の促進方策について検討を進めている。
(イ) 地下高速鉄道の整備推進
 地下鉄は、都市における通勤・通学輸送需要への対応と交通の円滑化を図る基幹交通機関として、現在、東京にあっては帝都高速度交通営団及び東京都により、また、札幌、仙台、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島及び福岡の各都市にあってはそれぞれ地方公共団体等により、既設線の運営及び新線の建設が進められており、2年8月現在、総営業キロは512.2kmになっている。
 地下鉄工事は巨額な建設費を必要とするが〔1−1−31図〕、各事業者は建設費の大部分を借入金によって賄っているため、開業後の資本費負担が大きく、経営を圧迫する要因となっている。このため、国は、補助対象建設費の70%に相当する金額を地方公共団体と折半し、10年間で分割して補助する等の措置を講じ、所要路線の整備を推進している。
(ウ) 日本鉄道建設公団による都市鉄道の整備推進
 日本鉄道建設公団は、旅客会社線の鉄道施設の建設及び大改良工事並びに大都市及びその周辺部の民鉄線において輸送力増強効果が大きく、しかも緊急に整備することを要する地下鉄や地下鉄直通都心乗入れ工事、既設線の複々線化工事及びニュータウン鉄道建設工事を行い、工事完成後、鉄道施設を長期低利の割賦返済方式により鉄道事業者に対し貸付け、譲渡、又は引渡しすることにより鉄道整備を進めている。
 最近では、2年3月京葉線(東京〜新木場間)が完成しJR東日本に貸付けられたほか、同月、小田急電鉄多摩線(小田急多摩センター〜唐木田間)及び京王帝都電鉄相模原線(南大沢〜橋本間)が、完成後各事業者に譲渡された。民鉄線については、2年8月までに17線110.5kmが営業を開始し、都市鉄道の整備において大きな割合を占めている。
(エ) ニュータウン鉄道の整備推進
 ニュータウンを開発する際には、居住者の足を確保するため、ニュータウンと都心部を結ぶ鉄道を整備する必要がある。このため、ニュータウン関係者が、ニュータウン区域内の鉄道用地を取得し、これを造成した後、素地価格で鉄道事業者に譲渡すること及び工事費の一部を負担すること等の負担を行うことにより、整備の促進が図られている。
 民営鉄道事業者が整備するニュータウン鉄道については、日本鉄道建設公団が建設してこれを民営鉄道事業者に譲渡する方式がとられており、2年度においては(ウ)で述べたとおり小田急電鉄多摩線、京王帝都鉄道相模原線が開業した。さらに、現在、千葉ニュータウン地区における北総開発鉄道北総線(第2期)、千葉市原ニュータウン地区における千葉急行電鉄千葉急行線を建設中である。
 公営鉄道事業者等が整備を行うニュータウン鉄道については、開発者負担に加え、国は、補助対象建設費の36%に相当する額を地方公共団体と折半して補助する措置を講じており、現在、泉北ニュータウン(大阪府)、千葉ニュータウン(千葉県)及び西神ニュータウン(兵庫県)において営業が行われているが、さらに、港北ニュータウン(神奈川県)において横浜市3号線(新羽〜あざみ野間)の建設が進められている。
(オ) 特定都市鉄道整備促進事業に基づく輸送力増強工事の促進
 大都市圏への人口の集中に伴い、通勤・通学時の鉄道の混雑はますます激しくなっており、複々線化等の大規模な輸送力増強工事を緊急に行う必要がある。しかし、これらの工事は、膨大な資金を要するわりに必ずしもただちには新たな利用者の獲得につながらず、採算性の低い投資であることから、昭和61年に成立した特定都市鉄道整備促進特別措置法に基づき、複々線化等の大規模な輸送力増強工事を行う事業者は、運賃収入の一部を非課税で積み立て、これを工事資金に充当して工事の促進を図る特定都市鉄道整備積立金制度が導入されている。現在、東京圏において、東武鉄道等5社が特定都市鉄道整備事業計画の認定を受け、積立金制度を活用した大規模輸送力増強工事を進めている〔1−1−32図〕
(カ) 宅地開発と一体となった鉄道の整備
 現在、大都市圏においては、地価高騰により平均的なサラリーマンが取得可能な通勤・通学に便利な住宅地が不足している一方、大量の住宅地の供給が可能と考えられている地域が少なからず残されているが、これらの地域は通勤・通学のための鉄道が十分に整備されていない状況にある。そこで、大都市圏における住宅・土地問題を抜本的に解決し、同時に通勤・通学問題を解決するためには、都心と郊外を結び、将来における住宅地の大量供給と沿線人口の増大を前提とした新線建設を行うことが重要である。
 このため、沿線の宅地開発と鉄道新線整備の整合性をとって一体的に推進するための特別措置を講ずることにより、大量の住宅地の円滑な供給と新たな鉄道の着実な整備を図ることを目的とした「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」が元年6月に制定され同年9月から施行された。
 当面の適用対象プロジェクトとしては、東京都心と筑波研究学園都市を結ぶ常磐新線が考えられており、現在、関係する1都3県をはじめとする関係者間でその具体化に向けての検討を進めている。
(キ) モノレール・新交通システムの整備推進
 近年、路面交通の渋滞、交通公害の発生等の都市交通問題解決の一方策として、高速鉄道では過剰な施設となり、また、一方バスでは輸送能力が小さく、道路混雑による定時性確保面で問題があると予想される場合に、高速鉄道とバスの中間の輸送需要に対応するモノレールや新交通システムを導入する例が増えている。国は、例えば、臨海部の開発に際するアクセスの確保を図るため、モノレールや新交通システムのインフラストラクチャー部分の整備に対し、街路整備事業あるいは港湾整備事業の一部として助成を行っている。
(3) 地方鉄道の整備
(ア) 地方鉄道の維持整備
 地方鉄道については、道路整備の進捗に伴う自動車利用の利便性の向上等により自家用自動車の普及率が高まっていること、地方における人口の減少が依然として続いていることから、利用者の減少が進んでおり、一方、高い運賃を設定すると利用者が逸走するという難しい問題があることから、経営が極めて難しくなっている。こうした中で、地域の発展と公共交通機関を利用せざるを得ない住民の足の確保のため、地方鉄道の維持整備が重要な課題となっている。
