平成2年度 運輸白書

第4章 旅客交通体系の充実

第2節 地域交通体系の充実

    1 都市交通の整備
    2 地方交通の維持・整備


1 都市交通の整備
(1) 都市交通の現状と課題
(ア) 大都市の交通問題
 東京圏をはじめ、大都市圏においては、人口、諸機能の集積が進み、都心部を中心とする道路交通混雑の問題とともに、通勤・通学時の鉄道の混雑、空間的制約や最近の地価高騰等による居住地の外延化の進展による通勤・通学時間の増大等が大きな問題となっている。
 道路交通については、道路交通混雑の激化に対応し、道路交通容量の増大、道路交通需要の軽減等を図るため、関係省庁が一体となって施策を推進する必要がある。 運輸省としては、鉄道、バス等公共交通機関の整備、サービスの向上を図るとともに、物流施設の整備、共同輸送の促進等貨物流通の合理化を進め、都市内の道路交通の円滑化を図ることとしているところである。
 一方、大都市における鉄道の整備については、増大する輸送需要に的確に対応するとともに、大量の住宅適地の開発を推進し、また、都心部に集中する諸機能の適切な分散を図るため、従来より運輸政策審議会の答申に基づき、計画的かつ着実な整備に努めているところである。
 東京圏については、昭和60年7月に西暦2000年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申されており、喫緊の課題となっているいわゆる東京問題の解決の観点からも、その実現に向けて努力しているところである。大阪圏については、平成元年5月に、西暦2005年を目標年次として、関西国際空港等の大規模プロジェクトへの対応等を図るべく新たな鉄道網整備計画が答申されたところであり、その実現に向けて努力しているところである。また、名古屋圏については、従来、47年の都市交通審議会答申に基づいて鉄道整備を行ってきたところであるが、近年、都市構造や人口分布等の情勢変化が生じていること等からこれを見直すこととし、2年4月、運輸政策審議会に諮問したところである。
 しかしながら、近年の異常ともいえる地価高騰により、用地費が著しく高騰し、用地取得が著しく困難となる一方、厳しい国の財政事情等の制約もあり、鉄道整備を取り巻く環境は極めて厳しいものとなってきている。このような状況の中でどのように鉄道整備を進めていくかが重要な課題となっており、大都市の鉄道の整備の促進方策について検討を進めている。
 また、大都市圏における旅客流動の実態を把握し、公共交通網の整備のための基礎資料として活用する目的で、2年10月から11月にかけて大都市交通センサスを実施したところである。
(イ) 地方中核都市の交通問題 
 地域社会の定住化、活性化を図る上で核となる地方中核都市においては、都市活動や生活の基盤となる交通施設の整備、道路交通混雑の激化等によって機能が低下している公共輸送の改善が重要な課題になっている。そこで、地方中核都市については、特にバス等公共交通機関の信頼性の回復や利便性の向上等を図るため、地域交通計画に基づき、関係機関と協力しつつ具体的な施策を推進している。
(2) 都市鉄道の整備
(ア) 都市鉄道の整備の必要性
 通勤・通学混雑の緩和、外延化する住宅地の足の確保、移動時間の短縮、道路混雑の緩和等大都市における交通問題を抜本的に解決するため、大量かつ高速の旅客輸送が可能な都市鉄道の整備による輸送力の増強を行う必要がある。
 このため、国は、地方公共団体と協力して、地下鉄及びニュータウン鉄道の整備、並びに日本鉄道建設公団の行うJR及び民鉄線の整備に対して補助を行っているほか、大都市の鉄道整備に対して日本開発銀行からの出融資、多目的旅客ターミナル整備に対してNTT株式売却益を活用した無利子貸付が行われている。2年度には総額で補助金541億円及び日本開発銀行からの融資を含め、財政投融資4,436億円が計上されている。
 さらに、複々線化等の抜本的な輸送力増強工事を促進するため、運賃収入の一部を非課税で積み立て、これを工事資金に充てることができる特定都市鉄道整備積立金制度や、沿線の宅地開発と鉄道整備を整合性をとりつつ、一体的に推進するための特別措置を講ずることにより、大量の住宅地供給の円滑な促進と新たな鉄道の着実な整備を図ることを目的とした「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」といった法制度が整備されており、これらの法制度を活用した鉄道整備の早期実現が望まれている。
