2 清算事業団による債務の処理


(1) 国鉄改革時の見通し

 国鉄改革によって清算事業団に残された国鉄長期債務の額は、25.5兆円であった。
 この債務の処理については、昭和61年1月28日及び63年1月26日の閣議決定において「土地、株式等の資産の適切かつ効率的な処分を進め、自主財源の増大を図る」こと、「自主財源を充ててもなお残る事業団の債務等については最終的には国において処理する」こと、「その本格的な処理のために必要な『新たな財源・措置』については、雇用対策、土地の処分等の見通しのおおよそつくと考えられる段階で、歳入・歳出の全般的見直しとあわせて検討、決定する」こととされた〔2−1−36図〕。

(2) 清算事業団による資産処分

(3) 鉄道共済年金に係る新たな負担

 国鉄改革においては、鉄道の経営形態についてはJRは国鉄との連続性を有さずに新たに発足したが、その職員の年金については共済制度を維持・継続することとされた。
 しかし鉄道共済は、国鉄時代の昭和50年代以降、国鉄合理化の影響等もあって組合員が減少する一方で受給者は増加し、収支が著しく悪化し、財政的に破綻をきたすことが明白となった。このため鉄道共済では、掛金の引上げ、給付水準の抑制を行う一方で、平成2年度から8年度にわたり、関係事業主である清算事業団は国鉄時代の積立不足分として総額7,000億円の法定特別負担を行うとともに、JR各社は任意に同1,540億円の特別負担を行うこととなった。しかし、これでは年金支払を賄うことができないことから、厚生年金や他の共済組合といった他の被用者年金制度から支援(昭和60年度から平成8年度まで総額9,200億円(9年度決算見込み))を受けてきた。
 9年4月、公的年金一元化の一環で、鉄道共済を含む旧3公社の共済組合の年金制度が厚生年金に統合されることとなり、この際、鉄道共済については、その組合員であった者の将来の年金給付の原資として1兆2,100億円を厚生年金に納付することとなった(いわゆる厚生年金移換金)。しかし、鉄道共済において納付可能な積立金が2,700億円にとどまったため、不足額9,400億円を鉄道共済の関係事業主間で負担することとなり、このうち昭和61年度以前の組合員期間を基に按分計算される7,700億円については国鉄の移行体である清算事業団が、62年度以降の組合員期間を基に按分計算される1,700億円についてはJR等が負担することとされた。

(4) 国による財政支援

 国は、清算事業団に対して、債務の累増を防止するための様々な財政支援措置を講じた。
 62年度から平成9年度まで、清算事業団に対して総額1.6兆円にのぼる国庫補助金を交付した。
 また2年度には、清算事業団の保有する帝都高速度交通営団への出資持分の政府に対する一括譲渡と引き替えに当該出資持分の評価額0.9兆円相当の有利子債務を政府が承継することとした。
 さらに9年度には、清算事業団の同年度における借入予定額3.0兆円と同額の有利子債務を無利子化した。
 なお、国鉄改革直前の昭和61年度末に、5.1兆円の有利子債務が無利子化されている。

(5) 従来のスキームの破綻

 以上のように、清算事業団は、62年度から平成9年度までの11年間に、自主財源等によって総額14.4兆円の収入をあげた。しかし、この間の清算事業団の利払い等の支出は総額15.8兆円(注3)にのぼり、収入を1.4兆円上回った。これに9年度首に負った厚生年金移換金負担0.8兆円を加え、62年度首には25.5兆円であった清算事業団の債務は、平成10年度首には27.7兆円に増大した〔2−1−39表2−1−40表〕。
 しかしながら、一方で清算事業団に残る資産は縮小し、清算事業団が資産処分収入等によって毎年の金利及び年金等の負担を賄いつつ債務の償還等を行うという従来のスキームはもはや破綻していると言わざるを得ない状況になった。このため清算事業団の債務の処理方策の策定・早期実施は、国鉄改革の総仕上げのためにも、もはや先送りが許されず避けては通れない緊急課題とされた。


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