 地方中小民鉄では、人員の削減等の経営合理化を推進する一方、イベント列車の運行あるいは地域のニーズに応えたサービスの提供等を通じて経営努力を続けているが、大部分の路線において赤字経営となっており、国は、地方公共団体とともに補助を行うことにより、これらの中小民鉄の維持に努めている。まず、欠損を生じているものの、輸送需要、併行道路の整備状況等からみて他の交通機関への転換が困難であり、地域住民の足として不可欠の路線に対しては、鉄道軌道整備法に基づき、その欠損額を補助しており、また、鉄道施設の近代化を促進することにより経営の改善、保安度の向上あるいはサービスの改善が顕著に期待される路線については、経営が困難なため投資余力に乏しく施設の近代化が進まない場合に限り、近代化設備に要した費用の一部を補助する近代化補助を行っている。さらに、踏切道改良促進法に基づき、経営困難な事業者に対し、交通事故の防止及び交通の円滑化に資する踏切保安設備に要した費用の一部を補助している。
 旧日本国有鉄道の特定地方交通線が転換した第三セクターについては、転換後5年間に限り、欠損を生じた場合に欠損額の1/2を補助している。
(イ) 地方鉄道新線の整備促進
 日本鉄道建設公団が国鉄新線として建設していた路線で工事が凍結されていたもののうち、地元自治体等を主体とする第三セクターが経営することが決まった路線(地方鉄道新線)については、日本鉄道建設公団による建設が終了した後、各第三セクターに対し無償貸与あるいは無償譲渡されることになっている。国は、地方鉄道新線について、開業後、5年間に限り、欠損額の一部を補助することとしている。
(4) 今後の鉄道整備に向けて
 以上述べたように、21世紀を間近に控えた今日、豊かさを実感できる経済社会の実現に向けて、多極分散型国土の形成と円滑で快適な地域交通の確保を図るため、鉄道整備に対する国民の要請はますます高まっている。一方、最近の地価高騰、工事の長期化等により鉄道事業者の投資意欲は著しく低下しており、望まれる鉄道網の実現は極めて困難な状況となっている。このような中で、今後、国民のニーズに応えて鉄道整備を推進していくためには、鉄道事業者の積極的な投資意欲を醸成する必要があり、このため、既存の財源のみに依存するのではなく新たな安定的財源を確保することにより、従来よりも量的にも質的にも充実した新たな鉄道助成体系を整備することが焦眉の課題となっている。

2 港湾整備とウォーターフロントの高度利用
(1) 豊かなウォーターフロントをめざして
(ア) 豊かなウォーターフロントをめざす長期政策
 60年4月、運輸省は成熟化社会に備えた長期港湾整備政策として「21世紀への港湾」を策定し、これに基づいて港湾の整備を推進してきた。この間、港湾をめぐる経済社会環境は大きく変化してきた。国際的には、我が国経済の拡大や貿易収支の不均衡が見られ、経済力に見合った世界への貢献や内需主導型経済構造への転換が求められている。国内的には、あらゆる分野での質の向上が求められ、ウォーターフロント、海洋性レクリエーション、クルージングなどに対する国民の関心の高まりが見られたほか、大都市圏、地方圏各々に地域の問題が顕在化してきた。
 港湾がこれらの変化に適切に対応するため、63年4月より「21世紀への港湾」のフォローアップを行ってきた。その結果、平成2年4月「豊かなウォーターフロントをめざして−「21世紀への港湾」フォローアップ−」を取りまとめた。その施策の体系を〔1−1−33図〕に示す。
 また、“みなとまち”には、人口、資産が集中しており、自然災害から守るために高い水準の安全性を確保する必要がある。また、快適な海岸、利用し易い海岸に対する要請が高まっている。
 こうした“みなとまち”の海岸の特徴と、海岸に対するニーズの多様化、高度化を踏まえて、今後の海岸整備の進路を明確にするため、2年8月、運輸省は21世紀に向けての長期的な海岸政策として「豊かな海辺づくりのために−21世紀への海岸−」をとりまとめた。
(イ) 施策の実現をめざした新五箇年計画〔1−1−34図〕
 我が国の経済発展を支えるうえで、港湾は物流、生産の拠点として、また、地域の生活基盤として重要な役割を担ってきており、その整備にあたっては、過去数次にわたり「港湾整備五箇年計画」、「海岸事業五箇年計画」を策定し、計画的に整備を進めてきた。2年度は、第7次港湾整備、第4次海岸事業五箇年計画の最終年次であり、同計画に基づき港湾、海岸の整備を着実に実施しているところである。
 21世紀を目前にして、高齢化、国際化、情報化の進展や経済社会の変化による国民のニーズの変化が予想され、豊かさを実感できる国民生活の実現や地域社会の均衡ある発展を図るためにも、今後も計画的に港湾、海岸の整備を進めていくことが必要とされている。
 また、2年6月の日米構造問題協議最終報告においても、着実に社会資本整備の充実を図っていくため、2年度末に期限の来る8分野の社会資本整備長期計画については、これらを更新し、積極的かつ具体的な整備目標のもとで、現行規模を上回る計画を策定することとしており、その具体的な整備目標として、港湾については、「増大する外貿貨物及び船舶の大型化に対応するため、計画期間中(1991〜1995年度)に外貿ターミナル水際線延長約30kmを整備する。」、海岸については、「保全の必要な海岸の整備を推進し、計画期間中(1991〜1995年度)に整備率を約10%向上させる。」旨記述している。
 新港湾整備五箇年計画については、その策定にあたり、港湾審議会に「今後の中期的な港湾整備の基本的方策について」を諮問し、同審議会の計画部会において2年8月21日に中間取りまとめが行われた。この中間報告において「21世紀への港湾」の政策実現のための第2段階として、「豊かなウォーターフロントをめざして」の基本的な考え方を踏まえ、施策体系を以下のとおりとしている。
@ 効率的な物流体系をめざした港湾の整備
A 快適な旅客交通体系をめざした港湾の整備
B 豊かで潤いに満ちた生活のための港湾の整備
C 資源の安定供給、地域の産業振興のための港湾の整備
D 海上交通の安定性の向上をめざした港湾、航路の整備