(イ) 旅客会社(JR)の鉄道の整備
 旅客会社(JR)については、JR東日本京葉線(東京〜新木場間7.4km)が2年3月開業したことにより、東京〜蘇我間が全通し、東京湾岸地域と都心部が直結されたほか、JR西日本山陰線(京都〜園部間)の電化が2年3月に完成した。また、JR東日本相模線(茅ヶ崎〜橋本間)の電化工事、JR東海瀬戸線(勝川〜枇杷島間)の新線建設工事が進められている。
(ウ) 大手民鉄の整備
 大手民鉄は、都市郊外部への路線の延伸を積極的に図っており、最近では、京阪電鉄鴨東線(三条〜出町柳間2.3km)、小田急電鉄多摩線(小田急多摩センター〜唐木田間1.5km)、京王帝都電鉄相模原線(南大沢〜橋本間4.4km)及び相模鉄道いずみ野線(いずみ野〜いずみ中央間2.2km)が開業し、大手民鉄の営業キロは総計2,872.5kmとなった。 また、都心部では、混雑緩和に資する複々線化等の抜本的な輸送力増強を図るため、特定都市鉄道整備事業計画に基づき、積立金制度の活用による大規模な輸送力増強工事が進められている。
 大手民鉄14社は、新線建設を始めとする輸送力増強工事、安全対策工事及びサービス改善工事を内容とする輸送力増強等投資計画を36年度以降7次にわたり推進し、輸送サービスの向上等に努めている。今後も、輸送力の増強、運転保安の充実、駅施設等の改善を積極的に進め、都市の公共交通機関としての役割を果たしていくことが期待される。
(エ) 地下鉄の整備 
 地下鉄は、2年8月現在、帝都高速度交通営団及び9都市(札幌市、仙台市、東京都、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市及び福岡市)において総営業キロ512.2kmの運営が行われており、元年度の輸送人員は4,563万人、輸送人キロは30,290万人キロである。このうち最近では、車両の小型化、曲線通過性能、登坂性能の向上等を通じて地下鉄建設費の低コスト化を図ることができるという利点を有するリニアモーター駆動小型地下鉄を国内で初めて採用した大阪市7号線(京橋〜鶴見緑地間5.2km)が2年3月開業した。さらに、京都市烏丸線(北山〜北大路間1.2km)及び営団半蔵門線(三越前〜水天宮前間0.9km)の開業が2年秋に予定されているほか、68.2kmにのぼる新線建設が進められている(平成元年度投資額3,333億円)。
(オ) モノレール、新交通システムの整備
 モノレール及び新交通システムは、比較的建設費の安い中量輸送機関として、最近、積極的な整備が進められている。
 モノレールは、東京モノレールの羽田線等8路線に加え、2年6月1日には大阪高速鉄道の大阪モノレール線(千里中央〜南茨木間6.6km)が開業したところである。 また、東京、千葉、大阪において路線の延伸工事が行われている。
 また、新交通システムは、神戸新交通のポートアイランド線及び2年2月に開業した六甲アイランド線の2線ほか、5路線が営業中であり、4路線が工事中である。
(カ) 空港アクセス鉄道の整備
 近年、空港の利用者が増加していることから、空港へのアクセスの改善が求められており、輸送力及び定時性に優れたアクセス鉄道の整備が進められている。新東京国際空港については、3年3月末完成を目指して、JR東日本及び京成電鉄の乗り入れのための工事が行われているほか、関西国際空港にはJR西日本と南海電鉄の乗入れが、沖合展開後の東京国際空港には東京モノレールの延伸と京浜急行電鉄の乗り入れが予定されている。大阪国際空港についても、大阪モノレール線の乗り入れを行うべく工事を進めている。
(3) 鉄道輸送サービスの向上
 鉄道は、大量性、定時性及び安全性に優れた公共交通機関であるが、近年の国民の生活水準の向上等に伴い、鉄道輸送に対しても快適性や利便性が求められており、より質の高いサービスの提供を図る必要がある。
 そこで、快適な通勤・通学を実現するため、混雑緩和を図るべく、複々線化等による抜本的な輸送力増強に取り組むほか、信号設備の改良による列車の増発、車両の大型化、列車の長編成化、スピードアップ等既存施設を最大限活用することによる輸送力増強に努めているところである。また、混雑が著しく旅客の乗降に時間がかかるため、輸送力の低下を招いている線区について、多扉車両投入が試みられた。
