平成2年度 運輸白書

第6章 外航海運、 造船業の新たな展開と船員対策の推進

第6章 外航海運、 造船業の新たな展開と船員対策の推進

第1節 新たな時代に向かう外航海運

    1 海運助成対象企業の経営状況
    2 新時代を迎えた外航海運
    3 国際コンテナ輸送の動向
    4 外航客船旅行の振興


1 海運助成対象企業の経営状況
 (好調続く海運市況)
 平成元年度の海運助成対象企業37社の損益状況は、〔2−6−1表〕のとおりであり、海運大手5社が営業損益、経常損益及び税引後当期損益ともに黒字幅を拡大し、営業損益及び当期損益で8年ぶりに5社すべてが黒字を計上したのをはじめ、配当実施会社も前年度の2社から7社に増加するなど、長期化した不況からようやく脱した我が国外航海運業は、元年度も比較的好調な業績を維持した内容となっている。
 このように経営状況が比較的順調だったのは、前年度に引き続き不定期船・専用船部門が好調で、油送船部門も旺盛な石油需要に支えられて比較的高水準に推移したこと、為替レートが前年度に比べ相当の円安になったことから営業収益が増大したこと、また、海運不況の間における経営合理化効果の浸透や費用のドル化が進められた結果等によって、営業費用が抑えられたこと等によるものと考えられる。
 海運市況は、平成2年度に入ってからも、不定期船・専用船部門を中心に比較的好調に推移しているものの、海運市況の先行きは依然として不透明感があること、北米定期航路の赤字体質は基本的には未だ改善されていないこと、中東情勢が変化する中で燃料油価格が上昇していることや為替相場の動向等を勘案すれば、今後については、必ずしも楽観できるものではない。
 このため、いずれの企業も引き続き商船隊の国際競争力の回復と企業経営の改善のための努力を傾注していく必要がある。

