平成4年度 運輸白書

第3章 自由時間の充実をめざして

第3章 自由時間の充実をめざして

    1 観光・レジャーの現状
    2 観光の振興への取組み


1 観光・レジャーの現状
(1) ライフスタイルの変化と観光・レジャーの役割
 近年、国民の所得水準の向上や労働時間の短縮が進む中で、価値観の多様化が進み、ライフスタイルにも国民一人一人の個性が強く反映されるようになってきている。そして、人々の豊かさに対する考え方も、従来の所得の向上あるいは物質的な満足よりも、心のゆとり、文化、生きがいといった精神的な満足を求めるケースが多くなっている。
 このような状況の中で、自由時間を充実させたいというニーズが高まっているが、特に観光・レジャーは、未知の世界や人々との出会いを実現してくれるものであり、やすらぎ、ゆとり、感動といった日常生活では味わい難い心の豊かさを実感できる機会や自己実現の場を提供してくれるものでもあることから、国民生活における観光・レジャーの役割はこれまで以上に重要なものになっている。
 観光・レジャーの形態も、従来からの自然景観の観賞、名所・旧跡巡りといったものだけではなく、地域の歴史、伝統、文化やそこに住む人々の生活にふれることができるもの、さらにはボランティア活動を行うもの、あるいは長期滞在型で家族や友人との絆を深めるようなものなど心の豊かさに重きを置いたものが求められている。
(2) 国内観光の動向
 近年、国内旅行は活発化しつつあり、平成3年には宿泊を伴う観光旅行(観光を兼ねた場合を含む。)の回数は1人当たり平均1.73回と、5年前の約1.5倍となっている。
 一方、旅行に関する支出をみると、一般外食、ガソリン代等の旅行に伴う支出を含めた年間の旅行関連支出額は、消費支出全体の約1割を占めるにいたっており、昭和45年に比べて約5.8倍にもなっている。
 また、国内旅行・レジャーの活動内容も多様化・個性化の傾向をみせており、スキー、ゴルフ人口が大きく伸びているほか、スキューバダイビング等のマリンレジャーやパラグライダー等のスカイレジャー、さらにはオートキャンプ、クルージング、テーマパーク等の新しい分野の人気も高まってきている。
(3) 海外旅行の動向
 平成3年の日本人海外出国者数は、湾岸戦争の影響にもかかわらず2年連続で1千万人を超え、海外旅行に対するニーズの高さを物語っている。
 また、海外観光旅行者について年齢別にみると、男女とも20代を中心とする若年層が多くなっているが、地方空港の国際化〔1−3−1図〕が進みつつあることもあって、伸び率では男女とも中、高年齢者の伸びが大きく〔1−3−2図〕、年齢層を問わず海外観光旅行のニーズが広がってきていることがうかがえる。

2 観光の振興への取組み
(1) 旅行需要の平準化
 国民が観光・レジャーを楽しむためには、充分な自由時間、特に休日・休暇が必要であるが、現実には休暇が容易にはとれないことなどがその障害となっている。このため、観光振興の大前提として、休暇制度の改善を軸とする旅行需要の平準化が求められているといえる〔1−3−3図〕〔1−3−4図〕
 休暇制度を改善し、旅行需要の平準化を図ることができれば、観光地や交通機関の混雑の解消が期待できるほか、より多くの人々がさまざまな観光を楽しむ機会が増大し、また、繁忙期と閑散期の差が小さくなることによるサービスの向上等の効果も期待できる。さらに、これまで長期の旅行等を楽しむことができる人が限られていたことを考えると、今までになかったタイプの観光ニーズが生まれる可能性もある。
 なお、祝日や休日以外の日に休暇をとりにくい原因としては、「仕事が忙しくて休めない」、「回りの人も休まないので休みにくい」といった理由が上位を占めており〔1−3−5図〕、休暇を充分とることが社会的にひろく受け入れられるよう企業や従業員の意識や行動を改善していく余地が大きいことを示している。
 このほか、旅行需要の平準化のためには、オフシーズン割引等需要動向に対応したきめ細かな運賃や宿泊料金の割引制度の充実、オフシーズンにおける魅力的な観光資源の発掘やイベントの開催、さらにはキャンペーンの展開等受け入れサイドからの積極的な働き掛けも必要である。
(2) 旅行の容易化
 多くの人が海外旅行等を楽しむようになった背景には、国民の所得水準の向上やニーズの多様化等のみならず、パックツアーの普及等による旅行費用の低廉化もあると考えられる。このため、今後、個人向け、団体向けあるいは家族向けの割引運賃制度の充実を図るとともに、オートキャンプ場、家族旅行村のような手軽であまり費用もかからず長期滞在も可能となるような観光施設の整備を進めることなどが必要である。
 また、観光地、空港等へのアクセスや域内での移動を容易かつ快適なものにするため、交通基盤の整備や交通サービスの向上等を図るとともに、利用者保護及び利便性向上の観点から分かりやすい情報提供等案内・情報提供体制の整備を一層推進すべきである。
(3) 魅力的な観光地・観光メニューづくり
 国民のニーズが多様化・個性化し、心の豊かさが求められている今日、各地域の良好な自然景観や地域に根ざした伝統等を活かしながら、人々の心を引き付け、また、人々に満足を与えるような個性的で魅力のある観光地や観光メニューづくりを進めることが重要である。
 このため、90年代観光振興行動計画(TAP90'S)に基づいて、地域の特性を生かした国内観光振興施策を総合的かつ計画的に推進している。また、観光地・観光メニューづくりにおいて、地域の歴史、文化を色濃く反映させた伝統的な芸能等を生かすことは、その地域の魅力の増進に効果的であると考えられることから、平成4年6月に可決・成立した「地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律」に基づき、地域の伝統芸能等を活用した観光振興を支援することとしている。さらに、地域における観光の振興を図るために4年度から観光事業振興助成交付金制度を活用した観光地等の活性化のための諸事業を推進することとしている。
 このほか、観光地の魅力を引き出すための観光レクリエーンョン施設として、家族旅行村や総合保養地域の整備を図るとともに、最近、急激に伸びてきた海洋レジャーに対するニーズに対応するため、マリーナ、ビーチ、クルーズ船、旅客ターミナル等の整備を進めている〔1−3−6図〕
 また、魅力ある観光を創造していくためには、施設等のハード面の整備だけでなく、人と人のふれあい等を実現するソフト面でのノウハウの蓄積、参加者側の意識の変化が求められる。
(4) 海外旅行の質的向上
 国際間の相互依存関係がますます深まる中にあって、海外旅行は、外国の生活や価値観を肌身で感じることができる草の根レベルの国際交流として国際相互理解の増進にも重要な役割を果たしている。
 このため、外国の生活、文化、歴史等についての情報提供の促進、多様で個性的な企画商品、魅力ある目的地の設定等によって海外旅行の質的向上を図ることが必要である。
 運輸省では、このような施策を総合的かつ効果的に実施していくため、3年7月に観光交流拡大計画(Two Way Tourism 21)を策定しており、その着実な推進を図ることとしている。



平成4年度

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