平成2年度 運輸白書

第10章 交通安全対策等の推進

第2節 災害対策の推進

 運輸省、海上保安庁及び気象庁は、災害対策基本法に定める指定行政機関として、防災業務計画を策定し、災害の予報体制の強化、輸送施設及び交通機関の災害予防対策、国土保全対策、災害復旧事業を総合的かつ計画的に推進している。
 また、第42回国連総会において、1990年代を「国際防災の10年」とする旨の決議が採択され、平成2年1月に同10年が開始されたことから、我が国においても国際防災の10年推進本部を中心に国際会議の開催等の事業を進めているところであるが、運輸省としても、これらの事業に協力するとともに、国内外を問わず災害を防止するための各種施策を積極的に推進することとしている。

    1 災害予防の強化
    2 国土保全の推進


1 災害予防の強化
(1) 予知・予報体制の強化
(ア) 気象情報の提供等
 気象庁は、昭和63年度の東京L−ADESS(気象資料自動編集中継装置)、平成元年度の仙台L−ADESSに続き、平成2年度は札幌L−ADESSを更新し、札幌管区気象台管内にコンピュータネットワークを整備するなど、気象資料伝送網の更新・整備を行い、地域ごとのより細かい予報・警報の発表、防災のための的確な気象情報の提供に努めている。
 福岡管区気象台管内の予報警報一斉伝達装置をFAX化し、予報・警報の伝達体制の強化を図った。また、新東京航空地方気象台に空港気象常時監視通報装置を整備し、関係機関への情報伝達を強化した。
 さらに、「太平洋台風センター」を平成元年度に設置し、東アジア地域各国の台風業務の質的向上に資するため、北西太平洋域の台風進路予報資料等をそれらの国々に提供するなど、国際的な協力の一層の充実を図っている。
 気象庁は、船舶の安全航行や漁船の安全操業及びマリンレジャーの安全確保のため、北西太平洋及び日本沿岸域において一般船舶、気象観測船等から気象・海水象の観測資料の収集を行い、海面水温、海流、波浪の状況・予報図及び海氷情報を作成し提供している。平成2年10月から海面水温・海流の一か月予報を、また、平成2年12月から数値計算によって海氷の状況を予報する数値海氷予報をそれぞれ開始するなど、引き続き観測資料の収集の強化、予報精度の向上を図ることとしている。
 気象レーダーについては、引き続きデジタル化装置の整備を進め、平成2年度には沖縄に整備するとともに、新潟レーダー(デジタル化装置を含む)を更新する。アメダス(地域気象観測システム)については、引き続き積雪深計の整備を進めるとともに、有線ロボット気象計(四要素)の更新を順次進めている。また、高層気象観測資料自動処理装置については、平成2年度には石垣島に整備することとしている。
(イ) 地震対策
 気象庁は、全国的な地震観測を行い、津波予報、地震情報等防災上必要な情報を提供している。また、気象庁長官は東海地震の発生の恐れがあると判断した場合は、内閣総理大臣に「地震予知情報」を報告することとされている。このため、東海・南関東地域の地震計、体積歪計の整備を行うととも、各種観測データをリアルタイムで処理し、総合的に監視するため、「地震活動等総合監視システム」(EPOS)を運用している。このシステムは、伊豆半島東方沖の群発地震等にも威力を発揮した。
 また、平成2年度は、津波予報の一層の迅速化を図るため、気象資料伝送網の更新・整備の中で札幌管区気象台に地震波形の自動検測・震源決定等を行う地震津波の監視システムを整備するとともに、小地震観測装置(3000倍)の改良・更新等を行う。また、世界に先駆けて震度観測を客観化するための計測震度計を整備することとしている。
 海上保安庁は、地震予知に必要な基礎資料を得るため、平成元年度には相模・南海トラフ等において、海底地形・地質構造調査、潮汐観測、地磁気観測、重力観測等を実施し、そのデータを地震予知連絡会に提供している。
(ウ) 火山対策
 気象庁は、全国約70の活火山のうち、活動的な19火山の常時監視を行い、その他の火山は、火山機動観測班が計画的に基礎調査を実施し、異常時には、同観測班が出動して緊急観測を行う。これらの観測成果に基づき、適時適切に火山活動情報及び臨時火山情報を関係都道府県知事、関係機関に通報、伝達することにより、火山現象による被害の軽減に努めている。なお、平成元年7月の有史以来初めての伊豆東部火山群の海底噴火に鑑み、平成2年度から、同火山群を第19番目の常時観測火山に指定し監視体制を強化した。
 海上保安庁は、南方諸島・南西諸島海域の海底火山活動を的確に把握するため、定期的に航空機等による観測を実施し、そのデータを火山噴火予知連絡会に提供している。特に、平成元年には、7月に伊豆半島沖で噴火した「手石海丘」の海底地形等を明らかにしたほか、昭和27年の噴火以来「海底活火山危険区域」となっていた「明神礁」の位置及び水深等を37年ぶりに明らかにした。
(2) 防災対策
ア 鉄道の防災対策
 鉄道事業者は、鉄道運転規則に基づく鉄道施設の日常の巡回及び定期点検を行い、危険箇所の把握に努めるとともに、橋梁、トンネル、のり面工等の構造物を必要に応じ取替え又は改良を実施している。そのほか、雨季や台風時期にさきがけ被害の発生するおそれのある箇所の点検を強化し、災害の予防に努めている。
 また、運輸省においては、地下鉄道の火災対策等の災害に関する技術基準を作成し、それらに基づいて必要な指導を鉄道事業者に行っている。
イ 港湾の防災対策
 観測強化地域及び特定観測地域とその周辺の港湾137港において、地震時の避難者や緊急輸送物質の海上輸送を確保するため耐震強化岸壁等の大規模地震対策施設の整備を実施しており、平成元年度末で94バースの整備を完了した。
 また、地震に伴う地盤の液状化災害を防止するため、既存の大型岸壁について対策工事を実施しているほか、火山対策として、避難施設緊急整備地域の港湾において、避難岸壁、避難広場等の整備を実施している。
ウ 海上防災体制の整備
 海上保安庁は、排出油防除資機材の整備、消防艇の配備を行うほか、民間防災体制については、船舶所有者、海上災害防止センター等における排出油防除資機材の整備等の推進を図るとともに、大型タンカーバース、国家石油備蓄基地等の防災対策の強化を指導している。さらに、関係機関相互の協力体制として流出油災害対策協議会等の設置を促進している。
 また、海上災害防止センターにおいては、多様化する海上災害に対応するための調査研究等を行っている。
 一方、昭和58年の中央防災会議決定に基づき、立川広域防災基地における海上防災関係施設及び横浜海上総合防災基地(仮称)の整備を推進することとしており、立川においては、2年度末完成を目途に整備を行っている。
エ 空港における消火救難体制及び雪害対策
 各空港ではICAOの基準に基づき化学消防車の配備等消火救難体制の充実に努めるとともに、救急医療資機材の配備など、空港救急医療体制の整備を進めている。
 また、積雪寒冷地に所在する空港の雪害対策として、除雪車両、車庫の整備等により除雪体制を強化し、降雪期における航空機運航の安全性と定時性の確保に努めている。
オ 災害対策に関する教育訓練等
 気象庁では、各地で防災気象講演会を主催し、気象・地象・水象に関する知識の普及及び予報・警報やその他の情報の利用方法等の周知を図っている。一方、気象大学校では、気象庁職員の資質の向上を図るために気象業務遂行に必要な技術教育等を行っている。
 海上保安庁は、大規模地震災害対策訓練、大型タンカー事故対策訓練等を実施している。また、海上災害防止センターにおいては、船舶乗組員、石油関連施設従業員等を対象に海上災害に関する知識、技能の修得のための教育訓練を実施している。

