平成2年度 運輸白書

第10章 交通安全対策等の推進

第10章 交通安全対策の推進

第1節 交通安全対策の推進

 交通安全の確保は運輸行政の基本であり、このための施策の推進は最も重要な課題の一つである。運輸省としては、人命尊重が何ものにも優先するとの見地に立ち、従来から、交通安全対策全般にわたる総合的かつ長期的な施策の大網等を定めた交通安全基本計画に基づき、毎年度、交通安全業務計画を具体的に定め、各輸送機関の安全の確保に努めてきている。
 平成2年度は、第四次交通安全基本計画(昭和61〜平成2年度)に基づき、交通安全施設等の整備、車両・船舶・航空機等輸送機器の安全性の確保、交通従事者の資質の向上及び適切な運行管理の確保等の施策を更に推進するとともに、気象資料等の収集の強化並びに適時に的確な予報・警報等の提供、救難体制の整備や被害者の救済対策にも積極的に取り組むことにより、陸・海・空すべての分野における交通安全対策の一層の充実を図っている。
 また、障害者・高齢者の移動・交通対策も長期的かつ総合的に推進している。

    1 交通事故の概要
    2 交通安全の確保
    3 障害者・高齢者対策


1 交通事故の概要〔2−10−1表〕
 道路交通事故による死者数は、平成元年には11,086人と前年に比べ742人(7.2%)増加し、昭和49年以降15年ぶりに11,000人を上回り、第2次交通戦争と言うべき厳しい状況である。
 また、発生件数及び負傷者数も前年に比べ増加した。
 鉄軌道交通事故のうち運転事故による死者数は、平成元年には413人と前年に比べ58人(12.3%)減少し、踏切事故についても、死者数は176人と前年に比べ40人(18.5%)減少した。
 海上交通については、平成元年に救助を必要とする海難に遭遇した船舶は1,964隻と前年とほぼ同数であり、死亡・行方不明者は283人と前年に比べ28人(0.9%)減少した。
 航空交通における平成元年の民間航空機事故件数(機内における病死を除く)は39件で、死者数は16人であった。

2 交通安全の確保
(1) 道路交通の安全対策
(ア) 事業用自動車の安全な運行の確保
 自動車運送事業者には、安全な運行の確保を図るため運行管理者の選任、事故の報告、乗務員の指導・監督等が義務付けられており、運輸省では、その確実な実施を図るよう指導・監督を行うとともに、事故原因を調査することにより同種事故の再発防止に努めている。
 平成元年における事業用自動車による死者数は、1,830人と前年に比べ109人減少したが、道路交通事故による全体の死者数は、1万1,086人と15年ぶりに1万1,000人をこえる結果となった。
 このような状況に鑑み運輸省は、元年11月、自動車関係団体22団体に対し、販売、運輸等の事業活動の機会をとらえて、国民各層の交通安全意識の高揚に資する広報活動の充実強化を図る等、交通安全対策に積極的に取り組むように要請した。
 また、事業用自動車の高速道路利用の増加に伴い、高速道路の重大事故が年々増加しているため、運送事業者に対し、事故防止のため「高速道路の安全運行要領」を積極的に活用するよう要請した。
(イ) 車両の安全性の確保
 (車両の安全性に関する技術基準の改善等)
 自動車等の道路運送車両の安全を確保するため、道路運送車両法に基づき、自動車の構造・装置等について、保安上の技術基準(道路運送車両の保安基準)が定められている。この保安基準については、安全基準の国際的調和にも留意しつつ、道路交通環境の変化等に対応した安全基準の改善のための検討を行っている。
 特に、最近の交通事故状況の悪化に鑑み、自動車の構造・装置に係る安全性の一層の向上を図るため、制動時の車両の不安定な挙動を防止するため開発されたアンチロックブレーキシステムについて、普及促進を図るとともに、事故時の被害が大きいと考えられる一部の大型車への装置を義務付けることとした。また、自動車製作者への「自動車の構造・装置の安全性に係る研究・開発の強化」及び「安全性の一層の向上に係る装置(エアバック、サイドドアビーム等)を備えた車両に対するユーザーニーズへの対応」に関する指導を行うとともに、自動車乗員の死亡事故の増加に鑑み、衝突時の安全性の一層の向上を図る必要があることから、自動車の衝突安全性能の評価法に関する調査研究を行っている。
