平成6年度 運輸白書

トピックで見る運輸の1年



●関西国際空港の開港(6.9.4)
 構想から四半世紀、工事に着手してから7年余りの歳月をかけ、平成6年9月4日に待望の関西国際空港が開港を迎えた。わが国の国際空港としては、昭和53年新東京国際空港の開港以来16年ぶりであり、8月29日には皇太子・皇太子妃両殿下の御臨席のもと開港記念式典が盛大に催された。
 関西国際空港は、近畿圏の航空需要の増大に対処するとともに、大阪国際空港の環境問題の解決に寄与することを目的として、大阪湾南東部の泉州沖約5kmの海上を埋め立てて建設された、わが国初の本格的24時間運用可能な国際空港である。特色としては、@24時間運用可能であることから、旅客のニーズに応じた多様なダイヤを設定することが可能であり、さらに、夜間の輸送が多い貨物便の増加が見込まれ物流の効率化が図られる等様々な効果が期待されること、A開港時から多様なアクセスが整備され、関西圏の主要都市から空港へのアクセスが非常に容易であること、B国際線のみならず国内線も多数乗り入れることから、日本各地から関西国際空港を経由することにより容易に海外に行くことができ、さらに、その乗り継ぎについても同一旅客ターミナルビル内の上下移動のみでできること等が挙げられ、関西国際空港は、利便性に優れた、我が国の新しい空の玄関として期待されている。
 関西国際空港は、平成6年冬期ダイヤ(11月)の段階で、海外21カ国1地域47都市(368便/週)と国際線により結ばれており、今後、日本未乗り入れ国の乗り入れを含め、国際航空路線網の充実が見込まれている。また、関西国際空港には、国際線だけでなく、国内線も平成6年11月現在で国内25空港(65便/日)と結ばれており、日本の内外に大きくネットワークを広げている。
 関西国際空港の開港により、日本全国・世界各国の人・物・情報がダイレクトかつリアルタイムに集まることとなり、関西地域の経済的・文化的復権に貢献することになることはもちろん、国際化、情報化の進む我が国全体の発展にとって、極めて大きな効果をもたらすものと期待されている。


旅客ターミナル導線図


開港を迎えた関西国際空港

●成田空港問題円卓会議の終結(6.10.11)
 「成田空港問題シンポジウム」の結論を受け、平成5年9月から空港と地域との共生の道を話し合う「成田空港問題円卓会議」が開催されてきた。平成6年10月の第12回円卓会議において、隅谷調査団からこれまでの議論を踏まえた最終的な所見が示され、これを会議の構成員のすべてが受け入れることにより円卓会議が終結した。
 円卓会議では、今後の成田空港の整備を民主的手続きで進めていくことが合意され、これにより成田空港をめぐる対立構造が解消し、新しい局面を迎えることとなった。
 これからは、円卓会議の結論を最大限尊重してその実現に努めるとともに、円卓会議で合意された民主的な手続で誠意をもって話し合いを行うことにより用地取得や騒音移転の問題の解決に全力を尽くし、地域と共生できる成田空港の整備に積極的に取り組んでいくこととしている。


第12回成田空港問題円卓会議

●鉄道整備助成の拡充(5.4〜)
 国土の均衡ある発展や生活者重視の観点から、鉄道整備に対する助成の拡充がなされてきている。
 平成6年度予算においては、新幹線、地下鉄等の整備に対する補助金の充実、第3セクターの整備する地下鉄の補助対象化、地方単独事業を活用する地下鉄緊急整備事業の創設、中小鉄道に対する近代化補助金の充実等が行われるとともに、都市鉄道・幹線鉄道整備事業費が公共事業関係費に分類され、助成財源の安定的かつ継続的確保が期待されることとなった。なお、これに先立ち、5年度の3次にわたる経済対策として、北陸新幹線高崎〜長野間等の整備、地下鉄の新線建設等のための予算が盛り込まれている。
 また、特定都市鉄道整備積立金制度についても、制度の一層の充実を図るための「特定都市鉄道整備促進特別措置法」の一部改正が成立し、6年8月1日から施行された。


永田町駅駅シールド

 

