平成2年度 運輸白書

第4章 旅客交通体系の充実

第4章 旅客交通体系の充実

第1節 幹線交通の充実


 国民が豊かさを享受できる経済社会の構築に向けて、多極分散型国土の形成を図り、国土の均衡ある発展を図るためには、各地域を有機的に結びつけて国土の一体化と各地域の活性化を促進することが重要である。そのため、第1部第1章で述べたような各交通機関の特性に応じた高速交通施設の整備を進めていく必要がある。
 また、そのような高速交通施設の整備とともに、鉄道における列車の増発、航空のダブル・トリプルトラック化等ソフト面での幹線交通網の充実や、鉄道や航空を補完する上で重要な高速バスや長距離フェリーの輸送を拡充していくことも必要である。
(1) 幹線鉄道の充実
 高速の幹線交通体系の整備に当たっては、鉄道の中距離・大量輸送機関としての特性を活かし、大都市圏、地方中枢都市及び主要地方中核都市を結ぶ高速の幹線鉄道網の整備が必要である。
 このため、輸送需要に即したより効率的で質の高い輸送サービスの提供をめざし、整備新幹線の運輸省規格案による建設、新幹線と在来幹線との直通運転化・乗継ぎの改善、在来幹線における高速化等により、新幹線と在来線とが一体となった幹線鉄道網の整備を推進している。
 一方、このような幹線鉄道網の整備とともに、車両の冷房化、シートピッチの拡大などの快適性の向上や、利用客の増加に対応した列車本数の増加、編成車両数の増加などによる輸送力の増強を図る必要があり、さらに、新型車両の投入や車両の改良等により既存の施設における最高速度の向上も必要である。また、所得水準の向上等に伴う国民の価値観の多様化に対応し、北斗星、スーパービュー踊り子号のような旅自体を、あるいは沿線の景観を楽しむ等車内居住性の向上を図った新型車両の導入、女性専用車両を連結した寝台特急列車の運行、お座敷列車等種々の企画列車の運行等が進められている。
(2) 航空網の充実
 価値観の多様化やライフスタイルの変化に伴う時間価値の上昇等により、航空旅客輸送は拡大を続けており、このような需要に対応し、利用者利便の向上を図るため、ダブル・トリプルトラック化を推進している。このようなダブル・トリプルトラック化には、航空企業による新たな路線の開設、増便等が必要であるが、現在国内航空輸送需要の大部分が集中している東京国際空港及び大阪国際空港の空港処理能力は限界に達しつつある。このような状況を抜本的に改めるため、現在、東京国際空港の沖合展開及び関西国際空港の整備が進められている。
(3) 高速道路
(ア)高速道路の整備
 昭和38年7月、我が国最初の高速自動車国道として名神高速道路の栗東〜尼崎間71kmが開通して以来高速自動車国道の整備が着々と進み、平成元年度には11区間256kmが新たに供用され、平成元年度末現在4,661km(対前年度末比5.8%増)が供用されている〔2−4−1図〕
 高速自動車国道は、多極分散型国土の形成を目指し、約14,000kmの高規格幹線道路網構想が第四次全国総合開発計画で策定されたのを受けて、国土開発幹線自動車道建設法が改正され、21世紀初頭までに11,520kmが国土開発幹線自動車道等として整備されることとなった。こうしたなか、元年1月には国土開発幹線自動車道建設審議会が開催され、第二東名・名神高速道路を始めとする25区間1,364kmの新たな基本計画、17区間585kmの新たな整備計画が定められた。
 今後の高速自動車国道の整備については、特に交通混雑の著しい東名・名神高速道路の混雑緩和を図るため、第二東名・名神高速道路について重点的にその整備を図ることが課題となっている。この第二東名・名神高速道路は、既存の高速道路よりも高速度の走行が可能な高レベルの高速道路として計画されている。
(イ) 高速道路の利用状況
 高速自動車国道の整備の進展に伴い、高速自動車国道を利用する自動車数は、昭和38年度の500万台から元年度には9億3,300万台へと飛躍的に増加しており、元年度も引き続き景気が好調であったこと等から前年度に比べ9.3%増加した〔2−4−1図〕
 高速道路の利用密度をあらわす供用延長lkm当たり通行台数及び全線平均交通量をみると、全国では前者が20万7,900台、後者が1,009万台となっているが、東名高速道路については、それぞれ37万6,600台、2,582万台、名神高速道路については、それぞれ45万2,500台、2,432万台となっており、東名、名神高速道路の交通混雑が著しいことがうかがわれる〔2−4−2表〕