E 新たな利用可能空間を創出するための港湾の整備
F 港湾整備を円滑に推進するための技術力の整備
 また、新海岸事業五箇年計画について、運輸省では前述の長期海岸政策「豊かな海辺づくりのために」の考え方に基づき、@ふるさとの海岸づくり、A魅力ある人工ビーチの整備、B港湾整備と連携した海辺づくり、に重点をおくこととしている。
(2) 進展する港湾整備
(ア) 物流の高度化に対応した港湾整備
 内需を中心にした景気の拡大が続くなか、我が国の産業構造は、輸出依存型から国際協調型への転換が進んでいる。このことは、港湾物流にも少なからぬ影響を与えている。外貿については、企業の海外市場中心から国内市場中心への転換、海外現地生産量の拡大等により、製品類を中心に輸入貨物量が7億8,500万トン(前年比4.5%増)と著しく増加しており、輸出貨物量についても好景気を反映し1億6,500万トン(前年比1.3%増)と4年ぶりに増加している。内貿についても、設備投資、住宅建設の拡大を背景として、建設資材を中心に貨物量が12億2,200万トン(前年比2.9%増)と順調に伸びている。
 また、国民生活の向上を背景に、物流に対するニーズも多様化、高度化しており、コンテナ輸送をはじめとする複合一貫輸送が著しく進展している。特にアジアNIEs、東南アジア諸国を中心に輸入コンテナ貨物輸送が活発化しており、今後もこの傾向は続くものと思われる。
 このような港湾取扱貨物の質的、量的変化に的確に応えていくとともに、国土の均衡ある発展の観点からは多極分散型国土の形成を図るため国際港湾の地方展開、港湾相互のネットワークづくりが要請されており、これらの課題にも積極的に対応し、効率的な港湾の整備・運営を進めていくことが必要である。
(a) 外貿コンテナターミナルの整備〔1−1−35図〕
 我が国の国際海上コンテナ輸送は42年に北米西岸との間に始まって以来著しい進展を見せており、コンテナ貨物量については、平成元年には、5年前の5割増の1億700万トン(前年比7.1%増)を記録している。
 特に、輸入コンテナの急増は著しく、5年前の約2倍になっており、コンテナヤードや背後の上屋等港湾施設の不足を生じている。また、近海、東南アジア航路等では、地方の港湾にコンテナ船が直接寄港するケースも現れてきており、元年には志布志港、舞鶴港、境港を加え、コンテナ定期船が寄港する港は、全国で22港となっている。
 このような状況に対応して、2年度には、三大湾では、横浜港、神戸港等5港において大型のコンテナターミナルの整備を、三大湾以外の港湾では、博多港、那覇港においてコンテナターミナルの整備を実施している。
(b) 内貿ユニットロードターミナルの整備
 国内輸送においても、多品種少量化、小口化、迅速化等への要請が高まっており、複合一貫輸送は着実に進展している。内航海運においても、コンテナ船、RoRo船、フェリー等による定期便輸送、いわゆる内貿ユニットロード貨物輸送が順調に増大している。
 このため、貨物輸送時間の短縮を図り、輸送可能な圏域を全国的に拡げるために、内貿ユニットロードターミナルの整備を重点的に行っている。
 2年度については、塩釜港、松山港等9港において整備を実施している。
(c) 幹線臨港道路の整備
 複合一貫輸送の進展に伴い、広域的な陸送と結び付いた流通貨物が増加しており、都市部と港頭地区が隣接している地域においては、コンテナ車をはじめとする大型貨物車両の増加による交通渋滞、騒音等種々の問題を生じている。したがって、臨海部における一般交通と港湾貨物車両とを分離し、円滑な貨物流動を確保するため、港頭地区と幹線道路網とを直結する大規模かつ高規格の幹線臨港道路の整備を進めている。
 2年度は、新潟港、博多港等15港において整備を実施している。
(d) 情報・通信基盤の整備
 製品輸入の増大、コンテナ化の進展のもとで、荷主ニーズの高度化・多様化が進んでおり、情報・通信を活用したより付加価値の高い輸送が求められている。これに対応し、港湾においては、海陸間の輸送及び手続き等を迅速かつ効率的に行うための情報システムの整備、各種情報関連施設の整備を進めている。
 すでに、北九州港等においては港湾管理情報システムが整備されており、2年度には苫小牧港において情報管理施設が整備されることとなっている。また、横浜港においては、共同溝等情報基盤の整備を行っている。
(イ) 海上旅客輸送の新展開
 近年、我が国事業者に係る国際クルーズ船等の就航が相次いでおり、外航旅客船の寄港に対応しうる旅客ターミナル整備の要請が高まっている。旅客船の寄港は、それに併せたイベントの開催等を通じて賑わいあふれるウォーターフロントを演出する重要な要素となっており、緑地等周辺環境の整備と組み合わせた質の高い外航旅客ターミナルの整備を進めている。
 一方、高速旅客船の導入も全国各地で相次いでおり、これは、旅客輸送の高速化への要請のみならず、離島航路の就航率の向上や観光客の誘致等地域の活性化を支援するものとして期待されている。このような高速旅客船にも対応した旅客ターミナル等の整備を進めている。
(ウ) 社会、経済活動を支える港湾の整備
 天然資源に乏しい我が国は、食糧、エネルギー、鉱産品等のほとんどを海外からの輸入に頼っており、その輸送のほとんどは海上を通じて行われている。海の窓口である港湾は、我が国の社会経済を支える上で重要な役割を担っている。
(a) 資源の安定供給
 好調な景気を反映して、エネルギー需要は引き続き増大しており、海外炭、LNG、LPG等石油代替エネルギーの輸入が急増している。このような、エネルギーの安定供給を確保するための港湾整備を積極的に推進しており、2年度は、伏木富山港(石炭火力発電)、常陸那珂港(石炭火力発電)等6港においてエネルギー港湾の整備を実施している。
 さらに、穀物、木材等の運搬船の大型化、荷役形態の変化に対応するため、多目的公共大型バースの整備を網走港等32港において実施することとしている。
(b) 海上輸送の安定性の向上
 船舶の大型化、高速化が進展しているなかで、安全かつ円滑な海上輸送を確保するために、船舶が輻輳する海域において航路の拡幅、増深、及び荒天時の船舶、船員の安全を確保するための避難港、避難泊地の整備を進めている。2年度には16の開発保全航路の整備、及び13港にて避難港の整備を行っている。
