平成2年度 運輸白書

第6章 外航海運, 造船業の新たな展開と船員対策の推進

第3節 船員対策の推進

    1 船員の雇用
    2 船員制度の近代化と船員教育制度の充実
    3 船員労働時間の短縮と船員災害防止対策の推進


1 船員の雇用
(1) 船員雇用の現状
 (雇用船員)
 外航海運業における経営の減量、合理化や国際的漁業規制の強化による漁船の減船等により雇用船員数は引き続き減少しており、平成元年10月には16万人と対前年比6,000人(3%)の減少となった。特に外航海運業では昭和62年度、63年度の大幅な雇用調整の後も引き続き退職者があったため、平成元年10月には11,000人となり、昭和61年の24,000人の半数を下回る状況となった。
 なお、船員の年齢構成としては、一般に高年齢化が進行しており、また、一方で我が国の海技の伝承の受け皿となるべき若年船員の不足が懸念されている。
 (求人・求職状況)
 船員労働需給面では、有効求人数が平成2年3月には2,900人と対前年同月比700人(13%)の増加となり、一方、有効求職数が平成2年3月には、4,200人と対前年同月比2,200人(35%)減少となった。そのため、有効求人倍率は平成2年3月には0.69(季節調整値)と対前年同期よりほぼ倍に上昇した。部門別でみると外航船舶では0.38(同月)の有効求人倍率であるのに対し、内航船舶では1.27(同月)と高く、労働力需給の改善が著しい。
(2) 船員雇用対策の推進
 (雇用対策)
 外航海運業等の不況業種からの離職船員あるいは国際規制による漁船の減船に伴う離職船員等については、船員の雇用の促進に関する特別措置法(以下「船特法」という。)等いわゆる離職者四法に基づき職業転換給付金の支給等の措置を講じている。また、外航海運業における雇用調整による離職者については上記対策のほか(財)日本船員福利雇用促進センターの事業として陸上への転換を図るための再就職あっせん受け入れ助成金制度の延長、陸転のための訓練の実施、さらに、船員職業安定所と公共職業安定所等との連携を強化するなど緊急的に陸上職域への転換を促進する施策を講じた。一方、日本船舶への外国人船員の導入が拡大される等我が国の船員をめぐる雇用環境が変化していることを踏まえ、外国籍船への配乗を促進する等日本人船員について海上職域を確保し、その雇用の一層の促進と安定を図るため、平成2年には船特法の一部改正を行い、(財)日本船員福利雇用促進センターが船員労務供給事業を実施することとした。
(3) 新規学卒者の確保
 (採用者数の増加)
 商船大学及び商船高等専門学校の新規学卒者の採用については、これまで外航海運の不況により長期にわたって抑制され、特に昭和61年から63年にかけてその採用者数は著しく落ち込んでいたが、最近に至り、海運不況も底を脱したこと及び若手職員が不足しつつあることを反映し、また、若手職員の確保は後継者育成、年齢構成のアンバランスを解消するうえでも必要であることから、平成元年度の新規学卒者の採用は前年度に比べ倍増し,2年度もさらにこれを上回ってきている〔2−6−6表〕
(4) 内航船員の労働条件の改善と確保対策
 (内航船員対策)
 内航海運は、不十分な労働条件、厳しい勤務環境等による若年船員の入職の忌避、定着率の低下、また、これらに伴う船員の高齢化や船員不足のおそれが生じており、船舶所有者等は、賃金の水準、休暇等労働条件の改善に向けて努力を続けるとともに勤務環境の向上等、船員にとっても魅力ある職場作りに努める必要がある。
 このため、業界においても、船員対策のため休暇付与の改善及び船内居住区の設備改善等に取り組んでいるが、政府としても、船員の労働時間の短縮や船員災害防止等の措置を講じて労働条件、勤務環境の向上を図るとともに、各地城における労使等関係者の連携の強化、外航船員の内航海運への転換促進等を行っている。
(5) 外国人船員受入れ問題
 (混乗問題)
 外国人労働者の陸上への受入れについては、閣議了解により原則として受け入れないこととされており、船員についてもこれを準用して日本船であって日本の船社が配乗権を有するものについては原則として外国人船員を配乗しないよう行政指導を行っている。これに対し、日本船であっても海外貸渡しにより外国の船社が配乗権を持っているものについては、行政指導の範囲外とされ、従来から外国人労働者の国内受入れ問題の範ちゅう外として外国人船員が一部配乗されている。海運業及び漁業等の分野においては、それぞれの事業環境を踏まえ外国人船員を受け入れたいという意向がある。
 外航海運においては、近年、日本船のフラッギング・アウト(海外流出)が進んでいるため、昭和63年12月海運造船合理化審議会海運対策部会小委員会のワーキンググループにおいて、その防止策として、近海船等の分野において従来より行われている海外貸渡方式により外国人船員と日本人船員との混乗を外航船舶一般に拡大することが提言された。その後、その具体的内容について労使間で協議が重ねられ、昨年10月合意が成立し、これに基づく混乗船が、平成2年3月からスタートした。
 また、近年クルーズ用の豪華客船の建造が進み客船事業が活発化しているが、これら客船に船客の多様なニーズに対応する等の観点からサービス要員等として外国人を導入したいとする要請がある。このため、日本船に我が国企業が客船のサービス要員として外国人船員を雇用する問題について、官労使の関係者間で検討が行われてきたが、平成2年8月、専門的な技術、技能又は知識を生かして就職する者で陸上において受け入れられるものについて受け入れても差し支えないとする報告がまとめられ、これに沿った混乗船がスタートしている。
 さらに、遠洋漁業等の分野においては、外国200海里水域内に入漁する場合に、沿岸国から自国民船員の配乗を我が国漁船に要求するケースがあること等から外国人を配乗したいとする要請がある。このため、関係者による検討が行われてきたが、昨年11月、海外基地を利用する漁船を対象に、外国人船員を外国で乗・下船させる等一定の制限のもとにその配乗を受け入れるとする報告がまとめられ、これを踏まえて外国人漁船員を受け入れるための体制の整備を図り、平成2年9月より混乗船がスタ一トした。