 さらに、今後の自動車の構造・装置に係る安全性向上については、近年の交通環境の変化、自動車技術の進歩等も踏まえ、今後の安全基準の拡充強化方針について運輸技術審議会に諮問し、審議を開始した。あわせて、自動車ユーザーに対し安全に関する諸情報を適確に提供する方法について調査検討を行っている。
 また、軽自動車の規格については、平成2年1月1日より長さ、排気量等を改定したが、本年2月より自動車製作者6社により申請のあった新規格軽自動車を型式指定している。(平成元年度未現在、60型式)
 (オートマチック車(AT車)の急発進・急加速問題への対応)
 運輸省交通安全公害研究所による試験調査(平成元年4月最終報告)及び運輸省の要請による(社)日本自動車工業会の調査研究結果(平成2年1月報告)において、すべてのAT車に共通するような構造・装置に係る欠陥はないとの結論を得た。これらの調査結果を踏まえ、引き続き自動車製作者に対し、AT車の正しい取り扱い方法についての自動車ユーザーに対する啓蒙、車載電子機器のフェールセーフ性向上及び信頼性の向上等について指導している。
 (自動車の検査及び整備の充実)
 自動車の安全の確保と公害の防止を図るため、国が自動車の検査(車検)を行っているが、近年における自動車の構造・装置への新技術の採用は目覚ましいものがあり、常時四輪駆動、アンチロックブレーキ、四輪操舵等が急速に普及しつつある。このため、こられに的確に対応すべく総合的な検査用機器の導入を行うなど検査体制の充実強化に努めている。
 また、従来から自動車ユーザーによる適切な点検・整備の実施を促進しているところであるが、近年の厳しい事故状況に鑑み、自動車の適正な維持・管理を一層推進するため、「不正改造車を排除する運動(平成2年6、7月)」及び「定期点検整備促進運動(平成2年9月〜平成3年3月)」の全国的な展開を図ったところである。
 自動車整備事業については、エレクトロニクス化等の新技術の採用に対応するため、全国の自動車ディーラー等における整備事業者向けの技術相談窓口の設置(平成元年10月)、整備事業場の検査主任者に対する技術研修の実施(平成2年度)等の措置を講ずるとともに、新技術に対応した整備体制を確立するための方策を総合的に検討している。
 さらに、整備事業の近代化を図るため、中小企業近代化促進法に基づく経営戦略化構造改善計画の推進や自動車整備近代化資金の活用のほか、一定期間内に不具合が発生した場合には無償で再整備する整備保証制度の促進を図っている。
(ウ) 自動車事故被害者に対する救済対策
 自動車事故による被害者の救済を図るため、自動車損害賠償責任保険(共済)と政府の保障事業を中心とする自動車損害賠償保障制度の適切な運用を行っている。
 また、自動車事故対策センターにおいて、交通遺児等を対象とする生活資金の貸付け、重度後遺障害者に対する介護料の支給、千葉及び仙台の療護センターにおける重度意識障害者に対する治療及び養護等の業務を実施しており、2年度においては、交通遺児に対する貸付額及び重度後遺障害者に対する介護料の引上げを行った。さらに、自動車損害賠償責任再保険特別会計から、救急医療設備の整備等の自動車事故対策事業に対して助成を行っている。
(エ) 違法駐車の防止
 今日、大都市地域を中心に保管場所のない自動車が違法に駐車され、交通渋滞、交通事故等の要因となっていることから「自動車の保管場所の確保等に関する法律」が改正され、保管場所標章、保管場所に係る届出等自動車の保有者の保管場所確保義務の履行を確保するための制度が整備された。なお、運送事業用自動車については、これまで同法上保管場所証明の手続きが課せられていたが、これら運送事業用自動車については、別途道路運送法、貨物自動車運送事業法等により車庫の確保が担保されることとなっていることから、今回の法改正において保管場所証明の手続きからこれを除外することとされた。
