平成6年度 運輸白書

第1章 変化する国際社会と運輸

第1章 変化する国際社会と運輸

 第1部では、国際社会が変化しつつある中で、我が国が諸外国との円滑な交流を確保していく上での運輸の分野における問題と、これに対して講ずべき施策を検討することとしている。
 このため、本章では、世界の運輸の動向を把握するとともに、我が国をめぐる国際交流の活発化及び我が国運輸が果たしてきた役割を述べることとしている。

第1節 国際的な動向

    1 近年の国際経済社会の変化が運輸に及ぼす影響
    2 世界の主要運輸企業の動向
    3 世界の運輸政策
    4 世界の航空・海運の輸送動向


1 近年の国際経済社会の変化が運輸に及ぼす影響
 第二次世界大戦後の世界を形づくってきた枠組みは、1980年代後半以降、冷戦構造をはじめとして、あるいは崩壊し、あるいは変質し、世界は現在、新たな枠組みを模索する時期にあるといえる。
 こうしたなかで、最近の世界経済についても、経済のグローバル化の進展、新たな地域主義や経済ナショナリズムの台頭、アジア諸国の経済成長といった変化が生じており、運輸の分野にも様々な形で影響を及ぼしている。
 グローバリゼーションの進展による人、物の国境を越えた動きの活発化は、国際運輸ニーズの増大をもたらし、運輸サービスについても他の貿易分野と同様、新たなルールづくりが求められるようになっている。
 特に、昨年末決着したガット・ウルグアイラウンドによって新たなサービス貿易の枠組みが形成されたことにより、今後、人、物の移動について、国際的かつ多角的な自由化の動きがさらに加速されることが考えられる。
 また、EUや北米で域内経済統合の動きが進展する一方、アジアにおいてもアジア太平洋経済協力(APEC)閣僚会議の開催等新たな経済的枠組みを模索する動きが始まっており、これらが国際運輸分野にも今後大きな影響を与えることも予想される。
 実際のところ、例えば国際航空においては、米国においてオープンスカイ政策が提唱され、また、EUでも域内の航空自由化への動きが見られるほか、ICAOでも将来的な枠組みのあり方が検討されることとなっている。
 アジア諸国に目を向けると、急速な経済成長に伴い、国際運輸市場のあり様が大きく変化しつつあり、域内外での人及び物の動きが活発化する中で、台頭著しい開発途上国の運輸企業を含めた各国企業間の競争が激化している。また、急激に増大しつつある人流、物流に対応し、さらに将来を見据えた大規模なインフラ整備が進められつつある。
 他方、我が国の運輸企業も国際市場規模の競争に深く組み込まれ、各国企業との激しい競争に直面しているが、こうした中で、我が国の利用者に対する安定的かつ持続的な運輸サービスの供給を確保していくためには、各企業は一層の経営努力によって、国際競争力を高め、厳しい市場環境を克服していくことが必要である。
 また、政府としても、各企業の自主的な競争力強化への努力が効果的なものとなるよう、新たな国際的枠組み作りへの積極的な参加あるいは現在進めている各種規制の見直しの着実な推進等の環境整備に努めていくことが必要である。
 さらに、アジアの各地でインフラ整備が進む中で、今後も引き続き我が国の利用者が良質で安定した運輸サービスを享受するためには、我が国を中心とした航空路や航路の維持が必要であり、このため、特に、基幹空港や基幹港湾について、ハード・ソフト両面での整備・充実を図っていくことも重要である。

