平成7年度 運輸白書

トピックで見る運輸の1年



●阪神・淡路大震災の発生(7.1.17)
 平成7年1月17日、淡路島北部を震源とするマグニチュード7.2の直下型大地震が阪神・淡路地域を襲った。この大地震では、兵庫県を中心として戦後最大級の災害が発生し、高度に都市機能が集積した大都市圏での直下型地震の恐ろしさを改めて我々に認識させる結果となった。
 運輸省では、地震発生直後より、本省、海上保安庁、気象庁、及び関係地方支分部局に災害対策本部を設置し、被災者の救援活動や緊急援助物資輸送ルートの整備などの措置を講じた。緊急援助物資輸送ルートとしては、関西国際空港にいったん物資を集めたのち海上保安庁の船艇等を利用して神戸港まで輸送するルート、民間ヘリコプターによる輸送ルート(大阪・姫路等地区7ヶ所と神戸・淡路地区17ヶ所の間)等を確立した。さらに、神戸港が大きなダメージを受け、鉄道、道路等の輸送ルートが寸断されたため、港湾・鉄道等の復旧を急ぐとともに、緊急・代替輸送体制の整備を行った。
 また、阪神・淡路大震災の運輸関連の被災については、6年度第2次補正予算、7年度第1次及び第2次補正予算、特別立法措置などによる復旧・復興支援を行い、その結果、鉄道は8月23日に全線復旧し、港湾は8年度中に概ね復旧する見通しとなった。
 今後、運輸省としては、兵庫県及び神戸市が策定した復興10ヶ年計画も踏まえ、政府の阪神・淡路復興対策本部が決定した取組方針に基づき地域と共同して被災地域の生活再建、経済復興等を一層推進するという観点から、引続き復興支援を推進していくこととしている。


復旧が進む三宮駅(7年3月)


六甲アイランド南仮設桟橋工事(7年9月)

●国内航空運賃及び割引運賃等の設定弾力化(6.12〜、7.9)
 利用者のニーズが高度化・多様化し、個人型の割引運賃の充実を求める声が高まっていることなどに対応して、平成6年6月に航空法を改正し、同年12月より割引率5割までの営業政策的な割引運賃及び料金等について届出制とした。これにより、事業者は多様な割引運賃等の設定を自主的な判断により行うことが一層容易となり、7年5月には国内航空運賃において従来見られなかった利用主体に制限のない割引運賃である事前購入割引が導入された。
 また、普通運賃についても、標準的な原価を最高額とする一定の幅の中で航空会社の自主的な運賃設定を可能とする幅運賃制を7年内に導入することとした。これにより、航空会社による季節、時間帯、路線の特性等を加味した多様な運賃設定が促進されるとともに、従来より推進してきているダブル・トリプルトラック化と相まって、航空会社の経営の効率化が一層促進されることが期待される。

運賃の一層の多様化が期待される国内航空

●整備新幹線の大幅な前進(6.12.19〜)
 平成6年12月19日、整備新幹線の見直しについての関係大臣申合わせが締結され、@東北新幹線盛岡・八戸間のフル規格での着工、A北陸新幹線富山駅及び九州新幹線熊本駅での整備新幹線駅整備調整事業の実施、B長大トンネルの試掘調査への着手、C3線5区間以外の区間の整備のための「新しい基本スキーム」につき8年中に成案を得ること等について合意され、整備新幹線の整備の推進に大幅な前進を見ることとなった。これに従い、7年5月にはそれぞれ起工式等が行われた。

関係大臣申合わせの概要(参考地図)


東北新幹線(盛岡〜八戸間)


北陸新幹線富山駅


九州新幹線第二筑紫トンネル

●国民の祝日「海の日」制定(7.2.28)
 平成7年2月28日、国民の祝日に関する法律(祝日法)が改正され、8年から7月20日は、海の恩恵に感謝し、海洋国日本の繁栄を願うことを目的とする14番目の国民の祝日「海の日」となった。
 7月20日は、昭和16年の次官会議で「海の記念日」として制定され、今日まで長年親しまれてきたが、近年、「海の記念日」を国民の祝日にしようという機運が高まり、海事関係団体等で組織する「国民の祝日「海の日」制定推進国民会議」が中心となり、全国各地で署名運動が行われた結果、祝日制定を求める署名が1,038万人に達し、47すべての都道府県議会を含む全国7割の2,280地方議会で「海の日」祝日化を求める意見書が採択された。
 この「海の日」制定を機に、国民が一層海に親しむとともに、海に関する認識を深めることが期待される。