 さらに、荷役の安全性を高めるために港内の静穏度の向上を図る防波堤等の整備を進めており、2年度には、66港において防波堤、航路、泊地等の整備を実施している。
(エ) 地域振興の核となる港湾の整備
 東京への一極集中を是正し、多極分散型国土の形成を図るために、地方への産業の分散や地場産業の育成を促すとともに、基盤となる生活空間の形成を行い、地域の活性化を進めることが必要である。
 港は、物流活動、産業活動に加えて海洋性レクリエーンョン等生活の場としても貴重な空間を提供しており、地域の振興の核としての港湾の整備が求められている。また、離島,辺地における生活物資の安定供給及び暮しの足の確保はその地域の生活に必要不可欠なものであり、このような離島,地方港湾の整備を積極的に進めている。
 地方の港湾を中心に、海洋空間を高度利用するとともに、海の豊富な資源や水際線の魅力を最大限に引出し、地域に新たな産業を興し、海域の利用と一体となった魅力ある個性的なまちづくりを進めるため、マリンタウン・プロジェクトを60年度より実施している。2年度までに、40港において調査を、また、すでに瀬棚港、手結港、名洗港、伊東港等で事業を実施している。
(オ) 民間技術開発への支援と港湾の施設の技術上の基準の充実
 今後の港湾整備及び海域利用における多種多様な要請に応えるためには、国と民間との適切な役割分担の下で効率的な技術開発を推進し、その成果を普及活用していく必要がある。民間の技術開発を支援する方策として、民間が開発した技術について国がその成果を評価し、普及を図る「港湾に係る民間技術の評価制度」を平成元年度より施行する一方、開発した技術の実証的確認を行うための「実海域実験場提供システム」、国と民間が共同で技術開発を行う「共同技術開発制度」を整備しており、これらを利用した技術開発が進められている。
 また、港湾に対する社会的な要請の多様化や、その急速な変化、新たな技術開発成果の蓄積等に対応して、港湾の施設の技術上の基準の中間的な見直し作業を進めている。
(3) ウォーターフロントの高度利用
(ア) 港のルネッサンス
(a) インナーハーバー等の再生
 船舶の大型化やコンテナ化等に対応した外港地区における港湾施設の整備の進展に伴い、一部で古くから整備されたインナーハーバー(内港地区)の物流機能が低下しつつある。このような地区において、水際線の魅力を活用しつつ、業務、商業、文化・交流施設等の整備を図り、地域や港の活性化の拠点として再生することが求められている。このため、61年度より総合的な港湾空間の拠点の形成をめざしたポートルネッサンス21調査(2年度までに全国44港)を実施している。
 また、近年における産業構造の変化に伴い、一部で工場の移転、統廃合が進み、土地の遊休化が生じている。このため、63年度より水際線を最大限に活用し地域を活性化することをめざした臨海部活性化調査(2年度までに全国11港)を実施している。これらの調査成果等を踏まえ、各地で港湾再開発の動きが活発化しつつある。
 特に、大都市圏の臨海部においては、国際化、情報化に対応して、国際情報機能を備え、文化、レクリエーンョン、住居機能をあわせもつ新しい港湾空間を形成しようとする動きが活発になってきている。
 東京港における「臨海部副都心計画」は、多心型都市構造への転換を推進するため、都心に近接した東京港13号地等の埋立地に国際的情報受発信機能「東京テレポート」及び国際交流機能「東京国際コンベンションパーク」を配置するとともに、豊かな水辺環境を活かした業務、商業、住居、レクリエーション機能等を導入し、数万人の人口を有する副都心を建設しようとするものである。
 このほか大阪港の「テクノポート大阪計画」、横浜港の「みなとみらい21計画」等も情報通信機能、国際交流機能を核とした新しいまちづくりを進めようとするものである。
(b) 民活制度の充実
 国際化や情報化の進展、価値観やライフスタイルの変化などに伴い、港湾の機能に対する要請も高度化、多様化してきている。これらの要請に応えていくためには、従来からの公共事業等による岸壁や道路の整備、土地の造成等の基盤施設の整備に加えて、総合的なマスタープランのもとに民間の資金力、経営力、技術力等の導入が不可欠である。
 このため、61年度以来、開発整備の拠点となる民間の施設整備に対し、税制、財政上の支援、規制緩和等の措置を講じている。
 現在、港湾関係の民活事業制度としては、@民活法特定施設整備事業、A特定民間都市開発事業((財)民間都市開発推進機構関連)、B沖合人工島の整備、C小型船拠点総合整備事業、D多極分散型国土形成促進法関連事業、E総合保養地域整備法特定民間施設整備事業の6つの事業制度がある。これらの事業制度については、年々、支援措置の拡充を図っており、2年度においては、上記民活制度の内、ウォーターフロント開発の中核となるヨット、モーターボート等小型船の拠点の総合整備に対する開銀融資制度である小型船拠点総合整備事業を創設した。
(c) 民活事業の進展〔1−1−36図〕
 民活事業関連施策の充実や、港湾に寄せられるさまざまな要請の増大を反映して、全国で多くの民活プロジェクトが始動しつつある。元年度までに、民活法特定施設整備事業として13プロジェクト14施設、特定民間都市開発事業として16プロジェクトの事業に着手している。
 さらに、2年度においては、七尾港(七尾フィッシャーマンズワーフ)、伊東港(伊東マリンタウン)等において事業を展開するなど、民活プロジェクトの大都市圏から地方圏への一層の展開・定着を図っている。
 このうち、元年度までに釧路港の旅客ターミナル施設(釧路フィッシャーマンズワーフ)、与島港の旅客ターミナル施設(京阪フィッシャーマンズワーフ)、博多港のマリンタワー(福岡タワー)及びウォーターフロントプロムナード(マリゾン)等が供用を開始し、釧路フィッシャーマンズワーフにおいては年間約260万人、福岡タワー及びマリゾンにおいては、あわせて年間約150万人の人々がこれらの施設を利用している。さらに、2年度においては、青森港の港湾文化交流施設(青函連絡船「八甲田丸」)、日立港の物流高度化基盤施設、大阪港の港湾文化交流施設(海遊館)等が供用を開始し、これらの施設では市民が集い、海に親しみ、憩える拠点施設として、地域の活性化に大きく貢献している。
