平成2年度 運輸白書

第6章 外航海運, 造船業の新たな展開と船員対策の推進

第2節 造船業の新たな取り組み

    1 造船業の現状
    2 造船業の新たな取り組み
    3 国際問題への取り組み
    4 舶用工業対策の推進


1 造船業の現状
(1) 我が国造船業の現状
 我が国造船業は、第2次石油危機等に起因する深刻な造船不況に直面し、これに対処するため、昭和62年度に実施した過剰設備の処理、集約化等の構造対策を中心とした各種対策を通じて不況下における経営の安定を図るとともに、環境変化に対応した産業体制の整備を進めてきた。また、西欧をはじめ各国の造船業についても、需要環境が悪化する中で、不採算造船所の閉鎖、人員合理化等を実施した結果、大幅に供給力が低減してきている。このような世界的規模の造船能力の縮小、最近の世界的な景気の拡大を背景とする船腹需給の改善等によって、受注量、受注船価両面で造船市場は顕著な改善を見せており、ようやく経営の先行きに明るい展望が持てる状況にまで回復した〔2−6−2図〕
 しかしながら、一方で、雇用面での歪、設備の近代化の停滞、技術開発の停滞、関連産業の疲弊等依然として長期不況の後遺症ともいうべき問題を抱えており、これらの克服が今後の重要な課題となっている。
(2) 造船業をめぐる国際情勢
 昭和50年代に急速な成長を遂げた韓国造船業は、民主化運動に伴う人件費の上昇、インフレ、ウォン高等による国際競争力の低下、既受注船の為替差損の発生等により厳しい経営状況にあったが、最近は、造船市場が回復してきていること、為替相場が比較的安定していること等から、明るさを取り戻しつつある。このような状況において、韓国政府は、造船能力の拡大計画の凍結、低船価受注の抑制及び過当競争の防止、主要造船所の経営の再建を骨子とした造船再建計画を打ち出しこれまでの拡大政策から、造船市場の回復基調を維持し、その中で国内造船所の経営の安定を図る政策へと転換してきている。
 また、かつては我が国とシェアを2分していた西欧諸国については、韓国等第三造船諸国の台頭とともにそのシェアを低下させ、現在では政府助成により国際競争力と現状の産業規模を維持しようとしている状況にある。
 東欧諸国については、民主化による影響が注目されるところであるが、設備の老朽化による生産性の低下、資材調達の困難性、インフレ等多くの問題を抱えている。
 米国は、昭和50年代半ばの政府助成廃止により商船部門における国際競争力を喪失し、軍需部門に特化していたが、最近の東西の緊張緩和により軍需予算が先細りとなることから、船価の改善とも相まって商船部門への再参入を希望している。しかし、現状の生産コストは西欧諸国以上ともいわれており、厳しいものがあると思われる〔2−6−3図〕

2 造船業の新たな取り組み
 今後の造船市場を展望すると、90年代は、70年代半ばに集中大量建造した超大型タンカーの代替建造を中心として大規模な需要が潜在しているものと見込まれること、世界的規模で造船能力が縮小し需給関係が改善されたこと等から、経済情勢に大きな変動がない限り、比較的安定した経営を営める条件は整っているものと思われる。このような時期にこそ脆弱化した造船業の基盤を整備し、中長期的視野に立った魅力ある造船業を再構築していく必要がある。
 このため、現在の回復基調を維持し、需給バランスのとれた安定した市場を実現するとともに、事業提携の発展・強化等による経営基盤の強化、産業の活性化を図っていくことが必要である。
 また、社会経済の国際化の進展に伴い一体化しつつある世界の中で、安定的な対外関係の形成は、造船業の基盤整備の重要な柱の一つとなりつつある。このため、環境問題への対応等世界の造船業共通の課題に積極的に取り組むなど、我が国造船業の国際的地位にふさわしい貢献をしていく必要がある。
(1) 需給の安定化
 造船業は、高度に国際化の進んだ市場を対象とする産業であり、その安定化を図っていく上で国際的な協調が不可欠である。特に、今後は、世界的な造船能力の縮小、大規模な潜在的需要の存在等を背景として、投機的な発注や造船能力の拡大等の事態も予想されるため、再び大幅な需給の不均衡が生じることのないよう、市場動向の先行きを踏まえた適切な行動が必要であり、このための国際的な共通認識を醸成していく必要がある。
 なお、海運市況の改善を背景として老朽船の解撤が停滞しているが、需給の安定化を図る上で、今後、船舶解撤についても国際的な取り組みが重要な課題となっている。
(2) 活性化対策
 長期不況は、我が国造船業に、研究開発投資の低迷による創造的技術開発の停滞、就労条件の劣後化等による若年層の造船離れや技術者・技能者の高齢化等の問題をもたらした。
 これらの問題を放置し、現状のまま推移すれば、将来、産業の活力の喪失、技術水準の低下等の事態も強く懸念されるため、技術を核とした活性化対策として、平成元年度に、造船業基盤整備事業協会からの助成金の交付、債務保証等の助成と日本開発銀行からの出融資による次世代船舶研究開発促進制度を創設し、速力50ノット以上、載貨車量1,000トン以上の性能を有する新形式超高速船(テクノスーパーライナー'93)、6ヶ月間メンテナンスフリーの高信頼度舶用推進プラントの研究開発を推進しているところである〔2−6−4図〕
 また、造船技術を活用した新規事業分野の開拓による造船業の活性化を図るとともに、地域の活性化にも資する海上浮体施設の整備を促進するため、NTT株売却益を活用した無利子貸付制度等による助成を行っているところである。

