第3節 観光基本法制定の意義


  観光基本法は,第43回国会で成立し,昭和38年6月20日公布施行された。
  観光は,国際観光についてみると,外国との経済,文化の交流を促進し,
 さらに国際親善の増進に役立ち,国際収支の改善に寄与し,わが国経済の発展に貢献している。また国民観光は,国民生活の緊張の緩和と見聞の拡充を通じ,国民の保健の増進,教養の向上および勤労意欲の向上等にも寄与するものであり,さらに,観光開発は,地域格差の是正にも大きな役割を果たしているのである。
  このような観光の社会的経済的使命の重要性にもかかわらず,これまでその意義が深く理解されていたとはいいえず,ややもすれば軽視されがちであり,観光旅行を否定するような偏見があるとか,あるいは,旅行資金や旅行のための余暇時間がなかつたり,観光旅行者の需要に応じうるような施設の整備が十分になされていないというように,観光に関する社会的経済的諸条件の不備が目立つてきた。第一に,近年は,所得水準の向上と,社会生活の緊張およびストレスの増大等を背景として観光旅行者が著しく増加し,このため受け入れ施設の不足をもたらし,交通機関,宿泊施設,あるいは見物する対象のある地などの著しい混雑を招き,これに対する社会的関心を大きくしている。第二に,観光旅行が生活に欠かすことができないものとなりつつあり、観光旅行を快適に行なえるような状態を形成することが国民生活の安定向上にとつて,重要な問題となつてきた。第三に,観先旅行をしようとする層が拡大したが,この質的変化に応ずべき対策が十分でないことが社会的な問題となりつつある。第四に,国際観光による外貨収入が国際収支上無視し得ないものとなりつつあるが,最近における国際観光市場における競争の激化は,わが国の国際観光のバランスの維持を困難にしている。
  第五に,国内的にみて観光旅行者の増加は,観光に関連する事業の数,規模これに従事する者の数を著しく増加させ,したがつて,観光がどのように発展するかが,これらの事業や従事者への影響を通じて,国民経済の発展に影響をもつに至つている。第六に観光り地域経済に与える影響がきわめて大きくなりつつある。
  観光基本法は,このような事態に対処して制定されたものであり、国の観光に対する評価を示し,今後の施策の方向を与えた点に大きな意義があるのである。
  この観光基本法の与えた方向に沿つて,今後,諸々の施策が講ぜられるわけであるが,現在までのところでは,観光基本法の子法にあたる日本観光協会法,旅行あつ旋業法,国際観光ホテル整備法のそれぞれ一部改正により,海外観光宣伝体制の強化,旅行あつ旋業者の信頼度の向上,政府登録ホテル,旅館の施設および外客接遇についての水準向上等の措置がとられた。

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