平成2年度 運輸白書

第5章 物流サービスの新たな展開

第2節 物流事業の活性化

    1 物流立地の新展開
    2 物流企業の構造改善等
    3 物流技術の開発・導入
    4 物流事業規制の見直し


1 物流立地の新展開
(1) 物流拠点の整備
(ア) 物流近代化ターミナル及び物流高度化基盤施設の整備
 近年、荷主の物流ニーズの高度化・多様化に伴い、トラックターミナル、倉庫、上屋等の物流施設については、従来の荷捌き・保管機能に加え、@商品のラベル貼り等の流通加工のための専用スペース、A入出庫等の情報を処理するための機能、更にB商品の展示など流通機能の高度化に資する機能を付加した新しい物流施設の整備を進めていくことが必要となってきている。このため、このような機能を有するいわゆる「物流近代化ターミナル」について、昭和62年度予算において、日本開発銀行等からの出資並びに低利の融資が受けられる措置を講じたところであり、この制度を活用して日本自動車ターミナル(株)の「葛西物流近代化ターミナル」を始めとする物流近代化ターミナルの建設が進められている。このうち、「葛西物流近代化ターミナル」については、平成元年10月に完成し、同年12月から供用を開始している。
 また、流通機能の高度化を図るために設置される施設のうち、相当数の物流事業者が利用するための施設であって、業務を高度に処理するための多様な機能を有するもので、かつ会議場、研修施設等の共同利用施設をも備えた付加価値の高い施設である「物流高度化基盤施設」の整備を促進するため、昭和63年度予算において、民活法の特定施設に追加することによりNTT株の売却益による無利子貸付制度を活用できる道を開くとともに、財投、税制上の優遇措置等をも併せ講じることとした。この制度を活用して、日立埠頭(株)の「日立港物流高度化基盤施設」が平成2年7月、仙台港流通ターミナル(株)の「仙台港総合物流ターミナル」が平成2年8月に完成しており、更に、日本自動車ターミナル(株)の「京浜総合物流ターミナル」が平成2年6月に着工し、平成4年7月に完成する予定となっている。
(イ) サテライト型物流拠点構想
 大都市及びその周辺都市(衛星=サテライト都市)では、経済の発展とともに荷動きが一層活発化しており、既存の物流施設は狭隘化しているが、宅地化の進行、地価の高騰のため、代替用地の確保も困難な状況にある。
 そこで、衛星都市に集約的物流拠点を計画的に整備することによって、大都市圏の物流合理化、効率化を図り、土地の有効活用や交通混雑緩和をも達成しようというのが、「サテライト型物流拠点」構想である。
 平成2年度においては、神奈川県相模原市等全国6地区をモデル都市として選定して、学識経験者、物流事業者、荷主、国、地方公共団体等からなる調査委員会を組織し、物流機能自体の高度化を図るとともに、国際化・情報化の要請、あるいは労働力対策、環境対策等をも視野に入れた拠点整備のあり方を検討している。
(ウ) 物流ネットワークシティー構想
 物流ネットワークシティー構想とは、人口30万人以下程度の地方都市において、円滑な物流を確保し産業を活性化するための物流拠点を整備し、これに商流・情報・アメニティ等の機能を有する施設を併せもたせることによって、第四次全国総合開発計画の目標である多極分散型国土形成に不可欠な「地域の活性化」をも図ろうという構想である。
 平成元年度は、本構想の実現可能性を検討し、施設整備のアウトラインを示すため、佐賀県鳥栖市等全国15のモデル地区で調査を実施したが、この結果、各地域の産業や交通特性等を反映した、特色ある施設構想が示されており、今後は、事業化の可能性が高い地区において順次、具体的な準備が進められる予定となっている。

