4 新東京国際空港の建設


(1) 建設を必要とする理由

  近時わが国における航空機輸送需要は国内線,国際線ともに激増の一途をたどりつつある。とくにわが国国内航空の中心空港であり,しかも世界における航空交通の要衝として極めて重要な地位を占める東京国際空港においては,これを反映して昭和38年には年間実に334万6000人の航空旅客の乗降を記録している。
  東京国際空港については,前述のように昭和32年以来整備工事が進められてきた結果,現在その能力はかなり増大しており当面の運航量には十分対応できる状態となつた(拡張整備完了後の当空港において年間に処理しうる定期便の発着回数の最大限は17万5000回と計算される)が過去の実績から将来の運航量を推定してみると,今後の施設の整備を考慮しても昭和45年頃には能力の限界に達するものと予想される。
  また,近年における急速な技術革新の一環として航空機も大型化,高速化の方向へ急激な発展を遂げつつあり,大型ジェット機の出現後間もない現在においてすでに各国において超音速旅客機の研究開発が進められている。この機種は,昭和45年項には主要国際航空路線に就航するものと予想されているが,その発着は現空港の滑走路では不可能と考えられる。
  このように,わが国最大の空港たる東京国際空港も昭和45年頃には質量両面においてその能力の限界に達することとなり,この時期までに東京地域における空港の抜本的な整備を行なわなければ,これがわが国航空の発展の一大あい路となることは必至である。
  ちなみに,欧米諸国における最近の空港建設状況をみると, 〔III−43表〕および 〔III−44表〕に示すように各国の主要都市においては現東京国際空港の数倍ないし十数倍の面積を有する大規模な空港を-しかも中には2つ以上-持ちながら,なおかつ運航量の激増,超音速旅客機の出現に対処すべく,新たな大空港の建設計画を着々実施に移しつつある。例えば,ワシントンでは4000ヘクタールの敷地面積を有する超大型の新空港(ダレス空港)がすでに一昨年の11月に一部供用を開始しており,パリにおいても3000ヘクタール(将来5000ヘクタールまで拡張可能)の大空港の建設計画を樹立し,すでにパリ市の北方ビベロンヌ川附近に用地が決定し買収に着手している。また,西ドイツのハンブルグにおいても,市の北方にあるカルテンキルヘンという町の近くに敷地面積2500ヘクタール(将来4000ヘクタールまで拡張可能)の超音速旅客機用新空港を建設すべく準備を進めている。このほか,米大陸横断超音速旅客機用のニューヨーク新空港,さらにオランダで計画しているアムステルダム空港の大拡張等,各国は上述のすう勢に対応する施策を進めている。
  このような実情にかんがみても,現在東洋における航空交通の中心としのて地位を保持しているわが国が,新たな時代に対応した受け入れ態勢の確立に時期を失するならば,必然的にその地位を失なう結果となることは明らかである。
  そこで,これが対策として現東京圏際空港の拡張が考えられるが,これについては,東京港に出入する船舶の交航に致命的な支障を及ぼすと共に現在実施中の東京港建設計画を根本的に変更しなければならないこと,水深が大であり,埋立て土砂の調達が困難である等工事施行上重大な難点があると共に工事完成後の維持補修にも難点があること,米軍航空路が障害となり空港使用効率が低下するとと,騒音対策上の難点があること,周辺地域に利用上の制約を与えること等多くの困難な問題が生じその実現は殆んど不可能といわなければならない。
  結局,東京地域において航空の飛躍的発展に即応した空港の整備を図るためには,長期的な需要見通しの下に,これに対応した大規模な新空港を建設することがぜひとも必要であると考えられる。