2 国土保全の推進
(1) 安全で快適な生活を支える海洋事業の推進
 港湾海岸事業では、人口・資産の集中が著しい“みなとまち”を高潮、津波、侵食などの自然災害から守り、人々の海とふれあいや良好な海岸景観を創出する「ふるさとの海岸づくり」を進めている。
 平成元年度に「ふるさと海岸整備モデル事業」を創設し、消波機能を持つ海浜やしぶき対策のための植栽帯を含めた質の高い海岸保全施設の整備を、香川県津田港海岸など4海岸で開始した。平成2年度には、宮崎県美々津港海岸など5海岸を追加し、計9海岸で推進している。
 また、ゼロメートル地帯を控える大都市海岸における高潮・地震対策、外海で砂浜を回復する新潟港西海岸の直轄侵食対策、久慈港海岸での直轄事業をはじめとする三陸・土佐沿岸などでの津波対策、博多港海岸などでの海岸環境整備事業等を推進している。
(2) 災害復旧事業の実施
 平成元年に発生した災害による港湾施設及び港湾内の海岸保全施設の被害額は、66億円で、その主なものは台風11号及び1月の冬期風浪によるものである。平成元年度に実施した災害復旧事業費は56億円であり、主な事業箇所は台風及び冬期風浪による被害を受けた北海道、新潟県、宮崎県などである。
 また、平成2年に発生した災害についての9月末までの被害報告額は、79億円で既に平成元年の被害額を上回っている。これは、特に台風14号及び台風19号により、各地で被害が発生したためである。




平成2年度

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