平成2年度 運輸白書

第5章 物流サービスの新たな展開

第5章 物流サービスの新たな展開

第1節 高度化, 多様化する物流ニーズへの対応

    1 モーダルシフトの推進
    2 製品・農産物輸入の増大への対応
    3 消費者ニーズに対応した物流サービス
    4 複合一貫輸送の推進


1 モーダルシフトの推進
 ジャスト・イン・タイムサービスをはじめとする物流サービスの高度化の要請は、国内貨物輸送の分野におけるトラックへの依存の高まりをもたらしており、昭和63年には、55年と比較してトラックの輸送量(トンキロベース)が38%増加しているのに対し、鉄道は38%、内航海運は4%それぞれ減少しており、このようなトラック輸送への依存の高まりが、さまざまな社会的問題を顕在化させている。
 第1にトラック事業における労働力不足は増々深刻になっており、63年度には、六大都市における路線トラック1台当たりの運転者数が0.86人になる等深刻な状況にある。労働力不足問題については、すでに長時間労働(63年2,687時間、全産業2,111時間)や過積載が社会問題化しており、中長期的には経済、産業活動、国民生活に重大な支障をもたらすおそれもあるため、その解決は緊急の課題となっている。
 また、トラック交通量の増加による道路混雑の激化の結果、渋滞件数、夜間交通量、交通事故の増加等が深刻な問題となっている。
 さらに、地球温暖化の要因となるCO2のトラック部門からの発生量は、昭和50年から63年の間に76%も増加しており、世界的に地球温暖化防止への動きが高まりをみせる中で、トラックからのCO2発生量の抑制は、極めて重要な課題となっている。
 このため、運輸省としては、幹線貨物輸送についてトラックから省エネルギー型の大量交通機関である鉄道、海運へ転換し、トラックとの協同一貫輸送を図るモーダルシフトを推進することとしており、そのために必要な鉄道、海運の利用促進方策、基盤整備方策を推進していくこととしている。

2 製品・農産物輸入の増大への対応
(1) 港湾及び空港周辺における製品・農産物輸入体制の整備
 近年、国内産業構造の変化、国際水平分業の展開、NIEsの工業生産力の増大、農産物輸入自由化の進展等、我が国を取り巻く貿易環境は急速に変化しつつあり、これまで輸出中心であった我が国において、製品や農産物を中心とした輸入量の増加がめだっている。
 これに対して、倉庫、上屋をはじめとする輸入関連物流施設は、近年の輸入貨物の増大に合わせて拡充が図られつつあるものの、貿易構造の変化や国内における庫腹需要の拡大が急速に進展したため、施設整備が必要となっており、日米構造問題協議の場においても、輸入関係インフラとして港湾関連施設、空港関連施設の整備促進が求められているところである。このため、これらの物流施設について、今後とも施設整備の一層の促進を図る必要がある。
 しかしながら、物流施設の拡充を図るために必要な用地の確保は、地価の高騰等を背景にますます困難になっており、用地の高度利用を一層進めるとともに、港湾周辺等において計画的な用地確保を進める必要が強まっている。
 一方、輸入品は輸出品と異なり、食料品・医薬品のように防塵・定温保管等の品質管理を必要とするものやラベル貼り等流通加工を必要とするものが多いこと、市場との関係等から保管期間が長くなる傾向があり在庫管理を要すること、少量多品種出庫のためきめ細かな在庫管理を要すること等の特徴があり、従来の荷捌き施設では十分に対応できない状況となっている。したがって、今後は荷捌き・保管の機能に加え、製品・農産物輸入に対応したサービス等(品質管理・流通加工・通関・検疫等)を一括して行うことが可能となる施設の整備が必要となっている。
 (総合輸入ターミナル)〔2−5−1図〕
 このようなニーズに対応するため、製品・農産物輸入の拡大に必要な物流機能を備えるとともに、輸入品を消費者に直接展示・販売することができ、かつ、輸入品の性能等や港湾、空港その他の輸入インフラの意義について啓蒙し、これにより港湾及び空港における輸入品の消費者への円滑な提供を促進する総合輸入ターミナルを主な港湾、空港周辺に整備していくことが必要である。
 とくに、港湾における総合輸入ターミナルの整備に関しては、コンテナ化等に伴う革新荷役の進展、荷主・船社の物流ニーズの高度化及び製品・農産物輸入の増大に的確に対応するため、港湾運送事業の装置産業化及び多角化並びにこれらの推進手段となる集約・統合化を図る必要に迫られているところであり、このような観点からも港湾運送事業者が共同で各種物流サービスを総合的に提供する施設を整備することが必要となっている。
 (国際航空貨物対策)
 また、国際航空貨物については、輸入を中心に伸び率が著しく、平成元年度には約152万トン(昭和60年度の約1.75倍)となっており、その円滑な物流を確保するため、国際航空貨物の約82%を取扱う新東京国際空港の貨物取扱地区及び空港周辺の貨物取扱施設の一層の拡充と関西国際空港等の貨物取扱施設の整備が進められている。
 しかしながら、国際航空貨物の需要は今後とも増大することが予想されるため、これら基幹空港に係る施設整備を一層推進するとともに、長期的観点から受入体制の整備を図っていくことが必要である。
 このため、特定空港への過度の集中を回避し地方分散を図ることが必要との観点から、地方空港活用方策の検討がなされており、その一環として、新千歳空港と北米との間でチャーター便の運航を実験的に行う(エアカーゴテストチャーター)とともに、関係者からなる協議会を設け、地方空港活用の実現に向けた国際航空輸送、国内転送、航空貨物関連体制に係る問題点等について検討がなされている。