 運輸省としても、道路交通の円滑化、交通事故の防止を図る観点から、運送事業者に対する違法駐車防止等についての一層の指導に努めるとともに、関係各省庁との緊密な連携の下に、深刻化している駐車問題の解決に資するための施策の推進に努める必要がある。
(2) 鉄軌道交通の安全対策
(ア) 鉄軌道の安全性の確保
 鉄軌道における事故は長期減少傾向にあるが、安全性を一層高めるため、@施設面では、軌道強化、高架化、地下化等の線路施設の整備、自動列車停止措置(ATS)の設置・改良、列車集中制御装置(CTC)の整備、列車無線及び通信装置の整備等の信号保安設備の整備、A車両面では、コンピュータの利用等新しい技術を取り入れた検査機器の導入による車両の安全性の確保、B運転面では、乗務員等に対する教育訓練の充実、厳正な服務と適正な運行管理の徹底等による安全運行対策を実施している。
 また、運輸省とJR各社の安全担当責任者で構成する鉄道保安連絡会議を定期的に開催し、安全対策に関する指導・情報交換を行い、安全対策の推進に努めている。
(イ) 踏切事故の防止対策
 踏切事故の防止については、第四次踏切事故防止総合対策(昭和61〜平成2年度)に基づき、元年度においては、立体交差化67か所、構造改良227か所、保安設備の整備530か所の改良を行った。国は、これらの整備のために必要な資金を財政投融資により確保するとともに、経営の苦しい鉄道事業者に対し、地方公共団体と協力して踏切保安設備の整備費の一部を補助している。
(3) 海上交通の安全対策
(ア) 海上交通環境の整備
 (港湾等の整備)
 平成元年度は、港内の船舶の安全を確保するため、新潟港等66港において防波堤、航路、泊地等の整備を行った。また、沿岸海域を航行する船舶の安全を確保するため、輪島港、下田港等11港の避難港を整備するとともに、備讃瀬戸航路等16の狭水道航路において拡幅、増深等を行った。東京湾口の浦賀水道航路については、第三海堡の撤去等について引き続き検討を進めている。
 (海上交通情報機構の整備)
 海上保安庁は、船舶交通のふくそうする東京湾、備讃瀬戸及び関門海峡において、船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため、海上交通に関する情報提供と航行管制を一元的に行う海上交通情報機構の整備・運用を行ってきている。2年度からは、大阪湾において明石海峡地区を対象とする機構の整備に着手しており、さらに、来島海峡における機構の整備についても検討している。
 (航路標識・海図等の整備)
 海上保安庁は、灯台・灯浮標等の航路標識の整備を行っており、元年12月には、浮標式の国際的統一に伴う灯浮標等の様式の変更工事を完了した。また、海図等の水路図誌を整備するとともに、船舶交通の安全に係る緊急を要する情報を航行警報等により提供している。
(イ) 船舶の安全な運航の確保
 (安全運航に係る監査及び指導等)
 船舶の安全な運航を確保するため、船員法に基づき、発航前検査の励行及び航海当直体制等の的確な実施について、船員労務官による監査及び指導を行っている。
 また、第5次船員災害防止基本計画(昭和63年3月公示)に基づき、船員の安全対策の強化を推進している。
 我が国の港に入港する外国船舶に対しては「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約」(STCW条約)に規定されている航海当直及び船員の資格証明に関する基準に適合しているかについての監督を実施している。このうち、特に船員の資格証明に関する監督については、全国一斉の集中的な監督を行い、その実効を期している。
 さらに、海技従事者の身体適正及び知識・技能のチェックを行った上で海技免状の有効期間(5年)の更新を認める海技免状の更新制度を実施するとともに、海技免状が失効した者に対し講習を受けることにより免状の再交付を行う失効再交付事務を行っている。
 (旅客船の安全対策)
