平成2年度 運輸白書

第2章 順調な進展を見せる国鉄改革

第2節 国鉄改革の総仕上げに向けて

 国鉄改革は、破綻に瀕している国鉄を交通市場の中での激しい競争に耐え得る事業体に変革し、国民生活充実のための重要な手段としての鉄道の役割と責任を十分に果たすことができるよう国鉄事業を再生させるという意義を有しており、昭和62年4月1日に、国鉄の経営形態を改め分割・民営化することを基本とし、あわせて、国鉄長期債務等について適切な処理を行い、過剰な要員体制を改め、健全な事業体としての経営基盤を確立した上で、国鉄事業を再出発させることを骨子とする改革案が実行に移された。
 この節では、国鉄長期債務等の処理、清算事業団職員の再就職対策の状況等についてみていくことにし、最後に、長期債務の変動状況からみた国鉄改革の推進状況に触れた上で、国鉄改革の総仕上げに向けた今後の課題について考えてみたい。

    1 国鉄長期債務等の処理
    2 新幹線鉄道保有機構の状況
    3 日本鉄道共済年金問題の状況
    4 清算事業団職員の再就職促進対策の終了
    5 特定地方交通線の転換の完了
    6 国鉄改革の一層の推進・定着化に向けて


1 国鉄長期債務等の処理
(1) 国鉄長期債務等の処理の基本方針
 日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)に帰属した国鉄長期債務等(62年度首25.5兆円)の処理は、国鉄改革に残された最重要課題の一つであり、63年1月26日に閣議決定された「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する基本方針について」に従い進めてきたところであるが、事業団の土地の処分が地価対策との関係もあり進んでいないことなどにより、事業団の処理すべき債務等の累増が避けられない状況になっていることにかんがみ、債務等の本格的な処理の早期実現を図るため、債務処理の主たる財源である事業団用地、JR株式の処分方針を中心とする「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する具体的処理方針について」(以下「具体的処理方針」という。)を平成元年12月19日に閣議決定した。
 今後、この具体的処理方針に従い、新たな土地処分の方法の実施等による土地処分収入の拡大、効果的なJR株式の処分を図ることにより、債務等の本格的な処理の早期実現を図ることとしている。
(2) 事業団用地の処分
(ア) 事業団用地の処分の現状
 用地処分については、公正さの確保及び国民負担の軽減の観点から一般競争入札を原則としているが、一般競争入札については、「緊急土地対策要綱」(昭和62年10月16日閣議決定)に基づき、地価高騰地域において見合わせてきたが、「国鉄清算事業団用地等の一般競争入札による処分について」(平成元年2月10日土地対策関係閣僚会議申合せ)により個別用地ごとに関係者間で地価に悪影響を与えないと判断されるものについて、一般競争入札を実施していく旨の申合せがなされた。しかし、元年度の土地処分収入をみると、予算で見込んだ3,500億円に対し、実績では、一般競争入札369億円、随意契約2,122億円の合計2,491億円(償却資産処分収入277億円を含めた固定資産処分収入は2,768億円)となっており、一般競争入札による処分は依然として進んでいない。
 貨物ヤード跡地等の大規模用地については、地域整備にも配慮して関係地方公共団体の参加も得ながら事業団の資産処分審議会において土地利用に関する計画を策定し、必要な基盤整備を行い資産価値を高めた上で処分することとしている。平成2年10月1日までに全国51か所について計画の策定が諮問され、汐留(東京都)等25地区について計画が策定されている。
(イ) 具体的処理方針に基づく事業団用地の処分の実施
 事業団の用地の処分については、具体的処理方針に従い、次のとおり、その処分の推進や制度の具体化を進めて、平成9年度までにその実質的な処分を終了することとしている。
(a) 一般競争入札については、「緊急土地対策要綱」及び「国鉄清算事業団用地等の一般競争入札による処分について」に従い、地価対策に配慮しつつその拡大に努めることとしている。
(b) 地方公共団体等との随意契約による処分については、住宅地の供給、公共施設の整備の促進等地域整備の多様なニーズを踏まえ用地処分を促進する観点から、その拡大を図ることとしている。このため、地方公共団体に対する随意契約の要件緩和、個人向けの住宅地について公募・抽選方式による処分を実施するため、日本国有鉄道清算事業団法施行規則の一部改正等を2年9月に行った。
(c) 「地価を顕在化させない処分方法」のうち、既に具体化している土地信託方式及び建物付土地売却方式による処分については、積極的に拡大することとしている。土地信託方式については、元年12月及び2年2月に渋谷駅及び蒲田駅について土地信託契約を締結、2年7月に池袋駅及び川崎駅について受託者を決定、現在、国分寺駅及び神戸駅について提案協議を実施し、高槻駅について提案協議の手続に付しているところである。また、建物付土地売却方式については、横浜宿泊所等16か所を対象として所要の建物建設費が2年度予算に計上されているところである。
(d) 「地価を顕在化させない処分方法」のうち、出資会社活用方式については、不動産変換ロ一ン方式を2年度において実施することとしており、その実施主体たる出資会社(レールシティ東開発(株)、レールシティ西開発(株))を2年4月に設立し、その他所要の措置を講じ、2年10月4日、その第1号である新宿南(中央病院跡地)について基本計画を発表し、募集公告を行ったところである。
 株式変換予約権付事業団債方式については、汐留等極めて資産価値が高く一体的開発を必要とする用地について、3年度以降実施する方向で引き続き検討を進めているところである。
(3) JR株式の処分
 JR株式の処分については、具体的処理方針において、遅くとも3年度には処分を開始する方向で早急に多角的視点からの検討・準備を行う旨定められているが、JR株式の処分はJRの事業運営と密接に関係し、かつ、国鉄改革の重要な局面であるので、JR株式の上場・売却に関する基本的問題について運輸省としての指針を得るため、各分野の有識者と意見交換を行うこととし、運輸大臣の懇談会として「JR株式基本問題検討懇談会」を2年3月より開催している。
(4) 国鉄長期債務等の処理の状況
 元年度は、2年度から年金の新規負担が追加されることもあって債務等が累増する勢いにあることを踏まえ、債務等の累増を防止するため、土地処分収入の確保に努めるとともに、元年度補正予算において4,500億円の補助金が計上された。これらの対策にもかかわらず、年金等の将来発生する債務を含めると事業団の全体債務は、利払い費用の増加もあって前年度末より約0.2兆円増加して、約27.1兆円となっている。
 2年度においては、不動産変換ローン方式の実施等による用地処分の拡大により土地処分収入1兆円を確保するほか、政府が帝都高速度交通営団に対する事業団の持分の全部を譲り受けるとともに、当該持分の適正な価額に相当する額(9,372億円)の事業団の有利子の債務を一般会計において承継することとする等の措置(「日本国有鉄道清算事業団の債務の負担の軽減を図るために平成2年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律」2年6月制定)を講じ、事業団の債務負担の軽減を図ることとしたところである。これらの施策の結果、事業団の全体債務は2年度末には約26.2兆円と初めて減少に転ずる見込みである。

