平成2年度 運輸白書

トピックで見る運輸の1年


 平成元年度を振り返ると、我が国の経済は、個人消費、民間設備投資に牽引され、前年度に引き続き自律的な内需主導型の拡大を続けた。これに伴い、輸送活動も旅客、貨物ともに好調を持続した。


●国内輸送……旅客、貨物ともに大きな伸び
 ここ数年拡大基調にあった国内輸送は、元年度に入っても増加傾向を続け、旅客、貨物ともに大きな伸びとなった。
 元年度の旅客輸送、貨物輸送は、輸送機関でばらつきがあるものの、それぞれ対前年度比6.4%増の1兆2,670億人キロ、同6.3%増の5,134億トンキロと大きく増加した。


●国際輸送……引き続き好調
 元年の出国日本人数は、堅調な個人消費と内需拡大による経済的好調を反映して、対前年比14.7%増と引き続き大幅に増加して966万人となり、8年連続して史上最高を記録した。また、入国外客数も韓国の海外渡航規制が元年に完全自由化されたことによる同国からの来訪者の大幅な増加等により、同20.4%増の284万人と史上最高となった。
 一方、国際貨物輸送量をみると、元年の外航海運は、輸出が0.1%減の7,068万トンと前年に引き続き微減となったものの、輸入が同3.4%増の6億8,316万トンと62年以来増加を続けていることから、輸出入合計では同3.1%増の7億5,384万トンと好調に推移した。また、元年度の国際航空貨物は、輸出が対前年度比10.0%増の47万トン、輸入が同13.5%増の67万トンと大幅に増加し、輸出入合計で同12.1%増の114万トンと依然好調が続いている。


●軽自動車の規格改定(2.1.1)
 最近の交通事故では、乗車中の乗員が死傷する事故が増加している。なかでも軽自動車に係る事故の増加傾向にかんがみ、バンパーを拡大強化すること等により前後方向の衝突時の安全性の向上を図るため、長さを拡大する必要がある。これに伴う車両重量の増加並びにこれまで講じてきた、被追突時の燃料漏れ防止、座席ベルトの追加等の安全性向上、公害防止対策に伴う出力損失及び車両重量の増加による走行性能の低下を回復するため、原動機の排気量を増加させる必要がある。
 このため、平成元年2月10日、道路運送車両法施行規則(昭和26年運輸省令第74号)を改正し、軽自動車の規格を拡大し、2年1月1日から施行したものである。これを受けて自動車製作者6社より申請のあった54型式について、同2月9日型式指定を行った(元年度末で60型式指定済)。


改定の概要

 

●座礁したリベリア貨物船から燃料油大量流出(2.1.25)
 平成2年1月25日午前0時23分頃、海上強風警報発令中の京都府経ヶ岬沖において、リベリア船籍の貨物船マリタイム・ガーデニア(7,027総トン、乗組員23人)が浸水を起こし、乗組員は全員救助されたが、その後、投錨していた船体が圧流され、同日午後5時50分頃付近海岸に座礁、船体に亀裂が生じ、燃料油等約916トンの大半が流出した。
 海上保安庁は、事故発生と同時に第八管区海上保安本部に事故対策本部を設置し、排出油防除資機材等を集結するとともに、海上災害防止センター、第三港湾建設局、自衛隊、警察、地方公共団体の対策本部等の関係機関と協力して、防除措置を実施した結果、流出油の大半が回収されたので、3月31日、対策本部を解散した。
 なお、抜本的な対策として、船内残油の抜き取り及び船体撤去を実施する必要があることから、引き続き舞鶴海上保安部に対策室を設置して、サルベージ作業を指導し、船体撤去の完了を確認の上、6月12日、対策室を解散した。

座礁したリベリア貨物船「マリタイム・ガーデニア」

●混乗外航船第1船スタート(2.3.15)
 近年の我が国外航海運を巡る厳しい経営環境の中で、日本人船員と発展途上国船員の船員コスト格差の拡大等によって、日本人船員の乗り組む日本船の国際競争力が著しく低下し、フラッギング・アウト(海外流出)の動きが、加速してきている。
 こうした状況への対応策として、昭和63年12月に、海運造船合理化審議会のワーキンググループにおいて、従来から外国人労働者の国内受入れ問題の範疇外として近海船等に対して実施されてきた海外貸渡方式による日本船への日本人船員と外国人船員の混乗を外航船舶一般に拡大していくことが現実的かつ有効な方策であるという提言が行われ、これを受けて、海運労使間で話合いが進められた結果、昨年10月に混乗の実施について合意が成立した。
 この労使合意に基づき平成2年3月に日本籍混乗船の第1船がスタートし、我が国外航海運は大きな転換期を迎えることとなった。

混乗外航船第1号「北野」(コンテナ船)

