平成2年度 運輸白書

第2章 国際化の進展と運輸

第2章 国際化の進展と運輸

  

第1節 国際問題への取組

 最近の世界情勢を概観すると、米ソ両大国間の冷戦構造から緊張緩和へ、という大きな流れの中で、東欧諸国における社会主義政権の崩壊、ドイツの国家統一、朝鮮半島における対話の兆し等の変革が見られ、これに伴い、人的・物的にも新しい交流が始まろうとしている。また92年末を目標として作業が進められているECの域内市場統合や、GATTにおけるサービス分野の国際取引自由化の動き等が急速に具体化してきており、運輸の面でもこれらの新たな動きに適切に対処していく必要がある。
 さらに今回のイラクによるクウェート侵攻等有事の際には、航空輸送及び海上輸送を通じての平和維持活動に対する支援等、運輸の果たす役割は極めて大きいものとなっている。

 

    1 国際人流の変化への対応
    2 国際物流の変化への対応
    3 国際社会と調和した運輸行政の展開
      
      


1 国際人流の変化への対応
 運輸、通信手段の急速な発達により、財、サービス、技術等の国際取引や資本移動が世界的規模で活発化しており、我が国も産業、国民生活両面にわたり本格的な国際化時代を迎えている。このなかにあって、経済大国、技術大国となった我が国を中心とした国際的な人の流れがかつてないほど活発化している。これらの出入国旅客の大半は航空利用者であることから、国際航空路線網の充実及び国際空港の整備が最重要課題となっているが、近隣諸国との間では海上交通の重要性も急速に高まってきており、航空、海運を通じて相手国政府との一層積極的な交渉の推進が求められている。
 (国際航空路線網の充実)
 日本発着の国際航空路線の運航便数は、輸送需要の急増に伴い、年々大幅に増加しているが、2年においては、アシアナ航空(韓国)及びオリンピック航空(ギリシャ)が新たに日本乗り入れを開始し、また、新千歳、仙台、福岡及び鹿児島空港から計5つの新規路線が開設されたほか、多くの路線において輸送力の増強が行われている〔2−2−1表〕
 他方、現在多数の国々から増便又は新規路線開設の要望、航空協定締結の申入れがなされているが、我が国の基幹的な空港である成田及び大阪は、空港能力の制約があるため、これらの要望に対応することが困難となっている。今後とも空港整備の進捗状況を踏まえつつ、地方空港の国際化も含め、国際的な人の流れの変化に対応した路線網の充実を図っていく必要がある。
 また、我が国企業についても、全日本空輸が61年から国際定期路線を次々に開設し、日本エアシステムも63年7月に初の国際定期路線として東京−ソウル線を開設するなど、主要路線の複数社化、後発企業の新規路線開発等による国際航空路線網の充実が進められている。
 (国際海上交通網の充実)
 我が国と近隣諸国を結ぶ外航定期航路の旅客輸送実績は、平成元年には対前年比33.5%増となっており、近年着実な増加を続けている。このような状況を背景に元年に2航路が開設されたのに加え2年3月に神戸−天津航路が、4月に博多−麗水航路が開設され、現在、韓国、中国及び台湾との間に7つの外航定期航路が開設されているが、更に新航路の開設又は輸送力の増強のための準備が進められている。
 これら国際定期航路の開設については、必要に応じ政府間で協議を行い、両国の権益のバランスや既存航路との競合問題を検討するとともに、国際旅客輸送需要の増大等を踏まえ、安全運航の確保について一層十分な配慮が必要となっている。
 また、利用者等からの要望として、客船ターミナル施設の一層の整備・充実を求める声が多いほか、空港、鉄道等の交通網や他の観光施設に対する海上からのアクセス整備が未だ不充分と指摘されており、今後の外航客船需要の拡大に応じた適切な施設等の整備・充実が望まれる。
 (国際観光の振興)
 国際観光は、人的な国際交流の中でも国民各層が最も幅広く参加し、かつ、自らの体験を通じて国民相互が直接にその国を理解するものであることから、その振興を図ることは、国際交流の促進、国際相互理解の増進を図る上で最も効果的な手段である。
 日本人の海外旅行については、62年に「海外旅行倍増計画(テン・ミリオン計画)」を策定し、官民トップレベルから構成される「海外旅行促進ミッション」を各国に派遣する等、海外旅行促進のための施策を総合的、計画的に実施してきた。その結果、元年における海外旅行者数は、中国における天安門事件等の海外旅行阻害要因があったものの、対前年比14.7%増の966万人に達し、テン・ミリオン計画が目標としてきた1,000万人にあと一歩と迫っている。今後国民の余暇活動の充実、諸外国の経済振興等を含め海外旅行促進の意義はますます重要になっていくことから、3年春を目途に新たな政策パッケージ(ポスト・テン・ミリオン計画)を策定し、引き続き海外旅行促進施策の積極的推進を図ることとしている。
 他方、訪日外国人旅行者数も、284万人と史上最高を記録し、また対前年の伸率をみても20.4%と万国博覧会が開かれた45年以降最大のものとなっている。運輸省では、63年に策定した「90年代観光振興行動計画(TAP90's)」において、外国人の訪日の促進を重要な柱として位置付け、国際観光モデル地区構想の推進、コンベンションの誘致等の施策を総合的、計画的に実施している。

