第1章 21世紀に向けた観光政策の推進

第1節 国際観光交流の促進

1 外国人訪日旅行の現状

 平成11年の日本人海外旅行者数は、前年比55万人、3.5%増の1,636万人となり、2年ぶりに1,600万人台を回復した。一方、訪日外国人旅行者数については、前年比33万人、8.1%増の444万人となり、史上最高を記録した〔3−2−1図〕。

3−2−1図 日本人海外旅行者数、訪日外国人数の推移

2 外国人の来訪促進活動の充実

 我が国を訪れる外国人旅行者数は依然として国際的に見て低水準にある〔3−2−2図〕ため、外客誘致については、8年4月に報告された「ウェルカムプラン21」以降、精力的な取り組みがなされている。

(ア) 国際観光テーマ地区の整備
 外客誘致法に基づき、優れた観光資源を有する地域と宿泊拠点とからなる地域をネットワーク化し、外国人旅行者が3〜5泊程度で周遊できる観光ルートを備えた広域的な地域である外客来訪促進地域(通称「国際観光テーマ地区」)の整備を促進する「外客来訪促進計画」について、12年7月までに計10地域について運輸大臣の同意がなされた〔3−2−3図〕。
 同テーマ地区については、国際観光振興会による重点的海外宣伝の実施等、関係者が一体となった取り組みが進められているところである。
(イ) 国際交流拠点・快適観光空間の整備
 外客来訪促進地域を訪れる外国人旅行者のため、地域の歴史、文化、自然等の紹介・体験機能を備えた国際交流拠点が、島根県松江市、静岡県伊東市において整備されている。
 また、同地域を訪れる外国人旅行者にルート化された生きたまちを散策してもらい、人々の生活に触れ、住民との交流を図ることができる魅力ある観光地づくりを目的とした、快適観光空間が岩手県盛岡市において整備されている〔3−2−4図〕。
(ウ) 外国人旅行者の国内旅行費用の低廉化
 博物館、宿泊施設、飲食店等で割引等の優遇措置を受けられる「ウェルカムカード」が、国のモデルプロジェクトとして瀬戸内国際観光テーマ地区においても12年5月に導入された〔3−2−5表〕。この他、主要航空会社、鉄道会社では、外国人向け割引運賃の設定、外客誘致法に基づく共通乗車船券の導入等、外国人旅行者の国内旅行費用の低廉化に取り組んでいる〔3−2−6表〕。
(エ) 訪日旅行促進キャンペーンの実施
 10年度の補正事業で実施した米国の西海岸を中心としたキャンペーン事業に引き続き、カナダをマーケットに加え、11年度の補正事業で「北米における訪日旅行促進キャンペーン事業」を国際観光振興会を通じて実施した。
 また、同じく11年度の補正事業として、国際観光振興会を通じて、2000年7月にサミット会議が開催された九州・沖縄地区に対する訪日促進キャンペーンを欧州のサミット構成国並びに地理的に近い香港と韓国を対象に実施した。
(オ) 中国国民の訪日団体観光旅行の開始
 中華人民共和国国民の訪日団体観光旅行については、その早期実現に向けて、12年5月20日に記念式典が行われた日中文化観光交流使節団の訪中時等、諸々の機会を捉えて働きかけを行ってきたところ、6月20日に本件実施方法に関する政府間の調整を終え、本年9月から開始することとなった。
(カ) 次世代観光情報基盤整備事業
   国際観光振興会では、外国語(英語)においては新たに情報を整備し、日本語においては既存情報を活用し、インターネットを通じて各種観光関連情報を一元的に提供できるシステムを構築したところである(http://www.jnto.go.jp)。宿泊・飲食施設情報については、民間のサイトと連携し、横断検索機能を持たせ、特に宿泊施設に関しては、オンライン上での予約を可能にしている。12年度においては、更に地域観光情報を充実させ、中国語・韓国語等多言語にて情報提供を行うこととしている〔3−2−7図〕。
(キ) ワールドカップ開催を契機とした国際観光の振興
 2002年ワールドカップ開催を契機として国際観光振興、地域振興を図るため、関係地方公共団体、公共交通機関等の参加による「ワールドカップ開催を契機とした国際観光振興戦略会議」を11年5月に設置し、ワールドカップを活用した広報宣伝、受入体制の整備のための検討を行っている。また、広報宣伝の一環として、競技開催地を中心とした日本の魅力を紹介するための広報用ビデオ、パンフレット等を作成し、海外広報宣伝の充実を図っている。

