3 運賃問題


  国鉄の運賃制度については,運賃水準,運賃決定機構,公共負担等種々間題はあるが,このうちいわゆる公共負担および通行税の問題をとりあげることにする。

(1) 公共負担

  国鉄は国民経済的および社会的観点からの公共政策によつて,通勤・通学のための高率定期割引運賃,特別扱い新聞・雑誌運賃,貨物の特別等級による低い運賃の設定並びに特別割引等のいわゆる公共負担を引きうけており,その額は 〔I−(I)−44表〕に示すように年々増加し,38年度においては約830億に達している。

  国鉄は,その公共機関としての立場から国民経済上,社会上必要とされる限りにおいて公共負担を引き受ける立場にあるが,一方企業体としての立場からはその公共性は無制限ではなく,公共負担は国鉄の財政収支の均衡の範囲内で認められるべきものである。このような観点からみると,現在借入金および支払利子の増加によつて将来財政収支の面で行詰りを生ずることが懸念されている国鉄経営の状態からは,年額800億円を上回る公共負担は明らかに過度の負担であると考えられる。また一方,公共負担は先にのべたように年々増加しているが,これは運賃の低減や割引を受けない一般の旅客,荷主の運賃負担の不均衡をますます増大せしめるものであり、利用者負担の衡平の見地からきわめて不合理なものとなつている。以上の見地から,これらの公共負担のうち負担が極端に過度となつているもの,たとえば通勤・通学定期の割引など割引率が高率にすぎ,またそのため国鉄沿線への人口集中により,都市の均衡ある発展を妨げていると考えられるものについては何らかの是正措置をとることが必要であると考えられる。

(2) 通行税

  現在国鉄の1等の旅客運賃,急行料金および寝台料金に対しては1割の通行税が課せられており,38年度に国鉄利用旅客が負担した通行税額は約24億円にのぼつている。
  通行税は支那事変により激増した軍事費の歳出をまかなうため,昭和13年しやし税として設定ざれたものであるが,生活水準の向上並びに航空機および乗用車の普及等によつて1等車による鉄道旅行は富める者の特権とは認められなくなつている現在,鉄道旅客に対する課税の意義は完全に失われていると考えられる。また,他の輸送機関利用旅客に対する課税の現状をみると,汽船は1等でも無税,航空機は5分の課税,バスはすべて無税となつており,鉄道利用旅客のみひとり重課されていることは課税の不均衡をきたしているものということができる。さらに運賃のほかに急行料金等にまで課税していることは二重の課税ともみられ,同一旅客に対する税負担はきわめて高額なものとなつている。このような事情にかんがみ,現行の通行税については,これを廃止するか,廃止が困難であるときは税率の引下げ,課税対象の縮少などにより実質的負担の軽減をはかるよう是正する必要がある。


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