(2) 建設計画の概要および現在までの経緯

  このような新国際空港建設の必要性にかんがみ,運輸省においては,昭和37年度118万円,昭和38年度1,000万円の調査費をもつて,候補地の選定を主な内容とする諸々の調査計画を進めてきたが,昭和39年度においては,新たにこのための組織を設け,1億円の調査費をもつて候補地の詳細な調査測量をはじめとする広汎な調査を実施するとともに,早急に用地を決定し,昭和45年度までに第1期工事を完了すべく準備を進めることとなつている。
  ところで,新空港は超音速旅客機を対象とするとともに将来の東京地区における膨大な航空需要をまかない得るものでなければならない。したがつて,その規模を決定するにあたつては,この2つの要請に合致するような施設計画を前提とする必要がある。
  空港の規模を決定する基本的な要素は,一般的にいつて滑走路の長さ,数および配置である。新空港の場合,まず滑走路の長さは,超音速旅客機が発着可能な4000メートル程度のものを計画する必要がある。次に,滑走路の数および配置であるが,急激な伸びを示している運航量に対応するためには,1FR時においても同時離発着が可能なだけの間隔をとつて配置された平行滑走路をできる限り数多く設置しなければならない。特に,新空港は空域の関係からいつて東京周辺における最後の大空港になると考えられるので,その能力の決定にあたつては,国家百年の計を誤らぬよう十分の配慮をする必要がある。ただ,一空港において互に同時使用できる滑走路の数には進入出発径路の関係から限度があり,無制限に設置してもそれに比例して能力が増えるものではない。今,新空港について可能な限り能力が大きく,しかも安全かつ効率的なオペレーションができる滑走路配置を設計してみると 〔III−45図〕のようになり,これだけの規模の空港を設置するためには敷地面積約2,300ヘクタール(約700万坪)を必要とする。
  次に新空港の立地条件であるが,まず第1に考慮しなければならないのは,既存飛行場との管制上の関係すなわち空域の問題である。飛行場は単に一定の敷地を要するのみでなくその上空に広大な空域を確保しなければならない。それは航空機の安全運航と空港の使用効率に関連するため,他の要素に優先して配慮する必要がある。
  このような観点から東京都の周辺をみると西部上空一帯は,厚木,立川,横田,及び入間川の軍用飛行場群によつて完全に占有されており,又,東京湾内上空は現東京国際空港の空域となつているため,これらの地域に新空港をつくるとすれば,既存の飛行場とは両立しえむい。次に,超音速旅客機のような超高速の航空機による輸送になると,都心との距離があまりに遠いとその高速輸送の効果が減殺されることになる。この点については前述の空港の問題とのかね合いになるが,少なくとも高速道路を利用して1時間程度の範囲にあることが必要である。その他新空港の立地条件としては,気象条件が良好であること,用地の取得が比較的容易であること,用地がなるべく平坦であり,かつ地盤が良好であること等があげられる。
  新空港は,わが国で従来その例を見ない大規模なものであるのでその建設にあたつては都心との交通施設,空港周辺都市計画,給油,用水計画と一体的に計画を進める必要がある。
  また,新空港の建設管理方式については,その事業の規模がきわめて大きいことにかんがみ,特殊の形態を考える必要がある。新空港は,空港整備法上の第一種空港の要件を備えたものである。したがつて,本来全額国庫負担により国が設置し,以後の管理も国が直接行なうべきものである。しかし,今回計画されているような大空港の場合,その建設費は莫大な額に上り,これを全額国費によりまかなうことは国家財政の上から困難であると考えられる。他方,大型機が頻繁に離発着するこのような大空港においては,その収益力も相当大きなものとなる。すなわち,空港における基本的な収入は着陸料であるが,その他ターミナルビル,駐車場等の施設特に給油施設からは相当な収益が上ると考えられる。そこで,新空港の場合,建設費の一部を民間資金によりまかない,これを事業収入により償還するという独立採算方式を採ることが可能になる。また,新空港の建設はきわめて大規模な事業であるので,人事,経理その他の運営面において弾力性のある経営主体を選ぶ必要がある。ざらに,新空港はわが国の表玄関として膨大な公共的施設を有するが,これらを個々別々の企業主体が運営することなく,総合的に管理運営し,空港経営の円滑化を図らねばむらない。以上のような観点から,新空港については,その建設,管理を通じ一貫して公団等特殊法人方式によるのが最も適当であると考えられる。
  なお,この問題については,昨年8月28日運輸大臣から航空審議会に対し「新東京国際空港の候補地およびその規模」について諮問が発せられたが,審議会では小委員会を編成(委員7名,学識経験者3名,関係行政機関の職員5名計15名で構成)の上各界の専門家をも交えて前後5回にわたる討議が行なわれ,昨年12月11日答申が出ざれている。それによれば,まず侯補地については,千葉県浦安沖,千葉県富里村附近,茨城県霞ケ浦周辺(湖面を含む。)について,他の飛行場との管制上の関係,気象条件,工事施行の難易,その他の要素を比較検討した結果,千葉県富里村附近が最も適当であり,自衛隊百里飛行場との調整が可能であれば茨城県霞ケ浦周辺(湖面を含む。)も適当な候補地であること,および規模については,700万坪程度が必要である旨が述べられている。


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