●リニア・メトロの開業(2.3.20)
 地下鉄は、都市の基幹交通機関として建設整備が進められているところであるが、近年、地下鉄の建設費はlkm当たり300億円を超える巨額なものとなっており、地下鉄事業の採算性を確保するため、高騰する建設費をいかにして低減するかが重要な課題となっている。
 リニアモーター駆動小型地下鉄(リニア・メトロ)は、車両の低床化によりトンネル断面の縮小を図ることができること、駆動性の向上により路線設定をより自由に行えること等から、建設費を削減することができる利点を有しており、運輸省は、昭和60年から実用化研究を進め、平成2年3月20日にはリニア・メトロを採用した大阪市地下鉄鶴見緑地線(京橋・鶴見緑地(国際花と緑の博覧会会場)間 5.2km)が開業した。また、リニア・メトロは、東京都地下鉄12号線にも導入されることが決まっており、現在、同線の一部区間について建設工事が進められているところである。

大阪市地下鉄鶴見緑地線開通記念式典

●港湾整備政策「豊かなウォーターフロントをめざして」発表(2.4.11)
 運輸省は、平成2年4月新たな長期港湾整備政策として「豊かなウォーターフロントをめざして」を発表した。この長期政策は、昭和60年に策定した「21世紀への港湾」に対し、策定後の経済社会環境の変化や新たな社会の要請に応えるためフォローアップを行ったもので、新たに付け加えるべき政策や一層強調されるべき政策について検討が加えられている。その結果、豊かなウォーターフロントを形成するために、
 @港湾の機能の充実に加え、使いやすさや美しさの追求
 A輸入促進のための港湾の整備
 B旅客船時代に備えた港湾の整備
 C地方地域や大都市圏の問題への対応の強化
などの点に政策の重点を置く必要があると提案している。

にぎわいあるウォーターフロント(名古屋港ガーデン埠頭)

●超電導磁気浮上式鉄道山梨実験線の建設計画等の承認(2.6.25)
 昭和37年に国鉄が開発を始めた超電導磁気浮上式鉄道については、超高速、低公害等の性格を有する将来の都市間大量輸送機関として期待され、現在、宮崎実験線(単線高架構造、延長7km)においてその開発が続けられている。今後、鉄道システムとして実用化するためには、連続した高速走行試験による機器の信頼性・耐久性の確認等のため、新たに40km程度の新しい実験線の建設が必要となり、運輸省内において開催された超電導磁気浮上式鉄道検討委員会において検討された結果、平成元年8月に山梨県が建設適地として選定された。
 2年度予算においては、実験線の建設費等に対する補助が認められるとともに、2年6月には運輸大臣により(財)鉄道総合技術研究所(JR総研)等の実験線の建設計画及び実験の基本計画が承認された。山梨実験線の延長は42.8kmであり、最急勾配は40‰、最小曲線半径8,000m、軌道中心間隔5.8mで、実験の最高速度は550km/hを予定している。建設及び実験期間は2年度から9年度の8年間であり、一部区間が使用可能となる5年度から走行実験を開始する予定である。

山梨新実験線における超電導磁気浮上式鉄道イメージ図

●第50回海の記念日(2.7.20)
 海への関心を高め、理解を深めることを目的とする「海の記念日」(7月20日)は、平成2年には第50回を迎えたので、これを記念する式典・祝賀会が、天皇・皇后両陛下御臨席の下、東京において盛大に開催された。
 四面を海に囲まれた我が国では、海運、造船、港湾等の海事産業や漁業をはじめ、海洋開発やウォーターフロントの整備、海洋性レクリエーンョンの進展など、海の利用は急速に多様化してきている。また、海上における安全の確保と全地球的規模での海洋環境の保全が求められており、海の重要性は多方面にわたってますます深まりつつある。
 運輸省では、7月20日から31日までを「海の旬間」とし、関係団体の協力の下、全国各地で様々な行事を開催しているほか、「海の記念日」の趣旨の一層の定着をめざし、昭和61年から全国の主要港湾都市の持ち回りで「海の祭典」を開催しており、平成2年には東京で開催された。
 これらの行事を通じ、多くの人々が、海を身近なものとし、海の重要性について認識を深めることが期待されている。

「海の記念日」記念式典

●ヨルダンへ救援機派遣(2.9.1)…中東情勢への対応
 平成2年8月2日のイラクによるクウェート侵攻後、人質として軟禁されていた邦人のうち女性と子供を帰国させるため、運輸省は外務省からの依頼に基づき、救援機の運航を日本航空に対して要請し、これを受けて日本航空は9月1日に特別救援機の運航を行った。また、ヨルダン等に滞留しているアジア人を本国に帰国させるため、運輸省は外務省からの依頼に基づき、救援機の運航を日本航空及び全日本空輸に対して要請し、これを受けて両社は、計3回(日本航空2回、全日本空輸1回)にわたり成田〜アンマン〜マニラ〜成田のルートで旅客便チャーター輸送を実施した。
 さらに、サウディアラビア政府の要請により、輸送協力の一環として、政府がチャーターした航空機により日本貨物航空及び全日本空輸がサウディアラビアへの救急車の輸送を実施した。
 一方、8月29日の閣議で了解された我が国の中東貢献策の一環として、運輸省は(社)日本船主協会及び全日本海員組合に協力を求め、その結果、政府は、日本船籍貨物船「平戸丸」(25,904重量トン)及び「きいすぷれんだあ」(19,122重量トン)を定期用船し、サウディアラビアに向けた建設資材、生活関連物資等の輸送にあたらせるなど、湾岸における平和回復活動に対する輸送協力を行った。  (11月末現在)