2 船員制度の近代化と船員教育制度の充実
(1) 船員制度の近代化
 (近代化実験の推進)
(ア) 実験の推進
 船員制度の近代化は、近年における船舶の技術革新の進展に対応した新しい船内職務体制を確立する〔2−6−7図〕とともに、乗組員を少数精鋭化することにより、厳しい海運情勢の下で日本人船員の職域の確保を図ることを目的とし、昭和52年以来、船内職務の実態及び諸外国の船員制度についての調査が進められ、これを踏まえて、54年からは、実際に運航されている船舶を用い、船員制度近代化委員会の下で作成された新しい船内就労体制の試案について、その実行の可能性及び妥当性を検証するための実験を行ってきている。
 58年4月には、その第一段階の実験結果を受け、甲板部、機関部両部の職務を行う運航士及び船舶技士の制度を導入し、乗組員18名で運航する近代化船の乗組み体制(第一種近代化船)が法制化された。
 その後、引き続き第二段階、第三段階の実験が進められ、61年4月には、乗組員16名体制で運航する第二種近代化船が、63年12月には、乗組員14名で運航する第三種近代化船がそれぞれ法制化された〔2−6−7図〕
(イ) パイオニアシップ実験と今後の近代化
 一方、昭和62年10月からは円高等の急激な情勢の変化に対応して、早急に船員制度の近代化を一層推進する必要があるとの観点から、特定の航路・船種に限って世界で最も少数精鋭化された乗組み体制(11名)の実験(パイオニアシップ実験)を行うとともに、63年12月から、当面乗組員13名体制を念頭においた、第三次総合実験船による実験(D実験)を行ってきた。平成2年5月「実験は概ね順調に行われた」旨パイオニアシップ実験に関する報告がまとめられ、今後はパイオニアシップ実験と第三次総合実験船による実験との整合を図ることを基本に引き続き実験の深度化を図っていくこととしている。
 このように、船員制度の近代化は着実にその成果をあげてきており、平成2年10月末現在の近代化船の隻数は計161隻となっている〔2−6−8図〕
(2) 船員教育体制の充実
 (海員学校等の教育体制の整備・充実)
 海員学校については、船員制度近代化に対応した教育を充実するため、昭和61年度から中卒3年制を主体とした航海・機関の総合教育を実施するとともに、教育内容のレベルアップを図り、高卒同等資格を付与する等の抜本的学制改革を行ったところである。
 海技大学校については、近代化の一層の進展に対応した教育の実施等を図るため、昭和62年度から教育体制の整備を図ったが、平成2年度からは、特に部員の海上職域確保の観点から、外航船社に所属する一定の船員歴を有する部員を対象に所要の海技免状取得のための教育を行い、部員の職員化を促進している。
 また、航海訓練所では、実習訓練の充実を図り、船員制度近代化に対応した運航士教育を59年度から実施している。

3 船員労働時間の短縮と船員災害防止対策の推進
(1) 船員労働時間の短縮
 (船員労働時間短縮の推進)
 労働時間の短縮が、我が国の重要政策の一つとされていることから、昭和63年には船員法を、平成元年には小型船に乗り組む船員の労働時間及び休日に関する省令を、それぞれ改正し、週平均労働時間を当面48時間以内とした。
 今後も、これらの法令改正による新しい制度の適切な実施を図るとともに、労使の協力のもとに、さらなる労働時間短縮の環境づくりを進めることにより、船員法の最終的な目標である週40時間労働制の早期実現を図っていく必要性がある。
 また、小型船に乗り組む船員の労働形態の変化への対応等を目的として、船員法の労働時間等に関する規定の適用範囲の拡大について船員中央労働委員会において審議が進められている。
(2) 船員災害防止対策の推進
 (船員の体と心の健康確保による災害防止事業)
 船員災害の防止については、第5次船員災害防止基本計画(昭和63年度〜平成4年度)及び平成2年度同実施計画に基づき、中小船舶所有者における自主的な災害防止対策の推進、災害多発業種・地域に対する安全対策の充実強化等を図っているほか、近年における船員の労働環境の変化に対応し、船員の心身両面にわたる健康の維持増進を図るため、船員災害防止協会が実施する「船員の体と心の健康の確保による災害防止事業」を国及び労使の協力のもとに積極的に推進しているところである。




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