 車両冷房化についても積極的に進められており、2年夏には東京・大阪地区の旅客会社(JR)の冷房化率が98.3%、大手民鉄14社合計の冷房化率が95.4%となるなど、年々着実に向上している。従来、トンネルの狭さが冷房化の障害とされてきた一部地下鉄路線についても、薄型冷房機器の技術革新により、今後、積極的な車両冷房化が計画されているところである。
 都市においては、鉄道ネットワークが形成されていることから、乗り換え不便を解消することが利便性の向上に欠かせなくなっており、鉄道の相互乗り入れや乗り換え駅の施設の改善を進めることがますます重要になってきている。
 このうち、都市鉄道の相互乗り入れについてみると、2年8月現在、46区間813.9kmにおいて行われており、順次拡大されてきている。
 駅舎等の改善については、通路・階段の拡幅、ホームの拡幅やエスカレーター等を整備して、旅客の移動を円滑化することにより、混雑の緩和、危険の防止、通勤時間の短縮が図られているが、今後、さらに施設整備を積極的に推進する必要がある。 また、身体障害者等交通弱者の移動の利便性を確保する観点から、順次、車椅子通路、誘導ブロック、身障者用トイレ等の整備が進められている。
(4) バス交通の活性化
(ア) 望まれるバスの活性化
 都市交通において、円滑なモビリティを確保するとともに道路交通混雑緩和、省エネルギー等の要請に対応していくために、バスの定時性を確保し魅力ある交通機関としていくことが重要である。このため、運輸省は、バス専用レーン等の設置を都道府県公安委員会に働きかける等バスの走行環境の改善を推進するとともに、バス車両、停留所施設等の改善を指導してきており、さらに、都市新バスシステム等新しい都市バスの方向を示す種々の試みに対して助成を行うことにより、都市におけるバスサービスの改善方策を強力に推進している。
(イ) 進む都市新バスシステムの整備
 都市新バスシステムは、都市交通体系上の根幹となるべき主要なバス路線において、バス専用レーンの設置と併せて、次のような施設の整備を総合的に行うものである。
(a) バス路線総合管理システムを導入し、コンピュータ制御による車両運行の中央管理により団子運転の緩和を図るとともに、バスロケーションシステムの整備により停留所におけるバス接近表示を行い、バス待ちのイライラを解消させる。
(b) 低床、広ドア、冷暖房、大型窓等を備えた都市型車両の導入により、バス輸送の快適性を向上させる。
(c) シェルター、電照式ポールを備えた停留所施設の設置により、バス輸送の利便性を向上させる。
 このシステムは、東京都、新潟市、金沢市、名古屋市、大阪市、福岡市、富山市、神戸市、浜松市、福井市、鯖江市、武生市及び青森市の13都市において導入され、地域によって程度の差はあるものの、おおむね表定速度、輸送人員が増加しており、確実にその効果を上げつつある〔2−4−5表〕
(ウ) 今後のバス交通活性化の方策
 バスの利便性を向上させ、バス需要を喚起するためには、都市新バスシステムの導入のほか、鉄道駅等においてバス乗り場、発車時刻、運賃等を総合的に案内表示するバス総合案内システム、鉄道等他の交通機関との乗り継ぎを円滑に行うための乗継システム、特定の区間で自由に乗降できるフリー乗降システム、利用者の呼び出しに応じて機動的なバスの運行を行うディマンドバスシステム、現金、回数券を持ち歩かなくてもバスに乗れるようにするカードシステムの導入等、様々な方策が考えられる。 運輸省では62年度からは、これらの新たな技術を活かした施設、設備の整備も助成の対象として加え、バス交通の活性化を図っている。
(5) タクシーサービス等の新たな展開
(ア) タクシーは、少量需要に対応する機動的な交通機関として、鉄道、バス等の大量交通機関にはない、便利できめ細かな交通サービスを提供しており、国民の日常生活に必要不可欠な交通機関となっており、運輸省としては、より利用しやすいタクシー輸送を確保するため、大都市や地方都市といった地域の実情に応じて次のような施策の推進や環境づくりに努めているところである。
(a) 2年5月以降、労働条件の改善による労働力確保の観点から、東京都区部、横浜地区、福岡地区においてタクシー運賃の改定を行った。また、サービス改善対策の一環として2年6月から7月にかけて、東京を中心とした地域の深夜の輸送力不足を補うため、東京都及び近県で大幅な増車を行った。
