1 交通公害対策の推進


(1) 自動車排出ガス,騒音等

 ア 自動車排出ガス対策

      (第2段階の規制が完了した自動車排出ガス対策)
      自動車排出ガス規制については,大気汚染防止法に基づき自動車排出ガスの量の許容限度が定められ,これを受けて道路運送車両法において,自動車構造装置の面から道路運送車両の保安基準により一酸化炭素,炭化水素及び窒素酸化物の3物質並びに黒煙(ディーゼル車)について規制を実施している。
      新車に対する排出ガス規制は,ガソリン乗用車については,53年度規制により3物質について未規制時の排出量に比べ,それぞれ90%以上削減された。また,バス,トラック及びディーゼル車についても昭和52年12月の中央公害対策審議会答申を踏まえ,窒素酸化物について第1段階の54年規制に引き続き第2段階の規制として軽・中量ガソリン車(車両総重量2.5トン以下)に対する56年規制,重量ガソリン車(車両総重量2.5トン超),軽自動車及び副室式ディーゼル車に対する57年規制及び直接噴射式ディーゼル車に対する58年規制をそれぞれ実施している。これにより,第2段階の規制はすべての車種について完了することとなった。なお近年,ディーゼル乗用車の増加が目立ってきていること等から,今後はディーゼル乗用車について一層の技術開発の促進を図り,現行の濃度規制(ppm)から重量規制(g/km)への移行を含め,できるだけ早期に規制強化を行うこととしている。
      一方,使用過程車については,ガソリン車に対してアイドリング時における一酸化炭素及び炭化水素の濃度規制を,ディーゼル車に対して無負荷急加速時における黒煙の濃度規制を実施しているが,今後とも使用過程における排出ガスの低減を図るため,検査体制の充実,定期点検整備の徹底等に努めていくこととしている。また,50年度以降の新車の排出ガス規制に対応した自動車(低公害車)については,現行の使用過程車規制を見直すべく検討を進めることとしている。

 イ 自動車騒音対策

      (第2段階の規制が進む自動車騒音対策)
      46年5月に設定された「騒音に係る環境基準」の達成を目標とし自動車公害防止のための各種の対策が進められているが,自動車本体から発生する自動車騒音の規制については,騒音規制法に基づき自動車騒音の大きさの許容限度が定められ,これを受けて道路運送車両法において,自動車構造装置の面から道路運送車両の保安基準により定常走行騒音,排気騒音及び加速走行騒音について規制を実施している。
      新車については,51年6月の中央公害対策審議会の答申を踏まえ,加速走行騒音について,第1段階の54年規制に引き続き,第2段階の規制として乗用車に対する57年規制,中型トラック・バスに対する58年規制をそれぞれ実施している。また,大型バス,小型トラック・バス(全輪駆動車を除く。)及び第1種原動機付自転車については59年規制,大型トラック(全輪駆動車,トラクタ及びクレーン車を除く。),小型トラック・バス(全輪駆動車)及び軽二輪自動車については60年規制をそれぞれ実施することとしている。さらに,残された車種について,今後とも技術開発を促進し,第2段階の規制の早期実施を図ることとしている。
      一方,使用過程車については,定常走行騒音及び排気騒音の規制を実施しているが,整備不良又は不正改造による騒音の増大を防止するため,今後とも自動車使用者に対する指導に努めるとともに,騒音測定法の見直し等,より合理的な規制について検討を進めることとしている。

 ウ その他の対策

      (検討進むスパイクタイヤ公害対策)
      近年,積雪寒冷地域におけるスパイクタイヤ使用による道路粉じんの増加等のいわゆるスパイクタイヤ公害が問題となっている。運輸省においては58年度スパイクタイヤ等対策調査費を予算計上し,スパイクタイヤ等について公害の防止と安全走行の両面から各種の調査を実施し,自動車構造装置の面からその対策について検討を進めており,また,自動車使用者に対しても,不要期における普通タイヤへの取替えの促進等について指導を行っている。なお,スパイクタイヤ公害はその対策が多岐にわたることから,今後とも関係省庁と密接な連絡を取りつつ対策を講じていくこととしている。

