2 鉄道車両工業


(1) 増大した鉄道車両生産

  急増する輸送需要に対処するため,国鉄をはじめとして各鉄道で車両増備が行なわれているが,これを反映して39年度における鉄道車両生産は,貨車換算67,579両で対前年度比15.7%増の大きな伸びをみせ,これまでの最高であつた37年度の実績を9%も上回る実績を記録した。なかでも国鉄の需要の伸びが25.7%と大きく,需要先別構成比で38年度の64.5%から70.1%へ拡大し,国鉄への依存度を一層高めている。民需は,重化学工業の発達に伴いタンク車,ホッパー車等の特殊な私有貨車が増加しているが,総生産量としては,前年度よりわずかに増大したにとどまり,また,輸出需要は対前年度比7.3%の減少をみせ,需要先別構成では1割強を占めるに過ぎず,依然として伸び悩みの状態にある。

(2) 鉄道車両工業の経営動向

  鉄道車両工業は,きわめて特殊な需要構造をもつている。すなわち,鉄道事業者という特定需要者の注文生産で,国鉄への依存度が高いため,その財務状況は安定的要素は強いが,好況の波には乗れないという特色をもつている。鉄道車両の生産額は年々増大の傾向にあり,39年度実績667億円は35年度の1.5倍強になつているが,国鉄の債務負担行為(次年度の支払となる契約)による発注と民有車両制度(車両メーカーが製作した車両を国鉄が借り受けるもの)による調達が増加しているため、生産の上昇に比例して企業経理は必らずしも好転していない。
  鉄道車両製造業中50%以上の占業度を有する5企業の39年上期の決算を中心に鉄道車両工業の経営動向をみると,
  まず,売上高では38年下期に対して38年上期は8.9%の伸びを示し,毎期増大する傾向にあるが,純利益の伸び率は減少する一方である。総資本利益率および売上高利益率は前期に比べいずれも悪化し,また,総資本回転率もわずかに改善されるにとどまつた。
  資産構成比においては,当座資産の比率が51.5%ときわめて高率となつており,その内容としては売上債権が増加している。これは国鉄の債務負担行為による調達が増大していることによるものである。
  資本構成比では,流動負債比率が高率であるが,この比率は毎期上昇しており,その内容においては運転資金の不足による短期借入金の増大が目立つた。
  主要財務比率はそろつて悪化しており,とくに負債比率の悪化は急激である。
  付加価値生産性は対前期比4%上昇した。これを労働装備率および資本生産性からみると,いずれもわずかながら向上を示しており,この結果付加価値生産性が上昇したとみられる。また,一般製造工業と比べて労働装備率がきわめて小さく,したがつて資本生産性が大きくなつており,有形固定資産の小さい企業の特性を表わしている。
  昭和40年度運輸省所管事業設備動向調査によると,鉄道車両工業の40年度設備投資計画は39年度実績に比べ63.9%増である。これは最大の需要先である国鉄の新長期計画における車両の需要増に対する設備投資の増大である。


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