平成2年度 運輸白書

第7章 航空の新たな展開

第7章 航空の新たな展開

第1節 航空輸送をめぐる新たな取組

    1 国内航空の現状
    2 航空運賃について
    3 国際航空の現状


1 国内航空の現状
(1) 航空輸送の現状
 我が国の航空輸送は昭和60年の日航機事故の影響により、国内旅客輸送は一時低迷したものの、それ以降好調な需要の伸びに支えられて国内・国際線ともに順調に推移している。
 平成元年度においては、国内旅客数は初めて6,000万人を越え、対前年度伸び率は13.6%と、ここ数年来で最も高い伸びを示した。日本発着の国際旅客数も、対前年度比12.4%増の2,995万人となっており、一貫して拡大基調にある〔2−7−1図〕
 また、貨物輸送については、国内貨物は対前年度比6.8%増の66.0万トン、国際貨物は対前年度比8.5%増の151.8万トンとなっている〔2−7−2図〕
(2) 我が国航空企業の経営状況
 我が国航空企業の収支は、昭和60年の日航機事故以来低迷を続けてきたが、62年度以降、需要の回復等に支えられて好調に転じ、平成元年度の航空3社計(日本航空、全日本空輸、日本エアシステム)の経常利益は907億円となった〔2−7−3図〕
 しかしながら、我が国航空企業の収支は為替、原油価格の変動等により変動しており、また、財務指標について他の業種と比較を行っても、売上高経常利益率は4.66%と低く、また、自己資本比率も下回っており、資産も航空機等に限られる等、必ずしも安定した経営基盤を有しているとはいえない〔2−7−4図〕。今後は三大空港プロジェクトの進捗、新型機材の導入等により巨額の設備投資がコスト増要因となることが予想され、また、三大空港プロジェクト完成後は国内航空企業間、あるいは外国企業との競争が一段と激化するなど、経営環境が一段と厳しくなることが予想されるため、今後とも一層効率的な企業運営を図り、財務体質の強化を図っていくことが必要である。
(3) 競争促進施策の積極的推進
 現在、我が国においては、昭和61年6月の運輸政策審議会答申「今後の航空企業の運営体制のあり方について」の趣旨に沿って、安全運航の確保を基本としつつ、航空企業間の競争促進を通じて利用者利便の向上を図るため、国際線の複数社化及び国内線のダブル・トリプルトラック化を推進している。
(ア) 国際線の複数社化
 国際線においては、61年以降、全日本空輸は国際定期路線を次々に開設し、平成元年度にはストックホルム、バンコク、ウィーン、ロンドン、モスクワ、サイパンへと新路線を開設し、2年10月にはパリ線、ブラッセル線を開設しており、3年3月にはニューヨーク線を開設する予定である。日本エアシステムは、昭和63年7月に同社にとっては初の国際定期路線であるソウル線を開設した後、平成2年2月にはシンガポール線を開設しており、3年6月にはホノルル線を開設する予定となっている。また、日本航空においても、3年3月にワシントン線を開設する予定となっており、我が国航空企業の複数社化が進められている。
 貨物についても、日本貨物航空が昭和61年より東京〜香港等の路線を開設し、平成元年11月には東京〜バンコク〜シンガポール線、2年6月には東京〜ソウル線を開設している。 また、2年度中には東京〜シカゴ線、東京〜ロサンゼルス線をそれぞれ開設する予定となっており、複数社化が着実に進められている〔2−7−5表〕
(イ) 国内線のダブル・トリプルトラック化
 国内線についてはダブル・トリプルトラック化の路線需要の基準を、ダブルトラック化については年間需要70万人以上(ただし、札幌、東京(羽田・成田)、名古屋、大阪、福岡、鹿児島及び那覇の各空港間を結ぶ路線にあっては年間需要30万人以上)、トリプルトラック化については、年間需要100万人以上と定め、この基準に沿って、昭和61年以降、〔2−7−6表〕のように国内線において順次ダブル・トリプルトラック化を実施している。
 このようなダブル・トリプルトラック化の推進にあたっては、新たな路線の開設、増便が必要であるが、63年7月には東京国際空港の新A滑走路が供用開始されたことにより、東京国際空港発着の路線の新設・増便が可能となったため、63年7月、平成元年7月に同空港関係路線の拡充が図られたところである。また、2年7月には、日本航空の広島線の開設(トリプル化)、エアーニッポンの中標津線の開設及び日本エアシステムの福岡便の増便が行われた。
(4) 競争促進施策の効果
 複数社化ないしダブル・トリプルトラック化された路線については、競争促進による需要の喚起や我が国航空企業間の競争によるサービスの向上が期待されるところである。
 例えば、元年度においてダブルトラック化された3路線(東京〜函館、東京〜宮崎、那覇〜石垣)の需要の変化をみてみると、ダブルトラック化後1年間の対前年同期間の伸び率をダブルトラック化前3年間の平均旅客輸送伸び率と比較した場合、東京〜函館線は3.1%から32.9%(29.8ポイント増)、東京〜宮崎線は4.9%から21.1%(16.2ポイント増)、那覇〜石垣線は3.6%から15.5%(11.9ポイント増)に伸びており、これは、同期間中の全国の航空利用旅客輸送実績の伸び(13.1%)をも大きく上回っている。
 これらの3路線については、ダブルトラック化により、旅客利便の向上及び観光需要の喚起が図られた結果とみられる〔2−7−7図〕
(5) 中小航空企業の路線展開
 我が国の中小航空企業は、地域住民の利便の確保のために採算性の悪い路線を数多く運航しているが、その中でも地域住民の生活上必要不可欠な離島路線については、採算性の悪い路線についても運航を維持することが強く求められている。このため、これらの中小航空企業については経営の安定化による利用者利便の確保を図るため、経営基盤の強化に資するような路線の展開を積極的に認めてきている。
 昭和62年以降、エアーニッポンについては、全日本空輸からの路線移管により福岡〜小松線、東京〜八丈島線、鹿児島〜那覇線、大阪〜高知線、長崎〜那覇線を開設し、さらに新規路線として札幌(丘珠)〜釧路線、東京〜中標津線を開設した。南西航空については、沖縄からの本土への路線である那覇〜松山線、那覇〜岡山線及び東京〜宮古線を開設した。また、従来不定期航空運送事業を行っていた日本エアコミュータ−についても、日本エアシステムからの路線移管により63年7月に鹿児島〜沖永良部線において定期航空運送事業を開始し、以降鹿児島〜与論線、鹿児島〜屋久島線、鹿児島〜種子島線を開設した。