3−2−2図 平成9年外国人旅行者受入数

コラム 「新ウェルカムプラン21」の推進
 平成12年5月に開催された「観光産業振興フォーラム」において「訪日外客倍増に向けた取り組みに関する緊急提言」が採択され、概ね2007年を目途に外客数800万人を目標とすることとした「新ウェルカムプラン21」が取りまとめられた。「新ウェルカムプラン21」においては、従来の「ウェルカムプラン21」に基づく取り組みに加えて、
  イ.外国人の来訪促進に関する国民的合意の形成
  ロ.国・地方における外国人の来訪促進施策の充実強化
  ハ.民間の観光業界における外国人来訪促進のための取り組みの充実強化
の事項がもりこまれている。現在、同プランに基づき、外客倍増に向けて、官民一体となって積極的に取り組んでいるところである。

3−2−3図 国際観光テーマ地区一覧
3−2−4図 国際交流拠点(国際交流村)・快適観光空間全国配置図

3−2−5表 ウェルカムカード等発行状況
平成12年7月現在 

名称 導入年月 有効地域 加盟施設数 備考
北海道ウェルカムガイドブック 平成10年12月 北海道 156
あおもりウェルカムカード 平成9年10月 青森県 172
成田ウェルカムカード 平成9年11月 成田国際観光モデル地区(成田市、佐倉市、栄町、芝山町) 51
長浜カルチャーカード 平成7年6月 長浜市及び湖北地域12町 89
関西観光ウェルカムガイドブック 平成11年1月 大阪府・京都府・兵庫県・奈良県・滋賀県・和歌山県・三重県・徳島県・福井県 590 有料(700円)
日本人も利用可
瀬戸内ウェルカムカード 平成12年5月 瀬戸内国際観光テーマ地区(広島県、山口県、愛媛県) 344
かがわウェルカムカード 平成10年8月 香川県 170
北九州ウェルカムカード 平成12年6月 北九州市 93
福岡ウェルカムカード 平成11年2月 福岡市 140

3−2−6表 外客向け割引運賃制度及び共通乗車船券の導入の例

事業者 割引制度 割引対象及び価格
航空 日本航空 「WELCOME TO JA
PAN運賃」
海外在住者の海外発国内乗り継ぎの際の国内航空運賃の割引
2区間25,200円〜5区間63,000円
全日空 「VISIT JAPAN FARE」 同上
大人普通運賃の50%割引
鉄道 JR西日本 「JR− WEST RAIL
PASS」
乗り降り自由な周遊タイプ(各エリア内のJR西日本全線)
関西エリア4日6,000円、山陽エリア8日30,000円
JR東日本 「JR EAST PASS」 同上(JR東日本全線)
連続5日20,000円 連続10日32,000円 フレックス4日20,000円
JR九州 「JR-KYUSHU RAIL PASS」 同上(JR九州)
5日15,000円 7日20,000円
JR全線 「JAPAN RAIL PASS」 同上(JR全線)
普通車用(7日28,300〜21日57,700円)、グリーン車用(7日37,800円〜21日79,600円)
共通乗車船券 名鉄グループ 名鉄Nice Day Pass 乗り降り自由な周遊タイプ(名鉄グループ7社の鉄道・バス・船舶)
連続2日(大人3,000円、小人1,500円)
13宿泊施設及び15観光施設の割引
 (注) 運輸省運輸政策局観光部作成。

3−2−7図 次世代観光情報システムサイト

訪日旅行促進キャンペーン(沖縄)
訪日旅行促進キャンペーン(沖縄)

3 国際コンベンションの振興

(1) コンベンション法による国際コンベンションの振興

 「国際会議等の誘致の促進及び開催の円滑化等による国際観光の振興に関する法律(コンベンション法)」に基づき、運輸大臣は現在49都市を「国際会議観光都市」として認定している。
 国際観光振興会は、認定を受けた都市に対して国際コンベンション等の誘致に関する情報提供、国際会議観光都市の宣伝等を行うとともに、寄附金の募集、交付金等の事業を行っている。

(2) 国際会議場の整備

 「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法(民活法)」に基づき、国際会議場の整備を行う民間事業者に対し支援を行うこととしており、これまでに横浜国際平和会議場等4施設が認定され、それぞれ供用を開始している。