2 新時代を迎えた外航海運
 昭和50年代後半からの世界的船腹過剰と昭和60年秋以降の大幅な円高による海運不況の長期化による経営環境悪化のなかで、我が国海運企業においては、経営の大幅な減量・合理化、さらには平成元年6月の山下新日本汽船とジャパンラインの合併に代表される海運企業間の集約・統合が数多く進み、海運業界の経営環境は激変した。
 一方、最近になって、我が国商船隊の国際競争力の回復や経営基盤の強化を目指した、従来みられなかった新しい動きが生じている。なかでも、日本船への混乗の実施は、長い歴史をもつ我が国外航海運にとって画期的な出来事である。また、海運企業経営の面では、グルーバルな経営戦略の下で事業の活性化を図ったり、あるいは事業多角化を行うなど、収支の改善や経営基盤の強化に向けて積極的な事業展開を図ろうとする動きが生じている。
(1) 混乗の拡大による日本船の国際競争力の強化
 近年の我が国外航海運をめぐる厳しい状況の中で、内外の船員コスト格差の拡大等によって、日本人船員の乗り組む日本船の国際競争力が著しく低下し、フラッギング・アウト(海外流出)の動きが、著しく加速化してきている。フラッギング・アウトが極端に進行する場合には、我が国貿易物資の安定輸送の確保といった観点等から問題があると考えられる。
 一方、船員コスト高という我が国と同様の問題に直面している欧州諸国においては、新船舶登録制度を導入する等の対策を講じてきている。
 こうした認識を踏まえ、海運造船合理化審議会ワーキンググループにおいて検討が行なわれた結果、昭和63年12月、日本船の国際競争力を回復し、フラッギング・アウトを防止するための対策として、従来から外国人労働者の国内受入問題の範疇外とされており、実際上も近海船等において労使間の合意に基づき相当広範囲に実施されている海外貸渡方式による混乗(マルシップ混乗)を外航船舶一般に拡大することが最も現実的かつ有効とする報告書がとりまとめられた。
 その後、報告書を受けて、全日本海員組合(全日海)と船主側の間で、協議が行われ、その結果、平成元年10月25日に、労使合意が成立し、日本船への海外貨渡方式による混乗の実施が決定された。
 労使合意では、対象船舶は原則として新造船とし、フラッギング・アウト防止の趣旨に沿う船舶とすること、日本人船員の配乗数は、現行のマルシップ特例措置による人数(日本人職員6名)を上回ることとし、職員と部員による9名の配乗構成とすること、会社が部員の職員化のための教育・研修を実施するほか、労使は共同して混乗導入に伴う政策支援に取り組むこと等を決定している。
 平成2年2月、船舶職員法第20条の許可の可否を審議するための二十条問題小委員会が開催され、マルシップ混乗関係の事案については、個別船舶ごとに安全性の確認を行うことが了承されるとともに、日本郵船(株)の2隻について、日本人職員を1名省略し、その代りSTCW条約(1978年船員の訓練、資格証明及び当直維持の基準に関する国際条約)批准国海技免状所有の外国人船員を1名配乗することで基本的に安全性の確認が了承された。これを受けて、3月15日、混乗船第1船がスタートし、現在までに既存船1隻を含む計5隻の混乗船が就航している。
 運輸省としては、労使合意を踏まえた日本船への混乗の円滑な実施につき必要な環境整備を図っていくこととしており、混乗の定着化へ向けての労使の努力をバックアップしていくこととしている。
(2) 時代の変化に対応した海運企業の経営戦略
 国際物流構造の多極化・複雑化が一層進む中で、海運企業は、経営の効率化、輸送サービスの高度化を図るため、海外戦略を一層強化している。また、国際競争の激化や高度化する荷主の輸送ニーズに対応するため、有力な海運企業は、総合物流業への転換を着々と進めており、これは、近年の我が国外航海運企業経営の大きな特徴となっている。これらの海運企業の経営戦略は、企業経営上重要な北米、極東、欧州の各地城を中心に進められている。
 世界最大の荷動き量を誇る日本・極東/北米航路における国際競争力を強化するため、我が国海運企業は、北米地域において@複雑化、多様化する複合一貫輸送ニーズに対応するためのDST(ダブル・スタック・トレイン:二段積コンテナ専用列車)による内陸コンテナ輸送体制の強化、A小口貨物輸送サービスの事業拡大、B北米地域の完全自営体制化による営業、マーケティング、企画等の重要な本社機能を加えることによる営業活動の強化等の経営戦略を展開している。
 NIEsの台頭に伴い重要性が増大してきた極東地域においては、我が国海運企業は、@コンテナターミナルの自営化によるコンテナ拠点の整備、A物流部門の高度化・合理化を目的としたフォワーダー業務を行う現地法人の設立等の経営戦略を展開している。
 1992年のEC統合、東欧情勢の変化等昨今の欧州をめぐる著しい情勢の変化に対応するため、我が国海運企業は、@オランダの大手物流会社の買収による欧州内の海陸一貫輸送体制の整備、A資金運用円滑化のための金融子会社の設立等の経営戦略を展開している。
 この他、物流構造の多極化の進展や荷主の輸送ニーズの高度化の要請の中で、我が国海運企業の総合物流業への動きが世界的規模で展開しており、@物流拠点としての物流センターの整備、A貨物輸送情報システムの構築による集荷戦略の強化等の動きがみられる。
(3) 海運企業の事業多角化
 長期不況の経験は、これまで専ら外航海運業のみに依存していた企業経営のあり方に反省を促し、経営の安定化が一つの大きな課題であることを海運企業に認識させることとなったといえる。海運企業の事業多角化は、こうした背景の下で生じているものであり、収益基盤の拡大によって経営の安定化を図ろうとする海運企業の経営戦略の現われとみることができる。
 海運助成対象企業37社においては、昭和59年度以降平成3年度までに、131件の事業が新たに開始され、または開始が予定されている。事業多角化の動きは、昭和60年秋以降の円高の影響により経営状態が一層悪化したなかで、ここ3〜4年で急速に活発化している。
 これを事業分野別にみると、物品販売業、不動産業、レジャー関連事業等の新規分野が60%と、物流関連事業、客船事業、海運代理店業等の海運関連分野の40%を上回っている。
(4) 外航海運をめぐる環境の変化と21世紀に向けた我が国外航海運の課題
 長期不況からの脱出を果たした海運企業は、今、山積する新たな経営課題への対応、さまざまな経営戦略の展開、経済社会情勢の変化への的確な対応を中長期ビジョンの下に進めていく必要が迫られている。
 このため、運輸省では、21世紀に向けた外航海運の中長期ビジョンの策定を目指して、平成2年1月、運輸政策審議会国際部会に国際物流小委員会(外航海運中長期ビジョンワーキンググループ)を設置し、来年春を目途に検討を行っているところである。

