3 国鉄の経営改善を推進する上での主要な課題


  国鉄の事業の再建については,国鉄再建監理委員会等において,国鉄の経営する事業の効率的な経営形態の確立,長期債務問題等について抜本的な検討が進められており,また,運輸省・国鉄において当面の緊急対策を着実に実施するための諸施策を講じている。
  今後,国鉄の経営改善を推進していく上で,課題となると考えられる主要項目についての現在までの経過と今後の取組みの方向は以下のとおりである。

(1) 職場規律の確立等

  (是正されつつある職場規律)
  国鉄における職場規律の問題は,国鉄再建の前提条件であり,57年9月の閣議決定(前述)においても職場規律の確立を図るべきであるとされている。
  56年より,臨時行政調査会を始めとする国鉄再建に関する論議の高まりを契機として,いわゆる悪慣行,ヤミ協定等の職場規律の乱れた実態が広範囲にわたり存在し,これが国鉄の正常な業務運営を著しく阻害しているとの指摘が相次ぎ,世論の厳しい批判を招いた。
  このような状況の中で,57年3月,運輸大臣は,国鉄に対して,職場規律全般にわたる総点検を実施すべきことを指示し,国鉄は直ちに総点検を行ったが,その結果,ヤミ休暇,突発休,下位職代務など職場規律の乱れが広範かつ多岐に存在する極めて深刻な事態となっていることが明らかとなった。このため,運輸大臣は国鉄に対し,その是正を図ることを指示した。
  その後,57年9月及び58年3月にそれぞれ,第2次及び第3次の総点検が実施されたが,その結果,@ヤミ休暇,ヤミ専従,勤務時間内の入浴等についてはすべて解消をみたこと。A休憩時間の増付与,各種の作業規制,作業手順の変更等かなりの項目について是正が進んでいること。Bリボン,ワッペンの着用は全国的に最も是正が遅れ,ビラ,看板類についても,かなりの箇所で残されていること。また,ブラ日勤,管理者の下位職代務,36協定(時間外労働についての協定)の遅れ調印については,総点検の時期等の諸事情があるにせよ,むしろ箇所数が増えていること。C57年12月の現場協議制改訂(動労,鉄労,全施労については当局案どおり妥結,国労,全動労については妥結に至っておらず無協約状態)後の業務運営の実態については,一部の箇所でいわゆる現場長交渉や現場協議まがいの場をもつことを余儀なくされたり,作業拒否などの事象がみられるものの大半の箇所では正常で円滑な業務運営が確保されていること等が報告された。
  この結果を踏まえ,今後の取組み方針としては,@現場と管理局等との信頼関係の強化を図り,本質的な是正と定着化に一層努力を図ること,A未是正項目の多くは,地域的,系統的に限定されつつあり,それだけに根深い要因があると考えられるので,改めて是正の時期,方法を明確化する等責任ある取組みをすることにより,速やかに是正を図ること,B現場協議制改訂後の業務運営については,現場と管理局が一体となった改善努力により,その定着化を図ること,C以上の基盤として,F職員に対する正しい事実認識の浸透,管理者への実践的教育の充実,信賞必罰の実行,定期的トレースの継続等に重点をおき根気強く取り組むこと。Cその際,幹部の一貫した陣頭指揮,管理局等による強力なバック・アップ,目標管理等による管理者の自覚的,主体的取組みの助長など本社,管理局等,現場一体となったより強固な推進体制であたること,Pまた,今後とも年2回程度の総点検を行い,職場規律の刷新とその定着を図ることとしている。

(2) 経営の重点化

  鉄道輸送は,総費用に占める固定費の比率が高いこと,専用軌道を有するため比較的スピードメリットが大きく,かつ,定時性,安定性が高いこと及び輸送力の設定の弾力性が小さいこと等から,大量かつ安定した輸送需要の発生する分野においてその特性を発揮することが可能である。国鉄が経営してきた分野の中では連鎖状に分布した主要都市相互間の旅客輸送,通勤通学輸送需要の大きい大都市圏の旅客輸送及び物資別専用輸送等の大量,定型貨物輸送がこれに相当する。我が国経済の安定成長への移行に伴う輸送の効率化の要請に応えつつ,今後とも鉄道が基幹的輸送機関としての機能を果たしていくためには,これらの分野を中心に経営を重点化していくことが適当である。