 旅客船の事故は、運航管理制度の定着等により長期的には漸減傾向にあるものの、小型旅客船、屋形船、納涼船を使用したミニクルーズ、海上タクシー等の事業が瀬戸内海、東京湾等において活発化しており、安全対策の確立が急務となっている。このため、海上運送法の諸規制をベースとした安全指導を推進している。
 また、交通機関の高速化が要請される中で高速船の導入が活発化し、一部の船型においては時速80km以上の速力で航行するものも出現していることから、夜間航行等の安全対策について検討を行っている。
 (海上交通ルール及び航行安全対策)
 海上保安庁では、我が国における船舶交通の安全を図るため、基本的な海上交通ルールを定めている海上衝突予防法のほか、船舶交通のふくそうする東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海に適用される海上交通安全法並びに入出港船舶の多い港に適用される港則法に基づいた各種の規制に加えて、船舶の種類に応じた所要の安全指導を行っている。さらに、東京湾横断道路等船舶交通に大きな影響を与えるおそれのある大規模プロジェクトについて、その計画段階から事業主体等の関係者に対し、建設中及び完成後の海上交通の安全確保に関する調査研究を行うように指導するほか、その調査研究の成果を踏まえて、警戒船の配備、情報管理体制の整備等について指導してきている。また、船舶の航行を制限する海域の設定、警戒のための巡視船艇の配備等必要な措置を講じている。
(ウ) プレジャーボート等海洋レジャーに係る安全対策の推進
 近年、海洋性レクリエ一ンョンの進展に伴い、プレジャーボート等の海難、特に水上オートバイの衝突事故等が増加しており、本年4月には九十九里浜沖でプレジャーボートの転覆海難も発生している。加えて、プレジャーボート等の隻数の増加、レジャー目的の免許取得者の増加、船型、操縦方法の多様化等プレジャーボートをめぐる状況は大きく変化してきている。これらの動向に対応して、本年8月、小型船舶操縦士指定養成施設等関係機関に対して、プレジャーボート等の安全な航行に関する啓蒙及び指導の徹底を図るように指導したほか、小型船舶海技資格等調査検討委員会を設置し、現行のプレジャーボート等に係る海技資格制度全般について調査検討を行っている。また、プレジャーボート等の構造基準や設備関係基準の整備充実及び検査体制の充実を図っている。さらに、平成2年度に創設された優良マリーナ認定制度を活用して、マリーナにおける安全対策の充実を図ることとしている。
 海上保安庁では、従来より安全指導面から、小型船安全協会、(財)沿岸レジャー安全センター等の民間団体による安全活動の支援等種々の施策を推進しているが、昨今の動向に対応して、さらに水上オートバイ関係者を海上安全指導員に指定し、海上保安官と連携して、訪船指導を行う等、水上オートバイの安全指導の強化を図っており、今後とも、海洋レジャーの普及に対応し、愛好者自らの責任において安全意識を持って行動するという基本原則の啓蒙を行うとともに、海上交通ルールやマナーの普及及び知識・技能の向上を図るための施策、救助体制の充実強化を図るための施策等を総合的に実施していくこととしている。
(エ) 船舶の安全性の確保
 (国際動向への対応)
 船舶の安全性を国際的に確保するために国際海事機関(IMO)において、貨物船の損傷時復原性基準を適用するための検討及び旅客船の安全性、特に防火構造、設備の向上を目的とした「1974年の海上における人命の安全のための国際條約(74SOLAS条約)」の改正作業及び技術基準等の検討を行うとともに、船舶安全法関係法令への取り入れ作業を行っている。また、漁船に関する船体の構造、設備等の基準を定めた1977年の漁船の安全のための国際条約(トレモリノス条約)の早期発効を目的とした議定書作成に関する検討等を行っており、我が国としても積極的な対応を進めている。
 さらに、一般危険物及び放射性物質の海上輸送量の増大とその物性の多様化に対応するため、一般危険物についてはIMOの船舶による危険物運送の国際基準である国際海上危険物規程(IMDGコード)によって平成3年1月1日から国際的に実施される危険物用容器の検査及び当該コードの25回改正規則を、また、放射性物質に対しては、昭和60年に国際原子力機関(IAEA)において改正が行われた放射性物質安全輸送規則を、国内規則に導入するための危険物船舶運送及び貯蔵規則の一部改正を行う等、安全基準の確立及び安全審査体制の整備を行っている。