(イ) 良好なウォーターフロント環境の創造
(a) 個性ある美しい港づくり
 豊かさを実感できる国民生活の実現が強く求められる中で、人々が憩い、海の自然や文化とふれあう貴重な生活空間として港湾空間が再評価されている。一方、港湾空間には、港の歴史を物語る歴史的港湾施設が至るところに残っていたり、大小様々な船舶やダイナミックな港湾施設、様々な形態の水際線と水面景観等個性ある美しい空間形成のための資源が豊富に存在する。
 運輸省では、豊かな国民生活の実現に向けて、港湾が持つこうした恵まれた資質を活かした、個性ある美しい港づくりを積極的に推進している。具体的には、歴史的港湾施設を港湾文化の貴重な財産として保全するとともに、周辺地域を歴史的な情緒の漂う美しいウォーターフロント空間とする歴史的港湾環境創造事業を推進しており、2年度は小樽港等の8港で事業を実施している。また、2年度より新たに、港湾に存する景観資源を活用した美しい港づくりを進めるため、モデル的な港湾において景観形成のための計画を策定し、それに基づいて良好な景観形成を進める港湾景観形成モデル事業を鹿児島港等10港で実施する。
(b) ふるさとの海岸づくり〔1−1−37図〕
 “みなとまち”には、人口、資産の多くが集中しており、その安全の確保は勿論のこと、最近では利用しやすく快適なウォーターフロントの形成が強く求められている。こうした要請に対応して、運輸省では、安全性の確保と併せて、海とのふれ合いを回復し良好な海岸景観を創出する「ふるさとの海岸づくり」を積極的に推進し、国民の生活環境の質の向上を図っており、親水護岸などの整備を進めるとともに、沖合いから順次施設を造って波の力を順々に柔らげる面的防護方式などによる既存施設の改良と越波や飛沫による被害の防止を推進することとしている。
 このため、元年度に「ふるさと海岸整備モデル事業」を創設し、現在9海岸で、消波機能を持つ海浜や飛沫防止のための植栽などを含めた質の高い海岸保全施設の整備を重点的に実施中である。今後、モデル事業の成果や既存の施設の総点検の結果を踏まえ、「ふるさとの海岸づくり」を効果の大きいところから逐次全国的に展開していく。
(c) 快適な海域環境の創造 −シーブルー計画−〔1−1−38図〕
 快適なウォーターフロント空間の形成にあたっては、沿岸陸海域における良好な環境の保持が不可欠である。海域については従来からの港湾における堆積汚泥の浚渫・覆土事業や内湾域におけるゴミ・油の回収事業等の公害防止のための施策に加え、快適な環境の創造を積極的に行っていく必要がある。
 運輸省では、このような快適な海域環境、すなわち「美しい海」を創造するためシーブルー計画を推進している。その一環として、ヘドロの堆積した海域において覆砂や海浜整備を行う海域環境創造事業を2年度は瀬戸内海等の2海域及び2港で実施している。また港湾における運河部等水質・底質の悪化した水域の改善事業と併せ、緑地整備等を複合的に実施し、アメニティ豊かなウォーターフロントとして整備する水域利用活性化事業(リフレッシュ・シーサイド事業)を2年度より新たに2港で実施している。
(ウ) 賑わいのあるウォーターフロントの形成
(a) マリーナ等の整備〔1−1−40図〕
 ヨットやモーターボートによる海洋性レクリエーション活動の基地となるとともに賑わいのあるウォーターフロント形成の中核となるマリーナ整備の要請が高まっており、運輸省では、昭和63年9月に「全国マリーナ等整備方針」を策定し、1999年までに少なくとも新たに約28万隻分に相当するプレジャーボートの保管施設の整備を図ることとした〔1−1−39表参照〕
 2年度は、公共マリーナの整備を小名浜港等33港において、また、緊急的な放置艇対策として、簡易な係留施設(プレジャーボートスポット)の整備を伏木富山港等32港において実施している。さらに、2年度より新たに、海洋性レクリエーション活動上重要な地方港湾を指定し、それに対して、公共事業費の重点配分や公共事業の対象範囲を拡大する「海洋性レクリエーション拠点港湾整備促進事業」を実施している。
 他方、民間、第三セクターが行うマリーナの整備についても、重要港湾において民間事業者が行うマリーナの整備に対し国及び港湾管理者から無利子貸付を行う制度(埠頭整備資金貸付金事業)及び総合保養地域整備法に基づく助成制度を活用し、引き続き支援している。さらに、2年度より新たに創設した小型船拠点総合整備事業をも活用し、民間マリーナの整備を促進している。
(b) 親水性に富む緑地・人工ビーチ等の整備
 レクリエーンョン活動や憩いの場の創出、交流や賑わいの場の提供等を通じ港湾空間を豊かな生活空間として活用しようとする要請に対応して、魚釣り施設や親水護岸の整備、イベント広場の提供等を中心とした緑地等施設の整備を2年度は名古屋港等109港で推進している。また、海岸についても、その積極的かつ多目的な利用が求められている。このため、利用し易く快適な人工ビーチなどを造成する海岸環境整備事業を2年度は博多港海岸等83港で推進している。
(c) 海洋性レクリエーンョン振興のための条件の整備
 本格的な海洋性レクリエーンョン時代に対応するために、以下に示す総合的な条件整備を講じた。
@ マリーナの安全性、利便性の向上を図るため、適切な規模・構造等の施設を有すること、プレジャーボートの運航の安全性が確保されていること、ビジター艇の受入が行われていること等の要件を満たしたマリーナを認定する「優良マリーナ認定制度」を2年7月運輸大臣告示により創設した。
A マリーナ、旅客船バース等に対する港湾法に定める安全基準遵寸の徹底を図った。
B マリーナ、係留船等の設置に当たって必要となる水域の占用許可に関し、その許可の期間、区域等について緩和措置を講じるとともに、必要に応じ水域の利用方針を港湾計画に位置付ける等水域の計画的な利用の推進を図ることとした。
(エ) ニューフロンティアへの展開
(a) 沖合人工島の整備〔1−1−41図〕
@ 沖合人工島整備の要請