2 国際物流の変化への対応
 近年、我が国の産業構造の変化、内需拡大型経済の定着、国内企業の海外進出等、我が国を取り巻く貿易環境は急速に変化しつつあり、その結果、従来輸出中心であった我が国の輸出量が伸び悩む一方、製品や農産物を中心として輸入量が急増している。この傾向は今後とも継続するものと考えられ、輸入対応型の施策を推進していく必要があるほか、従来からの重要課題である物資の安定的輸送の確保のためにも、外航海運、国際航空貨物及び港湾整備の各分野において、国際交渉のあり方をも含め、適切な対応をとることが重要な課題となっている。
 (国際航空貨物増加への対応)
 輸出品の高付加価値化、製品・食料品輸入の拡大に伴う航空適合貨物の増大により国際航空貨物需要の伸びは著しく、国際航空の果たす役割は飛躍的に大きくなっている。一方、国際航空貨物は新東京国際空港に一極集中しており、増大する国際航空貨物需要への対応にとって同空港の容量制約は大きな問題となっている。流通インフラの早急な整備については日米構造問題協議の最終報告でも大きく取り上げられているように国際的な関心が極めて高く、国際航空貨物輸送の円滑化と利便性の向上を図ることは、我が国がその経済力に相応した責務を果たす上での最重要課題の一つとなっている。
 このため、新東京国際空港については貨物ターミナル地区・施設機能の見直し、整備を図り、また、関西国際空港については本格的24時間運用可能空港の特性を活かしつつ貨物ターミナル地区の充実を図るとともに、アジア地域との結びつきの強さを勘案して継越貨物の中継機能を充実させ、更にその他の地方空港については新東京国際空港等の負担の軽減を図るとともに地方経済の振興を図る観点からその国際化を図っていくことが必要である。
 (外航海運に係る二国間、多国間の交渉)
 我が国は従来より、海運自由の立場から、先進海運国と協調しながら、独自の海運政策をとる米国との政策調整、開発途上国の貨物留保政策への共同対応等の国際海運政策を推進してきた。しかし、近年欧州におけるEC統合、東欧圏の状況の変化や米ソの融和等の動きに見られるように、従来以上に国際関係が複雑化、高度化しており、我が国と先進各国との政策調整の必要性が増大することが予想される。
 このため、これまで以上にCSG、OECD海運委員会、UNCTAD海運委員会、IMO等の多国間交渉の場において、国際関係全体を踏まえた高い立場から我が国の海運政策を積極的に推進する必要がある。また、中国、韓国等の近隣諸国との間では、邦船社の活動の自由を確保するため、海運当局間協議を引き続き積極的に開催していく必要がある。
 (重要海峡等における円滑かつ安全な航行の確保)
 マラッカ・シンガポール海峡、ホルムズ海峡、パナマ運河等における我が国商船隊の安全航行は、我が国の資源輸入等貿易物資の輸送にとって極めて重要であるが、その殆どが、元年12月の米軍によるパナマ侵攻、2年8月のイラクのクウェート侵攻に見られるように局地的な武力紛争等により航行に支障が生じる事態となるような潜在的な危険性を秘めた地域となっている。また、近年の地球環境問題に対する世界的な関心の高まりの中で、船舶が大規模な油流出事故を惹起するような場合には、沿岸諸国の強い反発を受け、円滑な航行に影響を受けることも予想される。
 このため、我が国としては、我が国商船隊による安定輸送を確保することを目的として、平常より重要海峡等の関係諸国と航行援助施設の整備等の国際協力を通じて健全な運輸関係を築くとともに、緊急事態発生の場合には関係省庁との調整を踏まえ、関係各国当局に対し安全航行を確保するための働きかけを行う必要がある。
 (国際複合一貫輸送の一層の促進のための障害の除去)
 国際複合一貫輸送の今後の一層の進展を図るためには、外航海運、国際航空といった基幹輸送部分だけではなく、外国の港湾、空港と受荷主の戸口との間の外国における国内輸送部分にも着目せざるをえないが、この部分は諸外国の運輸政策に直接左右されるものであるため、これに対する我が国政府としての対応のあり方を決定し、諸外国との交渉を円滑に進めていく必要がある。
 (核物質輸送に係る安全の確保)
 原子力開発利用の進展に伴い、使用済核燃料を始めとする放射性物質の国際輸送の機会が増大しており、核物質の盗取や事故による災害等を防止するための防護対策等を適切に講じていくことが重要となっている。特に、プルトニウム海上輸送は、英国又はフランスから日本まで無寄港で行われることとなっているが、テロリストによるプルトニウム奪取を目的とした攻撃等が想定されるため、万全の体制で護衛を実施する必要がある。このため、海上保安庁では、元年度から護衛巡視船の建造を開始するとともに、輸送船の護衛に当たっては、輸送船に武装海上保安官を乗船させる等万全の防護対策を講じることとし、4年秋の護衛実施に向け、所要の準備を進めているところである。

