平成2年度 運輸白書

第2章 国際化の進展と運輸

第2節 国際社会への貢献

    1 経済協力の拡充
    2 国際科学技術協力


1 経済協力の拡充
(1) 運輸分野経済協力の動向
 鉄道、港湾、空港等の輸送基盤施設は、物流、人流の要として開発途上国の経済発展の上で欠くことのできないものであり、このため、我が国の有償資金協力においても、運輸関係分野はプロジェクト借款(開発事業計画の実施に必要な資機材及び役務を調達するための借款)全体の約2割という大きな割合を占めている〔2−2−3図〕。また、開発途上国のプロジェクトについて開発基本構想(マスタープラン)を作成するための調査又は、個別のプロジェクトの実現可能性を検討するための調査(フィージビリティ・スタディ)を行う開発調査についても、運輸分野に関する協力要請は多く、全開発調査案件の約2割を占めている。
 加えて、最近は、既存施設の近代化、効率化等に対する協力や施設の管理・運営等ソフト面での協力の要請も多くなり、また、観光や気象等の協力要請が増加するなど協力分野も多様化している。
 国際社会に対する積極的貢献が我が国の果たすべき重要な責務となっている現在、開発途上国の協力ニーズを的確に把握し、その要請に応え、今後も開発途上国に対する運輸分野経済協力を一層推進して行くことが必要である。
(ア) 資金協力
 元年度は、ブラジルのサントス港開発計画、マレイシアの国鉄整備計画、フィリピンの気象通信網整備事業等18件に対し総額1,714億円に及ぶ円借款の交換公文が締結された。また、無償資金協力としては、ヴァヌアツのバウアフィールド国際空港ターミナルビル建設計画、マダガスカルの輸送力増強計画、西サモアのアピア港整備計画等12件に対し総額89億円の供与の交換公文が締結された。
(イ) 技術協力〔2−2−4図〕
 元年度は、マレイシアのクランバレー地域鉄道改良計画調査、インドネシアの地方空港整備計画調査、インドのニューマンガロール港改良計画調査等合計41件について国際協力事業団を通じて開発調査を行った。
 また、同事業団を通じ、35の国及び5つの国際機関に対し長期120名、短期174名の専門家を派遣し、59の国及び地域から362名(他省庁所管の研修員の受入れを一部含む。)の研修員を受け入れるとともに、開発途上国の人材育成に寄与するため、アルゼンティンの国鉄中央研修センター等5件のプロジェクト方式技術協力(注1)を実施した。
 さらに、元年度は、既に我が国の経済協力等により供与された鉄道車両やバスの維持・保守について、我が国の専門家チームが現場指導を通じて技術移転を行い、車両等の有効利用、再活性化を図る、いわゆるリハビリテーション協力をインドネシア(鉄道車両)及びフィリピン(バス)において引き続き実施するとともに、2年度からボリビア(鉄道車両)において開始した。リハビリテーション協力は開発途上国に対する援助効果の向上に大きく寄与するものであり、積極的に推進していく必要がある。

(注1) プロジェクト方式技術協力は、国際協力事業団が実施している技術協力の専門家派遣、研修員受入れ、機材供与という3つの形態をひとつのプロジェクトとして総合し、一貫して計画的、かつ総合的に運営、実施する協力形態で、日本政府と開発途上国政府との共同事業として実施される。
 運輸部門では、鉄道学院、航海訓練センター、港湾水理センター等の事業がある。