2 物流企業の構造改善等
(1) 内航海運事業
 (内航海運の現況)
 内航海運は国内貨物輸送の43.8%(トンキロベース)を担う基幹的輸送機関であり、特に、石油、鉄鋼、セメント等の産業基礎物資の輸送においては、概ねその80〜90%を支えているなど、国内物流における役割は極めて大きい。
 第2次石油ショック以降産業構造の変化等に伴い輸送量は長らく低迷していたが、昭和62年後半からの内需拡大を中心とする景気上昇により、内航海運は久々に活況を呈している。
 (構造改善)
 しかし、こうした中で内航海運は、中小企業が大半を占める過当競争体質の業界構造であり、これが輸送の合理化、船舶の近代化等を妨げる要因ともなっている。しかも内航海運がその大宗貨物とする産業物質の輸送需要は中長期的には大きな伸びが期待できない見込みである。このため、従来より事業者数の適正化を柱とした構造改善を進めてきたところであるが、平成2年3月末現在運送業者と貸渡業者を合わせて6、804事業者(昭和60年3月末では7、915事業者)で、このうち中小企業が9割以上を占め、貸渡事業者にあっては、その約6割がいわゆる一杯船主であり、未だ構造改善が達成されたとは言えない状況である。
 また、厳しい労働条件等により内航船員、特に若年船員の不足も深刻化してきている。
 こうしたことから、内航海運の産業基盤をより強固なものとするために、元年12月に(1)小口貨物輸送の推進、(2)業界の体質強化、(3)船員の確保の三本の柱からなる「内航海運業の構造改善のための指針」を策定した。
 指針の(1)は、貨物の多様化、小口化等に伴い今後需要の増大が見込まれる雑貨輸送に積極的に取り組もうとするものであり、(2)は、転廃業、集約・合併の円滑化、内航海運組合の活動の活性化を更に推進していこうとするものである。(3)は、海運事業者の存立の基盤である船員を種々の施策を講じて確保していこうとするものである。
 この指針に基づき、内航海運が基幹的輸送機関としての責務を今後とも果たしていけるように業界の近代化を更に進めていくこととしている。
(2) 港湾運送事業
 国際複合一貫輸送の進展、物流業全般にわたる情報化、貿易構造の変化等港湾運送事業を取り巻く環境は変化しつつあり、中小事業者がほとんどを占める港湾運送事業においても、このような変化に対応して、労働集約型産業から装置型産業への転換、商流を含む他産業への展開、事業の「協業化、共同化、集約化」の推進等を柱とする港運高度化対策を総合的に講じることが重要な課題となってきている。
 このため、具体的には、総合輸入ターミナルの整備を強力に推進するとともに、(財)港湾運送近代化基金の財政援助による新型の荷役機械の導入や情報化の推進を図り、さらには国際複合一貫輸送や商流部門への進出等を促進している。
 一方、はしけ運送業等の在来荷役型港湾運送業は、革新荷役の進展等により回復が期待しがたい構造不況に陥っている。このため、事業の集約・合併等の合理化、(財)港運構造改善促進財団によるはしけ対策等の構造改善対策等所要の措置を講じているところである。
(3) トラック運送事業
 近年、産業構造の変化や国民生活の高度化・多様化に伴って、多品種少量物品の多頻度で迅速な輸送サービスや流通加工等を含めた質の高い輸送サービスに対するニーズが高まるなど、物流動向に大きな変化が見られており、トラック運送事業においても、このような利用者ニーズの変化に応えうる効率的なトラック輸送体系を形成し、物流情報システムの構築等による対応を積極的に行い、付加価値の高い輸送サービスの提供に向けて事業の活性化を図ることが重要な課題となっている。
 このためには、そのほとんどが中小企業であるトラック運送事業について、その構造的脆弱性を克服し、経営基盤の強化を図るとともに、過積載、過労運転等の不法な手段で競争を行うことがないように、安全運転の確保、労働環境の整備等を図っていく必要があり、経営方式の改善、協同マーケッティング、コンピュータリゼーション、人材開発等の事業に主眼を置いた経営戦略化構造改善事業の積極的な推進を図るほか、運輸事業振興助成交付金(平成元年度約160億円)の活用により、労働環境改善のためのトラックステーションの整備、人材開発に主眼を置いた研究研修事業等を推進している。
(4) 利用運送事業関係
 (通運事業の現状)
 鉄道貨物輸送の長期にわたる低落とこの間の国鉄貨物の相次ぐ合理化等により、通運事業は全体として大幅な縮小頃向をたどり、厳しい事業経営を余儀なくされ、昭和45年度に2億4,400万トンであった通運取扱量は昭和62年度には7,500万トンまで減少した。しかし翌63年度には、通運取扱量は7,900万トンと僅かながら増加に転じた。これは、近年、深刻化してきた道路交通渋滞等社会情勢の変化及び日本貨物鉄道株式会社(JR貨物会社)との密接な連携・協調体制の下でコンテナ輸送を中心とした販売方式を積極的に推進してきた結果と考えられる。
 (利用航空運送関係)
 航空貨物輸送は、近年着実に伸びてきているが、航空会社の行う運送を利用して混載運送を行う利用航空運送事業も対前年度比の重量ベースで国内7%、国際12%と高い伸びを示しており、航空貨物全体に占める割合も国内78%、国際79%と航空貨物輸送の中で重要な役割を果たしている。
 (運送取扱事業関係)
 荷主とトラック等実際の運送事業者との間にたって、貨物の運送の取次等を行う事業(運送取扱事業)は、荷主に対してきめ細かな輸送サービスを提供することにより、多様化・高度化する物流の円滑化に重要な役割を担っている。
 これらの運送取扱事業は、トラック・内航・航空の各事業分野に存在しており、運送事業者が同業他社と貨物を融通し合うことから出発したケースが多いが、今後は、陸海空にまたがる一体的な輸送サービスを展開させるといった高度な役割が求められるものと考えられる。