「海の日」のPR活動(神戸市)

●地下鉄サリン事件の発生(7.3.20)
 平成7年3月20日午前8時頃、帝都高速度交通営団(営団)丸ノ内線、千代田線及び日比谷線の各列車内において、猛毒ガス(サリン)が発生し、乗客と営団職員11名の人命を奪い(7年11月現在)、多数の人々が負傷する事件が発生した。
 運輸省としては、公共交通機関を狙い、不特定多数の人々を無差別的に殺傷するという事件の深刻さと重大性にかんがみ、直ちに鉄道局長を本部長とする「営団地下鉄有毒ガス事件に関する緊急対策本部」を設置し、鉄道事業者に対し、厳戒体制をとるよう指示等するとともに、事件の状況等の把握、情報の収拾等の対策を講じた。また、同日、全運輸事業者に対し、関係施設等の巡回等上記趣旨の徹底を内容とする指示を行った。
 さらに、各鉄道事業者においても、防犯カメラの設置、自主的警備の継続、旅客への注意喚起を呼びかけるポスターの掲示等を行うとともに、緊急時における避難誘導の方法、不審物発見時における措置等に関するマニュアルの整備を行うなどの対策を講じている。
 運輸省としては、今後とも、日常生活に大きな不安と脅威を与えるこのような事件の再発防止の観点から、引き続き関係機関等と協力し、運輸関係事業者とともに、旅客の安全性の確保に努めることとしている。

社内巡回する営団職員(営団地下鉄日比谷線)

●「人と地球に優しいバス」の導入促進(7.4〜)
〜日本ではじめてCNGバスが富士山で導入される〜
 自動車の排気ガス(NOx等)の削減や高齢化社会の到来に向けた対応は、我が国として早急に取り組むべき重要な課題となっている。
 運輸省では、今年度から高齢者、障害者等のためのリフト付バスの導入助成制度を創設するとともに、低公害車の導入に対する補助制度についても、その対象地域を自動車NOx法の特定地域に加え、国立公園等におけるマイカ一規制地域にまで拡大するなど制度の充実を図った。
 これらの制度の充実等により、平成7年度においてはリフト付バスが11台導入されるほか、上高地においてはハイブリッドバス(制動エネルギーを回収し、改めて発動時に利用するリサイクル式低公害バス)が4台、富士山においてはCNGバス(圧縮天然ガスを燃料として使用するバス)が2台、それぞれ導入された。これらを皮切りに、自然環境を守りつつ地域から信頼され、愛される「人と地球に優しいバス」が日本全国に普及すべく支援を行っていくこととしている。環境問題や高齢者等に配慮した「人と地球に優しいバス」の導入促進が期待される。

リフト付超低床バス


低公害車(ハイブリッドバス)

●メガフロート研究開発を開始(7.4.6〜)
 沖合展開による海洋空間の有効利用に資する超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の研究開発が、造船13社、鉄鋼4社により設立されたメガフロート技術研究組合により、平成7年4月6日から開始された。
 本研究開発では、数キロメートル規模、100年耐用の超大型浮体式海洋構造物の開発を目標に、9基の浮体ユニットを洋上で接合し大型浮体モデル(長さ300m×幅60m×深さ2m)を製作し、@浮体設計技術、A洋上施工技術、B超長期耐用技術、C上載施設機能保証技術、並びにD環境影響評価技術のための実海域実証実験を行うこととしている。
  7年度は、横須賀市沖において、4基の浮体ユニットを接合し部分浮体モデルを製作し、これを用いて各種実証実験を行うこととしている。
 メガフロートは、大水深の海域や軟弱な地盤といった厳しい施工条件の海域においても新たな人工地盤の提供を可能にし、海洋空間における社会資本の円滑な整備に多大な貢献をするものと大いに期待されている。

メガフロート総合物流基地(イメージ図)