(4) 高速バス
(ア) 高速バスの現状
 高速道路の利用が高まるなかで高速バス(運行系統キロの2分の1以上で高速道路を用いる路線バス)の伸長が著しく、その輸送人員は、平成元年において、対前年度比12.8%増の4960万人となっている。
 また、路線網は、元年度末現在117社792系統あり、1日当り運行回数は2,668回となっている。
 特に300kmを越える長距離路線の伸長が著しく、2年3月には100路線を突破し、同年8月1日現在125路線が運行されており、2年10月には最長路線の新宿〜福岡間(1,161.8km、所要時間15時間15分)が運行を開始している〔2−4−3表〕
 このうち、特に63年度以降、長距離の夜行便の開設が急増していることが注目されている〔2−4−3表〕
 高速バスが、このように伸長した理由としては、高速道路網の整備に伴い、様々な都市間の路線の設定が可能となるとともに、定時性が高まり交通機関の選択にとって重要な要素である信頼性が確保されたことに加えて、運賃が低廉であること、ハイグレードな車両が導入されゆとりある座席空間が提供されるようになったこと、夜行便の設定等適切な市場調査に基づき利用者のニーズに沿ったサ一ビスの提供が行われるようになったことによるものであると思われる。
(イ) 今後の動き
 今後進展が考えられる路線のタイプとしては、まず都市間の1000キロ以上の路線がある。
 さらに都市内部における交通渋滞を避ける意味合いからも、鉄道の便のよい郊外都市を発着地とする路線展開が進展するのではないかと思われる。
 その他、関西国際空港等大規模空港の整備が進みつつあるが、これらの空港を効率的に使うため、きめ細かい輸送のできるバスの活用が望まれており、周辺都市から直接空港に乗り入れるといった輸送が活発化するものと予想される。
 また、全国各地で整備が進められているリゾートと都市を結びつける路線も考えられる。
 今後も、高速道路の整備が進むとともに、高速バスは、一層発展するものと思われるが、既にほとんどの地方都市とは何らかの形でバス路線が結ばれている状況にあり、一部路線については見直し再編成が行われるものとみられる。
(5) 長距離フェリー
(ア) 長距離フェリーの現状
 長距離フェリー(片道航路300キロメートル以上)は、陸上のバイパス的機能を有するため幹線交通の一翼を担っており、現在、13事業者により21航路において船舶49隻、54万総トン(旅客定員:44千人、航送能力:トラック6千台・乗用車5千台)をもって運航されている。最近の輸送実績は、〔2一4一4図〕のとおりであり、景気の拡大や余暇活動の活発化等により輸送量は伸びてきており、旅客数はゆるやかに増加してきているが、自動車航送台数は大きく増加してきている。
(イ) 今後の課題
 このような中で、特に、トラック輸送については、陸上輸送分野における運転手不足、交通混雑の激化、排気ガスによる環境破壊の深刻化等の問題が目立ってきており、陸上輸送の代替としての海上輸送の果たす役割が重要度を増してきている。また、全体の輸送量が増えている中で、航路による輸送量の伸びの違いも出てきており、潜在需要への対応等需要の変化に応じた航路の整備も必要である。
 一方、国民の価値観の多様化、所得水準の向上等に伴い、高速性や快適性に対する要望が強くなってきており、長距離フェリーの運航ダイヤ、船室等の旅客施設、フェリー埠頭へのアクセス、駐車場やターミナルのあり方等の点についての改善も必要となってきている。
 長距離フェリー就航船舶の代替建造は、ここ数年進んでいるものの、現在の就航船舶の半数近くは、40年代に建造されたものであり、老朽化が著しくなっている。
 一方、大型カーフェリーの建造には、多額の資金を要し、かつ、建造資金の回収には長期間を要するが、最近の船舶価格の高騰や金利の上昇は建造費用の上昇を招いており、運航費用についても、燃料費や船員費が上昇しているため、今後の需要構造の変化や輸送サービス需要の高度化に対応しつつ、事業者の経営基盤の安定を図るためには、長期的かつ計画的に対応方策を検討する必要がある。




平成2年度

目次