第1節 観光政策の新方向


  従来,わが国の観光政策の重点は,ながきにわたつて外客誘致を中心とする国際観光の面におかれてきた。このことは,外貨獲得による国際収支の改善が,わが国経済にとつて最重要事とされてきたことの結果であつた。
  近年におけるわが国の国際収支基調の好転により,一部は外貨獲得手段としての国際観光の必要性が薄れたとの議論も生じているが,国際収支対策の必要性は長期的観点から判断することが必要である。また,国際観光は単に外貨獲得の手段としてのみ考えるべきものではなく,「観光は平和へのパスポート」の標語のとおり,わが国国民と世界の諸国民との直接的な相互交流を通じて,国際間の理解と親善を深め,世界の平和に寄与するという高い次元の使命を有している。
  とりわけ,わが国の国際的地位が向上することに伴い,外国の国民に,わが国の実情を誤りなく認識せしめることの必要性はますます強くなっている。このような意味で,国際観光はその本来の使命に立戻つて,さらに推進すべき時期に来ているといえよう。
  次に,国民観光の分野については,第2章,第5軍にも述べたとおり,国民の所得水準の向上と自由時間の増大により,観光レクリエーシヨンヘの欲求が飛躍的に増大しつつあり,加えて大都市における生活環境の悪化は,この欲求をいよいよ切実なものにしている。このような観光レクリエーシヨン需要の充足は,今後の大きな政策課題の一つとなることは明らかであり,必要な国土スペースの確保,観光レクリエーシヨン施設の整備について適切な施策をすることが必要である。
  これには,適確な計画の策定,土地利用計画民間企業の創意と資金の活用等総合的な施策が必要とされるので,官民一体となつてこの問題に当ることが不可欠であろう。

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