 ア 貨物輸送体制の転換

      (ヤード系輸送を全廃し,拠点間直行輸送体制へ)
      貨物輸送については,輸送量の減少傾向が続いており,57年度においても9,776万トンと,55年度以来3年連続して,対前年度10%程度の減少を示しており,過去最高の輸送量であった45年度に比較すると半減している。
      また,貨物部門の収支は,旅客・貨物両部門に共通する経費を除いた貨物部門に固有の経費をも償いえない状況が続いており,貨物輸送体制の転換による収支の改善は,国鉄の経営改善のための重要な課題となっている。国鉄の貨物輸送の中で,フレートライナー,物資別専用輸送等のいわゆる直行系の輸送は,輸送にたずさわる人員が少なくて済む上に,高速,かつ,定時輸送であること等輸送サービスの質が優れているため,輸送量はこの10年間ほぼ横ばいであるので固有経費において黒字であるが,一方,ヤード系輸送は,ヤード要員等人件費コスト等が大きいうえ,輸送時間の大部分がヤード等での中継作業に費やされており,また,途中ヤードでの継送を何回も繰り返しながら行われるため,輸送速度が遅く,かつ,到着日時は極めて不明確である等輸送サービスの質が劣るため,輸送量は47年度に比べて36%に激減しており,貨物部門の赤字の要因となっている 〔2−1−6図〕

      このような状況にかんがみ,これまで,経営改善計画で60年度までに実施することとしている800駅・100ヤード体制について,既に57年11月までに前倒しして実施したところであるが,今後,国鉄貨物輸送がその輸送特性を十分発揮するためには,非効率なヤード集結輸送を全廃し,拠点間直行輸送体制への輸送システムの全面転換を図ることが必要である。
      このため,運輸省は,58年1月国鉄に対しコンテナ輸送等拠点間直行輸送方式へ全面転換するための輸送計画,貨物駅の配置計画等の策定を指示し,これに基づき,国鉄においては,58年2月に拠点間直行輸送体制の確立,貨物駅の再配置,営業制度の改善,勤務体制等の見直し及び機関区等の再編成による業務運営の効率化を内容とする新たな合理化計画を策定し,現在,これの具体的な実施に努めている。
      こうした国鉄貨物輸送システムの転換は,関係事業者等の理解を求めつつ,着実に実施することが必要であるが,こうした施策の推進により60年度までに貨物固有経費で収支均衡を図ることとしている。

 イ 地方交通線対策

      (成果を挙げつつある地交線対策)
      国鉄が運営の改善のために適切な対策を講じたとしてもなお収支の均衡を確保することが困難な路線である地方交通線については,57年度において,駅の停留所化,業務委託,貨物取扱駅の集約等各種の合理化施策が講じられたにもかかわらず,特別交付金1,250億円の助成後においてもなお,4,073億円の損失を計上した。輸送量で全体の5%,収入で全体の8%(助成後)を占めるに過ぎないにもかかわらず,経費では14%,損失では31%を占めている地方交通線は,まさに国鉄経営の大きな負担となっている。このため,更に徹底した合理化努力を行うとともに,地方交通線の中でも輸送需要が極めて少なく,国民経済的にみても鉄道による輸送に代えてバス輸送を行うことが適切な路線であるいわゆる特定地方交通線については,バス輸送等への転換を図る必要がある 〔2−1−7図〕

      56年9月に再建法に基づく運輸大臣の承認がなされた第1次選定40線729.1キロについては,全線区において特定地方交通線対策協議会が開催されており,2線を除き,58年度末までに代替輸送の在り方を確定すべく鋭意協議を重ねているが,廃止予定時期までに代替輸送の確保に関し最善の結論を得て円滑に他の輸送機関への転換を実施していく必要がある。現在,このうち,白糠線については既に58年10月23日よりバス輸送に転換されているが,このほか,赤谷線,魚沼線がバス輸送に転換することでそれぞれ合意に達している。また,久慈,宮古及び盛の3線が59年4月より第三セクター(三陸鉄道株式会社)による地方鉄道として運営することで,合意されているが,このほか,神岡線,樽見線が第三セクターによる運営に転換することでそれぞれ合意に達している。
      また,国鉄は第2次特定地方交通線について33線2,171.1キロを選定し,57年11月運輸大臣に承認申請を行ったが,知事意見書の提出が遅れているため,未だ承認に至っておらず,これについても早急に承認を行い,引き続き速やかに対策協議会を開催し転換対策を推進していくことが,経営改善計画の達成のために不可欠である。
      ところで,これら以外の特定地方交通線を含む地方交通線についても,再建法において地方鉄道業を営もうとする者に貸付又は譲渡することができるよう定められており,私鉄への譲渡,第三セクター化,民営化等を積極的に進めていくとともに,引き続き国鉄が運営する地方交通線については,駅の停留所化,業務委託,貨物取扱駅の集約,輸送力の適正化等の徹底した合理化,業務運営の効率化を推進し,収支の改善に努めることが必要である。