3 国際社会と調和した運輸行政の展開
 我が国の経常収支の不均衡は着実に是正されつつあるものの依然多額なものであり、このような不均衡を背景として各国との間で経済摩擦が数多く生じている。世界の自由貿易体制からの受益が最も大きく、今後とも各国との相互依存の中で生きていくことを余儀なくされる日本としては、その政策運営について自国の独自性のみを主張することは許されず、運輸関係分野においても各国と歩調を合わせながら市場開放、規制の緩和等に努めなければならないが、その際も、諸外国の要求に十分耳を傾けつつ、場合によっては我が国の立場や規制・政府助成等の合理性を明確に説明し、あるいは逆に諸外国の不合理な制度に対して是正を求める、といった態度が必要になっている。
 (日米構造問題協議における議論)
 平成元年7月の日米両国首脳共同発表を受け、両国間の貿易と国際収支の調整上障壁となっていると考えられる構造問題を互いに指摘し合い、それぞれ自ら改善すべき問題に取り組むことを目的とした日米構造問題協議は、約1年間にわたり5回の協議を行った結果、本年6月に最終報告がとりまとめられた。報告書の中では、平成3年度を初年度とする空港、港湾の整備5か年計画について、積極的かつ具体的な整備目標のもとで現行規模を上回る計画を策定することとされており、輸入急増に対応した輸入インフラの整備という観点からも空港、港湾の重点的整備が求められている。また同報告書の内容には、大深度地下利用についての積極的な検討、大都市地域における宅地開発と鉄道整備の一体的推進等も含まれており、これらの事項について運輸省としても今後、着実に実施していく必要がある。
 (大型公共事業への外国企業参入問題)
 我が国の建設市場への外国企業の参入問題に関しては、約2年間の協議の後、昭和63年5月、日米両政府間で意見の一致が見られ、我が国政府のとるべき措置が閣議了解されるとともに、米国に対し書簡にて通報が行われた。
 本措置は、関西国際空港プロジェクトなどの3プロジェクトに関し、62年11月に米側に通報した措置を見守るとともに、我が国の公共事業の調達制度に外国企業が習熟することを目的として7つの特定大型公共事業プロジェクトについて特例措置を実施し、また、これらプロジェクトに関連する特定の民間及び第三セクターの事業主体に対し、内外無差別の調達方針をとるよう、我が国が勧奨を行うものである。
 運輸省所管プロジェクトにおいても、閣議了解に基づく措置を誠実かつ着実に実施しており、実績についてみると、関西国際空港関係の空港総合通信システムの設計業務、横浜みなとみらい21の国際会議場・ホテル棟建設エ事、東京国際空港(羽田)西側旅客ターミナルビルの建設工事や搭乗橋等の物品調達、テクノポート大阪のワールドトレードセンターのビルの設計業務などに外国企業の参入が進んでいる。
 閣議了解後、2年間が経過したため、閣議了解に基づき、本措置が所期の目的に役立っているか否かを検討するレビュー会合が本年5月から11月現在までに計3回日米両政府間で行われている。
 (自動車基準・認証制度の国際化の推進)
 我が国は、自動車基準・認証について、従来より諸外国関係者の意見等を踏まえアクション・プログラムに基づく措置をすべて実施するなど種々の措置を講じてきている。その成果もあり、我が国の輸入乗用車の登録台数は年々大幅に増加してきている〔2−2−2図〕