 (GMDSSへの対応)〔2−10−2図〕
 「全世界的な海上遭難安全制度」(GMDSS)は、現行の海上における無線通信システムの問題点を根本的に解消するため、衛星通信技術、デジタル通信技術等最新の通信技術を利用することにより、いかなる海域の船舶も陸上と直接通信可能となるとともに航行安全に係わる情報を適切に受信でき、また、遭難した場合は、捜索救助機関や付近航行船舶に対しての送受信が可能となり、迅速に救助要請を行うことができる制度を確立しようとするもので、平成4年2月には、この制度を世界的なレベルで導入するための改正SOLAS条約が発効する。
 このため、運輸省においては、GMDSSの導入に必要な船上設備を義務付け、無線部に係る新たな海技資格を定める等、船舶安全法、船舶職員法及び関係政省令の改正を進めることとしている。
(オ) 海上捜索救助体制等の整備
 我が国は、「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)等に基づき、本邦からほぼ1200海里に及ぶ広大な海域において捜索救助を行う責務を有している。
 このため、海上保安庁では、ヘリコプター搭載型巡視艇とジェット飛行機等の航空機を中心とする機動力に優れた広域哨戒体制の整備を推進するとともに、海難への即応体制の充実強化に努めている。さらに、転覆船内からの遭難者の救出等特殊な海難に対応するための特殊救難体制、医師による洋上における傷病者の救急往診のための洋上救急体制等の整備を推進するほか、より効率的な捜索救助活動に資するための船位通報制度(JASREP)の運用を行っている。
 また、平成4年2月から全世界的レベルで導入予定のGMDSSに適切に対応していくため、元年度から関連通信施設の整備を進めている。
(4) 航空交通の安全対策
(ア) 航空保安システムの整備
 航空機の運航の安全を確保するとともに、空域の有効利用を図るため、航空路監視レーダー(ARSR、ORSR)及び空港監視レーダー(ASR)の整備を進めるとともにレーダー情報と飛行計画情報を提供する管制情報処理システム(RDP、FDP、ARTS)の整備等を行っている。一方、地方空港のジェット化に伴い、定時性の確保と就航率の向上のために計器着陸装置(ILS)及び航空灯火等の整備を進めている。
 平成元年度においては、平田ARSR、高松ILS、浜松、中標津及び香川にVOR/DME等の整備を完了し、運用を開始した。
 また、東京国際空港の沖合展開等三大空港プロジェクトの進展に伴う航空交通量の大幅な増加に対処し、航空交通の安全性と効率的な運航の確保を図るため、全国の航空交通流を一元的に制御するとともに、管制情報処理システム等のソフトウェアの開発評価及び災害等による管制機関の機能喪失時における危機管理機能を有する「航空交通システムセンター」(仮称)の整備を平成5年度の運用開始に向けて進めている。
 さらに、関西国際空港の開港に伴う関西空域の航空交通のふくそうと多様化に対処するため、ターミナル管制業務を一元的に実施して空域の有効利用と管制処理能力の向上を図るための「広域レーダー進入管制所」(仮称)についても開港にあわせ運用開始すべく整備を進めている。
(イ) 航空機の安全運航の確保
 (運航管理の改善)
 航空運送事業者は、航空機の運航基準、運航管理の実施方法等を運航規程に定めるよう義務付けられており、運輸省ではその確実な実施を図るよう指導・監督を行っている。
 (航空機乗員養成の拡充)
 航空需要の増大、航空会社の事業規模の拡大に加えて、定年退職者の増加などもあり、今後航空機乗員の需要は大幅に増大することが見込まれている。従来、航空会社の基幹操縦要員の養成は航空大学校が行ってきていたが、最近では、自社養成、防衛庁からの割愛等、その供給ソースは多様化しつつある。このため、運輸省では操縦要員の質を確保するための航空会社への指導を強化してきている。