 我が国の港湾を中心としたウォーターフロントは、既に交通、産業、生活等により高度に利用されている。更に、近年、海洋性レクリエーション活動等の進展に伴い要請も高度化・多様化するとともに増大してきており、これに対応した利用可能性の高い空間を確保することが重要な課題となっている。
 このため、陸域から離れた海域に人工島を建設し、既存のウォーターフロントを損なうことなく、新たなウォーターフロントを創造するとともに、背後にできる静穏海域と一体的に利用することにより、利用価値の高い複合的な沿岸域空間を創出する沖合人工島の整備を推進することが強く求められている。
A 沖合人工島の整備の推進
 運輸省では55年度から沖合人工島の実現をめざして調査検討を開始し、元年度からは港湾整備事業との連携を図りつつ、民間活力を活用した沖合人工島の整備を「和歌山マリーナシティ」などで推進してきている。
 このほか、横須賀、下関等のプロジェクトについて、「沖合人工島事業化推進調査」を実施するとともに、東京都葛西沖の海域においては、「フィージビリティ・スタディ」を実施している。
(b) 海上浮体施設の整備〔1−1−42図〕
 最近の経済情勢の変化に対処して、内需拡大、地域の振興等に資するため、国際交流施設、国際会議場等の経済社会の基盤の充実に資する施設の整備を図ることが重要となっている。一方、国民の余暇活動は年々活発化し、海洋性レクリエーションに対する関心も高まってきている。
 このような状況の中で、造船及び港湾技術を活用し、海洋環境の保全等に留意した上で、海域の有効活用を図るため、各種の海上浮体施設の整備が進められている。元年度には「境ケ浜マリンパーク(尾道市)」が開業し、その後も、国際交流施設や教養文化施設を備えた施設を海上に設置する「呉フェニックス計画」について、2年4月に事業主体である第三セクターが設立され、4年春の開業をめざし施設の建設等の作業が進められている。また、国際会議場、中小会議室、駐車場等を備えた大規模浮体施設を建造する海上コンベンションセンター整備計画等が計画中である。
 これらの計画は、地域の活性化、国民生活の質的向上に重要な役割を果たすとともに、新たな造船需要を喚起し造船業の経営基盤の整備に資することができるため、運輸省としても、これらが円滑に進むようNTT無利子貸付制度の活用等の財政的支援及び計画・設計にあたっての技術的支援など各種の措置を講じている。
 また、これら海上浮体施設の安全確保については、船舶安全法に規定される安全基準及び港湾法に基づく港湾の施設の技術上の基準に基づく検査を行い万全を期している。
(c) 海洋・沿岸域の計画的利用の推進 
 近年、国民の親水ニーズや、沿岸域を利用した地域振興の機運が急速に高まっており、そのなかで港湾の果たす役割も変化し、ますます大きくなっている。
 このような状況の下で、海洋・沿岸域において、自然とのふれ合い空間としての多目的利用可能性を積極的に引き出し、魅力ある地域振興を図るため、総合的かつ計画的に中核となる港湾の整備を推進する必要がある。
 このため、運輸省では、海域の利用の稠密な三大湾において、湾全体の開発利用・保全の指針となる広域的な港湾整備のあり方を示す「港湾計画の基本構想」を策定してきており、このほか瀬戸内海などの海域においても港湾を中心にした広域的な海洋・沿岸域利用について調査を実施している。
 また、長期的な観点から海洋開発の進め方を明らかにする「海洋利用の長期展望」について、現在検討を進めている。

3 進展する空港整備
(1) 第6次空港整備五箇年計画の策定に向けて
 計画的な空港及び航空保安施設の整備を推進するため、42年度以来「空港整備五箇年計画」を策定してきているが、現行の第5次空港整備五箇年計画は2年度をもって終了することとなっている。
 このため、3年度を初年度とする第6次空港整備五箇年計画の策定を行うべく、2年3月15日に航空審議会に今後の空港及び航空保安施設の整備に関する方策について諮問を行った。その後同審議会で審議を積み重ね、同年8月24日の同審議会の空港・航空保安施設整備部会において「第6次空港整備五箇年計画の基本的考え方」として中間とりまとめが行われた。
 運輸省としては、この中間とりまとめを受けて、以下のような基本的考え方で、3年秋頃に予定される航空審議会からの答申及び新五箇年計画の閣議決定に向けて鋭意作業を進めているところである。
(ア) 21世紀を展望した航空需要と航空ネットワーク
 21世紀の航空需要を展望すると、国内中長距離の高速交通の主要な担い手として、また、本格的な国際化時代の到来を支える交通手段として、航空の国民生活及び国際交流に果たす役割は飛躍的に高まり、将来航空需要は顕著に増大することが見込まれる。
 こうした将来の航空需要の顕著な増大とニーズの高度化・多様化に対応し、航空ネットワーク全体を通じて、量的拡充及び質の向上を図る必要がある。
 まず、国内航空ネットワークについては、以下のようなネットワークの充実・多様化により利便性の高いネットワーク形成を図る必要がある。
○ 二大都市圏の複数空港化による全国ネットワークの拡充
○ 地方拠点空港(新千歳、名古屋、福岡那覇等のブロックの中心都市の主要空港)を活用したネットワークの充実・多様化
○ 離島における民生安定のためのネットワークの充実、地域航空の特性の発揮による地域的ネットワークの展開
 また、国際航空ネットワークについては、将来需要の顕著な増大への対応とともに、グローバルな視点からの国際交流の促進、各地域における国際交流の促進という観点から、以下のように、空港能力の確保と出入ルートの多様化により国際社会に開かれた国土形成を図る必要がある。
○ 国際ネットワークの基幹となる国際ハブ空港について、我が国及び東アジアのゲートウェイにふさわしい機能利便の充実と高水準のサービスレベルの確保
○ ネットワーク上の要衝となる二大都市圏に次ぐ大都市圏等の空港(新千歳、名古屋、福岡)についての方面別ゲートウェイとしてのネットワークの形成
○ その他地方拠点空港の国際化による当該ブロックの国際航空需要を中心に、地域の利便性の向上を図るネットワークの形成
(イ) 計画策定に向けての基本的考え方