3 消費者ニーズに対応した物流サービス
(1) トランクルームサービス
 トランクルームサービスは、倉庫業界が伝統的な産業貨物や農水産品の保管とは別に、一般消費者や企業を対象に家財、衣類、書類等の「非商品」を保管する新しい事業分野として取り組んでいるニューサービスの一つであり、近年大都市を中心に急速に普及し、平成元年度未現在で150事業者、314営業所と東京、大阪を中心に全国に設置されている。
 運輸省では、昭和61年5月にトランクルーム事業の健全な発展や利用者保護を図る見地から、「標準トランクルームサービス約款」を制定するなどの施策を推進してきたが、トランクルーム料金についても、平成2年2月に、@一般消費者等利用者の保護に資するものであること、A多様で個性的なニーズに対応できるものであること、B事業者の創意工夫が活かされるものであること等の基本的考え方に則り、普通倉庫保管料金表とは別に新たにトランクルーム料金制度を設けた。
 また、現在一類倉庫の一類型として構造設備基準を適用しているが、トランクルームのサービス形態自体が事業者によって千差万別であるほか、倉庫業者でないにもかかわらずトランクルームと誤認せしめるような営業を行っている者も一部に見受けられることから、サービス水準の向上を図り、一般消費者等利用者の利便の増進を図るための方策を推進していくこととしている。
(ア) フレイトビラ事業
 フレイトビラは、一般家庭の当面使用しない季節用品(例えば、夏のストーブ、冬の扇風機)等の家庭用品を都市周辺に立地する倉庫に預け入れ、必要な時に宅配するサービスである。これは、首都圏を始めとする大都市において狭い住宅を快適に過ごしたいという利用者のニーズに応えるとともに、都市周辺の倉庫や宅配便の活用と併せ、フレイトビラ周辺の地域の活性化にも寄与しようという構想である。
 昭和63年4月から、静岡県韮山町、茨城県勝田市、福島県須賀川市の3ヶ所において実験事業が行われ、この成果及びフレイトビラ利用者・一般生活者等アンケート調査の結果を踏まえ、現状を整理、分析、評価するとともに、その潜在需要の動向等をまとめ、「整備運営方策」を策定した。また、平成元年度からは、フレイトビラ事業の立地整備を促進するため、日本開発銀行及び北海道東北開発公庫による長期低利融資を行う財政投融資制度を創設しており、この融資制度を積極的に活用しながら今後ともフレイトビラ事業を推進していくこととしている。
(イ) ドキュメントビラ事業
 ドキュメントビラは、企業の磁気テープや書類等を機密性や防火性に優れた専用倉庫に保管するとともに、情報通信や迅速な輸送サービスを組み合わせた文書管理サービスであり、事務所スペースの有効的活用と企業情報のセキュリティの確保のニーズに応えるものである。
 運輸省では、昭和63年度にフオーラムを設置して実施した基礎的調査研究の成果を踏まえて倉庫事業者の中から7事業者を選定して、平成元年12月から1年間の予定でモデル事業を実施するとともに、平成2年度からは、ドキュメントビラ事業の立地整備を促進するため、日本開発銀行及び北海道東北開発公庫による長期低利融資を行う財政投融資制度を創設した。今後は、この融資制度を積極的に活用するとともに、モデル事業の成果等を踏まえ、ドキュメントビラ事業の整備方策を策定し、同事業の一層の推進を図ることとしている。
(2) 宅配便
 50年代初めに登場したトラック運送事業の宅配便サービスは、少量物品輸送における多様なサービスの提供をもたらし、とくに55年以降、「宅配便」の急成長とともに市場の拡大が図られた。宅配便全事業者40便151社の平成元年度における取扱個数は、約10億2900万個に達しており、今後も保冷宅配便等付加価値の高い輸送サービスの提供により、市場は拡大していくものとみられる。