 ウ 荷物輸送体制の転換等

      (幹線系を中心に荷物営業を重点化)
      国鉄の荷物輸送については,民間宅配便の著しい進出,利用者ニーズに即応した一貫輸送サービス体制の整備の遅れ等により,ここ数年大幅な減少傾向が続き,57年度の荷物輸送量は6,248万個で50年度に比べて半減しており,荷物部門の固有経費を償えない状況であり,このため,荷物輸送体制の転換による収支の改善は国鉄の経営改善の重要な課題となっている。
      今後の荷物営業体制については,大量定型輸送に特性を有する鉄道輸送機能を最大限に生かすことを主眼として,荷物需要の多い幹線系を中心に荷物営業を重点化することとし,当面,59年2月ダイヤ改正時にあわせ,荷物取扱個数の少ない駅及び線区の荷物営業の廃止,拠点間ロット輸送の深度化,輸送力の見直し等輸送の効率化,さらに,要員の合理化,業務運営の効率化等の合理化・近代化施策を講ずることとしている。
      (自動車部門も徹底的な合理化)
      また,国鉄は,収益性の低い自動車路線を多く抱えており,さらに近年,自家用車の増加,地方における過疎化の進行等もあって40年度をピークに輸送量は減少し,収支状況も悪化している。
      このため,貸切便等を除いて,60年度にワンマン化率100%化,閑散路線等の路線再編成,非現業の組織の簡素化と自動車営業所における管理間接要員の配置の見直し,業務の簡素化など徹底的な近代化,合理化施策を推進し,自動車部門固有の経費で,高速線については58年度に,また,全体については,地方バス欠損を除いて,60年度に,それぞれ収支均衡を図ることとしている。

(3) 経営の近代化,合理化

  (計画を大幅に上回った57年度要員縮減)
  国鉄の経費に占める人件費の比率は高いものとなっており,国鉄経営の改善のためには,経営の近代化,合理化による業務能率の向上を図り,要員縮減に努めることが緊要な課題である。
  57年度は11月のダイヤ改正に加え,営業体制の近代化に伴う駅の無人化,貨物駅集約,ヤードの統廃合,乗務員運用の見直し,検修・保線・電気等保守業務の改善,管理部門の簡素化,工場・医療機関等の近代化・統廃合等業務全般にわたり,徹底した合理化施策を強力に推進した結果,合計2万6,550人の要員合理化を行い,東北・上越新幹線開業に伴う1,650人の要員増があったものの要員縮減は2万4,900人となり,経営改善計画の年度計画1万4,300人を大幅に上回る結果となった。
  (58年度も引き続き徹底した合理化)
  58年度においても,引き続き徹底した経営の近代化,合理化が必要であり,58年4月24日,国鉄は春闘の有額回答を行うに際し運輸大臣に「経営改善の具体的推進について」を提出し,引き続き各般にわたる経営改善の推進を図る決意を表明したところであるが,要員規模について57年度を上回る要員縮減を実施し,これにより引き続き59年度も新規採用の原則停止を継続することとしている。合理化の主な施策としては,

  @ 次の内容を盛り込んだ58年度ダイヤ改正を行うこと。

      a 貨物営業について,拠点問直行輸送体制への全面転換を行い,ヤード系輸送を全廃する。
      b 荷物営業について,需要の多い幹線系を中心に営業を重点化し,輸送体制の改善及び業務運営体制など全般にわたる効率化を実施する。
      c 旅客営業について,59年度の東北・上越新幹線の上野乗り入れに先行して,列車編成車両数の見直し等繰上げ可能の施策を実施し,また,出改札の兼掌化,パート化など波動に対応した業務体制,ホーム・運転・構内の配置要員の見直し,利用者の少ない駅の停留所化・委託化等総合的に旅客駅体制のあり方を刷新・改善する。

  A 車両検修業務について検修作業工程の適正化等を行い能率向上を図るとともに,線路電気保守業務について外注範囲を拡大し,あわせて組織の統廃合を実施して業務執行体制の効率化を行うこと。

  B その他の部門についても,工場については職場の統廃合,自動車についてはワンマン化の一層の推進・過疎路線の整理,病院については一般開放の完遂を期する等業務体制全体にわたる見直しを行い能率化を推進することとしている。

      以上に基づき,58年度には2万8,900人の要員縮減を行う予定であり,57年度に引き続いて経営改善計画を上回る要員合理化が進められることになる。
      今後とも,輸送需要の動向に対応する部門別業務体制の見直しを行うことはもちろん,要員の適正配置や需要に即応した要員の弾力的運用等による業務運営の能率向上と要員の縮減を一層積極的に推進することが必要である。

