3 日本航空(株)に対する助成


  財務の現状が以上のとおりでありながら,日本航空(株)が,激烈な競争に打ち克ち,国際航空界でその地位を高めていくためには,日本航空(株)自体の努力に期待するところがきわめて大きいが,同時にこれに対する強力な政府の助成措置が望まれる。
  本来,国際航空事業は,能率的な交通手段たるのみならず,その国の国際的地位を象徴するものであるが,その運営には,航空機材の購入等で巨額の資金を要し、経営的にきわめて困難な事業である。
  従つて,各国とも国際航空会社のほとんどは政府の債務保証,補助金交付,赤字補填等の育成措置を受けている。
  わが国の場合には,さらに戦後の空白期間という特殊な事情もあり,新しく国際航空事業を開始するためには,格段の措置が必要であつたので,政府は・日本航空株式会社法(昭和28年法律第154号)に基づく特殊法人としての日本航空株式会社を設立し,これに対し政府出資(日航法第3条)国際線の維持発展のための補助金支出(同法第8条),債務保証(同法第9条),政府所有株式の後配(同法第10条),社債発行限度の特例(同法第5条)等の助成を行なうこととした。これらの規定に対する過去の実績は〕表のとおりである。

 (1) 出資政府出資の累計は,38年度末で83億円(資本金額に占める比率は56%)であり,39年度中には更に政府出資17億円が予定されていて,これにより同社に対する政府出資は100億円(資本金額に占める割合は58%)に達することとなるが,日本航空(株)の旺盛な資金需要を考えると決して十分とは言えない。同社は国際線だけでも1機25億円のDC-8型ジェツト機を年々,数機程度増強していく必要がある。そのための資金を自己資本ではまかなえずに,メーカーの延べ払い融資あるいは社債,長期借入金等の他人資本に依存してきたのであるが,このような資金繰りが財務比率を悪化させ,経営を圧迫することはいうまてもない。それは,外国航空会社に対する競争力を減殺するだけでなく,今後他人資本を導入する場合の大きな傷障害ともなる。
  したがつて,日本航空(株)について,金利負担のない資金すなわち出資が大きな意義をもつものであるが,なかんづく政府所有株式は,後配株であるので,経営上きわめて有利な資金源であり,民間出資を開拓するためにも十分な政府出資が望まれる。
 (2) 補助金日本航空(株)に対する補助金の交付額は利子補給,乗員訓練費補助,外人雇傭経費補助などを対象に発足以来累計6億8000万円余に達するが,さらに昭和39年度は,同社国際線乗員訓練を対象に3億5000万円が交付される予定である。
  ここで,日航(株)の乗員訓練費問題を検討してみたい。いうまでもなく航空機の操縦は高度の技術と経験を要する仕事であり,優秀な操縦土は航空会社にとつて貴重な人的資源である。したがつて,いかにして操縦士を確保し,その技量を向上させるかが各航空会社の共通の問題であり,特に日本航空(株)の場合は,それが困難な問題になつている。
  すなわち,欧米では,空軍が操縦士の供給源となつており,彼等は,大型高性能機の操縦経験を有するので比較的短期間の訓練で民間航空機を操縦できる。
  これに対し,わが国では公の養成機関としては,わずかに運輸省の管理する航空大学校があるのみであり,しかも同校は,人員施設等の制約上,その養成規模は十分と言えない。また,航空自衛隊も現在操縦士の供給源となつているが,これまでのところ,その出身者についても再訓練を必要としている現状である。
  したがつて,日本航空(株)は,これらの操縦経験者を訓練要員として採用し,これに対し自社使用機を操縦できるだけの訓練を施している。この間1人当り2600万円程度の経費と7〜8年の期間を要するので,毎年発生する訓練費は多額に上る。そり営業費用に対する比率5.3%を他の航空会社と比べると,いかに日本航空(株)の訓練費負担が大きいかが分る。
  しかも従来同社は,乗員訓練費を開発費として5年間の繰延償却を行つてきたが,(外国航空会社は,いずれも発生年度に経費として処理している。)昭和37年の商法改正に際し開発費の繰延についての規定が制限的列挙主義をとつたため今後は従来通りの処理方法が困難とみられるに至つた(商法286条の13)。したがつて,今後は,当該年度発生する訓練費を経費として処理するとともに,昭和42年に至るまでは昭和38年度以前に発生した分の償却をも行うこととなつているので,これは同社の経理上大きな負担であり,国際競争上のハンディキャップとなる。この点にかんがみ,政府は,国際競争力強化の見地から,同社国際線乗員訓練を対象に,3億5,000万円の補助金を交付することとしたのである。しかし,訓練費の未償却額が38年度末で33億4000万円に達し,今後の発生額も年々増加する予定なので,補助金の継続的交付が切に望まれる。

 (3) この他の助成措置 航空事業に対する助成措置で,国際航空事業を対象にしたものは,他に固定資産税の軽減がある。これは国際線に就航する航空機に対する固定資産税の課税標準を,価格の3分の1とするもので(地方税法第309条の3第8項),これによる減税額は,39年度約1億400万円である。


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