第1章 海運の現況

  45年のわが国経済は,年前半は44年に引き続き大幅な拡大基調をたどり,10月以降鎮静化の傾向がみられたものの年間を通じれば実質11%の成長率を示した。このような経済活動の拡大を反映して,わが国の貿易量は,44年に引き続き増勢を堅持し,輸出4,004万トン,輸入4億6,783万トン,合計5億787万トンとなり,貿易収支も39億6,300万ドルの黒字を記録した。
  わが国海運は,45年6月末現在で2,700万総トンをこえる船腹を保有し,リベリアに次いで世界第2位を占めている。邦船の輸送量は,外国用船を含めてそれぞれ定期船2,320万トン,不定期船1億6,856万トン,油送船1億5,219万トンであつたが,貿易量の大幅な伸びに比べて外航船腹量の伸びが相対的に下回つたため,邦船積取比率は輸出で0.2ポイント,輸入で35ポイント,44年より低下した。また,海運関係国際収支は,差引10億9,500万ドルの赤字となり,44年より2億1,100万ドル赤字幅が拡大した。
  今後の貿易の拡大に対応し,物資の安定した輸送を確保するため,新経済社会発展計画の策定に応じ,45年11月に新海運政策を改定し,44年度から49年度まで6年間の外航船舶の建造量を2,050万総トンから2,800万総トンに改め,このうち1,950万総トンを計画造船により建造することとなつた。
  しかしながら,わが国海運にとつて解決を迫られている課題も山積している。44年の暮から高騰を続けていた国際運賃市況も46年に入つてから軟化を続けており,また船価の急騰,諸経費の上昇の傾向は顕著なものがある。そのため,45年度において好調を続けた海運企業の収支も先行き楽観を許さないものとなり,コンテナ船の投入をはじめ大量の船腹の建造を続けて行かなければならないわが国外航海運にとつて,環境はますます厳しくなろうとしている。そのほか,発展途上国の自国船優先政策の拡大等の国際海運問題があり,さらに港湾施設の整備,船員の確保,船舶の安全の確保等の問題もある。
  わが国海運がこのような海運に関する諸問題を解決し,国民経済に占める重要な使命を達成していくためには,関係者の一層の努力が期待される。
  つぎに,国内の海運についてみると,内航貨物輸送は,輸送トンキロにおいて4割強の効率を占めて国内貨物輸送の中で重要な役割を果たしているが,45年度は10%を下回る伸びにとどまつた。これは,44年度後半からの景気後退による鉄鋼減産の影響により内航輸送に大きなウエイトを占める鉄鋼の輸送量がほぼ横ばいにとどまつたことによるものであり,一般貨物船の分野では不況感を強めている。
  内航海運は,従来から船舶の大型化,自動化,専用船化等の近代化を進め,輸送効率の向上に努めてきたが,わが国経済における重要な使命を果たしていくためには,今後さらに近代化を進めるとともに企業体質の強化を図つていく必要がある。
  なお,標準運賃は,41年5月以来すえ置かれていたが,46年5月,航路,貨物により最低3%,最高10%の改訂を行なつた。
  また,近年におけるカーフエリー事業の発展はめざましいものがあり,46年4月現在では163航路において332隻,21万総トンのフエリーが就航するに至つている。とくに,航路距離300km以上の長距離フエリーは,すでに8航路,5,400kmが開設しているほか,10航路が開設準備中である。このような長距離フエリーは新しい海陸一貫輸送システムとして流通の近代化に大きく貢献するものであり,今後総合交通体系の一環として合理的な航路網を形成するとともに,運送責任,運賃等の制度面の検討を進めることが心要とされる。