(2) 効果的な運輸分野経済協力の推進
(ア) 開発途上国のニーズに見合った経済協力の推進〔2−2−5表〕
 開発途上国側のニーズに見合った経済協力を実施するためには、開発途上国における運輸分野の現状を把握し、優良プロジェクトの発掘を行うことが必要である。また、開発途上国によっては、その国が抱えている運輸分野の問題点を認識しながらも、協力案件に結びつけられないでいる場合があり、プロジェクトの形成促進を図っていく必要がある。このため、運輸省では、民間が行うプロジェクト発掘・形成を積極的に支援している。また、主要援助対象国についてその実情に合致した、整合性のとれた運輸分野協力の推進を図る観点から2年度は、広大な国土と人口を有し、経済成長を実現するに当たって、運輸関係社会基盤整備の果たす役割の大きいインドにおいて、運輸インフラ等の整備計画、運輸事情等の基本的な情報を収集・分析し、インドに対する運輸分野経済協力の方向付けを行うための調査を行っている。
 さらに、相手国の実情及び我が国との二国間関係を十分踏まえて、協力を効果的かつ円滑に推進するため、運輸省では、開発途上国からの要人の招へい等を通じて意見交換、情報収集を積極的に推進しているほか、新たに2年度から開発途上国の船員養成に協力・貢献するため、我が国において乗船研修等を実施する開発途上国船員養成事業を開始した。
(イ) 国際観光開発総合支援構想(ホリディ・ビレッジ構想)の推進〔2−2−6図〕
 近年、開発途上国においては、外貨獲得、雇用の増大等の観点から、国際的な観光地(観光拠点)の整備に対する熱意が高まっている。
 しかしながら開発途上国においては、インフラストラクチャーの未整備、ノウ・ハウの不足、民間資金の不足等が観光開発のネックになっていることが多く、また、無秩序な観光開発に対する不安も生じつつある。
 このような背景を踏まえて、運輸省は平成元年にホリディ・ビレッジ構想を策定し、開発途上国における観光開発を積極的に推進していくこととした。
 この構想は、開発途上国における国際的な観光地の計画的整備を支援するため、国際協力事業団によるマスタープラン作成、専門家派遣、研修員受入れ等の技術協力、海外経済協力基金による観光関連インフラストラクチャーの整備に対する資金協力、ホテル、レクリエーション施設等いわゆるスーパーストラクチャーの整備に対する民間の資金及びノウ・ハウの活用等を組み合わせて総合的な協力を行おうとするものである。2年度においては、この構想の推進のため、タイ、インドネシア、フィジー等へ調査団を派遣し、それぞれの国における総合的な観光開発の方策に関する提言をするための調査を行っている。
 このほか、開発途上国における観光開発に関する情報を収集するため、2年度においては、東欧諸国、北アフリカ諸国等へ調査団を派遣した。
(ウ) 輸送安全対策協力
 開発途上国における鉄道、海運等輸送機関に係る大事故の発生に鑑み、輸送の安全性の向上策をハード・ソフト両面にわたり検討し提言するため、2年度は鉄道、航空、海運の3分野について、バングラデシュ、フィリピン、インドネシアにおいて、調査を行っている。
(エ) 経済協力に関する啓蒙
 運輸省は10月6日の「国際協力の日」の行事として、運輸経済協力の中でも重要な分野の一つである都市交通について、今後の経済協力のあり方を探るため、インドネシア、タイ等から都市交通関係の要人を招へいし、東京において平成2年10月2〜5日の日程で国際シンポジウム「都市交通と国際協力」を世界銀行と共同で開催し、各国の都市交通分野における現状と問題点及び我が国の国際協力のあり方について活発な意見交換を行った。
(オ) 国際協力小委員会の設置
 運輸分野国際協力の一層効果的な推進方策を明らかにするため、平成2年1月、運輸政策審議会国際部会に国際協力小委員会を設置し、「運輸関係国際協力の今後のあり方と効果的な進め方」をテーマに審議を進めている。
(3) アジア・太平洋地域における経済協力をめぐる動き
 近年、アジア太平洋地域においては、アジアNIEs及びASEANを中心として急速な経済発展が進み、今後世界経済の成長センターとしての役割を担うことが期待されている。このような情勢を踏まえ、地域内諸国の経済協力を推進するためのフォーラムとしてアジア太平洋経済協力閣僚会議(APEC)注2)、太平洋経済協力会議(PECC)注3)等が創設され、活動を開始している。運輸省としては、当地域の経済成長を促進し、人流、物流の活性化を図るためには、域内開発途上国における港湾、空港等輸送インフラストラクチャーの適切な整備及び観光の振興が急務との認識のもと、これらのフォーラムにおける検討を通じ、域内開発途上国の輸送インフラストラクチャーの整備及び観光開発の促進に協力していくこととしている。