3 物流技術の開発導入
 近年、物流事業に対する荷主のニーズは、輸送の小口化、高頻度化、ジャスト・イン・タイム化等高度化多様化しており、物流事業者はこうした荷主のニーズに的確に対応し、質の高いサービスを提供するとともに、物流事業における労働力確保難の問題の深刻化に対し、労働条件、作業方法の改善等の対策を講じる必要に迫られている。
 こうした状況を踏まえ、物流拠点においては、大手物流事業者を中心に立体自動化倉庫、自動仕分け機、無人搬送車等が情報処理技術と結び付いた形で積極的に導入され、荷役・仕分け等の労働集約的な作業部門を中心として機械化・自動化に著しい進展が見られている。また、荷台上荷役装置を備えたバン型トラックも普及の兆しを見せはじめており、荷役作業の省力化の一翼を担うものとして期待されている。
 また、鉄道貨物輸送の分野においても、日本貨物鉄道株式会社を中心に活発な技術の開発・導入が行われており、@コンテナ貨車32両(1600トン)のけん引が可能な新形式の電気機関車(EF200形式直流電気機関車、EF500形式交直流電気機関車)の試作車の完成、Aコンテナ貨車26両(1300トン)の長大貨物列車の設定による輸送力の増強、B両側面開きのパレット荷役に適合した新形式の12フィートサイズのコンテナの開発などが、その他各種サービスの向上と相俟って、長距離輸送分野を中心に鉄道貨物輸送を再活性化させつつある。
 今後の技術開発に当たっては、@自主開発力、資金力の弱い中小物流企業のニーズに即した小型で廉価な物流機器の開発、A市場からの情報を処理する技術とピッキング等の物流の技術を一体化する「システム化技術」の開発、B高速・低廉にトラック等を積載・輸送するロールオン・ロールオフ船等の高速内航船の開発、Cより高度な物流サービスを提供するための先端技術の導入、D複合一貫輸送等新しい輸送技術に対応した技術開発などに、より重点をおいて取り組んでいくことが必要となる。

