2 交通公害の防止対策


  交通公害の防止対策として,排出ガス,騒音,廃油等についての個別の発生源に対する規制,交通量そのものを抑えることによって公害を減少させるための規制,排出された汚染物質の除去,公害発生源と人間の生活環境の隔離,公害に関するデータの収集,公害防止のための研究開発,公害発生を最少にする低公害交通機関の開発,環境アセスメントの推進などが進められている。最近3か年の運輸省の公害防止対策予算は, 〔2−4−7表〕のとおりで49年度の予算額は前年度比23%増となっている。

(1) 自動車公害の防止対策

 ア 排出ガス対策

      自動車排出ガス対策としては,45年7月に運輸技術審議会より答申のあった「自動車排出ガス対策基本計画」に従って,48年及び50年を目標として有害排出ガス低減に努めてきたが,光化学スモッグによる被害の急増にかんがみ,47年8月「光化学スモッグに対する自動車排出ガス対策について」の計画を策定した。また,47年10月,中央公害対策審議会から50年,51年における排出ガスの規制強化の答申を受け,これら答申等に基づいて,現在各種の対策を積極的に推進している。
      自動車排出ガス規制としては,41年9月からガソリン車の新車に対し,一酸化炭素の濃度規制を世界に先がけて開始するとともに,45年8月からは使用過程車に対して車検の際,アイドリング時の一酸化炭素濃度規制を実施し,これに関する点検整備を義務付けた。
      47年7月からは,ディーゼル車の新車に対し,黒煙の規制を始め,48年4月からは,ガソリン車又はLPG車の新車に対して,炭化水素及び窒素酸化物の排出を新たに規制し,また,48年5月には,光化学スモッグ発生防止対策の一環として,使用過程車に対して排出ガス減少装置の取付けを義務づけた。更に,自動車の使用過程において,有害排出ガス量が増加することにかんがみ,自動車使用者に対し適切な点検整備を実施させること等により,新車時の排出ガスレベルを維持させることを目的とした「49年規制」を実施することとした。これは,後述の「50年規制」の対象とならないディーゼル車の排出ガス規制も含むもので,車検時にガソリン車,LPG車の炭化水素,ディーゼル車の黒煙について検査による規制を行うとともに,新車のディーゼル車の窒素酸化物,炭化水素,一酸化炭素の規制を図ろうとするものである。
      自動車排出ガス規制として画期的ないわゆる「50年規制」は,49年1月の道路運送車両の保安基準の改正により,乗用車についてみると48年規制値に比し,一酸化炭素89%,炭化水素91%及び窒素酸化物45%の低減を図り,また,軽量バス・トラックについても一酸化炭素29%,炭化水素28%及び窒素酸化物17%の低減を図るものである。
      これら規制を強化する一方,48年度を初年度とする5か年計画により官民合同による都市交通用低公害車の研究開発を進めている。

 イ 騒音対策

      自動車の騒音については,45年12月にISO(国際標準化機構)の国際基準をとり入れた道路運送車両の保安基準の改正を行い,従来の定常走行時の騒音規制基準に加えて,新たに加速騒音についての規制基準を設けるなど規制の強化を図っている。なお,運輸省交通安全公害研究所において,騒音源の発生防止に関する研究等を行っており,その研究成果に基づき規制の強化を図ることとしている。

(2) 新幹線鉄道公害の防止対策

  新幹線の騒音防止については,47年12月,環境庁長官勧告「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道騒音対策について」を受け,運輸大臣の指示により国鉄は,音源対策として防音壁の設置,鉄けたに対する防音工の施工等を積極的に実施している。更に音源対策のみでは85ホン(A)まで下げることが困難な無道床鉄けた橋りょう周辺の住居等に対し家屋防音工事,移転補償を行うほか,学校病院等特に静穏を必要とする施設が70ホン(A)以上の地域にある場合,家屋防音工事等を行うこととした「新幹線鉄道騒音に係る障害防止処理要綱」をまとめ,49年6月から実施している。なお,振動対策については,同要綱において,軟弱地盤地域における振動の著しい地域に対し,これを考慮するものとしている。

(3) 航空機騒音の防止対策

  飛行場周辺の生活環境の保全を図るため,航空機騒音対策の総合的な目標となる「航空機騒音に係る環境基準」が,中央公害対策審議会の答申を得て48年12月に設定された。その基準値は,専ら住居の用に供される地域にあっては,WECPNL(加重等価平均騒音レベル)70以下,また,それ以外の地域で,通常の生活を保全する必要がある地域はWECPNL75以下としている。
  今後は,これを目標として航空機が社会・経済活動上果たす役割等を勘案しつつ,音源対策,飛行場周辺の土地利用の適正化等の施策が進められることとなっている。
  一方,空港周辺における航空機騒音による障害の防止・軽減のための諸対策は,42年8月に制定された「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」に基づき実施してきた。
  48年度においては,前年度比90%増の予算総額110億円をもって同法の特定飛行場として指定されている東京国際,大阪国際,福岡及び鹿児島(48年度新たに指定)の各空港周辺において,住宅等の移転補償,学校・病院等公共施設の防音工事の助成及び共同利用施設の整備等の施策を実施した。なお,49年度は新たに,函館,仙台,松山及び宮崎の4空港を特定飛行場として指定した。
  また,49年3月,同法を改正することにより,特定飛行場の設置者は,民家の防音工事の助成を行うほか,地方公共団体と協力して周辺地域の土地利用の適正化を図ることとした。更に,大規模・計画的に空港周辺の整備・再開発を実施していく必要のある空港を「周辺整備空港」に指定し,必要に応じて「空港周辺整備機構」を設立することにより,関係都道府県知事の策定する空港周辺整備計画の実施,国の移転補償事務の代行等を行わせることとした。
  これらの施策とともに,航空機騒音による影響の著しい大阪国際空港においては,47年4月から郵便機を除き,午後10時から翌朝7時までの間,航空機の離着陸を全面的に禁止した。なお,郵便機も49年3月から,同時間帯の離発着を取り止めている。また,東京国際空港においても,午後11時から翌朝6時までの間,ジェット機の発着を原則として禁止するものとし,やむを得ず遅延した国際線の到着便は原則として海上経由で行わせることとした。
  騒音対策の重要な柱の一つである発生源対策としては,1969年にICAO(国際民間航空機関)においてとりまとめられた「航空機騒音証明制度」を我が国においても国内法化すべく航空法改正案を第71国会に再上程したが,現在継続審議となっている。
  なお,この制度における基準に適合するような低騒音大型機の導入,現有機エンジンの改良,騒音の軽減に資する運転方式の開発等,発生源対策についても,鋭意推進中である。