(2) 新幹線鉄道の騒音・振動

  新幹線鉄道の騒音対策として,政府は,「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(50年7月環境庁告示)及びその円滑な達成に資するため「新幹線鉄道騒音対策要綱」(51年3月閣議了解)を策定し,運輸省はこれに基づき,音源対策,障害防止対策等の諸施策の推進について日本国有鉄道及び日本鉄道建設公団(以下「国鉄等」という。)を指導している。また,振動対策については,「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について」(51年8月環境庁長官勧告)の指針を達成するため,国鉄等に対し防振技術の開発及び騒音の障害防止対策と連携した振動障害防止対策の推進に努めるよう、指導している。
  国鉄等は,これらの指導に基づき,「騒音・振動対策に係る実施要領」及び「騒音・振動障害防止対策処理要綱」を策定し,音源・振動源対策を基本に対策を講じている。
  東海道・山陽新幹線については,防音壁の設置,鉄桁橋梁の防音工事のほかバラストマットの敷設,レールの波状摩耗,タイヤフラットの除去など軌道及び車両の保守管理の強化を図ってきている。
  また,東北・上越新幹線については,これまでの経験と研究の成果を踏まえ,逆L型防音壁の設置,パンタグラフ及び架線の改良等の対策を講じたほか,開業後においても防音壁への吸音材の取付け,レールの研磨等の音源対策を行っており,騒音はおおむね80ホン未満,また振動は70デシベル以下である。
  このような音源対策を講じても環境基準を達成することが困難と認められる区域に所在する建物については,障害防止対策を実施することとし,東海道・山陽新幹線において,騒音レベルが80ホン以上の区域に所在する住宅と70ホンを超える区域に所在する学校,病院等に対して防音工事あるいは建物の移転補償等を実施し,これらについてはおおむね完了しており,75ホンを超える区域の住宅については,57年度末までに約9,000戸に対し防音工事が講じられている。また,振動障害防止対策については,東海道・山陽新幹線において,57年度末までに移転を含めて約1,300戸が完了している。

(3) 航空機騒音

 ア 航空機騒音対策

      運輸省では,「航空機騒音に係る環境基準」(48年12月環境庁告示)の目標の達成を図るため,公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(以下「航空機騒音防止法」という。)等に基づき種々の環境対策に取り組んでおり,それらは発生源対策,空港構造の改良及び空港周辺対策に大別される。
      発生源対策としては,騒音基準適合証明制度の導入(50年10月)及び基準の強化(53年9月)により,改修の可能な現用航空機について低騒音化改修を義務付けるとともに,低騒音機材への代替を積極的に推進している。このほか,急上昇方式,ディレイドフラップ方式等の騒音軽減運航方式の推進及び運航時間帯,発着便数の規制等を実施しており,今後ともこれら発生源対策を強力に推進することとしている。
      空港構造の改良には,航空機の離着陸径路がなるべく人家密集地の上空にかからないように滑走路の方向,位置を設定すること,緩衝緑地を設置すること等がある。特に大分空港及び長崎空港は海上空港として建設され,騒音公害の生じない空港として画期的であるほか,現在着工準備調査費により調査中の関西国際空港及び東京国際空港の沖合展開計画にもこの考え方が反映されている。また,最近ではジェット化空港建設に際し,地方公共団体により周辺に騒音斉合の公共施設用地を確保するといった方法も採られている。
      空港周辺対策としては,航空機騒音防止法に基づき16の特定飛行場において,住宅,学校等の防音工事及び共同利用施設整備の助成,建物等の移転補償,緩衝緑地帯の整備等を行っている。特に民家防音工事については,全室防音工事を実施しているが,57年3月には助成対象区域について,基準値を加重等価平均感覚騒音レベル(WECPNL)80から75に変更して区域の見直しを行った。また,周辺地域が市街化されている大阪,福岡の両空港については,国及び関係地方公共団体の共同出資により設立された空港周辺整備機構が再開発整備,代替地造成及び共同住宅建設等の事業を行っている。
      さらに,特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法に基づき,新東京国際空港では,空港と一体的な調和のある地域環境を形成するための周辺土地利用について,57年11月千葉県知事により航空機騒音対策基本方針が決定され,これに基づいて航空機騒音障害防止地区及び航空機騒音障害防止特別地区に関する都市計画の策定作業が進められている。
      (始まった大阪国際空港周辺の一体的緑地整備)
      特に騒音問題の著しい大阪国際空港周辺においては,騒音による障害を防止するために推進している住宅等の移転補償の進捗に伴い,跡地が蚕食状に広がっていることから,これらの地域における街づくりが大きな課題となっている。このため運輸省は,52年に「大阪国際空港周辺整備計画調査委員会」を設け,将来の土地利用の方向及びその実現手法の検討を重ねてきたが,56年4月に同委員会により今後の取組み指針が取りまとめられたのを受けて,騒音激甚地区における対策の根幹となる緑地整備計画に関する調査を大阪府,兵庫県と共同で実施し,57年7月大阪府より都市計画手法を活用した緑地整備を柱とする周辺整備構想が提案された。この案に沿って検討を進めた結果,58年度予算では,同空港周辺の一体的緑地整備を図るために必要な予算が計上され,現在その具体化に向けて関係地方公共団体等との調整が進められている。

 イ 航空機騒音訴訟

      いわゆる航空機騒音訴訟は,44年以来現在までに,大阪国際空港及び福岡空港において合計7件が提起され,このうち46年までに提起された大阪1〜次訴訟については,56年12月最高裁判所大法廷において,過去の損害賠償については大阪高裁判決(1人当たり115万〜35万円)を認容し,一定時間帯の運航差止め及び将来の損害賠償については請求を却下する判決が出された。また,大阪4次・5次訴訟については現在大阪地方裁判所において和解の手続きが進められているほか,福岡1次・2次訴訟については福岡地方裁判所に係属中である。このほか,大阪国際空港については,1万3,000人の周辺住民からの損害賠償を求める調停申請が公害等調整委員会に係属中である。


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