平成2年度 運輸白書

第2章 労働力不足の進行と運輸

第2節 運輸産業における労働力不足への対応

 我が国の運輸産業は、これまで述べてきたように深刻な労働力不足に悩まされている業種があり、それぞれ対応への努力を行っているが、目前の労働力不足に対応するのみでなく、今後の人口の高齢化、労働力人口増加率の鈍化を考慮して、長期的な展望に立った労働力確保をはじめとする本格的な対策に取り組むとともに利用者の理解と協力を得ることが必要となっている。

    1 運輸産業の取り組むべき対応策
    2 不可欠な利用者の理解と協力
    3 運輸産業における外国人労働者の受け入れ問題


1 運輸産業の取り組むべき対応策
(1) 運輸の各事業において取り組むべき対応策
 運輸産業における労働力不足に対処するために、各事業が取り組むべき対応策としては、次のようなものがある。
(ア) 魅力ある職場づくり
 まず、労働力確保のため取り組むべき対応策としては、運輸産業の職場環境を改善し、若年労働者が就職対象として目を向けるような魅力ある職場をつくることであろう。そのためには、次のような労働条件、労働環境の改善を図る必要があり、単独で整備が困難な場合は、共同で施設整備等を進めることも望まれる。
@ 所定内・所定外労働時間の短縮、週休2日制の普及促進、年次有給休暇の取得の促進、連続休暇制度の導入等による労働時間の短縮
A 設備の近代化等による労働者の負担の軽減
B 保養所、レクリエーンョン施設、社宅の整備など福利厚生面の充実
C 労働内容に見合う貸金水準の確保
D 車両や設備を新しくしたり、制服・作業服のデザインを改善することによるイメージの向上
E 安全のための投資や教育の実施による安全対策の充実
(イ) 高齢者と女子の活用
 次に、現在あまり活用されていない高齢者と女子を労働力として十分活用していく必要がある。
(高齢者の能力が十分活用できるような条件の整備)
 我が国の人口構成は将来的にさらに高齢化が進み〔1−2−15図〕、若年層を中心とした人手不足感がますます高まっていくとみられ、高齢者の活用は重要な課題となってくる。
 高齢者の活用に際しては、体力面をカバーするような機械化、省力化を進めるとともに、安全面、勤務時間等に関しても配慮し、高齢者の能力が十分発揮できるような条件の整備を図っていく必要がある。
 また、定年延長制、再雇用制度についても検討していくことが望まれる。
(女子が働きやすい環境の整備)
 女子の就業意欲の増大や女子の割合が高いパートタイム労働者の増加等により、最近では女子の労働力人口の伸び率が男子の伸び率を上回わるとともに、男女雇用機会均等法の施行等により、様々な分野において女子労働者の職場進出が見られ、昭和63年の労働力人口総数に占める割合は40%を超えた〔1−2−16表〕。このように、就業形態の多様化や企業の受け入れ体制の増加にともない、今後女子の職場進出は一段と活発化していくものと思われる。
 しかし、女子が働きやすい制度、環境は社会的にもまだ十分でないうえに、運輸産業は一般的に、勤務時間や勤務形態が不規則であったり、労働環境が良くないため、女子労働者の活用はあまり進んでいないが、今後、トラックやタクシーの運転手のように男子中心の職場であったところにも、体力的・時間的制約条件を考慮しつつ女子労働者を積極的に活用していこうとする動きがある〔1−2−17表〕。このため、オートマチック車、パワーステアリング車等上級車両の導入、食堂、化粧室の充実など女子労働者を積極的に活用できるような環境づくりをしていく必要がある。
(ウ) 効率化・省力化の推進
 抜本的な省力化は困難であるが、限られたマンパワーを有効に活用するために、例えば物流業における新型荷役機械の開発・導入等の設備の近代化、集配・積み込み手順等の合理化による作業システムの改善など、出来る限り効率化・省力化を進める必要がある。
 また、トラックによる集配等の端末輸送についても、荷役合理化車両の導入等トラック自体の効率化を図るとともに、情報システムの整備、共同輸配送等の推進により効率化を図る必要がある。
(2) モーダルシフトの推進
 労働力不足に対処し、安定的な輸送力の確保を図るためには、労働力の確保のみならず、運輸産業全体としても、効率的な輸送ができる大量交通機関が円滑に利用できるように整備を進め、モーダルシフトを推進する必要がある。
 貨物輸送全体に占めるトラック輸送のシェアは一貫して上昇を続けているが〔1−2−18図〕、前述のように最近の好況による輸送需要の増大と人手不足とが相まって、トラック輸送の需給は逼迫した状態にあり、さらに、輸送コストの上昇や労働時間の短縮等が問題となっている。また、年々増大する自動車輸送に伴う道路混雑による輸送効率の悪化、交通安全や交通公害、省エネルギー等は大きな社会問題、経済問題となっており、これらへの対応も課題となっている。
 これらの問題に対処するためには、トラック輸送の幹線輸送部分を出来る限り大量交通機関である鉄道や船舶に転換し、トラックとの協同一貫輸送を推進する必要がある。そのための誘導策として、鉄道コンテナ、ピギーバック専用の特殊トラックの普及促進、規制の緩和による利用運送業の活性化、荷主等産業界への働きかけ等を推進する必要がある。また、JR貨物の輸送力の増強、内航コンテナ船、RORO船及びフェリーの整備の推進等モーダルシフトの受け皿となる基盤整備を図ることが重要である。さらに、新形式超高速船(テクノスーパーライナー'93)等を活用した物流システムの検討も長期的課題として推進していく必要がある。