 しかしながら、我が国の自動車輸出入台数には依然として大幅な不均衡が残っており、これを背景として、欧米諸国は我が国に市場アクセスの一層の改善を求めてきている。このため、本年5月にEC側の要請を受けて日・EC自動車基準認証専門家会合を東京で開催する等外国政府機関等との意見交換を行うほか、基準の国際的調和活動が行われている国連欧州経済委員会(ECE)の自動車安全公害専門家会議(WP29)に積極的に参加し、基準の一層の国際化を図っているところである。
 さらに、政府の諸活動を支援するために設立された自動車基準認証国際化研究センター(JASIC)を活用し、国からの補助金等により、元年12月に「自動車の衝突安全基準に関する国際会議」を東京で開催するなど基準の国際化に貢献するための活動を行っている。
 (造船助成削減問題への取組)
 平成元年6月、米国造船業界が我が国を含む4ケ国の造船助成政策に関して通商法第301条に基づく提訴を行った問題については、OECD造船部会の場を通じて、主要造船政策の相互理解及び競争を歪曲する助成の削減に取り組むことにより、多国間における問題解決が図られている。同部会においては、造船分野における従来の取決めに替えてより実行性の高い新たな協定を、GATTとは別に策定する方向で協議が進められており、政府助成削減に関する個別産業的なアプローチとして注目されている。これらの取組みにおいて、我が国は、従来から国際的な取決めの枠内で政策運営を行ってきた点について各国の正しい理解を求めるとともに、米国とともに新たな協定の策定に積極的に参画し、造船分野における競争条件の正常化のために世界一の造船国としての責務を果たしているところである。
 (GATTウルグアイ・ラウンドへの取組)
 ガットにおいては、従来、関税引き下げを中心とした多角的貿易交渉を実施してきたが、61年9月より開始されたウルグアイ・ラウンドでは、従来からの物の貿易に係る分野に加えて、新たにサービス取引の分野をも取り上げている。近年経済活動におけるサービスの果たす役割が極めて重要なものとなっていることから、サービス取引においても物の貿易と同様に白由化の枠組みについて国際的な合意を確立する必要があるとの考え方が強まったことに基づくものである。
 このサービス取引交渉(GNS)においては、各国の法令等の透明性の確保、最恵国待遇の付与、紛争処理手続等を内容とする枠組協定と、各サービスセクターにおける特殊性に配慮した枠組協定の例外等を規定するセクター別附則を中心に活発な議論が行われている。
 各国の運輸に関する規制の緩和も、サービスに係る国際取引自由化の重要課題として取り上げられているが、民間航空分野における二国間航空協定の取扱、海運分野における沿岸輸送(カボタージュ)の自国民への留保等、枠組協定の適用について特殊な配慮を要する分野があることから、その内容如何によっては我が国の運輸事業のあり方に大きな影響を与えることとなるため、これらの点にも留意しつつ、このサービス取引交渉に的確に対応していく必要がある。




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