2 航空運賃について
(1) 国内航空運賃について
 国内航空運賃については、従来「路線ごとの賃率格差がある。」「普通運賃と団体旅行運賃との間に大きな格差がある。」という不公平感が抱かれていたところであり、これをできる限り早く是正する必要があることから、その方策等について議論するために、航空局長の私的懇談会である航空運賃問題懇談会が元年11月から12月にかけて開催され、12月15日に「国内航空旅客運賃に関する諸問題について」と題する報告書がとりまとめられた。同報告書においては、路線ごとの賃率格差等を是正するためには次の施策を講じることが適当であるとしている。
(ア) 路線ごとの賃率格差の是正
 運賃を分かり易く、公平なものとするため、同一距離帯同一運賃を志向し、路線ごとの費用をできる限り反映した遠距離逓減運賃の徹底を図ることとし、割高となっている路線の運賃の値下げを行うこととする。
(イ) 割引運賃の導入・拡充
 団体旅行運賃と個人運賃との格差に起因する不公平感を是正するため、家族が旅行しやすくなる割引運賃や個人旅客が旅行しやすい割引運賃の導入・拡充に努めることとし、具体的には、家族割引運賃の拡充、高齢者割引運賃の導入、回数券割引運賃の拡充等を図ることとする。
 運輸省としては、この報告書を踏まえ、賃率格差に起因する不公平感を是正するため、2年6月1日に国内27路線の運賃の値下げを行った〔2−7−8表〕
 また、団体旅行運賃と個人運賃との不公平感を是正するため、割引運賃の導入・拡充を進めることとし、2年4月より順次高齢者割引運賃の導入、家族割引運賃の拡充、個人包括旅行運賃の拡充等を進めているところである〔2−7−9表〕
(2) 国際航空運賃の方向別格差の是正
 国際航空運賃は、発地国通貨建て(例えば日本発は円建て、米国発はドル建て)で設定されており、それぞれの国発の運賃は各国の物価水準の変動等に応じて独立に改定されている。このため、自国発運賃の額と相手国発運賃を為替レートで自国通貨に換算した額との間に相対的に差異を生じること(いわゆる「方向別格差」)が不可避となっているが、昭和60年以降の大幅な円高に伴い、この格差が拡大し、利用者間の不公平感の原因となってきたことから、これを解消するため、我が国が主体的に方向別格差是正を行うという観点より、日本発運賃の値下げを主眼において是正指導を行ってきたところである。
 このような考え方に基づき、63年9月には関係航空会社に対し、平成元年度中に欧州線、太平洋線、オセアニア線については普通往復運賃に係る格差を解消するとともに、東南アジア線等についても大幅な格差是正を図る方針で取り組むよう指導を行うなど、方向別格差の是正を進めてきたところである。
 この結果、日本発中間クラス普通往復運賃のレベルを100とした場合の相手国発中間クラス往復運賃のレベルは、太平洋線のロサンゼルスで107、欧州線のロンドンで125、オセアニア線のシドニーで116となっており、方向別格差は着実に改善されてきている。今後とも方向別格差の一層の是正が図られるよう引き続き航空企業に対する指導を行っていく考えである〔2−7−10表〕
(3) 割引運賃の導入・拡充
 割引運賃については、利用者間の差別的取扱い等の問題を生じない限り、各路線の特性に応じて各航空企業の創意工夫を活かしつつ弾力的に設定れることが適当であり、既に行政運営においても弾力的かつ迅速な対応を行っているところである。
 国内航空運賃に係る割引運賃については、このような考え方に沿って、昨年12月の航空運賃問題懇談会の報告を踏まえ、家族割引運賃の拡充、高齢者割引運賃の導入等割引運賃の導入・拡充を進めているところである。
 また、国際航空運賃に係る割引運賃については、我が国の海外旅行者は従来団体旅客が中心であったことから、日本発割引運賃は団体割引運賃が主体であったが、ビジネス客をはじめとする個人旅行者の増加に対応するためには、日本発運賃についても個人割引運賃の拡充を図っていくことが必要である。特に、個人割引運賃の拡充は実質的に方向別格差の是正に寄与するものでもある。このような観点から、PEX運賃(特別回遊運賃)等を導入してきたところであるが、平成2年12月には原油価格高騰に伴う航空運賃の値上げを行うとともに、欧州線、太平洋線にAPEX運賃(事前購入型特別回遊運賃)、香港線に回数券運賃を導入したところである。
 なお、割引運賃については、その適用について混乱を招かないよう一般の利用者にとって分りやすく、利用しやすいものとすべきであり、このことが運賃に関する利用者の信頼感を維持するために不可欠の前提であると考えている。このため、航空企業から利用者への情報提供も十分に行うべきであり、さらにその適用条件・割引率等については基本運賃との違いや各種割引運賃間の関係について誤解が生じないよう適正な配慮が払われる必要がある。さらに、既存の割引運賃についても、このような観点から適宜見直しを行うことにより、基本運賃と割引運賃との関係を適切に調整していくことが必要である。