(注) 本白書でいう「国」には、台湾、香港等の「地域」が含まれる。

2 世界の主要運輸企業の動向
(1) 航空企業
 米国では、1970年代の後半から路線参入や運賃に関する規制の緩和が段階的に進み、国内・国際航空市場ともに新規参入が活発化した。これにより、国内航空市場を中心に低運賃競争が激化したが、その結果、航空会社の淘汰が進み、現在では上位3社(アメリカン航空、ユナイテッド航空、デルタ航空)が市場の過半を占有するようになっている。
 さらに、これら3社は、広大な国内市場を背景に国際線にも進出し、パンナムやTWAといった従来からの主要企業が相次いで経営不振、破産に陥る中で、ハブ・アンド・スポークに基づく強大な国際、国内路線網、代理店を通じた世界的なCRS(コンピューター予約システム)網、国内市場と国際市場で共通に使用可能なFFP(常顧客優遇制度)の設定等により積極的な市場攻勢を展開しており、このため、他国の航空企業は厳しい競争に立たされている〔1−1−1図〕
 また、ヨーロッパでは、厳しい経営環境の中で、航空自由化と米国企業の攻勢に対応するため、国内における航空企業の合併・統合や国境を越えた資本・業務提携が図られている。
 他方、アジアでは、高水準の経済成長が続く中で、低コストを背景にNIES、ASEANを中心とした各国企業の台頭が著しい。特に世界的に、航空企業が厳しい経営状況に陥っている中で、これらの航空企業は比較的良好な経営状況にある。
 また、従来、アジア諸国では、各国が1社のナショナルフラッグキャリアを持つという体制であったが、近年、韓国、台湾、香港等では国際線の複数社化が進められており、アジアの航空ネットワークの多様化に大きく寄与している〔1−1−2表〕
(2) 海運企業
(ア) 定期航路における主要企業間のグループの集約、再編成
 世界の主要航路では、盟外船社の台頭による競争の激化や船腹過剰による運賃低迷等に対処するため、1989年以降、盟外船社を含めて、輸送力の凍結を主な内容とする航路安定協定が締結されるようになっている。さらに、サービスの向上やコストの合理化をめざして、主要船社相互間の連携が進み、現在北米航路では、同盟、盟外あわせて6コンソーシアム(13社)、欧州航路では、8コンソーシアム(18社)が結成されている。
 また、欧州航路のコンソーシアムの多くは1995年に協定期限を控えており、現在、北米航路も巻き込んだ形で、グローバルなネットワーク構築の観点から、その再編成が進みつつある。特に、我が国3船社(日本郵船、大阪商船三井、川崎汽船)が、今回の再編成の中核をなしていることが注目される〔1−1−3図〕
(イ) アジア船社の台頭
 アジア諸国では、近年、経済成長が著しく、貨物需要も急増しているが、こうした中で、アジア船社は、低コストのメリットを活用し、世界の主要航路に進出している。
 北米航路をみると、往航、復航ともアジア船社が日本の船社や欧米の船社を上回る高い伸びを示しており、全体に占めるシェアを拡大させている。また、アジア船社による大型コンテナ船の発注がこのところ目立った伸びを示している。

3 世界の運輸政策
(1) 航空政策
 (国際航空の枠組みをめぐる動き)
 現在の国際航空の枠組みは、1944年の国際民間航空条約(シカゴ条約)に基礎を置いており、その下で加盟国がそれぞれ二国間の航空協定を締結し、当該協定に基づき国際航空業務が営まれている。このいわゆるシカゴ体制は、半世紀もの間有効に機能しており、多国間体制の構築等を目的とした先のGATTウルグアイ・ラウンド交渉においても、航空分野については原則として「サービスの貿易に関する一般協定」の適用除外とされている。
 現在の二国間協定の枠組みは、多国間体制と比較した場合、地理的条件や輸送サービスに対するニーズといった各国の個別の実状に応じた国際航空のあり方を実現することが容易であるというメリットを有していることから、当分の間引き続き世界の大勢を占めるルールとして存在すると思われる。
 しかし、近年、今後の国際航空のあり方について検討する国際的な動きがみられ、例えば、シカゴ体制を支えている国際民間航空機関(ICAO)においても、1994年11月下旬に開催される航空運送会議において、シカゴ体制の今日的意義について議論し、将来的な国際航空のあり方について検討されることとなっている。
 こうした国際航空の枠組みを再検討する動きの中で、我が国としても、各種国際機関等において行われる議論に積極的に参加し、国際航空の将来的な共通ルールのあり方がいかなるものであるべきか各国とともに議論していくこととしている。
 (米国、EUにおける自由化への動き)
 米国は、1992年8月に二国間協定を自由化する「オープン・スカイ政策」を発表し、各国に同政策に基づく航空協定の締結を呼びかけてきた。しかし、我が国を始めとする他の主要国は、同政策を一大国際航空市場にも匹敵する米国国内市場で力を蓄えた巨大航空企業の国際市場への進出の後押しであると捉えて、反発を強めており、現在までのところ、協定の自由化に成功したのは、1992年9月の米蘭協定のみである。
 EUについては、域内統合の進捗状況に歩調をあわせつつ、3次にわたる政策パッケージが合意され、段階的に域内における航空の自由化が進められてきた。特に、1992年に合意された共通航空政策(パッケージV)は航空自由化の最終版ともいうべきものであり、これにより、1993年から域内共通免許の創設、運賃の自由化、加盟国の国内線(カボタージュ輸送)の段階的な開放、域内輸送の参入自由化等が実施に移された。
(2) 海運政策
 GATTウルグアイ・ラウンド交渉において、海運もその一分野として議論されてきたが、交渉成否の鍵を握る米国が最後まで自由化に消極的な立場を崩さなかったこと等から期限内の合意はならず、海運分野については、1996年6月まで継続交渉を行うこととなった。
 我が国は、従来より「海運自由の原則」を政策の基本として同交渉における自由化推進の中心的な役割を果たしてきたところであり、継続交渉においても引き続き海運自由化の推進に努めることとしている。
 米国は、自国の海運産業を保護するため、従来から政府物資等について米国船籍を義務付ける貨物留保策をとっているほか、米国事業者が外国で事業を行うに当たって、不公正な取扱を受けていると判断したときには、国内法に基づき一方的な制裁措置を講じるなど保護主義的な政策をとっている。さらに、米国諸港に入港する外航船に対するトン税の増税により、自国の海運産業の国際競争力を回復するための助成を行うことを内容とする法案(スタッズ法案)が議会に提出されるなど、米国の動向には、引き続き注意を要する。
 他方、EU委員会では、1986年に海運同盟に対する独占禁止法の適用除外等を内容とする第1次の共通海運政策パッケージを採択したが、加盟国の海運企業の競争力強化には、実効はあがらなかった。このため、1989年に第2船籍としてのEUROS制度の導入等を内容とする第2次パッケージが提案されたが、現在まで合意には至っておらず、域内のカボタージュ輸送の開放についてのみ、1992年に合意が得られたところである。このほか、近年、同委員会では、コンソーシアム等の海運事業者の協定行為に対して独占禁止法の適用を強化する動きがみられる。
 また、近年のアジア諸国の経済成長を反映して、これらの国々との海運政策対話の必要性が高まっている。このため、我が国としては、1994年4月、OECDとDAEs(活力あるアジア諸国・地域、具体的には、香港、韓国、マレーシア、シンガポール、台湾及びタイ)との海運政策対話非公式会合を招致したところであり、今後ともアジア諸国との対話を推進していくこととしている。