●サハリン北部地震災害に対し緊急支援物資の輸送を実施(7.5.30〜)
 平成7年5月27日深夜(日本時間)、ロシア連邦サハリン州北部でM7.6の大地震が発生し、石油採掘の町ネフチェゴルスクに破壊的な被害をもたらした。
  海上保安庁では、地震発生後直ちに関係機関から関連情報の収集等を行っていたところ、外務省及び北海道からの緊急支援物資の輸送要請がなされ、第一管区海上保安本部千歳航空基地所属YS11A型機「おじろ」が5月30日及び31日の2回にわたり医療機器、食料品・飲料水、防寒具等の緊急支援物資をユジノ・サハリンスクまで空輸した。また、巡視船「そうや」が6月3日に、巡視船「れぶん」が6月8日にそれぞれ緊急支援物資をコルサコフまで輸送した。

サハリン北部地震での救援風景「おじろ」

●今後の観光政策の基本的な方向についての観光政策審議会答申(7.6.2)
 平成7年6月2日、観光政策審議会は6年5月の運輸大臣による諮問「今後の観光政策の基本的な方向について」に対する答申を行った。
 本答申は、観光に対する期待の高まりを受け、経済発展、雇用創出、地域振興、国際相互理解の増進等の様々な観点から、観光を「21世紀のわが国経済社会の発展の核」と位置づけ、国、地方公共団体、経済界、一般国民に向けて提言されたものである。答申は基本的視点として、旅の権利性、ものづくり立国からゆとり観光立国への転換等を提示して、各位の意識改革を期待するとともに、ゆとりある休暇の実現、障害者・高齢者などの人々の旅行の促進、観光大学のような高等教育研究機関の設立等の具体的方策を提言している。
 運輸省では、本答申の実現のため、基本方針や行動計画の策定をはじめ、諸施策を講じていくこととしている。

瀬島観光政策審議会会長より亀井前運輸大臣に答申が手交される(東京)

●APEC(アジア太平洋経済協力)運輸大臣会合の開催(7.6.13)
 平成7年6月13日に米国ワシントンにおいて、APEC(アジア太平洋経済協力)域内18の国及び地域の代表の参加を得て、初のAPEC運輸大臣会合が開催された。歴史・文化や経済の発展段階を異にする各メンバーの間で、「運輸インフラの整備」、「人と物の効率的移動の促進」、「人材養成」等のテーマについて、対等かつ平等な立場からの自由な意見交換が行われた。
 本会合において我が国は、安全や地球環境問題、その他都市交通間題などの各国共通の課題に関し、運輸インフラ整備、技術協力等を積極的に推進し、地域の発展に大いに貢献したい旨を表明した。
 なお、本会合では、APEC域内運輸システムの構築に関しての共同声明がとりまとめられ、我が国の基本的考え方や問題意識が十分反映された内容の「21世紀へ向けたガイドライン」や「協力と行動の優先事項」が盛り込まれた。

APEC運輸大臣会合(ワシントン)

●静止気象衛星「ひまわり5号」の運用開始(7.6.21)
 気象庁の新しい静止気象衛星「ひまわり5号」は、平成7年3月18日午後5時1分に、宇宙開発事業団種子島宇宙センターからH−Uロケット試験機3号機によって打ち上げられた。打ち上げに成功した「ひまわり5号」は暫定静止位置での機能確認試験を終了した後、赤道上東経140度の定常運用位置において、6月21日から「ひまわり4号」に代わって運用を開始した。
 「ひまわり5号」では、新たな観測機能を迫加し、水蒸気画像など従来得られなかった情報の取得が可能となり、日本国内のみならず、ひまわりのデータを利用している世界の国々の天気予報、気象災害の防止、気候変動の監視等に一層の威力を発揮できるようになった。

上:可視画像(7.7.23、12:00)下:水蒸気画像(同 上)
H-Uロケット3号機の打ち上げ(宇宙開発事業団提供)

●日米自動車協議の決着(7.6.28)
 日米自動車協議は、平成5年7月の日米首脳会談での合意に基づき設立された日米包括経済協議において、自動車・同部品分野が分野別協議の1つに取り上げられたことから始まった。
 同協議では、@外国製部品の自主購入計画Aディーラーシッブ及びB補修部品の規制緩和が主な争点となったが、これら全てについて6月28日に実質的な決着をみた。
 この決着内容に基づき、運輸省としては補修部品の規制緩和について、@重要保安部品の削減A構造等変更検査の対象範囲の見直しB特定部品専門の整備工場の認証制度の創設C整備工場の人的要件及び特定工場の施設要件の緩和、の4点を今後逐次実施するとともに、外国製補修部品情報ネットワークの整備、苦情処理窓口の常設等外国製補修部品使用促進のための環境整備を図ることとした。今後、これらの措置を講ずることにより、補修部品流通の一層の促進を図り、補修部品市場の活性化と海外補修部品会社の参入機会の拡大を目指すこととしている。