2 不可欠な利用者の理解と協力
 運輸事業者の労働力の確保等に向けての対策は、運輸事業が労働集約的な性格を有するため、基本的にコストの上昇につながるものであり、最終的には運賃・料金への転嫁が必要となる場合もある。したがって、利用者に対し安定した輸送サービスを提供するためには、輸送側における合理化努力はもちろんであるが、必要とされる労働力確保対策等のためのコスト上昇に対する適正な負担について、利用者の理解と協力が不可欠な状況となっている。
 特に、迅速なサービスの宅配便、ジャストインタイム輸送等の高付加価値輸送については、労働投入が高密度であるため、労働力不足の影響を直接的に受けやすい。したがって、こうした輸送サービスのための労働力確保にはさらにコストがかかることから、利用者側に対しても、要求レベルの高いサービスにはそれに要するコストを反映した対価の支払いが必要であることについて理解を得なければならない。
 さらに、ジャストインタイム方式に代表される多頻度、少量かつ時間厳守という利用者側の個別的なニーズやシステムに専ら適合しているシステムについても、複数荷主の輸送の共同化等輸送側の労働力不足というネックを考慮した方式やシステムについて検討が求められよう。
 また、トラック貨物について、鉄道、船舶などの大量輸送機関への効果的な転換を促進するためには、運輸産業側の努力とともに、効率的な輸送についての荷主等利用者の十分な理解と協力が必要である。

3 運輸産業における外国人労働者の受け入れ問題
 外国人労働者問題については、労働力不足問題、我が国の国際化、発展途上国への貢献等様々な観点から議論・検討が行われており、政府としては、専門的技術等を有する労働者については可能な限り受け入れる方向で対処するが、いわゆる単純労働者の受入れについては、受入れに伴う我が国の経済や社会に及ぼす影響等にもかんがみ十分慎重に検討することとしている(第6次雇用対策基本計画(昭和63年6月閣議決定)等)。
 運輸産業においても、労働力不足を背景として、比較的規模の大きな登録ホテル・旅館、トラック業界等において、単純労働者の導入について前向きに検討してほしい旨の声が一部にあるが、上述の政府の方針にかんがみ、慎重に対処していくことが必要である。
 なお、運輸産業における外国人の就労例として以下のものがあげられる。
@ 外航海運業における船員については、単純労働者は受け入れないとの陸上分野における原則を準用しているが、昭和60年秋以降の円高の影響等による日本船のフラッギング・アウト(海外流出)を防止するため、平成元年10月、従来から外国人労働者の国内受け入れ問題の範疇外として近海船等で導入されている海外貸渡方式による混乗を外航船舶一般に拡大するとの労使合意が成立し、2年3月から実施されている。
A 定期航空運送業においては、航空需要の拡大に対処するための方策の一つとして、安全運航の確保を大前提としつつ外国人操縦士及び航空機関士が雇用されている。さらに、外国人何けサービスの強化のため、外国人の客室乗務員(スチュワーデス)が外地採用されている。




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