注2)アジア太平洋経済協力閣僚会議(APEC)は、オーストラリアのホーク首相がアジア太平洋地域の経済問題に関し、閣僚会議を含むより制度的な協議システムの創設を提唱したことに端を発し、平成元年11月に第一回、2年7月に第二回の閣僚会議が開催された。現在、APECは、我が国をはじめ蒙、米、加、Nz、韓国、ASEAN諸国の12か国により構成され、太平洋経済協力会議(PECC)等がオブザーバーとして参加している。

注3)太平洋経済協力会議(PECC)は、1980年1月に故大平首相が訪豪した際のフレーザー首相との合意に基づき、同年9月に結成された。性格としては、官・財・学の3者構成による国際フォーラムである。現在、PECCは、我が国をはじめ米、加、豪、中、韓など13か国2地域から構成されている。
 昭和63年5月のPECC大阪総会において、「運輸・通信・観光」(Triple-T)のテーマについて我が国が幹事国となり、63年6月以降、太平洋地域における運輸、観光、通信の現状及び将来の姿、地域の発展への寄与等に関する検討を開始した。

(4) 気象に係る国際協力
 我が国は、国際連合の専門機関である世界気象機関(WMO)の主要な構成員として、静止気象衛星「ひまわり」による気象観測、東アジア地区の気象解析予報中枢・気象通信中枢の運用等世界の気象情報サービスの中核のひとつとしての役割を果たすとともに、WMOの推進する気象観測網の整備拡充や予報技術の開発活動にも積極的に参加している。
 また、気象庁では、開発途上国の気象事業の発展を支援するため、WMOや国際協力事業団(JICA)との協力のもとに、研修員の受入れや専門家派遣を通して途上国への技術移転活動を行っているほか、政府開発援助(ODA)による気象業務基盤整備(平成2年度には、気象レーダー(パキスタン)及び気象通信網(フィリピン))に際しての技術的な助言や専門家派遣を実施している。
 さらに、東アジア地域における台風災害の軽減に資するため、気象庁は「太平洋台風センター」の情報提供機能の拡充を続けるとともに、平成2年8〜9月の台風特別実験(SPECTRUM)では、その実験センターとして重要な役割を果たした。これらの活動は、国連による「国際防災の10年」の推進にも大きく貢献するものである。
 一方、人類共通の課題である地球環境問題に対しては、気象庁はWMOと国連環境計画(UNEP)が設置した「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の活動に参加し、その報告書(平成2年10月開催の第2回世界気候会議に提出)の作成に際しては、気候変動予測等の科学的知見の取りまとめに大きく貢献した。
 このほか、気象庁では、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)が推進する全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)による海洋データの即時交換、また、国際測地学・地球物理学連合(IUGG)が設置した国際地震センターを通じた地震観測データや情報の交換を行うなど関連国際機関の活動にも積極的に参加協力している。

