3 輸送機関別エネルギー効率


  輸送機関ごとにその輸送単位(人キロ,トンキロ)当りの運行エネルギー消費量を見たものが 〔2−1−23表〕であり,鉄道を1とした場合にバスは1.5,乗用車8.3(自家用乗用車8.0),航空機7.6(以上,旅客),トラック6.4,船舶1.2(以上,貨物)となっており,全体的にみれば,旅客輸送では鉄道・バスの大量輸送機関が,貨物輸送では鉄道,船舶がエネルギー効率の良い輸送機関であると言える。

  輸送機関ごとの輸送単位当りの運行エネルギー消費量の推移を見ると 〔2−1−24図〕,旅客輸送については,全体としてエネルギー効率が悪くなってきている。個別には,鉄道,バスの大量輸送機関が高エネルギー効率で推移しており,航空機は輸送量の増大に伴い機材の大型化によるエネルギー効率改善の方向が見られる。乗用車のエネルギー効率は,45年度以降でみてみると悪化基調にある。貨物も,旅客と同様全体としてエネルギー効率は悪化傾向にある。個別に見ると,鉄道,船舶のエネルギー効率がすぐれているものの,営業用トラックとの効率の差は,旅客輸送における鉄道,バスと乗用車との差ほどは大きくなく,むしろ,自家用トラックと鉄道,船舶,営業用トラックとの効率の差が大きい。しかも,自家用トラックのエネルギー効率は,53年度やや改善の方向に向かったものの,基調として悪化の方向にあると言える。

   〔2−1−25表〕は貨物自動車の地域別,車種別のエネルギー効率を示したものであるが,貨物自動車では地域別よりも車種別の違いによる効率の差が大きく,営業用,自家用とも小型車よりも積載能力の大きい普通車のほうがエネルギー効率が良くなっており,貨物自動車については車両の大型化はエネルギー効率向上の見地からは好ましい方同と言えよう。大型化によるエネルギー効率の向上は,タンカー 〔2−1−26図〕,航空機 〔2−1−27図〕についても言えることであり,これらについては交通技術の発達による大型化は省エネルギーの面からみて有効であったと言えよう。

   〔2−1−28表〕は,輸送機関ごとに,ロードファクター(乗車密度又は積載効率)が100%の場合の単位輸送量当りのエネルギー消費量をみたものである。この場合でも,実際のエネルギー効率を比較した場合と同様陸上輸送機関では,鉄道,バス等の公共輸送機関のエネルギー効率が良いという結果になっている。潜在的には,まだまだ鉄道,バス等の公共輸送機関利用により省エネルギーを図る余地が残されている。

  次に,運輸部門における省エネルギーを検討する場合に考慮しておかなければならないのは,輸送機関を運行するのに,エネルギーは直接運行に消費されるガソリン,軽油といった車両等の運行用の動力ばかりではなく,道路,港湾といった基盤施設や自動車,航空機といった運搬用具の建設,製造,維持,修繕等に要するエネルギーが必要であるということである。 〔2−1−29図〕は,輸送機関の運行に直接・間接に要するエネルギー消費量の分担率と輸送量の分担率の関係をみたものである。ここでの運行に直接・間接に要するエネルギーは,前述の運行エネルギーとは異なり,直接運行に消費するエネルギーだけではなく,運行に必要とする物資(基盤施設や運搬用具は含まない。),例えば駅員の制服を製造するのに必要な間接エネルギーをも含んだものであるが,ここにおいても自家用自動車部門のエネルギー効率が悪いことがあらわれている。

   〔2−1−30図〕は,昭和50年産業連関表をもとに,輸送部門における運行,基盤施設,運搬用具に投入されたエネルギー量を算出したものである。規模として自動車輸送関連に消費されるエネルギー消費量の大きさがうかがえる。ただ運搬用具,基盤施設については,その年につくられたものがその年のみに消費されるものではないことは言うまでもない。

  次に輸送機関のエネルギー効率については,輸送機関相互の連けいということを考えておかなければならない。鉄道は,鉄道駅までのアクセスにバス等が使用されており,アクセス交通に必要とするエネルギー消費量を考えておく必要があり,更には目的地まで直通する路線がない場合に迂回するために必要とするエネルギー消費量を考えておく必要がある。例えば,都市間交通の場合,両端の都市内にターミナルへ連絡する公共輸送機関が存在せず,従って人々は全面的に自家用乗用車に依存せざるを得ないような場合には,たとえ都市間鉄道を利用したとしても,自家用乗用車をアクセスに利用している以上,全体としてはエネルギー効率が悪くなることがあり,また都市内交通において目的地へ行くのに直通する鉄道,バスがなく一部自家用乗用車を利用せざるを得ない場合に,全体としてはエネルギー効率が悪くなることがある。都市交通においては,公共輸送機関のきめ細かな整備が必要とされるゆえんである。
  輸送機関のエネルギー効率を考える場合には,単純に全国一律の平均値の効率を考えるのではなく,地域の特性,輸送機関の特性を考慮に入れる必要がある。更には中・長期的に考えた場合には,新しい輸送機関への転換に必要とするエネルギー消費量も考えておく必要がある。
  ここで,アメリカ議会二予算局が上院・環境公共事業委員会に提出した「都市交通とエネルギー」という報告書をみてみる。
  この報告書は,アメリカにおける現実の大都市交通の実態の中から得られる多くの平均的数値を基礎として,従来一般に用いられている輸送機関運行用エネルギーにとどまらず,より広範な要素について検討を行い,各種の交通モードの比較を行ったものである。この報告書で用いられた手法を可能な限り採用して日本の都市交通の実情分析を試み,日米比較を行った 〔2−1−31表〕

  ドア・ツー・ドアの輸送単位当りのエネルギー消費量について自家用乗用車,バスをみると,アメリカ値が日本の1.8倍と多くなっているが,これは主に車両重量速度の相違によるものと考えられる。
 ドアー・ツー・ドアエネルギーの比較
  同じく鉄道についてみると,アメリカ値が日本の13倍と大きな差を生じているが,その理由としては次のようなものが考えられる。
 @ アメリカの車両運行エネルギー消費率が日本に比べ3倍も高い。
 A 日本は車両走行キロが大きく,設備の利用度が高い。
 B アメリカは鉄道へのアクセスとして自家用乗用車の占めるウエイトが70%と高く,鉄道利用のための迂回率が30%増となっているのに比べ,日本の場合はいずれもごく僅かである。
 C 平均乗車人員が,日本は米国の4倍である。
  この結果,アメリカの場合のエネルギー消費率(kcal/人キロ)は,電車:バス:自家用乗用車=100:50:160となり,バスのほうが鉄道より省エネルギーであるという結論になるのに対し,日本の場合は,電車:バス:自家用乗用車=100:330:1,110という結果となり,ドアー・ツー・ドアーの総合輸送エネルギーでみても,鉄道が省エネルギー性において最も優位にあり,続いてバスが優位にあるという従来の評価と何ら変らないという結果となった。上記の結果は平均的数値を使用しているので,もちろん,この種の事象の場合は,結果の数値にある程度の幅をもって考える必要があるが,このような点を配慮しても,鉄道のエネルギー効率面における優位性をくつがえすまでにはいたらないと判断できる。
  なお,日本における都市交通に比較的多い鉄道とバスの両者を利用するパターンもエネルギー効率の良い交通モードであると言い得る。


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