(4) 海洋汚染の防止対策

  海洋汚染防止のための規制の中心となっているのは海洋汚染防止法であるが,最近においては,次のような規制の強化が行われた。
  燃えがら,汚でい並びに廃酸,廃アルカリ,動物のふん尿を海洋投入処分できる海域が制限され(49年1月),輸送活動等の船舶の通常活動により生ずる「木くず」及び最大とう載人員100人以上の船舶において生ずる「ふん尿」の海洋投入処分に関する規制が全面適用されることとなった(49年6月)。
  更に,48年7月の海洋汚染防止法の一部改正で取り入れられた排出油防除資材の備え付け義務に関する具体的基準が定められ,排出油の防除体制が一層整備されることとなった(49年7月)。
  運輸省では,このように海洋汚染防止のための規制を整備・強化する一方,港湾における廃油処理施設,廃棄物処理施設の整備や船舶におけるビルジ排出防止装置,廃油焼却炉,汚物処理装置の整備を促進するとともに,既に汚染されている海域については,しゅんせつ等の汚染防除事業を実施しているほか,49年度からは,一般海域清掃事業を実施することとし,このための清掃船及び油回収船を48年度において建造した。
  一方,海上保安庁では,海洋汚染の監視と取締りを積極的に実施するとともに,監視・取締体制の強化に努めており,49年4月には,第3,4,5,6及び7管区海上保安本部に設置していた「海上公害監視センター」を「海上公害課」に改組した。このほか,監視・取締要員の充実・強化を図るとともに,油排出夜間監視装置,ヘリコプター等の資器材の増強に努めている。
  更に,海上保安庁,気象庁においては,それぞれ日本周辺海域,西太平洋海域で海洋汚染の調査を実施している。
  また,48年11月に,IMCOにおいて,「1973年の船舶からの汚染の防止のための国際条約」が採択された。本条約は,本文と5つの付属書から成っている。
  本文 適用範囲等の一般的規定
  付属書I 石油に対する規制
   〃II ばら積有害物質に対する規制
   〃III 包装,コンテナ等により運送される有害物質に対する規制
   〃IV 船舶汚水に対する規制
   〃V 船舶からの廃棄物に対する規制
  現在国際的に発効している「1954年の油による海水の汚濁の防止のための国際条約」と比較すると,本条約は,油に対する規制の強化,有害物質等への規制の拡大,船舶の構造・設備に対する規制の強化等を図っている。海洋汚染の防止の一層の進展を図るためには,これを早期に国内法にとり入れる必要があり,現在,その準備作業を進めている。

(5) その他

  交通公害対策としては,以上のような個々の対策とともに,次のような施策を推進する必要がある。

 ア 環境アセスメントの開発

      交通施設等の整備により,環境に影響を及ぼすおそれのあるものについて,環境への影響を事前に評価する必要がある。政府は47年6月「各種公共事業に係る環境保全対策について」の閣議了解に基づき,いわゆる環境アセスメントを推進することとしている。しかしながら,このような環境への影響を事前に評価するための手法はまだ十分開発されていないため,運輸省においても交通機関の環境アセスメント手法開発について,48年度,基礎調査を行い,基本的な考え方について検討するとともに,49年度は空港,港湾等についてケーススタディ等を行うこととしている。

 イ 公害に関する利害の調整

      交通施設の整備に際し,近年特に公害に関する利害の調整が問題になっている。即ち,公害発生源に関し責任を有するものについては,原則としてその公害に関する費用を負担させるという,いわゆるPP原則の適用の問題,土地取得の制限等を内容とする土地利用の適正化の問題,更には,公害防止費用に関する原因者負担の問題等がある。原因者負担については,48年7月に改正された港湾法において,環境整備負担金制度が導入され,また,土地利用の適正化については,49年3月に改正された航空機騒音防止法において空港周辺整備計画を実施していくこととしている。

 ウ 公害防止に関する研究開発の推進

      公害防止に関する研究開発については,各輸送機関にわたって公害防止機器の開発等が積極的に促進されているほか,輸送機関そのものの低公害化についても,都市用低公害自動車や機械的接触のない浮上方式による低公害鉄道等の研究開発が進められている。

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