●オフピーク通勤キャンペーンの展開(5.12〜)
 大都市圏における通勤混雑は、依然として厳しい状況にあり、鉄道輸送力の増強とともに、ソフト面の対策として企業等において時差通勤やフレックスタイム制によるオフピーク通勤の普及促進を図ることが必要である。
 このため、労働省と連携し、経済界、労働界の代表者などからなる「快適通勤推進協議会」、「同協議会丸の内・大手町地域部会」、「同協議会新宿地域部会」を開催し、官民一体となってオフピーク通勤の推進に取り組んでいるところである。
 オフピーク通勤推進に向けたキャンペーン活動として、冬季の着膨れラッシュに合わせ、首都圏の鉄道駅及び車内にポスター等を掲示したほか、6年3月には、企業の人事担当者に直接オフピーク通勤の必要性を訴えるため「快適通勤推進セミナー」を開催した。また、11月を新たに「快適通勤推進月間」として、駅頭キャンペーン、セミナーを行うほか、11月24日を「オフピーク通勤推進デー」としてオフピーク通勤の試行を行うなど重点的に取り組むこととしている。

オフピーク通勤を呼びかけるポスター

●本格的なクルーズ時代の到来(5.12〜)
 運輸省はゆとりある国民生活を実現する一つの方策として外航客船旅行の振興を図っており、平成5年12月から6年4月まで、(社)日本外航客船協会の協力を得て、クルーズ船の一般公開、割安なクルーズツアーの実施等のクルーズキャンベーンを展開した。このような努力もあって、外航クルーズは国民に定着しつつあり、「飛鳥」が8年に96日間世界ー周クルーズを、「にっぽん丸」が7年に62日間ハワイ・カリブ・アラスカクルーズを行うことが発表され、予約状況も好調であるなど、本格的なクルーズ時代の到来を感じさせる動きが見られる。

客船「飛鳥」


客船「にっぽん丸」

●自動車型式指定取得促進ミッションを米国に派遣(6.3.8〜6.3.13)
 平成6年3月8日から13日までの6日間、運輸審議官を団長とする自動車型式指定促進ミッションを米国に派遣し、デトロイトにあるビック3各社(GM、フォード及びクライスラー)幹部に対して型式指定の概要及び利点並びに4月からデトロイト総領事館に常駐する自動車審査担当領事の業務内容を説明し、型式指定取得を奨励した。これに対し各社より今回の運輸省の措置を歓迎するとともに、今後、型式指定を積極的に取得したい旨発言があった。特に、4月からの審査担当領事の常駐については、各社とも高く評価し、これに対する大きな期待が表明された。

クライスラー本社にて、チェロキーの前で型式指定通知書をクライスラー側に手渡す向山前運輸審議官


デトロイト総領事館にて常駐する自動審査担当領事

●貨物運送取扱事業及び地域内物流の効率化についての運輸政策審議会答申(6.3.16)
 平成5年11月、運輸政策審議会に対し、「貨物運送取扱事業法附則第52条に規定する措置について」及び「地域内物流の効率化のための方策について」諮問が行われた。審議の結果、貨物運送取扱事業法に関しては順調に施行されており法の基本的枠組みは維持することが適当であるが、新サービスの開発やさらなる許認可等の整理等を図る必要があること、また、地域内物流の効率化方策に関しては、共同集配システムの構築を推進するとともに、駐停車、荷捌きスペース等の地域環境の整備方策を講ずべきこと等を内容とする答申が6年3月16日にとりまとめられた。
 運輸省では、答申に基づき所要の施策を推進しているが、例えば後者については、各地城において関係者による協議会を設置するなど物流効率化に向けた推進体制の整備を促進している。特に、福岡市天神地区においては、「天神地区物流対策推進協議会」の提言を受け、地元運送事業者や荷主等の出資による新しい事業主体が発足し、6年9月から共同集配事業を開始したところである。

福岡市天神地区における共同集配事業
(左)共同集配車両 (右)トラック専用パーキング

●「新たな港湾環境政策−環境と共生する港湾<エコポート>をめざして−」の策定(6.3.17)
 地球規模での良好な環境の保全や持続可能な発展、恵み豊かな環境の次世代への継承が求められる中、港湾においても、より幅の広い環境施策の導入を図るとともに、長期的な視点に立った総合的、計画的な取組みが不可欠であり、その基本となる新たな環境政策策定の必要性が高まってきた。このため、平成4年12月に「港湾・海洋環境有識者懇談会」を設置し、今後の港湾環境政策のあり方について幅広い議論を進めてきた。
 運輸省では、この懇談会の提言及び5年11月に制定された環境基本法の理念を踏まえて、6年3月17日に、生態系など自然環境と調和し、潤いとアメニティ豊かな環境共生港湾(エコポート)の形成を目指した「新たな港湾環境政策」を策定した。今後は、この政策に基づき、各港での港湾環境計画の策定、エコポートモデル事業の推進、港湾環境インフラの整備、環境管理の充実など、港湾環境の保全及び創造への取組みを強化する。