(b) 利用者利便の向上、輸送効率の向上の観点から、AVMシステムの導入、屋根つき乗場の整備、盛り場を中心とするタクシー乗場での深夜における計画配車等を推進した。タクシー事業者、タクシー近代化センター等による運転者教育の充実・徹底を図り、接客態度の改善、地理知識の徹底等サービスの向上を図るとともに、一定の地域において、すべてのタクシーに利用できる共通クーポン券の導入、観光需要等に対応した観光ルート別運賃(2年3月末現在90地区53ルート)の設定、タクシークーポン割引等の新設を行った。
(c) 多様化・高度化する利用者のニーズにさらに的確に対応して行くため、大きな荷物も同時に運べるワゴンタクシー、夜間を中心に稼働するブルーラインタクシー、タクシーとバスの中間的形態として都心ターミナル駅から近郊市街地を結ぶ1車9人乗りの都市型乗合タクシーや過疎地においてはバス路線の廃止等による交通手段の確保のための過疎型乗合タクシーの運行を行っている。
 また、近年の高齢化社会の進行に伴い、タクシーを利用した民間患者等輸送事業について需要の増加が見込まれることから、63年12月に、円滑な導入が図られるよう民間患者等輸送事業をタクシー事業とは別扱いとして輸送需要基準の設定を行ったところ、2年11月末現在185事業者が免許を受けている。さらに、近年、タクシーの機動性に着目した緊急救護システムや、タクシー便利屋等の新しいサービスの需要に応え、元年6月からタクシー車両を使用したこれらの救援事業が一定の条件の下に開始されている。
(d) 21世紀に向けてタクシー事業が健全に発展し、高度な利用者ニーズに的確に対応してよりよい輸送サービスを提供していくため、「タクシービジョン21検討委員会」を発足させて調査、研究を行うほか、タクシー専用車両開発等について検討を行っている。
(イ) レンタカー及びリースカーは、国民の自動車に対する価値観の変化、企業の資産管理の合理化、レジャーの多様化等に伴い、急速な成長を遂げ、レンタカーについては2年3月末現在の保有台数が16万6千台、リースカーについては2年3月末現在の保有台数が118万9千台となるなど、国民の重要な輸送手段となりつつある。今後は、多様化するユーザーのニーズへの対応及び事業の健在な育成のため、サービスの質の向上、輸送秩序の確立を図っていく必要がある。
(6) 深夜輸送力の確保
 都市における活動時間の延長に伴い深夜における都心と郊外、郊外の鉄道駅と団地との間の輸送需要が増大しており、これに対応した輸送力を増強することが必要となっている。
 鉄道にあっては、63年9月以降、2年8月までに首都圏で列車増発(103本)、長編成化(24本)等の輸送力の増強が行われており、さらに、列車増発等の推進を図っている。
 自動車輸送にあっては、運輸省が、63年度に行った「大都市圏における深夜輸送力の確保のための調査」において、都心部から郊外への鉄道代替的な深夜バス等の必要性が明確になったため、東京都においては都心部から概ね20km以上郊外への鉄道代替輸送としての深夜急行バスが、元年7月より渋谷−青葉台間に運行されたのを契機として順次、路線整備が進み、2年10月1日現在25系統の深夜急行バスが運行されている 〔2−4−6図〕。さらに、深夜急行バスのサービスエリアの内側へのきめ細かな深夜輸送サービスを行うものとして東京都心と都心から概ね10〜20kmの住宅地を結ぶ深夜中距離バスが2年4月より池袋東口−大泉学園駅間で運行が開始され、2年10月1日現在では6系統の深夜中距離バスが運行されており、深夜輸送力が更に拡充されつつある。このほか、終バス時刻の延長を進めるとともに郊外の鉄道駅と周辺の団地等を結ぶ深夜バスの充実を行った。2年10月1日現在、このような深夜バス(深夜急行バス、深夜中距離バスを含む。)は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、愛知県、岐阜県及び三重県の8都県において350系統が運行されている。