3 国際航空の現状
(1) 国際航空の輸送の伸び
 我が国発着の国際線輸送量は、好景気による国民の所得水準の向上、自由時間の増大といった状況を背景に、近年順調に伸びており、特に、昭和62年度以降は旅客・貨物とも毎年20%近い伸びを続けている〔2−7−11図〕。このように拡大を続けている国際航空輸送需要の対応して、日本発着の定期航空の運行便数も大幅にのびている〔2−7−12表〕
(2) 国際航空の枠組みと航空交渉
 このように国際航空輸送は、1944年に採決された国際民間航空条約(シカゴ条約)に基礎を置くシカゴ体制の下で順調に発展を遂げている。この国際航空の枠組みの下では、原則として、国際定期航空運送事業は関係二国間の航空協定に基づいて運営され、二国間に提供される航空輸送に関する路線、輸送力及び運賃等に関する原則等については同協定中に規定されることとなっている。また、国際不定期航空運送事業は発着国政府の規制に基づいて実施されることとなっている。世界各国は、いずれの国も利用者利便の向上という観点のほかに、自国企業の状況、地理的条件、観光政策との兼合い等といった要素を勘案し自国の利益を確保するという観点から航空交渉を推進しているのが現状である。
 我が国としては機会均等という航空協定の基本的原則に従って、輸送需要に適合した輸送力を確保することより、我が国をめぐる国際的な人的交流及び物的流通の促進に向けて努力することを航空交渉の基本的目標としている。
 我が国においては、過去一年間(平成元年9月〜2年8月)に我が国と航空協定を既に締結している国39か国のうち19か国との間で23回にわたり協議が行われ、これらの協議において我が国航空企業による国際線の複数社体制の推進、新規乗入れの地点の追加、増便取決め等航空路線網の充実を中心として、利用者利便の向上に向けて航空交渉が推進された。
(3) 地方空港国際化の状況
 このように航空交渉を推進していくにあたって、最近地方空港の国際化が重要な課題となっている。地方空港の国際化は、地域における利用者利便の向上、観光の振興、臨空産業の展開等により、地域社会の国際化、活性化を進めるという観点から、さらに成田、大阪といった我が国の基幹的空港の空港能力上の制約にも鑑み、これを推進することとしている。
 地方空港における国際定期路線の開設は平成元年頃から急速に進行し、2年には新たに仙台空港に国際定期便(ソウル及びグァム/サイパン線)が就航したほか、新千歳−グァム/サイパン線、鹿児島−ソウル線等の新規路線が開設され、現在、新千歳、仙台、新潟、小松、名古屋、福岡、長崎、熊本、鹿児島及び那覇の10地方空港から計21の都市に国際定期便が就航している〔2−7−13表〕




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