第4章 造船をめぐる今後の課題

  わが国の造船業は,高度の経済成長に支えられる船舶建造需要の増大の中にあつて,積極的に新技術を開発し,設備の近代化を行なうことによつて,建造「量において世界のほぼ半分を占め,受注面においても,現在約2年分相当の手持工事量を確保している。
  しかしながら,外国造船業,なかでもその中心である西欧の造船業は国家助成を背景に,グループ化,合理化,大規模な設備投資を行なうことによつて,その建造量を増加させつつあり,とくに将来の建造需要の主要部分を占める超大型船の建造施設の整備は,急速に進行している。
  また,従来停滞気味であつた米国造船業も,原子力開発,宇宙開発などの分野において蓄積されたシステム工学等の技術を導入して,新型式の船舶の開発や新構想造船所の建設に乗り出しつつある。
  このような情勢からみて,わが国の造船業が,現在の実力を今後とも維持するためには,長期的展望にたつて,このような現状を正しく認識し,次の諸点について努力すべきである。
  第一に,超大型船の著しい需要の増加への対応である。
  世界の油送船の建造需要の大半は,20万重量トン以上の船型となつている。また,石油中継基地の構想は,世界的にかなり多く,将来50万重量トン以上の船舶が就航することも予想される。さらに撒積貨物船の分野においても,船型の大型化が著しく進展しており,鉄鋼原料輸送を目的とした15万重量トン以上の船舶の発注が増加する傾向にある。
  このように,今後超大型船の建造需要が世界の建造需要の中心となることにかんがみ,この超大型船建造施設の整備を重点的に行なう必要がある。
  第二に,新型式の船舶を建造するための技術開発と建造体制の整備である。
  最近の世界海運界においては,貨物の多様化と海陸一貫輸送の実現のために,従来と異なつた型式の船舶の必要性が増加しており,わが国造船業の高い技術ポテンシヤルを液化ガス輸送船やコンテナ船等高度の技術を必要とする船舶の建造に活用させる必要がある。
  なお,超大型船,超高速船等の需要増大に対処して,大出力機関の技術開発と生産設備の整備を促進する必要がある。
  第三に,生産性の向上である。
  わが国造船業においても,労働力不足はきわめて深刻な問題となりつつあり,これに対処するためには省力化投資を進め,労働環境の整備を図ること等により,生産性をさらに向上させる必要がある。
  第四に,建造量の量的拡大のみならず安全性の確保等船舶の質的向上にさらに一層努めることである。
  第五に企業間の協調の促進である。
  企業間の過当競争を極力排除し,経営基盤を強化するため,従来超大型船建造能力を有する企業を基幹として企業の集団化が自主的に進められてきたが,これらの傾向は今後とも維持,促進されることが望ましい。とくに中小造船業が輸出市場の開拓,技術力のかん養等を実現しうるよう体制を整備してゆく必要がある。


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