第2節 交通事業者の現況と政府の対応

 前節でみたとおり、我が国経済は厳しい状況をなお脱していないが、緩やかな改善が続いており、自立的回復に向けた動きが徐々に強まってきている。輸送動向は、全般的には未だ低迷しているが、航空、内航海運、トラックの一部で増加傾向がみられる。
 本節では、こうした経営環境下におかれた交通事業の最近の経営状況等について概観するとともに、経済対策、補正予算及び当初予算等における景気回復に資する様々な取り組みと交通分野における中小企業対策及び雇用対策について述べる。
1 交通事業の経営状況

(1) 事業者の収支状況

 運輸関係大手企業58社(以下「大手企業」という。)の11年度売上高についてみると、鉄道車両製造業等3業種で増収となっているが、港湾運送業、造船業、乗合バス業等6業種で減収となっている。
 なお、外航海運業については、11年度に企業の合併が行われた結果、1社平均で増収となっているが、業界全体では減収となっている。
 また、大手企業の11年度経常利益についてみると、10業種中、鉄道業、外航海運業は増益となっているものの、定期航空業、港湾運送業、倉庫業等5業種で減益となっており、また、造船業、鉄道車両製造業は経常赤字となっている。
 さらに、大手企業の11年度経常利益率についてみると、外航海運業、港湾運送業等は増加するものの、定期航空業、造船業、乗合バス業等5業種で減少する。

3−1−27図 運輸関係大手企業1社平均直近5年度売上高の推移
3−1−28図 運輸関係大手企業1社平均直近5年度経常利益の推移

(2) 設備投資動向

 「平成12年度運輸関連企業設備投資動向調査」(以下「設備投資動向調査」という。)によると、運送業(原則として資本金1億円以上の1,834社調査)における12年度設備投資計画は、対前年度比20.5%減(総額2兆1,676億円)となっており、11年度設備投資実績の対前年度比5.0%増から減少に転じた。業種別にみると、鉄道業、航空運送業など10業種で減少している。

(3) 景況感

 「運輸関連企業の景気動向に関する調査(平成12年9月1日現在)」(以下「景気動向調査」という。)によると、最近の交通事業者の景況感は、厳しい状況にあるものの、10年9月の調査を底に改善傾向にあり、景況感DI値は前回調査(12年3月)に比べ25.4ポイント増加している。

3−1−29図 運輸関係大手企業1社平均直近5年度経常利益率の推移

(4) 資金調達状況

 設備投資動向調査によると、事業者の設備投資に要する資金調達については、その35%を外部からの借入金等によっている。景気動向調査によると、金融機関の貸出態度はDI値−8.4、資金繰りは同−23.5とそれぞれ前回調査(11年9月)時点に比べ改善している。


3−1−30表 運送業の設備投資額の増減及び12年度の投資動向
業種 増減率(%)
(対前年度比)
12年度設備投資計画額
(百万円)
12 年 度 の 動 向
11/10 12/11
運送業部門計 105.0 79.5 2,167,551
鉄道業 122.9 83.6 1,621,830 構築物等、用地は大幅に減少する。
トラック運送業 75.5 108.3 168,109 自動車、ターミナル施設は増加する。
航空運送業 72.5 48.7 139,185 航空機等は大幅に減少する。
倉庫業 94.4 75.7 93,874 用地、普通倉庫は大幅に減少する。
バス業 84.7 83.2 50,099 自動車等は減少する。
外航海運業 58.4 47.9 31,130 液化ガス船等は大幅に減少する。
内航海運業 101.8 65.0 15,289 セメント専用船は大幅に増加するものの、一般貨物船、油送船は大幅に減少する。
港湾運送業 105.1 74.0 13,764 大型荷役機械、野積場は大幅に減少する。
ハイヤー・タクシー業 95.5 68.1 12,331 車庫及び修理工場等は大幅に減少する。
航空利用運送業 71.7 107.7 7,881 その他は減少するものの、自動車は大幅に増加する。
鉄道利用運送業 117.3 68.2 7,217 車庫及び修理工場は大幅に増加するものの、その他は大幅に減少する。
国内旅客船業 73.1 38.9 6,842 自動車航送船等は大幅に減少する。
注 平成12年度 運輸関連企業設備投資動向調査により作成。

(5) 倒産状況

 11年の全産業倒産件数は、15,460件と対前年度比19.3%の減少となっている。運送業の倒産件数は448件と対前年比22.1%の減少となっている。全産業の負債総額は、政府の中小企業対策などの金融政策が功を奏し、対前年度比5.8%減少の13兆5,522億円となっている。このうち、運送業の負債総額については対前年比22.7%減の737億円となっている。