2 新幹線鉄道保有機構の状況
 新幹線鉄道保有機構(以下「保有機構」という。)は、新幹線鉄道の施設の一括保有及び貸付けに関する業務を行っているが、元年度の業務運営の状況については、新幹線鉄道施設貸付収入7,280億円を含め収入が7,316億円、借入金利息支払等費用が7,159億円であり、差引き156億円の当期利益を生じている。当期利益は、積立金として処理されている。また、元年度末における資産総額は8兆3,181億円、負債総額は8兆2,912億円となった。
 なお、保有機構は、元年度より当分の間整備新幹線建設の財源として日本鉄道建設公団に対する交付金の交付業務を行うことになっている。

3 日本鉄道共済年金問題の状況
 日本鉄道共済年金は、極めて厳しい財政状況にあるが、元年度までは、国家公務員共済、日本たばこ産業共済及び日本電信電話共済の3共済の拠出による財政調整事業の実施に加え、過去の追加費用の見直し等により年金の支払に支障が生ずることのないよう措置されてきた。
 大幅な財政赤字が見込まれる2年度以降の対策については、大蔵大臣、運輸大臣、年金問題担当大臣及び内閣官房長官の4大臣で構成する「日本鉄道共済年金問題に関する閣僚懇談会」において、各界の有識者からなる「鉄道共済年金問題懇談会」(大来佐武郎座長)の報告書(昭和63年10月)の趣旨を最大限尊重しつつ鋭意検討を行い、平成元年2月に、年金給付の見直し、保険料率の引上げ、JR・事業団の特別負担など日本鉄道共済年金の自助努力等の措置を講ずることとし、3月に所要の法律案が国会に提出された。
 一方、本問題とは別に、「公的年金制度に関する関係閣僚懇談会」の指示の下に関係省庁間で、公的年金一元化へ向けての「地ならし」措置について検討が進められてきたが、元年2月に、被用者年金制度間の費用負担の調整措置を2年度から実施する旨が合意され、4月にこの措置に関する法律案が国会に提出された。
 これらの法律案は、一部修正の上元年12月に成立し、所要の措置が講じられている。

4 清算事業団職員の再就職促進対策の終了
 政府は、国鉄改革に残された最重要課題の一つである事業団職員の再就職の促進を図るため、昭和62年6月5日こ「日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法」(以下「再就職促進法」という。)に基づき「日本国有鉄道清算事業団職員の再就職促進基本計画について」を閣議決定した。この再就職促進基本計画に沿って、各分野における再就職の機会の確保、個々の職員の希望、能力等を踏まえ、再就職に必要な教育訓練、個別求人開拓、職業紹介等の再就職対策がきめ細かく実施された。
 さらに、再就職対策が最終段階を迎えた平成元年11月21日に、内閣総理大臣を本部長、運輸大臣他4大臣を副本部長とする国鉄清算事業団職員雇用対策本部において「今後の日本国有鉄道清算事業団職員の再就職対策の取組みについて」を決定した。この決定に沿って、再就職先未定者が集中している北海道及び九州の職員を対象とした再々度の承継法人の広域追加採用を実施したほか、再就職先未定の職員を大幅に上回る各分野における再就職先を確保してこれらを再就職先未定の職員に提示して決断を促すなど関係者が全力を挙げて再就職の促進に努めてきたが、再就職促進法が2年4月1日限りで失効したことに伴い同日をもって再就職対策は終了した。
 再就職促進法の失効に伴い、1,047人が解雇されたが、事業団移行時の昭和62年4月1日には18,877人であった再就職を必要とする職員のうち、17,830人が再就職等により平成2年4月1日までに退職した。