3 国際問題への取り組み
 世界の造船業が今後安定的な発展を遂げるためには、国際協調のもと、需給バランスのとれた公正な市場を実現していくことが必要である。我が国は、世界一の造船国として、これらの課題克服のために主導的な役割を果たしていく責務があり、OECD(経済協力開発機構)における多国間協議を中心に、韓国等主要造船国との対話に努めている。
(1) OECD造船部会の動向
 OECD造船部会においては、従来、船価の改善や需給の安定化等の市場問題、公正な競争条件の確保の問題を中心に協議が行われてきたが、平成元年6月、米国造船工業会が我が国を含む4ケ国が不公正な政府助成を行っているとして、米国通商法301条に基づく措置を求める旨の提訴を行ったことを契機として、政府助成削減問題が中心的議題となっている。
 造船部会では、他産業に先駆けて政府助成削減のための国際的な取決めを策定し、早くからこの問題に取り組んできたが、取決めの性格が政府間の努力義務を定めた紳士協定であったこと等から、一部加盟国においては履行状況が必ずしも十分でない状況にある。特にEC諸国においては、造船指令の導入により現在20%までの船価助成が容認されており、商船部門への再参入を目指す米国にとっては大きな障壁となっている。
 現在行われている協議においては、政府助成削減の実効性を従来の取決めより高めるために、削減すべき助成の範囲と時期の明確化、違反国に対する対抗措置を盛り込んだ新たな国際条約を策定する方向で、幅広い助成を対象とした検討が進められている。我が国は、従来から、国際的な枠組みの範囲内で政策運営を行うとともに、EC諸国の船価助成について早期削減を求める等公正な競争条件の確保に努力してきたところであるが、新条約の策定についても、これが基本的には公正な競争条件を確保する目的であり、世界一の造船国としての責務を果たすとの観点から、本作業に協力している。
(2) 韓国との対話
 我が国に次ぐ世界第2位の造船国である韓国との協調を図ることは、両国合わせて世界の新造船のシェアの約3分の2を占めることから、単に両国間のみの問題ではなく、世界の造船業の安定的な発展にとって重要である。この観点から、昭和59年より、政府レベルによる協議が定期的に行われている。この中では、造船業の現状や造船市場の動向について意見交換や情報交換を行い、両国の相互理解を深めるとともに、世界の造船業の安定化に向けての協調を図っている。

4 舶用工業対策の推進
(1) 船用工業の現状
 我が国舶用工業は、船舶に搭載する多種多様な船用機器の安定供給を担ってきたが、昭和59年を境にして、新造船工事量の減少、第三造船諸国における船用機器の国産化の進展、円高による国際競争力の低下等により、生産額は毎年減少を続け、昭和62年には6,479億円とピークだった昭和56年時の58%の水準にまで減少した。
 昭和63年に入ると、造船需要の回復とともに生産額は増加に転じ、平成元年には7,560億円と、昭和62年に比べると117%の水準にまで増加した〔2−6−5図〕
 また、船用大型ディーゼル機関製造業についても、生産の増加傾向を背景に、昭和62年度から実施してきた不況カルテルを平成元年9月月末に廃止した。
 このように、船用工業の生産は、造船需要の増加とともに回復しつつあるが、長期にわたった不況の影響は大きく、船用工業の収益性は他産業に比べて低く、設備投資の低迷による設備の陳腐化、人材の確保難、労働力の高齢化といった問題が生じている。
(2) 船用工業対策の推進
 船用工業を取り巻く環境は、好転しつつあるものの、なお、問題も多く、長期的視野に立った構造調整等を推進することによって、経営の安定化を図ることが必要である。
 このため昭和63年8月、海運造船合理化審議会造船対策部会の意見書で明らかにされた、生産の集中等による生産体制及び生産能力の適正化、受注、資材購入等の協調又は共同化、異業種間の交流・協力等の対策を引き続き推進しており、船用大型ディーデル機関製造業については、過剰設備の削減を図るため、昭和63年9月、産業構造転換円滑化臨時措置法の適用対象とし、平成元年度末までに、約20%の試運転設備が処理された。この他の業種についても、必要な構造改善措置を明らかにするとともに、中小企業対策関連法及び雇用対策関連法等の活用を図っているところである。




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