1 運賃決定の基本的な考え方


  運賃決定に当たってはいくつかの考え方がありうる。そのひとつとして,運賃を適正なコストを離れて政策的に定めることにより,輸送機関間の利用の調整を図り,望ましい分担関係の形成を図るべきであるとの考え方である。しかし,この考え方には,@そもそもどういう分担関係が最も望ましいかという考えが利用者各人によって異なるため,望ましい分担関係そのものを前もって決定することが困難であること,A運賃がコストと離れて設定されるため,相対的に非効率な輸送機関を温存してしまうおそれがあること,B利用者の間に負担の不公平が生じること等の問題がある。
  したがって,運賃は,原則として,能率的な経営の下で輸送サービスを提供するのに要する適正なコストに基づき決定することが望ましい。それによって,サービスの質と価格に応じた各輸送機瞬間の競争と利用者の自由な選択が行われることとなり,これを通じて,利用者のニーズに適合した効率的な輸送機関間の分担関係の形成が図られるからである。
  この考え方は,「はじめに」で述べた,各輸送機関間の競争と利用者の自由な選好を原則として望ましい交通体系の形成を図る考え方と軌を一にするものである。しかし,大都市や過疎地域等における交通の分野では,制約条件に対応して効率性を確保する見地又は社会的公正を確保する見地から種々の政策措置がとられることがあり,その手段として補助が行われることがある。補助は,輸送サービスの提供に要するコストを運賃の形で利用者が負担することが困難な場合で,かつ,その輸送サービスを確保することが必要なときに,その輸送サービスの提供を可能にするために必要な限度で行われるものである。地下鉄や地方バス路線等に対する補助は,このような観点から行われているものである。
  以上のように,適正なコストに基づいて運賃を決定するという考え方を原則とするとすれば,何らかの原因でコストが上昇し,企業内の合理化によってもこれを吸収しきれないときには,適時適切に運賃を改定することが望ましい。


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