4 世界観光機関(WTO)総会開催(13年9月)に向けた取り組み

 13年9月に世界観光機関(WTO)総会が、大阪とソウルで共同開催される。同総会は、世界中から官民観光関係者が1,000人以上の規模で参加する国際会議であり、我が国の観光魅力をPRする絶好の機会でもある。今後は、同総会に向けて各種プログラムの作成やPR活動を積極的に推進していくこととしている。

5 登録ホテル・旅館等の整備

 国際観光ホテル整備法に基づき、ハード・ソフト両面からみて外国人旅行者の宿泊に適したホテル・旅館の登録を行い、財政投融資等によりその整備を推進するとともに、出版物・インターネット等により内外に情報提供を行っている。
 また、国際観光レストラン登録規程に基づき、外国人旅行者が容易かつ快適に食事ができるレストランについても登録を行い、国内における外国人旅行者の受入れ体制の整備を行っている。
 なお、12年6月末現在、1,079軒のホテル、2,040軒の旅館及び149軒のレストランが登録されている。

第2節 観光による地域の活性化と観光まちづくりの推進

1 魅力ある観光地づくり

(1)観光振興を通じた雇用創出、まちづくり

 観光分野における良質な労働者を育成するため、12年2月から3月にかけて全国約100ヶ所で「観光ワーキングセミナー」を開催し、12年3月には、ビデオ、CD-ROM等による観光サービス業の職場紹介等の情報提供を行う「観光ワーキング紹介ライブラリー」を開設した。
 また、12年度より学識経験者等からなる観光まちづくりアドバイザーを地域に派遣し、観光まちづくりや人材育成等の取り組みに関する提言等を行うことにより、観光による地域の振興、雇用の創出を図ることも行っている。

(2) 観光基盤施設の整備

 自然の中に低廉かつ快適に利用できるオートキャンプ施設(テントサイトまで車で乗り入れられるキャンプ場)を滞在基地として整備している。この自動車旅行拠点は、現在13地区で整備が終了し、3地区で整備が行われている〔3−2−8図〕。
 また、12年度から新たに小グループや家族が自動車を利用して行う旅行が大幅に拡大しているのに伴い、自動車旅行者の利便の増進を図り、魅力ある個性的な観光地を創出するため、一定のテーマの下に、観光案内板、休憩施設の整備を行う「広域観光テーマルート」の整備事業の制度が創設された。
 このほか、観光基盤施設として、国際交流拠点・快適観光空間の整備が行われている(P355参照)。

3−2−8図 自動車旅行拠点全国配置図

(3) 総合保養地域の整備

 ゆとりある国民生活の実現と地域の振興を図ること等を目的とした総合保養地域整備法に基づき、これまでに総合保養地域の整備に関する42の基本構想が同意され、各地域で自然環境の保全等に配慮しつつ、総合保養地域の整備が進められている。

(4) 観光資源の保護・活用を通じた観光地づくり

 我が国の歴史的・文化的に価値の高い観光資源を保護・保存し、その活用を図りつつ後世に継承することは、魅力ある観光地づくりのために重要である。このため、(財)日本ナショナルトラストでは岐阜県白川郷合掌造り民家、トラストトレイン(静岡県大井川鉄道のSL列車)、近代和風住宅旧安田邸(東京都文京区)等といった貴重な観光資源の保護・活用等の事業を行っているところである。

2 関係者の連携による広域的・総合的取り組み

(1) 広域連携観光振興会議(WAC21)の開催

 観光のより一層の振興を図るため、「90年代観光振興行動計画(TAP90′S)」に基づき、これまで約10年間にわたり開催してきた「観光立県推進会議」に引き続き、10年からは、この成果をさらに発展させ、原則として地方ブロック単位で「広域連携観光振興会議(WAC21)」を開催し、広域連携による観光振興を図るとともに地域の活性化・国際化を目指すこととしている。12年度には第3回WAC21が南九州ブロックにおいて開催される予定である〔3−2−9図〕。

(2) 地域伝統芸能等を活用した観光の振興

 地域の観光振興における効果を狙って、「地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律」に基づき、地域伝統芸能等を活用した地域レベルのイベントに対して支援を行っている。また、同法の目的に沿った行事として、「第8回地域伝統芸能全国フェスティバル(北海道)」(12年8月10日〜12日)が開催された。

(3)旅フェア2000の開催

 地域と旅行関連産業が連携し、国内旅行総需要の喚起を図るため、12年4月19日から23日まで、旅に関する情報の提供を行う旅の総合見本市としての「旅フェア2000」が千葉県の幕張メッセで開催され、約26万人の来場者を記録した。

