2 地域別普及率の変化とその背景


  過去10年間における自家用乗用車の保有台数の伸びを人口及び世帯数と比較してみると,40年度末には47人に1台であったものが,50年度末には6.5人に1台となっている 〔2−3−6表〕。世帯普及率は40年度末には10%に満たなかったが,50年度末には50.5%どなり,2軒に1台の割合で自家用乗用車が普及している。なお,トラックのうちバン型自家用小型貨物車は,50年6月末現在,全国で282万台あるが,その9割近くを占めると推定されるライトバンは,自家用乗用車的に使用される面もあり,これを含めてみると普及率はさらに数パーセント上昇する。
  次に,自家用乗用車の増加状況を地域別にみると,四大都市圏( 〔2−3−6表〕脚注参照)ではこの10年間に5.9倍の伸びであったのに対し,その他の地域ではほぼその倍にあたる11.5倍という著しい伸びを示している。

  さらに都道府県別の世帯普及率の変化をみると 〔2−3−7図〕のとおりである。40年度末において,普及率が10%以上に達していたのは,15.6%の愛知県を筆頭に東京,静岡,神奈川,京都,群馬及び大阪の7都府県にすぎなかったが,50年度末には82.6%の群馬県を筆頭に全体の7割にあたる33道県が普及率50%以上となっており,最低の東京都でも35.3%であるなど,普及率の急速な上昇がみられる。また,40年度末と50年度末の都道府県別普及率の高低の分布を比較するとかなりの変化がみられる。すなわち,東京都が,この10年間の保有台数の伸び率が3.3倍と全都道府県中最低であったため,その普及率は第2位から最下位に転落したのを始め,40年度末に高普及率を誇っていた大都市圏は,中京圏を例外として,いずれも相対的低普及地域に変貌し,かわりに関東北部,中部及び北陸という我が国の中央部が一大高普及地域を形成している。なお,ライトバンも含めて普及率の分布をみると,上記地域に加えて東北及び山陰も高普及地域として浮び上がってくる。いずれにしても,モータリゼイションは,実は,大都市よりもその他の地域において急速に進行していたことを示している。また,49年度から50年度にかけての地域別増加率を眺めてみると,東北,九州,北海道等が平均を上回っており,今後これらの地域の普及率が向上してくることが予想される。

  さらに,都市規模別の普及率を45年と50年で比較してみると,45年時点では各都市規模ともに同水準の普及率を示していたが,50年になると大都市が最も低く,概ね都市規模が小さくなるにつれて普及率が上昇し,町村部が最も高くなっており,自家用乗用車の普及が,地方の,しかも町村部において先行していることがわかる 〔2−3−8図〕。地方における自家用乗用車の急速な普及は,地方社会におけるモビリティを高め,豊かな社会への指向の有力な手段となっているが,一方で老人,年少者,主婦等の車を持たない人,車を運転しない人などが生活圏の広域化によるモビリティの必要性に直面しており,その解決が問題となってきている。

  このような普及率の地域分布に変化を惹起した要因を探ってみると,まず,世帯職業別にみるとこれまで乗用車の普及率の上昇をリードしてきたのは,商工業,サービス業等の産業世帯であったが,40年代後半には,これに加えて農業世帯,勤労世帯への普及が急速に進んでいる 〔2−3−9図〕。特に農業世帯の普及率の上昇は著しい。このような普及率の上昇は, 〔2−3−10表〕にみられるような所得の増加によるものである。40年代に進行した農業の兼業化は,農業世帯の所得の向上及び乗用車使用の必要性の増大の両面において,農業世帯の普及率の急速な上昇に寄与している。なお,普及率の高低に影響を及ぼす要因として,産業別人口構成,公共輸送機関の発達状況,道路の整備状況等とともに1人当り県民所得の多寡があり,実際に両者の間にはある程度相関関係が認められるが,所得水準の全般的な向上により,その影響度は小さくなってきている。

  次に,道路整備,架橋等の施設面の整備状況をみると,急速な道路関係投資の結果,40年度以降の10年間に舗装道路延長は,4.6倍と増加し,舗装率は31.6%に上昇している 〔2−3−11表〕

  これを四大都市圏とその他の地域にわけて比較すると,舗装率は前者が未だ優っているが,その他の地域の道路整備が急速に進み,かなり差が縮まってきており,また,40年代においては,架橋も積極的に進められて,地方における交通条件の改善が著しい。さらに,40年代にはカーフェリーが急速に発達し,51年4月現在,全国に旅客フェリーが227航路(40年8月現在70航路)あり,しかも,これらの航路の七割以上は,九州,中国及び四国地域に係るものであり,橋代り又は海上バイパスとして地方交通に役立っている。
  一方,大都市圏において自家用乗用車の伸びが相対的に低かった原因として,大都市における道路交通環境の悪化及び公共輸送機関の発達がある。自動車保有台数の急速な増加は道路交通の混雑を激化させ,道路空間の効率的使用を阻害しており,自動車の運行効率にも大きな影響を与えている。また,40年代後半になると,地価の高騰により車庫の確保が一層困難となり,さらに,大都市において逐次駐車規制が強化され,東京を例にとると環状7号線の内側が全面駐車禁止区域となるなど,車庫,駐車面からの制約が増大している。加えて,大都市においては,公共輸送機関が発達しており,特に地下鉄等の効率的大量公共輸送機関による輸送網が形成されてきていることもその要因として大きいことは言うまでもない。


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