 (航空保安大学校の充実)
 航空保安大学校においては、関西国際空港の開港等に備えて新規職員の効果的な研修を実施するため、平成2年度には、飛行場管制実習装置の更新整備を進めている。また、同岩沼分校においては、高度な専門技術習得のため、教育用の国際対空通信実習装置、航空路及び空港管制用レーダーシステムの性能向上を図ることとしている。
 (航空保安対策)
 我が国では、「よど号」事件を契機としてハイジャック防止対策を始めて以来、各空港において、凶器を航空機に持ち込まないためのX線検査装置や金属探知機を設置する等の保安対策を講じてきた。その結果、我が国においては、昭和55年以降ハイジャック事件は発生していないが、国際的には、近年航空機の爆破事件が続発しており、我が国としても本年より国際空港において受託手荷物に対するX線検査を開始するなど爆発物対策の強化を図っているところである。また、平成元年12月16日に発生した中国民航981便ハイジャク事件に際しては、関係省庁との協力の下に現場機関と一体となって早期解決に取り組んだところであり、この事件を教訓として、ハイジャック等非人道的暴力事件処理対策の充実について、関係省庁と更なる検討を行っている。
(ウ) 航空機の安全性の確保
 昭和63年4月の米国アロハ航空機事故を契機として、航空機の経年化に伴う事故の防止及び航空機の安全性の確保が強く求められている。我が国は世界有数の航空機運航国であり、また機材の運航環境からボーイング747型機、同767型機は世界でもその離着陸回数が最も多い状況にあり、国産機のYS−11型機を含め適切な対策を講じる必要がある。このため従来から、各航空会社に対し大型航空機の点検・整備の強化及び改修の促進を指示する等所要の対策を講じてきた。今後も、ICAO(国際民間航空機関)の経年機対策検討委員会における審議状況、体系的な経年機対策が進展している米国の動向等を踏まえ、対策の強化を図ることとしている。
(エ) 小型航空機等の事故防止対策
 小型航空機の事故件数はほぼ横ばい状態であり、平成元年の航空機の事故件数は39件であった。運輸省としては、航空事業者及び自家用小型航空機運航者に対し航空法令及び安全関係諸規定の遵守、無理のない飛行計画による運航の実施、的確な気象情報の把握、点検の確実な実施等を指示し、安全運航の確保のための指導、監督の強化に努めている。また、近年普及してきたレジャー航空については関係団体を通じて無許可飛行の防止を図るとともに、安全運航の確保のための指導を行っている。
(オ) 緊急時における捜索救難体制の整備
 民間航空機の捜索救難については、国際民間航空条約に準拠し、警察庁、防衛庁、運輸省、海上保安庁及び消防庁が「航空機の捜索救難に関する協定」を締結し、救難調整本部(RCC)を東京空港事務所に設置して共同実施に当たっている。救難調整本部においては、遭難位置の推定及び捜索区域を決定するために必要な施設の性能向上を進めるとともに、関係機関との合同訓練を定期的に行い、捜索救難体制の一層の充実強化を図ることとしている。

3 障害者・高齢者対策
 障害者・高齢者が、公共交通機関をできるだけ身体的負担が少なく、かつ安全に利用できるよう必要な対策を講ずることは、障害者の社会参加の機会の増大と高齢化社会の到来に対応してますます重要な課題となってきている。
 運輸省では、こうした観点から各交通事業者に対して、鉄道駅等におけるエレベータ、エスカレータの設置、段差の解消(スロープ化)、低床・広ドアバスの導入、シルバーシートの設置等の施設整備を進めるよう指導してきているが、このほか、これらの施設が適切に整備されるよう、国際障害者年に当たる昭和56年以降、継続して、公共交通ターミナルにおける身体障害者用施設整備ガイトラインの作成調査、心身障害者・高齢者のための公共交通機関の車両機構に関するモデルデザインの作成調査等を実施してきている。平成2年度からは、運輸における高齢者・身体障害者等のために施設整備の進め方に関する調査を2ヶ年計画で実施している。




平成2年度

目次