平成4年度 運輸白書

第5章 地球環境との調和をめざして

第5章 地球環境との調和をめざして

    1 地球環境問題をめぐる動向
    2 環境にやさしい運輸をめざして


1 地球環境問題をめぐる動向
 近年、地球温暖化等の地球的規模の環境問題については、人類の生存と発展のために極めて重要な問題であるとの認識が高まり、世界的な取組みが進められてきている。
 地球環境問題には、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、海洋汚染等さまざまなものがある。これらの特徴としては、これまでの公害問題とは異なり、被害が現実のものとなるまでにかなりの時間を要する一方、いったんその影響が出ると、世界的な規模に及ぶとともに、その回復が極めて困難になるおそれが強いという点が挙げられ、今や人類全体をあげて取り組むべき最重要課題のひとつとして我が国でも国民の関心が高まっている〔1−5−1図〕
 このような状況の中で、平成4年6月にはブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「国連環境開発会議(UNCED:地球サミット)」が開催され、今後の地球環境の保全等に関する基本理念としての「環境と開発に関するリオ宣言(リオ宣言)」、今後の地球環境保全のために各国が取り組むべき行動計画を定めた「アジェンダ21」の採択、「気候変動枠組み条約」への署名開始等が行われた。

2 環境にやさしい運輸をめざして
(1) 地球環境問題と運輸
 地球温暖化は、大気中の二酸化炭素(CO2)やメタン等の温室効果気体の濃度が上昇することによって引き起こされるが、石油等の燃焼により運輸部門から排出されるCO2の割合は、近年の自動車台数や旅客・貨物輸送量の増加等を背景として増える傾向にある。具体的には、運輸部門は、我が国全体のCO2の排出量の約19%(平成2年度)を占めており、最近でも大きな伸びを示している〔1−5−2図〕。このため、運輸部門から排出されるCO2を抑制することにより、地球温暖化問題の解決に向けて取り組むことが重要な課題となっている。
 また、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)は、大気中で雨に溶けることによって生態系等に悪影響を及ぼすと考えられている酸性雨の原因となるほか、人間の呼吸器にも悪影響を与える。このため、ディーゼル車を中心とする自動車から排出されるNOx等運輸部門からのNOx、SOxの排出抑制が大きな課題となっている。
 また、湾岸戦争におけるペルシャ湾の原油流出等が動植物や漁業資源に膨大な被害をもたらしたことは記憶に新しいところであり、海洋汚染の防止対策の重要性を象徴している。
 このほか、運輸部門は、温室効果気体をはじめ、オゾン層やエルニーニョ現象の観測、監視、予測等を行っており、地球環境問題と非常に密接な関係にあることから、今後、真に豊かな国民生活を実現していくためにも、人類全体の持続可能な繁栄のためにも、運輸部門における地球環境問題への取組みが不可欠である。
(2) 運輸における地球環境問題への取組み
(ア) 環境負荷の小さい交通体系の構築
 交通機関全体からのCO2、NOx等の排出量を抑制するためには、輸送構造の改善を図り、単位輸送量当たりのエネルギー効率が良く、CO2等の排出量の少ない交通機関中心に輸送構造をシフトさせることが有効である。例えば、各交通機関別の単位輸送量当たりのCO2排出量を比較すると、旅客輸送部門においては鉄道1に対して自家用乗用車は約8、貨物輸送部門においては鉄道1に対して内航海運は約1.7、自家用貨物車は約36となっており、大量輸送機関の優位性が際立っている〔1−5−3図〕〔1−5−4図〕
 そこで、まず、旅客輸送については、マイカーから鉄道等の公共輸送機関へ旅客を誘導することが必要であり、このためには、利用者にとって魅力のある公共輸送機関の整備を進めることが不可欠である。
 一方、貨物輸送については、幹線輸送において、トラックから大量輸送機関である鉄道、海運へ輸送をシフトさせる、いわゆるモーダルシフトを推進する必要がある。
 しかし、都市内・地域内輸送等においては、トラック輸送に頼らざるを得ないため、積合せ輸送の促進、共同輸配送の推進、物流拠点の整備等によりその効率化を進めている。
 なお、今後は、鉄道等の環境への負荷の小さい交通機関について、その整備と活用を図るためのインセンティブの強化を図ることが課題となっている。
(イ) 交通機関単体からの環境負荷の軽減
 以上のような輸送構造の改善に加え、CO2、NOx等の排出を抑制するなど交通機関単体からの環境への負荷を軽減することが必要である。
 まず、自動車については、そのエネルギー消費量が運輸部門全体の約85%を占めることから、燃費の改善を通じてCO2等の排出の抑制を促進することが重要となっている。このため、平成4年6月にガソリン乗用車についてこれまで以上に厳しい燃費基準を設定したほか、ガソリン貨物自動車の燃費基準についても、今後検討していくこととしている。また、NOxついても、4年5月に可決・成立した「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」に基づき、大都市地域におけるNOxの削減のための総合的な対策を講じていくこととしている。
 このほか、メタノール自動車、ハイブリッド自動車(制動時に発生するエネルギーを回生し、発進、加速時にディーゼルエンジンの補助動力として使用する自動車で、ディーゼル車に比べ燃費が5〜20%改善されると見込まれている。)等環境負荷の小さい低公害車の技術開発やその普及を進めている。特に、メタノール自動車については、4年5月末現在143台の実験車両が都市内集配トラックを中心に使用されており、4年6月には38基目のメタノールスタンドが設置されるなど、その実用化に向けて大きく前進している。
 次に、鉄道については、車両の軽量化、空気抵抗の減少、エネルギー回生型車両の開発等を進め、省エネルギー型の車両の導入を図っている。
 また、船舶については、4年5月に「船舶からの大気汚染問題検討会」を設置し、船舶の運航が大気汚染に及ぼす影響や大気汚染防止技術等について総合的な検討を行うとともに、タンカーの二重船体構造化を進めることとしている。
(ウ) 観測・監視体制の充実等
 気象庁及び海上保安庁では、温室効果気体、オゾン層、海洋環境等に関する観測・監視を実施している。また、我が国以外の国々の地球環境対策を支援するため、アセアン諸国周辺の海域における大規模な海洋汚染事故に対する国際的防除体制の整備に向けた国際協力を推進している。
(エ) 国民意識の向上
 運輸部門における地球環境問題については、これまでに述べたような施策を講じていく必要があるが、このためには、利用者サイドにおいても、地球が有限の存在であり、その環境破壊が時として再生不可能な結果をもたらすことを認識するなど地球環境に対する問題意識を高め、運輸サービスの利用においてできる限り環境への負荷の小さい鉄道等の大量輸送機関を活用するように努めるなどライフスタイルの見直しを図り、環境問題の解決に向けて国民一人一人が努力していくことが重要である。



平成4年度

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