第4章 造船をめぐる今後の課題

  ここのところ好調に推移しているわが国造船業にも,今後いつそうの発展を遂げるうえには,まだいくつかの課題が解決を待つている。
  まず当面の課題としては,輸銀融資対象の輸出船建造量を,45年11月に決定されたトン数の目途以内に収めるための建造量調整問題がある。わが国造船業は,戦後一貫した輸出振興策の中にあつて,延払いによる輸出船の建造資金の大半を仰ぐ日本輸出入銀行を通じ,ほとんど希望どおりの財政融資を認められていたので,このような建造量調整ははじめての経験であり,これは今後の輸つ出船受注活動や建造資金調達方法等に一つの転機をもたらすこととなろう。
  また,46年8月15日に発表された米国の「緊急経済対策」の余波を受けてわが国も8月28日から変動為替相場制へ移行した。
  これにより,総額3兆円の対外債権のうち約2兆円にのぼる外貨建債権を保有するわが国造船業は大きな影響を受けることとなつた。
  さらに今後の国内経済盾勢の動向がわが国国内船の建造需要に与える影響および円相場の上昇がわが国造船業の国際競争力に与える影響についても大いに注目を要するところである。
  つぎにわが国船腹量の急激な増大に伴い,船舶修繕需要が大きく伸びつつあるが,船舶修繕事業は,投資効率が低いこと等のため,施設整備が伸び悩んでおり,その相対的不足が次第に深刻化しつつある。このままでいけば,海上輸送に従事する船舶の円滑な運航に支障を生ずることになる。これは,長期,低利の整備資金の確保はもちろん,受注,経営形態のあり方および船舶自体のメインテナンス・システムのあり方など修繕体制全体の問題として解決を図つて行くべき課題である。
  一方,船舶の建造には,広範な技術の集積が必要とされるが,現在でも,主機関,航海計器,甲板機械,機関室補機などの製造技術には,外国企業との提携技術にまつものが多い。最近は,資本および技術導入の自由化の結果,技術料の支払いに加えて資本の進出を要求される場合も多く,今後,このような情勢に積極的に対処しながら,造船業の要請に応えて優秀な製品を生産していくためには,中小造船および造船関連工業の基盤の強化を図るとともに,自主技術の開発力を養成し,さらに企業の国際化を図るための海外アフター・サービス網の整備がいつそう必要となろう。
  わが国造船業は以上のべたようなみずからの発展のうえに課された課題のほかに,わが国経済社会全般の健全な発展に果たすべき大きな役割をいくつか担つている。
  現在わが国は,地域開発の促進を大きな課題としており,造船業は関連産業の吸引力に優れているうえに,製品の消費地に関する制約がいつさいないことや,公害が少ないことなどから,各地域においてその進出を望む声が強い。この面において造船業は大きな役割が期待されている。
  また,わが国に対する発展途上国の経済技術協力要請は近年とみに強くなつており,とくに東南アジアを中心とする諸国から,造船業に対する協力の要請が相ついでいる。いまや名実ともに世界の王座にある産業として,造船業はこれに積極的にこたえて行く必要があろう。


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