5 特定地方交通線の転換の完了〔2−3−4表〕
 輸送密度が少なく、バス輸送に転換することが適切な路線である特定地方交通線については、昭和55年末に制定された日本国有鉄道経営再建促進特別措置法に基づいてバス等への転換を進めてきた。
 62年4月1日の国鉄の分割・民営化以後においても、旅客会社が将来にわたりその事業を健全に経営しうる基盤を整備するため、また、地域にとってより適切な交通体系を構築するため、分割・民営化時までに廃止・転換の完了しなかった30線約1,438kmの特定地方交通線について、引き続き日本国有鉄道改革法等施行法に定める経過措置に基づき、従来の特定地方交通線対策を進めてきた。
 こうして、58年の白糠線のバス転換を最初とする特定地方交通線83線の転換対策は、平成2年4月1日、最後の転換線となった3線(鍛冶屋、大社、宮津線)が転換したことにより、約10年の年月を経て全て完了した。
 この結果、特定地方交通線83線のうち、45線1,846.5kmはバス輸送に転換し、38線1,310.7kmは第三セクター等の鉄道輸送に転換した。
6 国鉄改革の一層の推進・定着化に向けて
(1) 長期債務の変動からみる国鉄改革の推進状況
 各法人の長期債務の変動状況については、〔2−3−5図〕のとおりである。
 承継法人の長期債務についてみると、JR各社(日本テレコム(株)、鉄道情報システム(株)を含む。)の長期債務については、元年度末には、東海会社において昭和63年度末と比較して約260億円の増加をみたほか、貨物会社においても若干の増加をみたものの、各社合計で約3.7兆円となり、63年度末の約3.9兆円と比較して約2,000億円、62年度首に各社が承継した約4.8億円と比較すると約1兆1,000億円減少した。また、保有機構の長期債務については、平成元年度末には保有機構が事業団に対し負担している約2.0兆円を含めて約8.2兆円となり、昭和63年度末の約8.3兆円と比較して約1,000億円、62年度首に承継した約8.6兆円と比較すると約4,000億円減少した。したがって、承継法人の長期債務については、合計で平成元年度末には昭和63年度末と比較して約3,000億円、62年度首と比較すると約1兆5,000億円減少したことになる。
 事業団については、平成元年度末の長期債務は約22.1兆円となり、昭和63年度末の約22.2兆円と比較すると約0.1兆円減少したものの、62年度首に承継した約18.1兆円と比較して約4.0兆円増加したことになる。なお、年金等の将来発生する債務を含めると全体債務は約27.1兆円となる。
(2) 国鉄改革の総仕上げに向けて
 以上みてきたように、国鉄改革の推進状況は、JRの収支の状況の面ではおおむね順調であり、この点では国鉄改革は順調に進んでいるものと考えられる。しかし、国鉄改革の総仕上げを達成するためには、国鉄長期債務等の処理をはじめ、JRの完全民営化の実現、さらには将来も鉄道事業が健全経営を成していくための鉄道の近代化・高速化等の課題に今後とも引き続き取り組んでいく必要がある。
 まず、事業団の長期債務については、地価を顕在化させない処分方法等により土地処分の促進及びJR株式の早期かつ効果的な処分により債務等の本格的な処理の早期実現を目指し、最終的な国民負担を極力なくす必要がある。
 次に、JR各社については、積極的な営業展開による営業収入の増加等の結果、前年度に引き続き、全体としてみれば好調な決算内容が得られるなど、おおむね着実に経営基盤の強化が図られてきている。事業団が保有するJR株式については、国鉄改革の趣旨を踏まえ、具体的処理方針に基づいて遅くとも平成3年度にはその処分を開始する方向で検討・準備を行うこととされている。このため、株式の上場・売却に向けて、関係各社の経営基盤・財務体質の一層の強化、投資家保護のための経営内容のディスクロージャー等所要の体制整備を講ずることが必要である。
 また、鉄道を取り巻く環境についてみると、21世紀を間近に控えた今日、空港・高速道路網の整備が進展する中で、豊かさを実感できる経済社会の実現に向けて、新幹線鉄道をはじめとする幹線鉄道の近代化・高速化を強力に推進していくことが必要であるが、JR各社としてはこれらに適切に対応するとともに、通勤・通学対策及び安全対策等の設備投資を積極的に行うことにより輸送サービスの改善、利用者利便の向上等に努めていくことが求められている。
 政府・運輸省としては、これらの課題について諸環境の整備を図るなど、国鉄改革の総仕上げに向けて必要なあらゆる努力を継続していくこととしている。




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