新東京国際空港を出発する救援機(資料提供:共同通信社)


定期用船された日本船籍貨物船「きいすぷれんだあ」

●上半期新造船受注量7年ぶりに 600万総トン超える(2.9.30)…造船業の新たな歩み
 平成2年度上半期(4〜9月)、我が国造船業の新造船受注量は612万総トンの高水準を記録した。上半期の受注量が600万総トンを超えたのは7年ぶりであり、長期不況下の昭和62年度上半期の200万総トンと比して3倍強の数字である。受注船価も大幅な改善を見せてきており、我が国造船業はようやくかつての活気を取り戻してきている。このような業況の回復の中で我が国造船業は、依然として残る不況の後遺症をいかに癒していくか、産業の活力をいかに生み出していくかというテーマに真剣に取り組もうとしている。
 平成2年6月の「クリスタルハーモニー」竣工などおよそ60年ぶりの本格的な外航豪華客船の建造の復活、先端技術を駆使し、将来の海上輸送を支える船舶として関係者の期待がかかる「テクノスーパーライナー」の技術開発など造船業の未来を切り拓く新たな試みがなされている。さらに、海上浮体施設を建造するなど、ウォーターフロント開発の分野にも積極的に進出している。
 依然として世界一の地位を誇る我が国造船業は、活力と魅力溢れる産業としての再生に向けて、新たな歩みを始めている。

建造中の外航客船「クリスタルハーモニー」

●温暖化情報センターの業務開始(2.10.1)
 近年の温室効果気体の増加により地球規模の気温の上昇と、これに伴う海面水位の上昇、降水量分布や土壌水分等の変化等地球環境に対する多大な影響が懸念されている。ところが、これまでに温室効果気体に関するデータは一元的に把握されていない状況にあった。
 そこで、気象庁は、世界気象機関(WMO)からの我が国政府に対する要請を受けて、地球温暖化の機構解明・予測及びその対策に寄与するため、「温室効果気体世界データセンター」の役割を担う「温暖化情報センター」を設置し、平成2年10月から業務を開始した。
 本センターは世界で初めて、気象庁に設置されたものであり、二酸化炭素、フロン、メタン、一酸化二窒素等の温室効果気体のみならず地球温暖化にかかる気候に関する全世界の観測データを一元的に収集・管理し、これらのデータ及び解析結果等を情報として全世界の関係機関に提供することとしている。


温暖化情報センター運用開始記念式典

●物流二法の施行(2.12.1)
 平成元年12月19日に公布された「貨物自動車運送事業法」及び「貨物運送取扱事業法」(物流二法)が平成2年12月1日より施行される。この二法は、トラック運送事業及び運送取扱事業の規制を約40年ぶりに抜本的に見直し、制定(平成元年12月に成立、公布)されたものである。
 貨物自動車運送事業法は、トラック事業について、高度化・多様化するニーズに対応して事業者の創意工夫が生かすことができるよう、事業の免許制を許可制に改める等経済的規制緩和するとともに、輸送の安全確保を目的に社会的規制を強化したのが特徴である。
 一方、貨物運送取扱事業法は、国内、国際の物流システムの近代化に運送取扱事業が積極的な役割を果たすことができるよう、従来各運送事業法ごとに規定されていた利用運送事業、運送取次事業を一つの法律にまとめ、事業規制の簡素化・合理化を図ったものである。
 今後、物流事業が一層活性化し、輸送ニーズに適合したサービス提供が一層進展するよう、この二法の円滑な施行を図っていく必要がある。

躍進するピギーバック輸送

●大阪国際空港の存続決定(2.12.3)
 大阪国際空港の存廃問題については、昭和55年運輸省と関係住民を代表する調停団との間で成立した大阪国際空港騒音調停申請事件に係る調停条項に基づき、所要の手続きを進めてきた結果、平成2年7月末までに地元地方公共団体及び調停団から存続を要望する(又は容認する)旨の意見が提出された。
 これら地元の意見等を踏まえ、8月の航空審議会における第6次空港整備五箇年計画中間とりまとめにおいては、「大阪国際空港については、大阪圏における国内航空需要の増大、周辺環境対策の進捗等に鑑み、利用者の利便の確保と周辺地域との調和を図りつつ、同空港を存続することとする。」と明記された。この中間とりまとめの趣旨を受けて、運輸省としては、同空港について存続の基本的方向付けを行い、同空港の存続に係る合意文書を11月22日に調停団と、12月3日に関係地方公共団体と交わしたところである。
 これによって、20年にわたった同空港の存廃問題に終止符が打たれ、同空港については、関西国際空港開港後も大阪圏における国内航空需要に対応する基幹空港として存続・活用されることが決定された。

調停団との存続に係る合意文書調印式




平成2年度

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