(4) 設備投資の抑制

  (大幅に圧縮された設備投資)
  国鉄の設備投資は30年代においては,荒廃した設備の取替え,輸送力の増強,輸送方式の近代化策が重点的に行われ,その後40年代前半にかけて首都圏における五方面作戦を始めとする大都市圏の通勤・通学輸送対策や東海道新幹線の建設を始めとする幹線輸送力の飛躍的増強及び保安設備の強化のための投資が積極的に行われた。
  44年度以降国鉄の経営悪化に伴い設備投資についてもその効率化,重点化が図られたが,新幹線投資の増大が続いたため,投資総額は増加の傾向をたどり,近年においては毎年1兆円を超える規模の設備投資が行われてきた。
  国鉄の設備投資の財源については,国鉄の経営が赤字基調に転じて以後政府からの助成のほかすべてを外部資金に依存していることから,借入金の累増に伴う利子負担が経営の大きな圧迫要因となっている。
  このため,57年9月24日の「日本国有鉄道の事業の再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について」の閣議決定においては国鉄は安全確保のための投資を除き原則として停止することとしており,その結果,57年度の投資実績は,東北新幹線の大宮〜盛岡間が完成したこともあったが,8,886億円(対前年度1,299億円減)となっており,さらに,58年度予算における工事規模は対前年度予算3,300億円減の7,060億円に大幅に圧縮されている 〔2−1−8図〕

  (安全確保のための投資を最優先)
  今後の設備投資については,安全確保のための投資を最優先とするとともに,各プロジェクト毎に,老朽度(安全投資の場合),経済効果(合理化投資の場合),混雑度(輸送力増強投資の場合)等を十分勘案して,緊急性の高いものに限って実施し,投資規模を圧縮する必要がある。
  また,個々の具体的な投資については,限られた資金を有効に活用することが重要となっており,工事施工法の改善等による工事費の節減等に努める必要があり,さらに,設備の標準及び規格についても,現在の輸送の実態,技術の進展等を踏まえた見直しを進めている。