4 物流事業規制の見直し
(1) 物流事業規制の見直しの経緯
 (物流ニーズの変化に対応した規制の見直し)
 経済構造が重厚長大型から軽薄短小型へ転換し、経済のソフト化が進む中で、国民生活の向上、産業界の流通に対する関心の高まりから、物流に対するニーズも小口化、多頻度化、スピード化するなど高度化、多様化の傾向にある。
 物流業界においては、このような産業・消費構造の転換と、これに伴い変化する物流ニーズに柔軟に対応することが課題となっており、特に物流の中核をなすトラック事業及び新しい時代のニーズに応ずる複合一貫輸送の規制制度について、事業活動が柔軟、的確に行われるとともに、各輸送機関を通じて効率的な物流システムを形成するという観点から見直しを行うことが求められている。
 また、トラック事業においては、過労運転、過積載等輸送の安全、輸送秩序の維持を阻害する行為を防止するため、民間による自主的な活動の促進を含め、その防止に実効性ある措置を講ずること、中小トラック事業者が環境の変化に的確に対応し、円滑かつ安定的に事業を行うことができるようにすることが強く求められている。
 このような状況の下、昭和63年10月、運輸政策審議会物流部会(部会長 宇野政雄早稲田大学教授)がトラック事業規制について免許制から許可制への移行、運送取扱事業についての横断的・総合的制度の創設等を骨子とする「トラック事業及び複合一貫輸送に係る事業規制の在り方に関する意見」をとりまとめた。
 また、第二次行革審も、昭和63年12月の「公的規制の緩和等に関する答申」において、運輸政策審議会物流部会の意見と同様の考え方を示し、これを受けて、政府は「規制緩和推進要綱」を閣議決定した。
(2) 物流二法の概要
 このような動きに対応して、運輸省は、トラック事業及び運送取扱事業の規制制度を見直し、平成元年3月「貨物自動車運送事業法案」及び「貨物運送取扱事業法案」の二法案を第114回国会に提出した。「貨物自動車運送事業法」及び「貨物運送取扱事業法」は同年12月の第116回国会において成立し、同年12月19日に公布され、平成2年12月1日から施行された。
 両法の概要はそれぞれ次のとおりである。
 (貨物自動車運送事業法)
a 道路運送法からトラック事業規制を切り離し、新たに「貨物自動車運送事業法」とする。
b 路線トラックと区域トラックの事業区分を廃止し、従来の区域トラックも貨物の積合せができるようにする。
c 事業の免許制を許可制とする。需給規制は廃止し、許可基準は安全に重点を置く。ただし、運輸大臣は、特定の地域で供給が著しく過剰になる等緊急の場合は、期限を限って新規参入停止措置を講ずることができる。
d 運賃・料金は許可制を届出制とする。ただし、運輸大臣は、不当な運賃・料金には変更命令をすることができる。また、特に必要があるときは、標準運賃及び標準料金を設定できる。
e 運行管理者に試験制度を導入する等運行管理者の資格要件を強化する。
f 過積載の禁止、過労運転の防止等輸送の安全に関する規定を整備する。
g 運輸大臣は、過積載の防止、過労運転の防止等輸送秩序の確立を指導することを目的とした法人を中央、地方(都道府県単位)に指定することができる。
h 運輸大臣は、輸送秩序に係る法令違反の再発防止のため、関係荷主に勧告することができる。
 (貨物運送取扱事業法)
a 貨物運送取扱事業を利用運送事業と運送取次事業とに区分し、前者を許可制、後者を登録制に整理する。これにより鉄道に係る貨物運送取扱事業、利用航空運送事業は、免許制が許可制となり、需給規制が廃止される。
b 航空、鉄道の利用運送と集配を一貫して行う事業は第二種利用運送事業とし、集配のトラック輸送も本法で一体的に許可することとする。
c 運賃・料金は届出制とする。ただし、運輸大臣は、不当な運賃・料金には変更命令をすることができる。
d 通運事業は、本法上の鉄道に係る貨物運送取扱事業とし、通運事業法は廃止する。
(3) 物流二法の施行
 物流二法の国会での審議において、貨物自動車運送事業法については、計画的かつ着実な監査の実施等による事業の適正化、労働時間の短縮、労働力の確保、過積載・過労運転防止のため必要な環境整備等が、貨物運送取扱事業法については、運送取扱事業者の実運送事業者に対するダンピングの強要の防止、計画的かつ着実な監査の実施等による事業の適性化等が指摘され、それぞれ採決に当たって附帯決議が行われている。
 運輸省では、両方の施行に当たり、関係者に対する法の内容の周知徹底を図るとともに、上記付帯決議の趣旨を踏まえつつ、両方の円滑な施行を行うことにより、貨物自動車運送事業及び貨物運送取扱事業の健全な発達を図ることとしている。




平成2年度

目次