人工干潟にやってきた野鳥の群れ

●我が国航空企業の競争力向上方策及び次世代の航空保安システムのあり方についての航空審議会答申(6.6.13)
 我が国航空企業の競争力向上のための方策及び次世代の航空保安システムのあり方について、6年6月13日に航空審議会からそれぞれ答申が出された。競争力向上のための方策に関する答申では、内外の事業運営環境の変化の結果深刻な経営状態に陥っている我が国の航空企業について、その競争力向上の必要性を指摘した上で低コスト体質への転換や収益力の強化を図るための様々な方策を示すとともに、行政に対しては、規制の見直し等を通じてその環境整備を行うことを求めている。また、航空保安システムのあり方に関する答申では、人工衛星とデ−タ通信などの新技術を活用した次世代航空保安システムの構築が不可欠であるとしている。
 運輸省では、本答申を最大限尊重し、その実現に向けて諸施策を講じていくこととしている。

航空審議会

●テクノスーパーライナーの実海域模型船実験を実施(6.7〜)
 新形式超高速船テクノスーパーライナーの設計・建造のための基礎的技術の確立を目指した実海域模型船実験が平成6年7月から開始された。
 テクノスーパーライナーの研究開発は、造船における創造的技術ポテンシャルの維持・強化と海上輸送の高度化を目指して、速力50ノット(時速約93km)、貨物積載重量1000トン、航続距離500海里(約930km)以上、荒れた海でも航行できる性能を開発目標に、平成元年度から実施されている。
 今回の試験は、空気圧力式複合支持船型「飛翔(ひしょう)」(全長約70m)と揚力式複合支持船型「疾風(はやて)」(全長約17m)の2隻の実海域模型船を用いて、船型性能、構造強度、新材料、推進装置及び姿勢制御システム等、これまでに終了した要素技術に関する研究の成果を実際の海象条件下で検証評価しようとするものである。
 これまでの試験では、既に計画を上回る速力を記録するなどの成果をあげており、1990年代後半の実用化を目指して基礎的技術の確立を図るための研究開発を進めている。また、あわせてテクノスーパーライナーに対応した港湾のあり方や、事業運営等についての検討を行っている。

空気圧力式複合支持船型実海域模型船「飛翔」


揚力式複合支持船型実海域模型船「疾風」

●名古屋港海上交通センターの運用開始(6.7.15)
 6年7月15日、海上保安庁は、港内を業務対象海域とする海上交通センターとして、名古屋港海上交通センターの運用を開始した。
 名古屋港は、港口から港内に至る二つの航路が港の中央部で合流し、さらに港奥の航路に接続していることから、見通しが悪い港の中央部に航行船舶が集中するなどの問題があり、港内を航行する船舶の安全を確保するための新たなシステムの構築が求められていたもので、同センターの設置により、今後、名古屋港においては、港内を航行する船舶への情報提供と航行管制が一元的に行われるようになり、港内交通の安全がより一層向上することが期待される。

名古屋港海上交通センター

●第1回気象予報士試験の実施(6.8.28)及び気象データ配信の開始(6.7〜)
 平成5年5月に気象業務法が改正され、7年5月からは、気象庁からの各種予側デ−夕の提供と気象予報士制度の導入を前提に、民間気象事業者も独自の局地予報を一般に提供できるようになるなど、民間の気象業務の大幅な拡大が認められ、高度情報化社会に向け利用者の多様なニーズに応える気象情報サービスの展開がスタートする。
 このため、6年3月には、新しい気象情報サービスを支えるセンターとして(財)気象業務支援センターが設立された。同センターは5月、気象庁から民間気象事業者等への各種データのオンライン分岐配信を担う機関として指定され、6年7月から配信事業を開始した。
 気象予報士は、民間の予報業務において、現象の予想を的確に行う知識と技能を認定する国家資格である。第1回の気象予報士試験は、6年8月28日に全国の主要都市(札幌、仙台、東京、大阪、福岡、那覇)で実施され、応募者3,103人のうち2,777人が受験し、合格者は500人であった。試験は今後毎年度少なくとも1回実施されるが、6年度については、6年12月及び7年3月にも実施の予定である。