3 国際コンテナ輸送の動向
 北米定期航路は、世界で最も大きく、かつ、急速に拡大を続けている市場で、昭和63年の日本・極東/北米(米国)航路の海上荷動き量は、対前年比7.7%の増加を示しているが、中でも、海外現地生産の拡大の影響等により極東発貨物の比重がさらに高まる傾向にあり、極東/北米間の63年の輸送量は対前年比8.2%増となっている。
 同航路においては、邦船社6社体制から4社体制に移行し、また、盟外船4社を含む内外主要船社13社が協調して輸送力調整(平均10%削減)を行うなどの動きにより航路損益の改善が見られるが、依然赤字体質からは脱却しておらず、引き続き経営改善努力が必要となっている。
 また、我が国定期航路の中では北米定期航路に次いで輸送量の多い欧州定期航路の荷動き量は、欧州諸国の好調な設備投資や個人消費の伸び等に伴う景気の拡大によりここ数年堅調に推移しており、中でも極東出し貨物量は大幅な増加を示している。
 同航路においては、同盟、盟外を問わず各船社が船隊の大型化を図りつつあり、また、欧州同盟において指導的な役割をしてきたトリオグループを始めとして各コンソーシアムの再編が活発化している。今後同航路の航路秩序の混乱が危惧されるため、関係船社間で十分な意見調整が行われ、航路安定が図られることが望まれている。
 (国際コンテナ輸送ネットワークの形成)
我が国をめぐる貿易構造が大きく変化し、海外直接投資の活発化、製造業の海外現地化、製品輸入の増大、輸出品の高付加価値商品化等が進む中で、輸送構造も変換を余儀なくされている。また、外航海運に多大な影響を及ぼす国際情勢についても最近めまぐろしい展開を見せていることから、運輸省においては平成2年1月、運輸政策審議会国際部会国際物流小委員会に「国際コンテナ輸送ワーキング・グループ」を設置し、1990年代に向けての国際コンテナ輸送ネットワークの将来像、解決すべき問題点、その対策等について審議している。

4 外航客船旅行の振興
(1) 我が国における外航客船旅行の動向
 外航客船による日本人旅行者数は、平成元年の実績で約14万2,300人であり、対前年18.8%(約2万2,500人)の大幅な増加となっている。
 我が国における外航客船旅行の動向として特徴的なこととしては、まず、韓国等近隣諸国との定期旅客航路の開設が活発化していることが挙げられ、平成元年以降3航路が新たに開設されて現在7航路があるが、日韓間では、さらに新規航路を開設すべく、また、日中間では、中国側企業が運航を行っている既存の航路に日本側企業が第2船を投入すべく準備が進められている。
 クルーズについても、「おせあにっく ぐれいす」、「ふじ丸」が平成元年に、また、「ソング オブ フラワー」、「クリスタル ハーモニー」、「おりえんと びいなす」、「にっぽん丸」、「フロンティア スピリット」が平成2年にそれぞれ就航しており、我が国も本格的なクルーズ時代を迎えようとしている。
(2) 外航客船小委員会における検討
 運輸省においては、平成元年11月、運輸政策審議会総合部会に「外航客船小委員会」を設置し、本年3月に外航客船の振興を図るための方策について、概略以下のような「中間とりまとめ」を行っている。
 (安全運航対策)
 諸外国で多発している旅客船事故に見られるように、客船は一旦事故が起こると大きな惨事になるということが特徴的であるが、我が国においては、外航の運航事業者に対して安全運航に関する規制がないのが現状である。このため、既に内航の定期旅客船等で実施されている運航管理規程の作成、運航管理者の選任等の制度に準じた対策を講じること等により、安全の確保に努めることが重要である。
 (利用者保護対策)
 今後の外航客船旅行の増大に対応して、運航事業者においては、運送約款の内容の適正化及びその顧客への周知、賠償能力の確保、苦情受付体制の整備、非常時における連絡体制の整備等により利用者保護の充実を図ることが重要である。
 (外航客船旅行の振興方策)
 働き盛りの日本人がまとまった期間の休暇を容易にとれる習慣になっていない状況の中で、外航客船の利用者層の拡大を図るためには、船旅の企画において片道ないしクルーズ基地までの往復に航空機を利用したフライ&クルーズの活用等も必要と考えられる。また、日本の客船が次々と建造されるのに伴って、今後、日本人ならではのクルーズを開発していくことも重要と思われる。
 また、我が国周辺海域は必ずしもクルーズに適した海象条件に恵まれているとは言い難いことや、高密度のサービスの提供、日本の水準の2分の1程度の低い価格のものが中心になっていることなどのカリブ海域における事例を参考とすると、我が国においてもアジア・太平洋地域におけるクルーズ拠点の整備という問題について、客船旅行の振興方策の核として今後検討を進めていくことも適当と考える。
 なお、この「中間とりまとめ」に沿って、平成2年10月には「旅客船の安全な運航を確保するための準則(安全運航コード)」、「旅客船利用者の保護を図るための準則(利用者保護コード)」が策定されている。
 安全運航コード及び利用者保護コードは、運航事業者等が遵守すべき自主規制であるが、行政側においてもこれらのコードの遵守が図られるよう各運航事業者、関係業界に対する指導等を行っていく必要がある。




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