2 国際科学技術協力
(1) 運輸省における国際科学技術協力への取り組み
 近年、著しく国際的地位の高まった我が国は、科学技術分野においても、従来の欧米諸国の研究成果の吸収・応用型から、世界に貢献できる科学技術の創造型へと変換が迫られている。一方、科学技術協力についても、そのあり方の見直しや強化等多様な要請を受けており、昭和63年6月には新たな日米科学技術協力協定、10月には日伊科学技術協力協定を締結し、積極的に科学技術協力関係の強化に取り組んでいる。
 船舶の安全性、航空保安システム、気象サービス等の運輸関係の技術は、世界中で使用されているため、技術開発の成果が国際基準や国際ネットワ一クの中に反映されることが多く、国際的な研究協力の意義が非常に大きな分野であり、我が国においては、鉄道、船舶、気象関係等の優れた技術において世界に大きく貢献することが期待されている。このため、運輸省においては、所掌する各分野について、情報交換、専門家交流、共同研究等の国際的な科学技術協力を積極的に進めている。
 また、今後の国際科学技術協力推進のためには、協力案件の増加のみならずその質的な充実を図っていくことが重要と考えており、運輸省では平成2年度に、国際共同研究のプロジェクトとして、科学技術庁の個別重要国際共同研究の制度を利用して、海上保安関係を2件それぞれ米国及び韓国と、船舶関係を2件それぞれ米国及びノルウェーと共同研究を実施している。
 また、研究者の交流を促進するために昭和63年度に科学技術庁に創設された国際流動基礎研究の制度を利用して、昨年度に引き続き気象庁を中心として米国, 豪、西独との共同研究を行っているのに加え、今年新たに船舶技術研究所を中心に自由表面における物質等移動機構に関する研究を開始した。
 現在、運輸省が関係している国際科学技術協力の案件は年々増加しており、14か国、86テーマ(平成元年度末)に及んでいる。
(2) 運輸省における各分野毎の国際科学技術協力活動
(ア) 自動車、鉄道関係
 自動車の排出ガスの計測方法並びに低減技術等の公害対策に関して米国及び西独、常電導磁気浮上式鉄道について西独、超電導磁気浮上式鉄道についてカナダとそれぞれ情報交換を行っている。
(イ)船舶関係
 「天然資源の開発利用に関する日米会議(UJNR)」の海洋構造物専門部会において、日米の海洋開発の現状及び21世紀に向けての船舶技術に関連した天然資源開発用海洋構造物、環境保全技術、先端船舶技術、沖合・水中技術、沿岸海洋空間利用及び海洋観測システム等の課題について情報交換を行っており、平成3年5月には合同部会が日本において開催される予定である。
 また、今年度からノルウェーと船舶・海洋構造物の安全性について、更に、米国と知能化船のシステム設計等についての共同研究を予定している。一方、スウェーデンと船舶工学における水流体運動の数値シュミレーションについて、新たに意見交換を行うこととしている。
(ウ) 港湾関係
 港湾、航路、漁港及び沿岸域の開発・管理に係る技術に関する国際機関である「国際航路会議協会(PIANC)」の総会として第27回国際航路会議が平成2年5月にアジアで初めて大阪市で開催され、種々の情報交換がなされたほか、我が国における特徴ある港湾技術の紹介がなされた。
 また、UJNRにおいて海洋構造物専門部会、強風・耐震構造専門部会、海洋鉱物資源専門部会で、港湾等に関する活発な情報交換を行っている。
 また、カナダとの「港湾沿岸工学」分野における協力、西独、仏等との港湾海洋構造物にかかる情報交換、米国との「日米有害底質の処理処分に関する専門家会議」の開催、西独、豪等との港湾・海洋の汚染の防止・浄化等に関する情報交換、その他カナダ、ASEAN、中国、韓国等との港湾工学関係の協力を行っている。
(エ) 航空関係
 米国とMLS(マイクロ波着陸システム)、航空衛星の利用、洋上管制ルートの改善等航空保安システム技術に係る協力を毎年交互に会議を開催して行っている。
(オ) 海上保安関係
 UJNRの海底調査専門部会の開催を日米交互に行っている。
 また、海洋測地に関して人工衛星レーザー測距による測地の研究を米、仏、中国等と、海洋及び海底地形等に係るデータ交換に関する協力を米、仏、西独、カナダ、豪、スウェーデン、ノルウェー等と、海洋汚染に係る協力を中国、韓国とそれぞれ行っている他、中国国家海洋局との日中黒潮共同調査、米国とのオホーツク海日米共同観測等を行っている。
(カ) 気象関係
 気象庁では、二国間科学技術協力協定等の国際協力体制のもとで、気候変動、衛星気象学、天気予報、海洋環境、地震・火山等の各分野にわたり、米国、カナダ、中国など13か国及びECとの間で、延べ47件(平成2年4月現在)の科学技術協力を実施し、情報交換や専門家の交流を推進している。




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