気象予報士試験実施風景

●第1回「鉄道の日」(6.10.14)
 我が国の鉄道は、明治5年(1872年)10月14日、新橋・横浜間に開通し、その歴史の第一歩を踏み出し、我が国経済、社会、文化の発展をさまざまな形で支えながら、平成6年で満122年を迎えた。
 鉄道は、今日も我が国交通機関の中核的存在であるが、最近では、環境問題、エネルギー問題等の観点から、欧米においても「鉄道復権」の動きがある。こうした鉄道とこれを取り巻く経済社会環境が変貌している今日、今後の鉄道の一層の発展と鉄道の役割に対する国民の理解と関心の高揚とを目的として、10月14日の「鉄道の日」の行事が行われた。
 第1回の平成6年は、秋篠宮同妃両殿下をお迎えして記念式典を開催したほか、鉄道フェスティバル、記念シンポジウム、イメージマークの公募、全国鉄道スタンプラリーなどの行事が行われ、また「鉄道の日」にちなんだ行事が全国各地で展開された。

イメージマーク


第1回「鉄道の日」記念式典

●国際会議等の誘致の促進及び開催の円滑化等による国際観光の振興に関する法律(コンベンション法)に基づく「国際会議観光都市」の認定(6.10.20)
 運輸省は、平成6年9月のコンベンション法の施行を受けて、同年10月、札幌市をはじめとする40都市を同法に基づく「国際会議観光都市」として認定した。
 我が国においては、大規模なコンベンション施設の建設は進んでいるものの、一部を除き、その施設は十分に活用されておらず、国際会議の開催件数も世界の3%と欧米諸国に比べて低い水準に止まっている。
 今回の「国際会議観光都市」の認定により、同都市に対しては、国際観光振興会が国際会議等の誘致情報の提供、諸外国への宣伝等を行うとともに、同都市において一定の要件を満たす国際会議等を開催する者に対する寄付金の募集等を行うこととしている。
 今後の我が国における国際会議等の開催件数を増加させることにより、地方の活性化と国際化の推進、ひいては、年間9,000億円にのぼる経済波及効果が期待される。

コンベンション施設(釧路市観光国際交流センター)

●湘南ナンバーの誕生
 平成6年10月31日、神奈川県平塚市で全国で89番目の陸運支局・事務所として湘南白動車検査登録事務所が業務を開始した。
 近年、神奈川県の中西部地域を管轄している関東運輸局神奈川陸運支局相模自動車検査登録事務所管内の自動車の保有台数が著しく増加し(平成5年度末検査対象車両数:約118万台)、既存の検査施設では増加する検査業務への円滑な対応ができない事態となっていたが、湘南事務所の開所により、相模事務所の管轄区域がニ分割され(湘南事務所:約59万台、相模事務所:約59万台)、円滑な業務処理及び利用者の利便の向上が図られた。
 湘南事務所の管轄区域に使用の本拠の位置を有する自動車のナンバープレートに表示される文字は「湘南」としたが、湘南事務所の開所前から地元やマスコミの間で「湘南ナンバー」が話題になっていた。

神奈川県陸運支局・湘南自動車検査登録事務所鳥かん図

●OSAKAワールド・ツーリズム・フォーラム'94の開催(6.11.2〜6)
 平成6年11月2日から6日まで大阪市において、世界初の観光サミットである「世界観光大臣会議」を中心とした「OSAKAワールドツーリズム・フォーラム'94」が開催された。
 本フォーラムは、平成6年9月に開港した関西国際空港の開港を記念して、国際社会における相互理解と友好の促進を図るための観光の重要性を世界に向けて訴えることを目的として開催したものである。
 中心行事である「世界観光大臣会議」には、世界から78の国及び地域、18の州及び5の国際機関からのあわせて101にものぼる政府、機関の代表(52人の観光大臣)の参加を得て、21世紀を見据えた地球の未来のメッセージである「OSAKA観光宣言」を採択した。
 同時開催した「世界観光セミナー」には、世界観光機関(WTO)事務局長エンリケス・サビニャック氏、世界最高の権威を有する観光大学であるコーネル大学のディットマンホテル経営学部長等、内外の観光分野のオーソリティが出席し、21世紀の地球と観光のあり方を探った。
 また、市民一般向けに国際観光の魅力を体験して頂く「世界観光フィエスタ」も開催され、10万人を超える入場者を得る等好評を博した。

「OSAKA観光宣言」を採択した世界観光大臣会議



平成6年度

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