 これら宅配便市場拡大の展開にはいくつかの特徴がみられる。その第1は、ゴルフ及びスキーに伴う宅配便、土産品あるいは催物会場などでの買上げ品の宅配便など、消費者個々の主としてレジャーに派生した宅配便事業者主導型の市場拡大である。
 第2は、消費者を直接顧客としている百貨店・スーパーあるいは商店街などの小売業が、顧客サービスの一環として行う宅配便サービスによる市場の拡大である。たとえば、中元・歳暮期の贈答品の宅配コーナー、商店街での宅配サービス、地域内の無料宅配サービス、即日配達サービスなどがこれに当たる。
 第3は、産地あるいは通信販売業者などと連携の形で展開される、いわゆる産直便による市場拡大である。これは、宅配便事業者が系列商事会社を設立し、自ら特産品の買付を行う場合、会員制の産直サービスを行う場合、第三セクター(地域活性化センターなど)や市町村が中心になって実施する場合など様々なケースがある。
 第4は、一般消費者でなく、小口多頻度納品、ジャスト・イン・タイムの納入、さらには緊急出荷などに対する有効な輸送手段としての宅配便利用の増大に伴う宅配便市場の拡大である。
 このような宅配便市場の拡大に伴い、昭和58年に宅配便運賃制度、60年に標準宅配便約款が整備されたほか、各事業者の苦情処理体制、各トラック協会における苦情相談窓口の充実等が図られている。
(3) 引越運送
 引越運送は、一般消費者を直接の荷主とする輸送サービスであり、大手の運送事業者を中心に、取扱件数の伸びが見られる。この主たる要因としては、引越運送そのものの大型化・高度化、一般消費者側の引越運送に伴う各種サービス享受に対する志向性の高まり、特に都市部において相互扶助意識が希薄になってきていることが挙げられる。
 消費者が煩雑な作業を自ら行うことを避け、有料であってもサービス産業に委ねるという最近の生活常識の変化を勘案すると, トラック輸送を核とする引越産業は今後とも高付加価値を生じる付帯サービスの一層の拡大を図り, 利用者の生活空間の移動に関する総合的な生活産業として成長することが十分に可能であると考えられる。
 引越運送は、付帯サービスの多様化、高度化によりサービスの質の改善が図られているが、他方、請求額が高くその根拠が不明確である、見積りの提示額と請求額に大きな開きがある、見積りをしただけで見積料を請求された等の苦情が生じていたため、61年10月に標準引越運送・取扱約款の制定及び引越運賃・料金の設定を行った。
 このほか、都道府県トラック協会を通じての引越運送事業者の組織化、当該組織と国民生活センターとの連携強化による苦情処理体制の強化等の施策を講ずるとともに、一般利用者に対する引越運送制度の周知に努めている。
 (国際引越輸送)
 日本と海外諸国間の引越サービスについて、事業の健全な発展と利用者保護を図る見地から、昭和63年度に引き続き平成元年度に実態調査を実施した。
 これは、海外主要都市から日本へ引越しする場合の運賃・料金とそれに対応するサービス内容の実態及び破損事故、遅延事故等典型的トラブルの発生状況・処理状況の整理等を行ったもので、これを踏まえたサービスの改善方策として、運賃とサービスの情報をできるだけ正確、公平に提供して、利用者の事業者選択に資すること、一般個人も利用しやすい多様な商品設定を検討すること、またトラブル対応窓口を明確化した上で、利用者に対する説明を徹底すること等の提言を行っている。