 また、郊外の鉄道駅と団地間で、これらのバス輸送の実施が困難であり、かつ、終バス後一定量の定型的輸送需要が存する区間においては、タクシーの相乗りを制度化した乗合タクシーが運行されており、2年9月末現在、このような乗合タクシーは、千葉県、埼玉県、神奈川県、愛知県、大阪府、京都府、奈良県及び兵庫県の8府県において56系統が運行されている。また、都心ターミナル駅と周辺市街地を結ぶ都市型乗合タクシーが元年10月より新宿、渋谷、池袋の各駅において運行を開始し、元年12月には年末の繁忙期に限定して大阪市(北地区、南地区)においても運行された。
 さらに、首都圏においては、62年11月から運行しているブルーラインタクシーが、63年11月からは、需要増に対応し、深夜時間帯を中心とした運行形態に変更するとともに、台数も1,343台に増車され、さらに、元年11月から1,783台に増車された。また、神奈川県(横浜市、川崎市)も元年10月から、千葉県及び埼玉県においても元年12月から運行を開始した。また、2年6月から8月にかけて東京都内のタクシーを1,808台増車するとともに、深夜需要の集中する東京都内10地区16乗場、千葉県13駅、埼玉県3駅、神奈川県25駅及び東京都多摩地区20駅に計画的な配車を行っている。このほか、元年12月から東京都多摩地区において深夜時間帯におけるタクシーに対する駅構内の開放が行われた。既に開放がなされている東京23区内と合わせて、三大都市圏においても次々と駅構内の開放がなされてきている。

2 地方交通の維持・整備
(1) 地方交通の現状と課題
(ア) 公共交通機関の確保
 過疎地域をはじめとして、地方においては、人口の減少と自家用自動車の普及により、公共交通機関の経営が圧迫され、これを利用せざるを得ない人々の足の確保が重要な問題となっている。
 そこで、このような地域において今後提供すべき輸送サービスのあり方等長期的視点に立った地域における公共交通機関の維持・整備の方策について検討を進めている。
(イ) 地域交通計画を指針とした地域交通の整備
 地方における交通の維持・整備を図るため、運輸省では昭和56年以来、都道府県単位に、長期的な展望に立った地域交通のあり方を示した地域交通計画を策定してきており、この中に示された公共交通の維持・整備の各種方策の具体化、実現を図ることにより、地域の実情に即した交通政策の推進に努めている。
 また、各地方運輸局に設置されている地方交通審議会の常設機関である都道府県部会を活用し、地域の意向を的確に把握し、これを反映したきめ細かな地域交通行政を推進している。
(2) 中小民鉄及び地方バスの維持・整備
(ア) 苦しい経営状況にある中小民鉄、地方バス
 中小民鉄及び地方バスは、地域における生活基盤として必要不可欠なものである。中小民鉄の輸送人員は、63年度において、約3.2億人(対前年度比2.2%増)となっているが、これは63年度に開業した事業者があること等によるものであり、相当数の事業者の輸送人員は減少傾向が続いている。地方バスの輸送人員(三大都市圏を除く。)は、63年度において、約30.5億人(同4.6%減)と減少傾向が顕著である〔2−4−7図〕。このため、運賃収入が伸び悩んでいる一方、人件費等の諸経費が増加し、極めて苦しい経営を余儀なくされている。
(イ) 中小民鉄の維持・近代化の促進
 中小民鉄は、経営改善を図りその維持に努めているものの、大部分の事業者が赤字経営となっているが、地方交通に重要な役割を果たしている。このため、国としても、地方公共団体と協力して、その運輸が継続されないと国民生活に著しい障害が生じるものについて、経常損失額に対し補助(欠損補助)を行うとともに、設備の近代化を推進することにより経営改善、保安度の向上又はサービスの改善効果が著しいと認められるものに対し、設備整備費の一部を補助(近代化補助)している。
 元年度においては、32社に対し約8.4億円の国庫補助金を交付した〔2−4−8表〕
(ウ) 経営改善への努力が望まれる地方バス
 地方バスは、地域住民の足として重要な役割を担っているが、これらの多くは過疎化の進行、マイカーの普及等により輸送需要が年々減少しているため、事業運営の合理化等の経営改善努力にもかかわらず、大部分の事業者が赤字経営を余儀なくされ、路線の維持が困難になっている。このため運輸省は、バス事業者に対し、車両の冷房化、フリー乗降制の導入等サービスの改善による利用客の維持・増加や、地域の実情に応じた路線の再編成による運行の効率化等、自主的経営努力を指導するとともに、それらの経営改善努力を前提として助成措置を講じ、バス事業の自立と地域住民の足の確保に努めている。