3−1−31図 運輸関連企業の景況感の推移

(6) 雇用状況

 全産業でみた最近の雇用状況は、雇用者数が減少し、完全失業率が4%台とこれまでにない高水準で推移するなど依然として厳しい状況である。交通事業をめぐる雇用状況も厳しい状況下にあるが、景気動向調査によると、運輸関連企業の人手不足感は、人手過剰感を約5ポイント上回り、9年3月の調査以来、初めてDI値がプラスへ移行した。

3−1−32図 運輸業の設備投資資金調達実績及び計画
3−1−33図 金融機関の貸出態度の推移
3−1−34図 資金繰りの推移

2 景気回復のための経済対策、補正予算及び当初予算

 1で述べた長引く景気の停滞から早期に脱出し、我が国経済を力強い回復軌道に乗せるため、10年4月に総事業費16兆円超の過去最大規模の「総合経済対策」が実施され、運輸省では、その一環として、10年度当初予算の前倒し執行を図るとともに、所管公共事業費の約6割を三大都市圏のプロジェクトに充当してきたほか、景気対策を着実に実施するため、10年度第一次補正予算として、中枢・中核港湾の整備、大都市拠点空港の整備及び都市鉄道による広域的ネットワークの整備等の事業を着実に実施してきた。
 我が国の景気が厳しい状況の中で、景気を本格的回復軌道に乗せ、21世紀の新たな発展基盤を築くため、以下の各種の対策を実施した。

3−1−35図 倒産負債総額推移
3−1−36図 運輸関連企業の人手不足感及び採用者数の推移

(1) 10年度第三次補正予算、11年度当初予算に基づく各種対策の推進

 政府としては、当面の経過回復に全力を尽くすという観点に立ち、いわゆる十五ヶ月予算の考えの下に10年度第三次補正予算と11年度予算を一体的に捉え、このもとで、景気回復のために即効性がある、21世紀を見据えた課題に対応しうる対策を含めた各種の施策を切れ目なく実施した。
 運輸省としては、9年以降の厳しい景気の停滞を打開するため、運輸関係公共投資の促進等による内需の拡大、規制緩和に伴い必要となる環境整備策や高齢者障害者対策による運輸経済の活性化を推進するとともに空港使用料等の公的負担の軽減、観光サービスの充実等による即効性のある消費拡大を図り、さらに、先端分野への投資を刺激する技術開発等を進めた。

(2) 経済新生対策

 公需から民需への円滑なバトンタッチを行い、民需中心の本格的な回復軌道に乗せるため、事業規模6.8兆円の社会資本整備等を盛り込んだ「経済新生対策」が策定され、運輸省としてもその一環により、1.大都市圏拠点空港、中枢・中核港湾の整備による物流効率化・競争力強化、2.航空危機管理体制の充実等情報通信・科学技術振興対策、3.台風18号による緊急安全・防災対策等を推進した。

(3) 12年度当初予算と公共事業等予備費に基づく各種対策の推進

 12年度当初予算については、緩やかな改善を続けている我が国経済を、本格的な回復軌道につなげていくため、経済運営に万全を期すとの観点に立って編成しており、特に、この中の公共事業については、景気回復に全力を尽くすとの観点に立って編成した11年度当初予算と同額を確保している。また、景気の下支えに万全を期すため、速やかに公共事業等予備費を使用した。以下に運輸に係る主要な施策について述べる。

(ア) 大都市拠点空港の整備
 航空ネットワーク形成の拠点となる大都市圏における拠点空港の整備を最優先課題として、特に、増大する空港需要に適切に対応するため、関西国際空港の2期事業及び中部国際空港の整備を重点的に推進する。また、新東京国際空港及び東京国際空港の整備、首都圏空港の調査を推進する。
(イ) 中枢・中核国際港湾等の整備
 物流コストの削減による我が国産業の国際競争力強化のため、水深15m級の大水深国際海上コンテナターミナルと多目的国際ターミナルを拠点的に整備する。また、ハード・ソフト一体施策による港湾サービスの向上及び物流コスト削減のため、港湾情報システム(EDI)の整備を推進する。
(ウ) 整備新幹線、地下高速鉄道等の整備
 国土の均衡ある発展を図り、豊かさを実感できる国民生活を実現するため、整備新幹線の建設及び幹線鉄道の高速化により高速鉄道ネットワークの形成を図る。また、大都市の交通混雑緩和、鉄道ネットワークの充実を図る地下鉄を始めとする都市鉄道の整備を促進する。
(エ) 次世代の航空保安システムの整備
 航空交通容量の増大及び需給調整規制の廃止に対応し、運航、整備等の安全行政の一層の充実と交通容量の増大を図るため、航空衛星システム等の新技術を活用した次世代の航空保安システムを着実に整備する。
(オ) 交通施設バリアフリー化の推進
 高齢者・障害者等の移動制約者が安全かつ身体的負担の少ない方法により鉄道サービスを享受できるよう鉄道駅におけるバリアフリー化設備の整備に対し補助する。
3 交通事業者に対する経営支援及び雇用対策