4 複合一貫輸送の推進
 近年、国際物流の分野においては、高度化・多様化する荷主の物流ニーズに対応したサービスとして、船舶、鉄道、航空機、トラックといった複数の輸送機関にまたがるサービスを、一人の運送人が一貫して引き受ける国際複合一貫輸送が進展している。
 国際複合一貫輸送の担い手としては、船社、航空会社のように運送手段を保有している者のほか、運送手段を持たない利用運送人であるフレイト・フォワーダーが活躍している。フレイト・フォワーダーの国際複合一貫輸送は、@多様なルートの形成、A輸送に付帯するサービスの提供、Bドア・ツー・ドアのキメ細かいサービスの提供等の利点があるため、その輸送量は増加傾向にある〔2−5−2表参照〕。さらに、近年の我が国企業の海外直接投資の進展に対応して、フレイト・フォワーダーの海外拠点作りも積極的に展開され、輸送ルートの多様化、サービス向上が図られている。
 国際複合一貫輸送の輸送ルートとしては、シベリア鉄道経由欧州・中近東向け一貫輸送(シベリア・ランドブリッジ)、海上運送と航空運送を組み合わせた一貫輸送(シー・アンド・エア)や米国、欧州、韓国、中国、アフリカといった地域の内陸までの一貫輸送がある。
 (社)日本インターナショナルフレイトフォワーダーズ協会(JIFFA)では、フレイト・フォワーダーの活動基盤を整備するため、標準的な運送約款の検討、国際的知識やノウハウを有する人材の育成、情報システムの整備等の方策を進めている。特に、標準的な運送約款については、62年度、学識経験者等からなる検討委員会において検討を行い、日本語による草案が策定され、平成元年度においては、英文の正文を策定し、その普及が図られている。また、人材の育成についても、昭和60年度から、国際複合一貫輸送に必要な知識、ノウハウを有する人材の養成を行うための講座を開催しており、その参加者も増加傾向にある。
 複合一貫輸送は、高度化・多様化する物流ニーズに対応した質の高い物流サービスの実現を図る意味で重要であり、これを積極的に促進する必要がある。このため、昭和63年、運輸政策審議会物流部会に「複合一貫輸送委員会」が設置され、国際、国内を通じた複合一貫輸送の促進方策について検討が行われた。同部会の同年10月の「トラック事業及び複合一貫輸送に係る事業規制のあり方に関する意見」を受けて策定された貨物運送取扱事業法は、国際複合一貫輸送との関係で重要な役割を果たす貨物運送取扱事業について規制を見直し、機能に応じた横断的・総合的な規制制度を創設すること、事業の適正な運営を確保すること等を内容とするものであり、平成2年12月1日から施行された。また、同委員会では、引き続き複合一貫輸送の促進のための審議を続け、平成2年2月に利用者サービスの向上のための方策等の複合一貫輸送の促進のための環境整備方策についてとりまとめた。




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