 この助成措置は、住民生活にとって必要不可欠な路線の経常損失額及び車両購入費について、都道府県がバス事業者に対して行う補助の一部を国が補助(生活路線維持費補助)するものである。なお、これらの路線のうち利用者が極端に少ないいわゆる第3種生活路線(平均乗車密度5人未満の路線)は、乗合バス路線として維持していくことが困難であるため、欠損補助を一定期間に限って行うとともに、その間に路線の再編成、廃止等の整理を進めることとしている。
 また、バス路線の廃止後においても、市町村又は市町村の依頼を受けた貸切バス事業者が代替バスを運行する場合には、代替バスの購入費等について、都道府県が行う補助の一部を国が補助(廃止路線代替車両購入費等補助)することにより、地域住民の足の確保を図っている。
 なお、元年度においては、乗合バス事業者164社、394市町村等に対し、約101.9億円の国庫補助金を交付した〔2−4−9表〕
(3) 特定地方交通線の転換等
(ア) 特定地方交通線転換措置の状況
 鉄道による輸送に代えてバス輸送を行うことが適当な路線として選定された特定地方交通線は、2年4月1日までに45線1,846.5kmがバス輸送に転換されるとともに、38線1,301.7kmが第三セクター等地元が主体となって経営する鉄道に転換され、すべての転換を完了した。
(イ) 一層の経営努力が必要なバス転換線
 バス輸送は、停留所数の増加、需要実態に合わせた運行系統や運行回数の設定が可能となる等から国鉄当時に比べて利便性は向上していると考えられる。しかしながら、地域の全般的な過疎化の進行、モータリゼーションの進展等のため、輸送人員が引き続き減少している路線が多い。
 バス転換後の経営成績を見ると、国鉄線当時と比べて経費が大幅に減少したため、転換したすべての線区において赤字幅は大幅に減少し、一部路線では黒字となっている。 転換後のバス輸送において赤字が生じた場合、開業後5年間はその全額を国が補助することとなっているが、今後とも輸送実績を踏まえつつ、一層の経営努力を重ね、地域の発展と住民の足の確保に努める必要がある〔2−4−10表〕
(ウ) 地元の一層の協力が求められる鉄道転換線
 鉄道転換線は、地元自治体が主体となって設立された第三セクター等により運営されており、列車の運行回数が増加する等利便性は高まっているが、モータリゼーションの進展等のため輸送人員が減少している事業者が多く、また、収支状況については、転換前と比較すると大幅に改善されているものの、経常損失を出している事業者が多いことから、必ずしもその経営の見通しは楽観できるものではない〔2−4−11表〕
 各社とも経費の削減、イベント列車の運行による増収確保等の経営努力を行っているが、地域のための鉄道という本来の目的を達成するためには、事業者における一層の経営努力はもちろんのこと、旅客誘致に対する地元関係者の積極的な協力が不可欠である。
(エ) 地方鉄道新線建設の状況 
 地方鉄道新線(日本鉄道建設公団が国鉄新線として建設していた路線で工事が凍結されていたもののうち、JR各社(国鉄)以外の鉄道事業者が経営することとなり工事を再開したもの)は、地元自治体が主体となった第三セクターにより運営されており、現在、秋田内陸縦貫鉄道(比立内〜松葉間)等8社が営業中であるが、さらに、智頭線(上郡〜智頭間)等残る6路線の建設が進められている。
(4) 離島航路対策
(ア) 離島航路の現状と国の助成
 我が国には有人島が400余りあり、離島航路は、住民の不可欠な生活の足として重要な役割を果たしている。離島航路は、陸の孤島とよばれる僻地に通う準離島航路を含めて、2年4月現在380航路があるが、これら離島航路の多くは、輸送需要の低迷、諸経費の上昇等により赤字経営を余儀なくされている。
 このため国は離島航路の維持・整備を図るため、従来から地方公共団体と協力して、離島航路のうち一定の要件を備えた生活航路について、その欠損に対し補助を行ってきており、元年度においては、114事業者、121航路に対し約35億円の国庫補助金を交付している〔2−4−13表〕
 また、3年度に供用が予定されている尾道・今治ルートの生口橋について、63年11月に当該供用に伴い影響を受ける航路の指定(22航路、19事業者)を行っており、今後とも架橋の建設に併せて、引き続き所要の旅客船対策を講ずることとしている。




平成2年度

目次