(5) 収入の確保

  (求められる営業努力)
  収入の確保は,国鉄事業の再建のための基本的課題であり,あらゆる営業努力を結集して増収に努める必要がある。
  57年度の旅客部門については,4月及び9月のあわせて平均6.1%の運賃改定の実施等により,前年度を1,381億円上回る2兆5,415億円の収入となった。一方,貨物部門については,4月に平均6.3%の運賃改定等を実施したが,輸送量の大幅な減少により前年度を320億円下回る2,794億円の収入にとどまった。
  また,関連事業収入は,駅ビル等新規事業の開発,施設又は土地の高度利用事業の開発等により,前年度に対して16%増加して735億円となり,資産処分についても,不用地のみならず事業用地等からも処分用地を生み出すことにより,売却の促進に努めた結果,前年度に比べ24%増加して707億円となった。
  国鉄の営業収入構造をみると,57年度営業収入3兆3,000億円のうち,運輸収入85%(旅客部門77%,貨物部門8%),関連事業・資産処分等雑収入4%,助成金受入11%となっており,ここ数年こうした傾向が続いているが,最近の景気の停滞,個人消費の伸び悩み,他輸送機関との競争の激化等を反映して旅客輸送量の停滞,貨物輸送量の減少が続き,収入の確保を図る上で一段と厳しい環境下にある。こうした中で,国鉄は,今後とも資産処分,関連事業を積極的に推進することはもちろんのこと,収入の大部分を占める運輸収入の確保に努めることが何よりも重要である。
  まず,運輸収入の確保のためには,旅客,貨物輸送全般を通じ積極的な営業努力により,潜在的な輸送需要の喚起を図るなど全体としての輸送量の維持増大に努める必要がある。現在,国鉄は,営業活動の展開に当たって,輸送の質的改善・サービスの向上を図りつつ,輸送市場の動向に対応し,利用者ニーズに即応した市場指向型の積極的かつ弾力的な例えばフルムーン・パス等の増収施策を推進している。
  (運賃制度の見直しの検討)
  一方,運輸収入の根幹である運賃については,その適正化を図るため,他の輸送機関との競合関係,線区別原価等に十分配慮して定めることとし,このため,運賃制度の見直しを検討していくことが必要である。
  国鉄運賃は,明治以来全国一律運賃制度となっているため,全国的にみれば,できるだけ原価(コスト)を償うように運賃水準が決定されているものの,個々の地域又は線区別にみれば,その輸送に要するコストは個々の運賃には反映されにくい制度となっている。即ち,地方交通線等コストの高い線区においては,そのコストに見合った水準の運賃が設定されないため相対的に低い水準となっている結果,その赤字が,新幹線,大都市線区等コストの低い線区から発生する黒字で内部補助されることとなっている。このため,地方交通線等コストの高い線区においては,比較的その地域,線区の輸送コストを反映しているバスや中小民鉄に比べ割安の運賃となる一方,大都市線区等においては相対的に高い水準の運賃となり,競合する大手民鉄の運賃に比べ割高の運賃となっている。
  こうしたことから,運輸省としては,他の輸送機関との競合関係,線区別原価等に配慮し,大都市圏,地方交通線などといった分野を中心に運賃制度の見直しについて検討している。
  (関連事業,資産処分による増収策)
  また,関連事業については,57年10月に日本国有鉄道法施行令の改正により,新たに地上権付住宅分譲事業への投資ができることとしたが,今後とも,投資効果を十分考慮した投資事業の選定,新規事業の開発,貸付料金の適切な改定等により積極的な増収策を講ずることとしている。
  一方,資産処分についても,57年9月24日の緊急対策の閣議決定等を受けて,58年1月1日現在で未利用地及び未利用地へ移行する予定の宿舎等を含む事業用地の総点検を実施したが,この結果国鉄として将来利用計画のない用地を約1,600万平方メートル生み出すことが可能であることが明らかとなり,この点検結果を踏まえて,売却による増収に努めることとしている。今後,貨物輸送システムの転換に伴って発生する跡地等についてもその処分・活用方策を早急に検討し,資産処分の促進を図る必要がある。
  なお,国鉄用地の有効活用については,58年4月の経済対策閣僚会議決定「今後の経済対策について」をうけて,5月内閣官房副長官を座長とする「国鉄用地の有効活用に関する連絡協議会」が設置された。次いで6月には,国鉄用地活用のモデルプロジェクトとして,新宿駅貨物敷等4地区を対象地とする計画検討委員会及び基本構想研究委員会を国鉄に設置し,再開発計画及び開発整備構想の検討を鋭意進めている。
  また,10月の経済対策閣僚会議決定「総合経済対策」を受けて内閣総理大臣を本部長とする国有地等有効活用推進本部が内閣に設置され,今後,国有地等の有効活用について総合的かつ効果的な推進を図るための検討を行うこととなっている。

(6) 年金対策

  (新しい段階を迎えた国鉄共済年金対策)
  国鉄共済組合の年金財政は,51年度に単年度収支が赤字に転じて以来赤字基調に推移しており,60年度以降は年金支給も危ぶまれるという極めて切迫した状況になっており,早急に対策を講じる必要がある。
  このような年金財政の悪化を招くに至ったのは,諸物価の高騰等に伴う大幅な年金改定に加えて,職員数の減少や職員の年齢構成の歪みにより成熟度(共済組合加入者に対する年金受給者の比率)が高度化したこと(57年度末89.7%)も主な原因となっているが 〔2−1−9図〕,より基本的には,国鉄共済年金が国鉄という1企業の年金制度であったため,その企業が受けた社会的・経済的諸要因による変動を直接的に被らなければならなかったことに大きな原因があったものと考えられる。

  公的年金制度については,高齢化社会の到来に備え長期的に安定した制度の確立を図るため,公的年金制度の一元化を展望しつつ,負担と給付の両面にわたる制度全般の見直しを行う必要があるとの認識が高まり,種々の議論が展開されてきた。
  このような中で,国鉄共済年金の今後のあり方については,57年7月に相次いで出された臨時行政調査会の行政改革に関する第3次答申や共済年金制度基本問題研究会の意見において,類似の共済制度との統合等の施策を講ずべきことが提言された。このような状況を踏まえ,政府は,第98回国会に「国家公務員及び公共企業体職員に係る共済組合制度の統合等を図るための国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律案」(共済統合法案)を提出したところである。この法案は,現在継続審査中であるが,その主な内容は,国家公務員と公共企業体職員の共済組合制度を統合し,長期給付の給付要件等の一致を図るとともに,国鉄共済組合が支給する年金の円滑な支払を確保するための財政調整事業(国家公務員等共済組合連合会及び公共企業体の共済組合が拠出する拠出金をもって国鉄共済組合に対し交付金の交付を行うこと等を内容とする事業)を実施するというものであり,公的年金制度の再編・統合の一環として,年金制度の改革を進めていく上での第1歩となる意義を持つものである。


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