総論
第1部 昭和44年度の運輸経済

  44年度のわが国経済は,前年度に引き続き拡大を続け,国民総生産は前年度比実質13.0%の伸びを示し,実質経済成長率は42年度以降13%台の高い伸びを続けている。また,鉱工業生産指数も17.7%増と高い伸びを示した。他方,労働力不定は一段ときびしくなつた。
  このような高度経済成長のなかで,個人消費支出も実質8.6%の伸びを示し,家計消費支出のなかの交通・通信費,娯楽・教養費等の雑費の伸びは,消費支出平均を上回る伸びで増加している。
  また,わが国の44年度の国際貿易は輸出,輸入ともに,国際競争力の増大,生産活動の活発化を反映して対前年度伸び率23.0%,20.4%と高い伸びを示し,国際収支は前年度にひきつづき黒字を持続した。このような国際貿易の拡大を中心とする国際化の進展,経済成長による個人所得の増大を反映して,わが国への来訪者およびわが国からの渡航者もそれぞれ17.3%,31.4%(いずれも暦年)増加した。
  このような生産活動,個人所得,国際貿易量,出入国者数の増加を反映して,わが国の輸送活動も活発な動きを示した。
  44年度の輸送活動指数の伸びは,国内貨物で17.4%,国内旅客で28.2%,国際貨物で24.6%,国際旅客で28.3%の増加といずれも好調な動きを示し,この結果,総合で23.0%増と前年なみの高い伸びとなつた。
  44年度の運輸経済をみるとき,このような輸送活動の高い伸びのなかにあつて次のような特徴をあげることができる。
 1. 労働力不足が深刻化するなかで輸送需要の増大に対処するための方策を要請されていることである。コンテナ専用船,国鉄フレートライナー,中・長距離フエリーは輸送の効率化,省力化を進めるとともに,海陸一貫輸送をも可能にするものとして定着しつつあり,30万トン型大型船やジヤンボジエット機にみる如く輸送機関の大型化も進んでいる。しかも,これらの輸送方式は高度に利用されており,輸送費の節減を通して物価の上昇抑制に大いに貢献している。
 2. 東名高速道路の完成によって,東海道メガロポリスには新幹線,東名・名神高速道路,航空の高速輸送機関が出揃い,国民の所得水準の向上とあいまつて,利用者がこれらの輸送機関を自由に選択しうる時代となり,輸送の側においては,輸送機関相互間のし烈な競争の時代に入つたといえよう。
 3. 地方における過疎現象の進行は,モータリゼーシヨンの進行とあいまつ,て,公共輸送機関である乗合バス,地方ローカル鉄道の輸送需要を減少させることとなり,公共輸送機関のあり方に大きな問題を投げかけている。
 4. 輸送活動の高い伸びが続いていることによって,交通関係社会資本の不足が益々大きくなつてきつつあることである。道路交通の渋滞,空港の混雑等は,交通関係社会資本投資不足が大きな原因となつている。
 5. 自動車による交通事故,排出ガスによる大気汚染,大型船の海難,海水油濁等,公害・事故の問題は多い。このため,無公害自動車の開発,原油のパイプライン輸送による大型油送船の入港抑制措置等が検討されているが,いずれにしても,これらの問題は単純に解決し得ない問題が多く,今後取り組まなければならない大きな課題である。