3−2−9図 広域連携観光振興会議(WAC21)開催状況

コラム  各方面における観光振興気運の高まり
 21世紀に向けて、観光に向けられる期待がこれまでになく高まってきており、これを受けて新しい動きがみられた。
 観光産業においては、経済発展や国民生活の向上に貢献するという重要な社会的使命を果たすため、主な観光関連企業及び関係団体からなる「観光産業振興フォーラム」が平成11年12月に発足し、これまでに、観光産業の重要性、魅力ある観光交流空間の整備、祝日三連休化の増進の必要性、訪日外客の倍増等についてアピールする等の活動を行っている。
 また、観光を通じた地域振興の観点からは、観光振興を地域活性化の主要な柱として地域の様々な取り組みを更に促進していくため、11年11月に北海道観光振興のために設立された「北海道の観光を考える百人委員会」に引き続き、北東北、沖縄、四国、中部、関西、九州、中国において「観光を考える百人委員会」が設立される等、近年、各方面において我が国の観光振興に向けた気運が急速な高まりをみせている。

百人委員会の様子 百人委員会の様子

3 地域観光情報提供の推進
 多様な旅行ニーズや情報化に対応し、観光GISの利用促進及び観光情報の標準化を図り、地域の観光情報の提供手段を飛躍的に拡大させることを目的として11年11月に設立された「観光GIS利用促進協議会」や地域の観光情報の発信源である地方自治体と連携し、新たな観光情報の提供方策について検討しているところである。

第3節 旅行・レクリエーションの振興

1 観光産業の現状

(1) 国民の意識 

 今後生活で特に重点を置きたい分野として「レジャー・余暇生活」を挙げる国民が最も多く〔3−2−10図〕、また、余暇時間の活用と旅行に関する世論調査では、3日以上の連続休暇が増加した場合、宿泊旅行への志向が最も高くなっている〔3−2−11図〕。

(2) 旅行業の現状

 主要旅行業者50社の平成11年度の取扱高は、10年度に比べて国内旅行が1.6%減、海外旅行は2.2%減、合計で1.8%減であった〔3−2−12表〕。

(3) ホテル・旅館業の現状

 主要登録ホテルの客室利用状況は全国平均で10年68.6%に対し、11年は68.2%である。10年度の主要登録ホテル・旅館の赤字施設の割合はホテルで9年度61.2%から54.8%と減じ、旅館で9年度51.0%から51.6%と微増している。

2 長期滞在型旅行の推進

(1) 改正祝日法の施行

 12年1月1日から、一部祝日の月曜日指定化のための関連法律が施行された。これにより、12年1月10日の月曜日が成人の日となったが、大手旅行会社を対象に調査を行ったところ、この休暇を利用して1月8日から10日の3日間に出発した旅行者数は、前年の同時期に比べて、国内旅行では約5割、海外旅行では約2割の増加となり、祝日の月曜日指定化による効果が見られた〔3−2−13図〕。

(2) 旅行の促進のための環境づくり

 今後、改正祝日法の施行等を踏まえ、祝日三連休の倍増に向けた環境整備等休暇を取りやすい環境整備を行い、長期滞在型旅行の推進等ゆとりある生活の実現を目指していくこととしている。

3 安全・快適な旅行の確保

(1) 旅行取引の多様化に対応した消費者保護への取り組み

 旅行商品においても、インターネットによる取引が拡大していることから、12年6月に旅行業協会において、インターネットを利用した旅行取引に関するガイドラインを制定し、ガイドラインを遵守している旅行業者のホームページに対し、旅行業協会が適正マーク(e-TBTマーク)を交付することとなった。

(2) 旅行者の安全確保

 海外旅行者の安全確保のため、関係省庁と緊密な連絡をとり、旅行業者等を通じ、海外危険情報の旅行者への周知徹底を図ること等の施策を講じている。

3−2−10図 今後の生活の力点の推移
3−2−11図 3日以上の連続休暇における余暇時間の過ごし方

3−2−12表 主要50社の取扱高

(単位:億円)

国内旅行 海外旅行 合計
10年度 34,364 25,052 59,416
11年度 33,830 24,495 58,325

 

3−2−13図 ハッピーマンデーによる旅行需要の増加

e−TBT ロゴマーク(日本旅行業協会) e−TBT ロゴマーク(全国旅行業協会)
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