 21世紀を展望した航空需要と航空ネットワークのあり方を十分考慮しながら、日米構造問題協議最終報告において示された現行規模を上回る社会資本整備長期計画を策定するに当たっての整備目標の達成を図ることとする。具体的には、本計画期間中に人口及び国土面積を勘案した総滑走路延長指標(注*)について約880の水準(平成元年度末752)を達成するとともに、先進諸国の水準を考慮しつつ将来の航空需要に十分対応できるよう新たに相当規模の事業の着手を図ることとし、次のような基本方針で策定に取り組むこととしている。


(a) 三大空港プロジェクトの完成
 国内・国際ネットワークが集中する二大都市圏の空港制約の解消に向けて、新東京国際空港の完全空港化、東京国際空港の沖合展開及び関西国際空港の開港を最優先課題として推進する。
(b) 国内航空ネットワークの利便性の向上のための空港整備
 21世紀を展望したネットワークのあり方を踏まえ、@二大都市圏における複数空港化を含めた中長期的な空港能力の拡充、A地方拠点空港を活用したネットワークの充実・多様化、B地域的なネットワークの展開等新たな観点を重視しつつ、新規事業の着手等を行う。
(c) 国際交流ネットワークの充実のための空港整備
 21世紀を展望したネットワークのあり方を踏まえ、@我が国及び東アジアのゲートウェイとしての国際ハブ空港の充実、A我が国の方面別ゲートウェイとしての役割や地方ブロックの国際交流の中核的役割を担う主要空港の国際化等多様な観点から、国際航空貨物の流通の円滑化のための施設整備を含め、新規事業の着手等を行う。
(d) 空港周辺環境対策の着実な推進
 引き続き発生源対策の充実を図るとともに、空港と調和した地域整備を推進すべく、緑地等の周辺整備に重点を置いて着実に施策を推進する。
(e) 航空保安システムの整備の着実な推進
 航空交通の増大と多様化に対処して、航空機の安全運航の確保を最優先としつつ、空域の有効利用方策の充実等による航空交通容量の拡大を図るため、新たな技術の導入等を含めた航空保安システムの整備を着実に推進する。
(2) 新東京国際空港の整備
(ア) 空港の現況 
 新東京国際空港は、53年5月に開港して以来、運用実績は順調に推移しており、元年度においては、航空機発着回数11万5千回、年間航空旅客数2,013万人、航空貨物量133万トンに上っている。この結果、ターミナルビルの適正取扱容量を大きく上回るとともに、滑走路及び貨物取扱施設も処理能力のほぼ限界に達している。
 また、現在、38か国51社の航空会社が乗り入れているが、これらのうちから強い増便の要請があるほか、更に39か国から新たな乗り入れの希望があり、完全空港化が急務となっている。
 このため、第5次空港整備五箇年計画に基づき、現在B・C滑走路地区については造成・舗装工事を、エプロンでは大半の区域において舗装工事を実施中であり、第2旅客ターミナルビルは地上部分の躯体工事の最終段階に入るなど順調に工事は進んでいる。
(イ) 用地問題
 完全空港化を早期に達成するには、残る未買収地(21.3ha、全体の2%)の取得が最大の課題となっており、反対派農民に対して2年1月に運輸大臣が話し合いの場をもつなど最大限の努力を重ねているところである。今後とも、話し合い解決を基本として県等関係機関と緊密に連携し、全力を尽くすこととしている。
 一方、空港周辺に常駐するいわゆる過激派は、従来から違法なゲリラ活動を繰り返してきたが、63年9月には、千葉県収用委員会会長を襲撃し重傷を負わせたほか、元年から2年にかけて千葉県職員宅3軒、運輸省幹部宅、航空会社幹部宅等にも放火し、1人の民間人の犠牲を出すなど、卑劣極まりない無差別なテロ・ゲリラへとエスカレートしている。
 このため、過激派に対しては毅然たる態度を示すべく、元年8月及び9月に10か所、2年9月に2か所の空港内外に存する団結小屋等に対し、「新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法」の規定に基づき新たに使用禁止命令を発し、このうち同命令違反が明白であった6か所については、除去あるいは封鎖処分を行ったほか、元年12月には特に政府声明を出して、完全空港化を早期に実現すること、極左暴力集団に対し毅然たる対処をすること等を明確にして、政府の積極的な取り組みを示したところである。
(ウ) 混雑緩和対策
 このように、新東京国際空港については、早期の完全空港化をめざし急ぎ工事を進めているところであるが、なお完成するまでの間、需要の増加による混雑の激化が避けられない状況にある。
 このため、当面の対策として、旅客については、既に実施した乗継客のためのサテライトの待合室の増設、駐車場の新設等に加え、ターミナルビル地下の鉄道駅コンコース予定部分の一部を到着ロビーとして利用するための整備、ターミナルビル前面の自動車乗降場の拡充工事、簡易立体駐車場の設置等を行ったところである。
 また、貨物については、貨物及び業務車両用駐車場の整備、二次仕分場の新設、事務所の一部増設、トラックヤードの整備等を行ったところであり、更に、新しい貨物取扱施設の整備を予定しているところである。
 さらに、元年に、国際航空貨物の円滑な処理を図るため、地方空港の活用方策等を検討する「国際航空貨物の成田空港一極集中の改善方策についての検討委員会」を発足させ、調査結果を取りまとめたところであり、2年5月からはその調査報告に基づき、実験的に新千歳空港からのエアカーゴテストチャーターが実施されている。
(3) 東京国際空港の沖合展開事業の推進
 東京国際空港は、全国37空港との間に1日約230便(460発着)のネットワークが形成され、年間約3,500万人が利用する国内航空交通の最大拠点である。本事業は、この機能を将来とも確保するとともに、航空機騒音問題の解決を図るため、東京都の羽田沖廃棄物埋立地を活用し、空港を沖合展開するものである。
 本事業においては、全体を3期に分け段階供用を行うこととしており、第1期については、63年7月2日の新A滑走路供用開始をもって完了し、滑走路年間処理能力は以前の16万回から18万回へと向上した。これに伴い、63年及び元年の夏ダイヤから各々約10便の増便がなされ2年の夏ダイヤから、更に、3便の増便が行われた。
