第2節 災害とその復旧事業


  39年度における港湾海岸の主要な災害としては,6月16日に発生した新潟地震による災害と,9月25日大阪湾沿岸に生じた台風20号による災害をあげることができる。
  新潟地震は,今まで発生頻度が比較的少なく地震の規模も大きくなかつた日本海沿岸において,マグニチュード7.5という関東地震にも匹敵するほどの地震が起り,また地域により2〜4mに達する津波が来襲した点において特異な現象といわなければならない。地震の最大有感距離は600kmに達し,新潟,山形,秋田の3県下に甚大な被害を与えた。とくに新潟県の被害は甚だしく,新潟市では住宅,工場,石油基地,鉄道,道路,港湾,河川などほとんどの施設が破壊されている。また,信濃川両岸の防潮施設が地震により崩壊した直後に津波が来襲したため,地盤沈下で生じた両岸の低地帯は浸水し,都市の機能はほとんど停止した。被害総額は3,000億円に達するとみられるが,このうち港湾および海岸施設の被害は 〔II−(III)−31表〕, 〔II−(III)−32表〕に示すとおりで,新潟港の施設は全滅に近い状態となつた。

  新潟市の地盤沈下は水溶性ガス採取のため,70万トン/日をこえる揚水によつて生じてきたもので,沈下の傾向は29年頃より顕著となり,33年,34年には年間50cmにも達するようになつた 〔II−(III)−33図〕。その後4回にわたる揚水規制の結果,沈下は年間数cmに減少してきている。一方,港湾地域の地盤沈下対策事業は33年から35年まで応急対策事業として実施し,36年から10カ年対策事業として港湾施設,護岸などの嵩上げ補強を継続してきていた。 〔II−(III)−34表〕

  今回の新潟地震では建築物の異常な転倒あるいは流砂の噴出にみられるように,地盤の流動化という現象が注目を集めたのであるが,信濃川河口の港湾施設の被害状況は,従来の震害に現われた様相ときわめて類似しており,必ずしも流動化が原因となつて破壊したとは考えられず,流動化は破壊に対して副次的な影響をおよぼしたものという調査結果が得られている。むしろ地盤沈下の影響の方が深刻であつたと考えられている。すなわち,第1には地盤沈下のため埠頭などの港湾施設が防潮堤の役目を果さねばならなくなり,これらの破壊が背後のゼロメートル地帯の形成と相いまつて,大きな浸水被害をもたらしたことである 〔II−(III)−35図〕。第2には構造物自体の耐震性が地盤沈下によつて大いに損なわれたことである。沈下に対処して嵩上げを重ねることを余儀なくされたため,構造物の安定度は減少し,これを防ぐため補強を行なつても構造上かなりの無理があつた。このように新潟市の震害は,地盤沈下都市の防災をいかにするか重要な問題を提起したものである。

  台風20号による港湾ならびに海岸保全施設の被害は 〔II−(III)−36表〕に示すとおりで,その経路に沿い 〔II−(III)−37図〕被害の大きいことが認められる。しかし,ここで注意しなければならない点は,大阪から神戸にいたる間において波浪による被害が予想外に大きく,大阪,西宮,神戸の沿岸は,越波ならびに港湾施設,海岸保全施設の破壊により浸水被害を起していることである。大阪,尼崎,西宮などはわが国でも有数の地盤沈下地帯であり,今までにも室戸台風,ジェーン台風,第二室戸台風によつて甚大な高潮災害を受けた地域である。今回の台風による被害は,これらの台風経路とかなりへだたつているにもかかわらず,高潮はともかく,外洋から浸入した強大な波浪により生じたものとみられており,大阪湾における高潮波浪対策にこれまた再検討を促したものである。

  このほかに,8月23日台風14号が来襲しているが,台風の規模が小さく被害も比較的軽微であつた。
  新潟地震に対する港湾施設,海岸保全施設の復旧は,2年を予定しており,40年度にほぼ完了する。このうち新潟港の特例防災事業として,護岸,埠頭の背後に幅50〜70mにわたり,万代橋下流の港湾区域の地盤嵩上げを行なつており,この方式はゼロメートル地帯の防災方式として今後とも活用される可能性がある。また台風14号,20号の災害復旧は39年から4カ年計画に基づいて完了する予定である。これら復日事業に対する39年度予算は,予備費および補正予算から支出している。


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