1 収支状況


  まず,日本航空(株)の国内総収支状況をみると,昭和42年度の総収入は前年度比3%増の229億3,100万円をあげたのに対し,支出は同比11%増の182億9,80万円に止どまつたため,経常利益は,46億3,300万円となり,前年度の7億1,500万円に比べ実に548%の大幅増益となつている。
  このように国内線が好調だつたのは,41年に続発した航空機事故の影響が42年度にはほとんど解消し,航空選好が急激に高まつたためと考えられる。この結果,42年度の日本航空(株)の国内線有償旅客人キロは前年度に比べ40%も増加しているが,これに対して有効座席キロは14%増にとどまつたため,座席利用率が54・2%から665%へと大きく向上し,大幅増益に寄与している。
  つぎに,幹線および主要ローカル線運営する全日本空輸(株)についてみると,42年度総収入は217億3,400万円,うち営業収入は213億1,851万円で,それぞれ前年度に比べ31%の増収となり,また営業収入のうち96%を占める定期運送事業収入は204億1,121万円,このうち旅客収入は182億6,771万円で,それぞれ32%の増収を示している。このように収入が増加したのは,B-727型機1機及びYS-11型機2機の新規投入による供給拡大および小松-札幌線,東京-鳥取-米子線の開設ならびに福岡-壱岐線,大村-福江線の譲り受けによる路線網の拡大にもよるが,41年度に航空機事故の影響で冷却したローカル線需要がほとんど回復し,最も大きい衝撃をうけた幹線の利用率もかなり向上してきたことによるところが大きい。
  これに対して,支出は11%増の204億8,751万円であつたため,経常利益は12億4,649万円となり,特別損益負担後の当期純益として12億2,457万円を計上,前年度同損失が16億7,952万円であつたのに比べ大幅な収益改善となつた。この結果,前期からの繰越損失13億5,029万円の大半を解消し,次期繰越損失は,1億2,572万円となつた。
  日本国内航空(株)は,41年7月に幹線運営を日本航空(株)に委託して以来,東京-千歳間の夜間郵便専用便を除いてローカル線のみを運営してきたが,42年12月に東京-千歳線,また43年4月に東京-大阪線,大阪-福岡線においてYS-11型機による深夜便の運営を開始した。この結果,同社の営業形態は,幹線深夜便およびローカル線を運営する路線部門,幹線昼間便運航用機材としてのB-727型機2機(43年4月からは3機)の日本航空(株)への賃貸部門,使用事業部門の3本だてとなつている。
  同社は,航空企業の再編成に関する41年5月20日の閣議了解の線にそつて,旧会社から承継した不良資産および39年4月の3社合併による同社設立以降の累積欠損を46年度上期までに一掃する目標のもとに,41年10月に再建計画を策定(42年3月および43年3月に一部修正)し,人員削減,機材統一,不採算部門の整理等の合理化策を強力に推進しつつある。42年度においても,この計画に従い,5月25日に50%(26億1,000万円)の減資,また6月27日に同額の増資を実行したほか,運航機材のYS-11型機(43年3月末現在8機)への統一およびそれ以外の路線用機材の売却・使用事業部門の大幅縮小,航空測量部門の分離等の合理化を実施した。
  このような体質改善策の進捗により損益分岐座席利用率が低下する一方,41年度の事故の影響も払拭されて,とくに42年度下半期には著しい旅客需用の増加がみられたため,42年度の同社収支の基調はかなり好転した。
  まず,営業収入は48億1,910万円と前年度に比べ35%の増収で,このうち路線収入は同比45%増の41億9,250万円を占めている。営業収入のおもな内訳をみると,日本航空(株)よりのB-727型機賃貸料収入が11億4,990万円,ローカル線旅客収入が24億5,948万円(前年度比27%増),同貨物収入が2億2,853万円(同比52%増),同郵便収入が1億9,878万円(同比124%増)。また12月から開始した幹線深夜便旅客収入が1億1,006万円で,いずれも大幅増収となつている。ちなみに,同社運営全路線の平均座席利用率は,41年度の48.1%から42年度は57.7%へと向上し,とくに幹線深夜便旅客便は89.8%の高利用率を示している。
  以上に対して,営業費現は前年度比11%減の41億2,352万円におさえることができたので,営業利益では6億9,558万円と同社設立以来初の黒字となり,これまで毎年10億万円ないし15億円の赤字であつたのに比べ著しい改善を示した、しかしながら,多額の赤字運転資金借入金をかかえているため支払利息が9億8,198万円にのぼり,また営業権および開発費の償却実施3億7,540万円等があるため,営業外損益負担後の経常損益では4億9,414万円の損失となり,前年度の同損失21億7,799万円に比べれば改善の傾向は顕著ではあるものの,なお赤字を免れなかつた。
  なお,すでに述べたとおり,42年度には,航空機材を中心とする資産の処分を推進したので,資産処分損が11億7,065万円の多きにのぼり,結局特別損益負担後の当期損失としては16億2,278万円を計上することとなつた。これに前期からの繰越損失43億2,626万円(前期末の未処理損失69億3,626万円のうち26億1,000万円は減資差益により補填した。)を合わせて,次期繰越損失は59億4,904万円となつた。ただし42年度において不良資産はほとんど表面化したことになるので,今後は需要拡大に支えられて着実に再建のみちを歩むことが期待できるであろう。
  大阪以西のローカル線を運営する東亜航空(株)も,他社と同様事故の衝撃から立ち直り,さらにYS-11型機第4号機の投入とCV-240型機の退役,不採算路線の休止等の合理化を進めた結果,収入の伸び率は35%となつたが,支出を12%増におさえ得て1億4,510万円の純利益を計上,創立以来初の黒字転化をみた。これにより累積欠損の一部を消したので,次期繰越損失は7億9,000万円となつた。
  また,長崎を中心とするローカル線を運営してきた長崎航空(株)は前述のとおり42年11月をもつて定期運送事業部門を廃止したため,42年度は20%の収入減,24%の支出減となり,7,994万円の損失を計上して次期繰越損失は4億5,815万円となつた。同社は,42年12月以降不定期運送事業および航空機使用事業のみを行なつている。
  以上述べたとおり,各社の経営状態に差異はあるが,いずれも42年度にはいつてから41年の航空機事故の影響も解消して,とりわけ下半期には旺盛な需要をみており,このまま推移すれば各社の収支改善は今後急速に進むものと思われる。


表紙へ戻る 次へ進む