(1) 交通事業における中小企業対策

(ア) 中小企業信用保険の限度額の拡充
 「中小企業信用保険法」(昭和33年法律第93号)に基づき、一般乗合旅客自動車運送業、一般乗用旅客自動車運送業、一般貨物自動車運送業、船舶(総トン数が1万トン以上のものを除く。)、舶用機関又は船体部品の製造・修理業(船体ブロック製造業を除く。)等が、特定業種として指定されており、これにより、指定を受けた事業者は信用保険の一般の保険限度額(担保付融資の場合2億円、無担保融資の場合3,500万円)の倍額まで利用することが可能となり、融資を受けやすくなった。
(イ) 中小企業の範囲拡大による公的融資等の拡充
 11年12月の中小企業基本法等の改正により、中小企業の範囲が拡大され、製造業・運輸業等については、従業員300人以下又は資本金3億円以下、サービス業については従業員100人以下又は資本金5000万円以下となり、融資や信用保証が受けやすくなった。
 また、旅館業における中小企業の範囲は、従業員200人以下又は資本金5000万円以下となった。
(ウ) 近代化・構造改善対策
 従来より「中小企業近代化促進法」(昭和38年法律第64号)」(平成11年7月廃止)に基づく中小造船業、自動車分解整備業における設備の近代化に対して、公的融資、税制特例などの措置が講じられていたが同法の廃止後においても、同法の廃止前に承認された計画に基づくものについては、経過措置として同様の措置が講じられている。
(エ) 物流効率化対策
 「中小企業流通業務効率化促進法」(平成4年法律第65号)に基づく中小トラック事業者等による共同配送施設の整備等の流通業務効率化事業に対して、公的融資、税制特例などの措置が講じられている。

(2) 交通分野における雇用対策

 交通分野における雇用対策(船員雇用対策については第3部第6章第3節参照)については、以下2つの助成金制度の活用を中心に措置が講じられている。

(ア) 雇用調整助成金
 普通倉庫業(鉄鋼用倉庫に限る。)、一般貨物自動車運送業、内航海運業(タンカーに係るものに限る。)、鋼船・木船製造・修理業(総トン数1万トン以上のものを除く。)等が雇用調整助成金の給付対象業種に指定されており、「雇用保険法」(昭和49年法律第116号)に基づき、休業や出向等の雇用調整を行った場合の助成措置が講じられている。
(イ) 労働移動雇用安定助成金
 「特定不況業種等関係労働者の雇用の安定に関する特別措置法」(昭和58年法律第39号)に基づき、普通鉄道業(貨物の運送を行うものに限る。)、港湾運送業・同関連業(在来型荷役のうち、はしけ運送業以外のものに限る。)、沿海旅客海運業(定期航路事業)、内航海運業(タンカーに係るものを除く。)等が給付対象業種に指定されており、これらの業種に属する事業所から従業員を受け入れる事業主等に対して労働移動雇用安定助成金支給による助成措置が講じられている。
 上述した、経済対策、補正・当初予算に基づく各種対策及び雇用対策等により、我が国経済は、緩やかな改善が続いており、自立的回復に向けた動きが徐々に強まってきているが、今後も景気を持続可能な自立的回復軌道に載せていくよう、政府は景気回復を中心とする経済・財政運営等を行い、全力を挙げて適切に対応していく。

コラム  交通分野の新サービス情報をHPで情報提供
 交通分野では、規制緩和に伴い、創意工夫を活かしたアイデアあふれる新サービス、新規事業が見られるようになってきている。運輸省では、こうした新しい動きを支援するため、ホームページを開設して情報提供に努めるとともに、地方運輸局等に「新規事業アドバイザー」を設置することとした。
 ホームページにおいては、運輸関連の新サービス・新規事業に関する先進事例の紹介、交通事業の開始や新サービス・新規事業分野の開拓に役立つ支援施策、交通関連の事業を始める際の手続きなどさまざまな情報を提供している(運輸省ホームページ(http://www.motnet.go.jp)からリンクしている。)。
 これまで、新たに福祉タクシー事業を始めたい、インターネットを利用した荷主と運送会社の斡旋・仲介業を考えてみたいといった相談が各地方運輸局等に寄せられており、新規事業アドバイザーは、個々の相談ごとに、支援措置や行政手続など事業開始に必要な情報を提供しながら助言を行い、新たな事業展開を支援している。

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