4 世界の航空・海運の輸送動向
(1) 国際航空旅客の動向
 世界の国際空港旅客数をみると、湾岸戦争の影響により、一時的な減少がみられたほかは、増加傾向が続いており、1992年には、ICAO加盟国全体で約3億人に達している。
 地域間別の国際航空旅客数では、北米・ヨーロッパ間の旅客数が最も多く、全体の約4分の1を占めているが、アジア発着の旅客数も、同地域の高い経済成長を反映して、大きな伸びを示しており、アジアとその他地域との間の旅客数は全体の約3割を占めている〔1−1−4表〕
 我が国発着の国際航空旅客数も、このところ、伸びが鈍化しているものの、1992年度には、34,493千人に達しており、世界の国際航空旅客数の1割強を占めている(1993年度は、36,000千人)。しかし、日本の航空企業の積取比率の推移をみると、1987年度以降減少が続き、1993年度には32.2%まで低下している。路線別にみると、特に、太平洋路線における日本人旅客、ヨーロッパ路線における外国人旅客について、日本企業の積取比率の低下が大きい〔1−1−5図(a)〕〔同図(b)〕〔同図(c)〕

(注) 第2船籍 自国船の国際流出を防止する観点から、自国の船主に対して、その船の国籍を変えることなく、船員配乗規制の緩和等により国際競争力回復を図ろうとする制度。欧州では、既に、英、独、仏、北欧諸国等で実施されており、ノルウェー等ではかなりの成果を挙げている。なお、EUROS制度とは、各国の第2船籍を代替するEC共通の特別船舶登録制度のことである。

(2) 国際航空貨物の動向
 世界の国際航空貨物量をみると、このところ、伸びがやや低くなってはいるものの、1992年には、9,110千トンに達している。
 こうした中で、我が国発着の国際航空貨物量は、1992年度には1,544千トンに達しており、世界の国際航空貨物量の約17%を占めている。また、日本の航空企業の積取比率の推移をみると、ほぼ40%程度で推移している。
(3) 国際海上貨物の動向
 世界の海上荷動き量は、1980年代の後半以降は、増加傾向に転じており、1993年には約43.2億トンとなっている。特に、コンテナ貨物の取扱量の伸びが目覚ましく、1992年には1億TEUを上回るようになった。また、航路別のコンテナ貨物の荷動き量をみると、1985年から93年の間に大西洋航路が、年平均1%の伸びにとどまっているのに対し、経済成長が著しいアジアを起終点とする北米航路、欧州航路はそれぞれ年平均5.2%、11.5%、アジア域内航路も年平均10.6%と高い伸びを示しており、世界の荷動きがアジアを軸に成長していることがわかる〔1−1−6表〕
 我が国発着の国際海上貨物量は、伸び率は低いものの、増加基調にあり、1993年には、796百万トンに達している。他方、世界全体に占めるシェアは、このところ、わずかながら、減少に転じており、1993年には18.4%となっている。
 我が国商船隊の積取比率の推移をみると、輸入については、7割程度を維持しているが、輸出については、1985年以降減少が続いており、1993年には42.7%まで低下している。また、日本籍船の積取比率は、輸出入とも著しく減少しており、特に輸出では5%を割っている〔1−1−7図〕

(注) TEU(Twenty-Footer Equivalent Unit):20フィートコンテナを基準とする(ITEU)として換算したコンテナの取扱個数



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