日米包括協議の自動車、同部品分野の次官級交渉

●長期港湾政策「大交流時代を支える港湾」の策定(7.6.30)
 新しい時代の潮流に対応した概ね2010年を目標とする「大交流時代を支える港湾−世界に開かれ、活力を支える港づくりビジョン−」を平成7年6月30日に策定し、長期的な港湾政策を明らかにした。
 来たるべき時代には、人、物、情報の交流が国、地域、個人の間で重層的に行われ、様々な社会、文化が高密度で交流することによって新たなものが生み出されていく。世界が中世から近世に転換する契機となった「大航海時代」と対照させれば、今や「大交流時代」とも言うべき新たな時代が到来したといえる。
 この「大交流時代」の流れの中で、成熟化社会への道を歩んでいる我が国が持続可能な発展を続けていくためには、世界及び自然との共生型社会を実現する必要がある。
 このため、島嶼国である我が国において、世界との交易、交流を支える港湾が根幹的な社会資本としてその役割を果たせるよう、「大交流を支える港湾ネットワークの形成」及び「活力を支え安心できる空間の創造」の2つの政策を柱とし、主要な施策をとりまとめた。
 本政策を踏まえ、第9次港湾整備五箇年計画の策定など今後の港湾行政を進めていく。

国際物流を担うコンテナターミナル(イメージ図)

地域に活力と雇用をもたらす産業空間

●自動車検査・点検整備制度の改定(7.7.1)
 自動車の検査及び点検整備については、最近における自動車技術の進歩及び使用形態の多様化に適切に対応するため、臨時行政改革推進審議会の「国際化対応・国民生活重視の行政改革に関する第3次答申」(平成4年6月)における指摘、運輸技術審議会における技術的・専門的検討結果を踏まえ、6年7月道路運送車両法の一部を改正し、7年7月1日から施行している。
 今回の制度改正においては、自動車ユーザーの自己管理責任の明確化を行うとともに、(ア) 自家用乗用車の6か月点検の廃止、(イ)12か月点検及び24か月点検の項目半減、(ウ)国の検査における前検査、後整備の受入れ、(エ)車齢11年超えの自家用乗用車等の車検期間の延長等を行ったものである。
 本改正の施行状況をみると、ユーザー車検の増加、点検項目の削減等による点検整備料金の引下げや整備事業におけるサービス体制の強化等がみられ、ユーザー負担の軽減、ユーザーの選択肢の拡大が図られてきている。
 運輸省としては、新たな制度の円滑な実施を図るため、自動車の保守管理の徹底対策、ユーザ一車検の増加への対応、整備事業の近代化の推進等に努めているところである。

ユーザー車検の受験風景(八王子自動車検査登録事務所)

●日米航空協議(7.5〜7.7)
 平成7年4月及び5月、米国の貨物専用航空企業フェデラル・エクスプレス社が、協定に基づく権利として多数の新規以遠地点への運航開始を申請した。これに対し、運輸省は、当該新規以遠地点への運航は以遠運航における日米間の不均衡を拡大するのみならず協定上も問題があるとして処分を保留した。本件問題解決のため、5月から7月中旬までに計4回の審議官級又は次官級の協議が行われたが合意に至らず、その間米国は、対日制裁措置暫定案の発表に及んだものの、7月20日及び21日に行われた閣僚級及び次官級協議において合意が成立し、本件問題は決着を見た。合意内容では、日本側がフェデラル・エクスプレス社の以遠運航の一部を認めるとともに大阪−シカゴ、ニューヨーク以遠カナダ路線を獲得し、また、本年9月から貨物分野における日米間の機会均等化等を内容とする協議を開始することとされている。本合意により日米航空関係の不平等・不均衡是正への道筋が開かれたと言える。

協議を前にした亀井前大臣とペーニャ長官(ロサンゼルス)

代表者による署名(ロサンゼルス)



平成7年度

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