 これに引き続き、第2期として西側ターミナルの整備を、4年度後半供用を目途として推進している。これにより、既存旅客ターミナルビルの約3倍の規模をもつ西側旅客ターミナルビルや約5,000台収容可能な立体駐車場等のターミナル施設が整備され、また、空港アクセスとして東京モノレールの新ターミナルへの延伸、京浜急行と東京モノレールとの接続、湾岸道路・環状8号線の延伸が図られる予定である。この結果、旅客サービスレベルは、首都圏の空の玄関にふさわしいレベルへと向上することとなる。
 さらにその後には、当面する将来の航空需要に対応しうる滑走路処理能力を確保するとともに騒音問題の解決を図るため、2本の滑走路の沖合移転及び東側ターミナルの整備等を第3期として行い、沖合展開事業を完了する予定である〔1−1−43図〕
(4) 関西国際空港の整備
(ア) 空港計画の概要
 関西国際空港は、我が国の国内及び国際航空の需要の増大に対応するために、我が国初の本格的な24時間運用可能な空港としてその早期開港が望まれている。
 関西国際空港は、環境保全に十分に配慮し、大阪湾南東部の泉州沖の海上(陸岸からの距離約5km)に設置する。同空港は将来の全体構想を踏まえ、段階的に整備を図ることとし、現在、第1期計画の建設を進めている〔1−1−44表〕
(イ) 空港建設の進捗状況
 59年10月に設立された関西国際空港株式会社は、62年1月、空港建設工事に着手し、空港島の造成及び連絡橋の建設工事を進めている〔1−1−45図〕
 滑走路、エプロン、旅客ターミナルビル等の空港諸施設については、現在、設計等の作業を行っており、埋立工事が完了した地区から順次建設を進める予定である。
 このうち旅客ターミナルビルについては、63年に実施した国際設計競技において優勝したイタリア人建築家を中心とした日・仏・伊の共同企業体により実施設計を行っているところである。
(ウ) 関西国際空港関連施設の整備
 関西国際空港の立地に伴い必要となる道路、鉄道等の関連施設の整備については、60年12月の関西国際空港関係閣僚会議において決定された関西国際空港関連施設整備大綱に基づき、関係省庁、関係地方公共団体等と十分連絡・調整を図り、空港建設の進捗状況に対応して計画的に進めている〔1−1−46図〕
 このうち空港連絡鉄道については、関西国際空港(株)がJR阪和線日根野駅から前島を経由して空港までの間、また、南海電鉄が南海本線泉佐野駅から前島までの間の鉄道施設を建設し、JR西日本及び南海電鉄がそれぞれ新大阪駅及び難波駅から空港までの直通列車の運行を行うこととなっている。関西国際空港(株)は、現在、大阪府土地開発公社に委託して必要な用地買収作業を進めており、2年末から鉄道施設の建設工事に着手する予定である。
(エ) 全体構想
 関西国際空港の全体構想については、2年8月の航空審議会における第6次空港整備五箇年計画の策定に向けての中間とりまとめにおいて、以下のように記述されており、今後は、この中間とりまとめの趣旨に沿って、適切に対応していくこととしている。
○ 段階的に整備を図ることとし、まず、新たな滑走路1本の建設及びそれに関連する施設整備を第2期計画として、第1期計画の滑走路処理能力の限界に達するまでの間に整備を進めることとする。
○ 第2期計画は、収支採算が悪化することが予想されることから、事業費の抑制、地元負担のあり方、開発利益の還元等事業の健全な経営を図るための措置、事業の円滑な実施を図るための措置を地元の協力を得て、あらかじめ確立する。
○ 本五箇年計画では、第2期計画について本格的な調査を行い、上記の措置について、関係者間において調整され、十分な見通しが立つことを前提として、その事業着手に移行する。
(5) 一般空港の整備
(ア) 整備の現状
 航空輸送は40年代以降急激な伸びを示し今や国民の足として定着してきており、今後とも、高速輸送の主要な担い手として着実に伸びていくものと考えられる。このため、空港整備については42年度の第1次から現在の第5次に至る空港整備五箇年計画に基づき着実に実施してきており、42年においては空港数52、うちジェット化空港は全空港の12%に当たる6空港、2,500m以上の滑走路を有する大型ジェット機の就航可能な空港は全空港の4%に当たる2空港であったものが、現在、空港数81、うちジェット化空港は58%に当たる47空港、大型ジェット機の就航可能な空港は27%に当たる22空港となっている〔1−1−47図〕。その結果、輸送構造をみると、元年度においては国内航空の166の航空路線のうち65%に当たる107路線がジェット化され、ジェット機就航路線の旅客数は全旅客数6,012万人の92%に当たる5,547万人を占めるまでに至っている。また、東京国際空港及び大阪国際空港を利用した旅客は全旅客数の78%に当たる4,699万人を占めており、航空輸送需要は東京・大阪両基幹空港への二極集中構造となっている。
(イ) 将来の展望
 2年度には新規事業として函館空港の滑走路延長、松本空港の滑走路新設及び新種子島空港の建設に着手するなど、コミューター空港の4空港も含めて24空港において滑走路の新設・延長事業を進めているが、これらが完成すると空港の数は現在の81から91(関西国際空港を含む。)に、ジェット化空港の数は47から57に増加することとなる。
 また、61年度以降国内航空旅客輸送の伸びは年平均伸び率9%と順調に推移してきており、我が国の経済社会における時間価値の上昇等により今後とも国内航空旅客輸送は増大することが予想される。
 したがって、将来の航空需要に対応した国内航空ネットワークの充実を図るため、引き続き一般空港のジェット化、大型化等を推進していく必要がある。また、地方主要空港における国内・国際航空需要の増大に対処するため、旅客、貨物両面にわたるターミナル地域の整備を推進していく必要がある。さらに地方空港の国際化についても必要に応じてその推進を図る。
 一方、航空サービスを享受し得ない地域や離島における空港の整備等については、その需要動向、開発効果、路線運営の見通し、投資効率等を勘案しつつ、計画的に進めていく必要がある。




平成2年度

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